タッチや画力は決め手にならない
見本を見せて、腕のほどを示せばOKだと思うのは、漫画ファンや漫画編集者を相手にするときの話だ。
一般企業の漫画ファンでもない人たちを相手にする広告漫画では、腕よりも先に「人」のほうを重視される。
マトモに取引できるか、信用できるか。
お客はそういう部分のほうに注目する。
というよりも、そうするしかないんだ。
お客は「人」しか見れないんだよね。
絵をいっぱい並べても、絵では選べないのよ。
ドレが上手いんだか、わからないから。

タッチでNGになったことはほとんどない
「いやいや、そうは言ってもタッチの希望はあるだろ」と思うかもしれないけど、実はソレもどうでもいいんだよ。
いや、タッチの希望自体はあるよ。
広告だから「それなりに上手くて、多くの人がアリだと思うだろう絵柄」であることは求められる。
けど、それも「漫画をほとんど読まない素人目で見て」なのよ。
「イマイチ萌えない娘」と「萌える娘」の区別つかない人たちの基準なの。
全員がそこまで雑なレベルとは言わないいけど、大なり小なり、それに近いのは事実なのよ。
そういう人たちにとっては、タッチなんかどうでもいいんだよ。
近頃は誰でもソコソコ上手いからね。
ソレを商売にしようと思うくらいの人なら、誰を選んでも上手いんだ。
だから画力の面では、ほとんど全員が合格。
逆に言えば全員が不合格ってコトでもあるんだ。
それにね、普通の人って、漫画家やイラストレーターなら何でも描けると思ってたりするんだよ。
普段どんな絵を描いていようが、いざとなれば何でも描ける。
どんなタッチも再現できる。
プロとはそういうモンだと思ってる人は少なくないんだ。
だから誰でもいいの。
人として良さそうなら、後は「このタッチで描いて」って言えばいいと思ってるから。
「でも実際には無理だろ、そんなの。田中圭一じゃあるまいし」
と思うでしょ。
あながち、そうでもないんだよ。
なんせタッチの希望自体がすごくアバウトだから。
広告漫画で求められるタッチって、劇画か漫画か、くらいの違いでしかないんだよね。
ようするにディフォルメの度合いってだけのことで、特定の作家の特定の絵柄じゃなきゃダメっていうほどのコトじゃない。
だいたい「誰それっぽく」なら、その本人に頼めばいいんだから。
他の人が真似したら盗作になっちゃうでしょ。
ま、お客自身は、そういうコトが盗作につながる危険があると思ってないパターンが圧倒的に多いんだけどね。
普通の人は著作権にも詳しくないから。
けど、気付けばリスクは犯せない。
だからタッチにこだわってた人でも、実際に会って話しているうちに、こだわらなくなっていく。
そうか、何でも描けるわけじゃないのか。
ということは、他の人を選んだとしても、できないモノはできないってコトになる可能性もあるな。
なら「人」としては合格点な人を選んで、その人のタッチでやれる範囲のモノを作ったほうがマシだな。
そもそも苦労してベストなタッチの人を探したところで、どうせ自分にはよくわかんないんだし、あまり意味ないよな。
いつまでも畑違いなコトに関わっているのも面倒くさいし、ラチがあかないし、もう、この人でいいんじゃないか。
これはこれでアリだろ。
いや、この人がいいんだ。うん。
と、そういうことになるんだよ。
必ずじゃないけど、このパターンがすごく多いんだ。
何を言っても納得しない分からず屋な人もいたけれど、そういう人でも「ならボクには無理ですから帰ります」って言うと、引き止められて、結局はボクはボクのタッチでOKになっちゃうことが多かったなぁ。
大抵は打ち合わせをしていくと、最終的にはタッチも含めて全部任せるってコトになり、結局はいつものウチのタッチで、ウチの作品を描けばOKってコトになっちゃう。
多少タッチにこだわる人でも劇画か漫画かくらいのコトだから、ウチはウチの劇画タッチにすれば、それでOKなんだ。
タッチにこだわって他の人を選び直すことは滅多になかったんだよね。
だからこそ、絵が上手いかどうかより、その人が信用できるかどうかのほうが、ずっと重要なんだ。
画力なんてのは、仕事全体で見たら1割にもなってない。
画力がちょっと落ちても、信用して任せられる人のほうが有利なの。
知らない人より知ってる人に任せたいのが普通
信頼を勝ち得てしまえば、継続的に様々な仕事が入ってくる。
例えばボクは、とある大手からリアルなイラストを定期的に依頼されている。
ボクは漫画家で、しかも主にギャグの人だから、リアルイラストなんてのは苦手。
自信がないから滅多にやらない。
当然、過去の事例紹介にも掲載していなかったし、自分からやれると売り込んだこともない。
けど、漫画の仕事で顔見知りになっていたから「そういうのも描けない?」って聞かれて「ん~~? 自信はないけど、このくらいの感じならやれますが?」と見本を見せたら、以降、ウチに任せてくれるようになったんだ。
ボクよりリアルイラストが上手い人は、ネットでちょっと探せば必ず、それも大勢見つかると思うよ。
だいたい、その企業には調査部があって、ボクのことも調査部が探し出したそうだから、リアルイラストだってそうすりゃいい。
なのに、ウチに話が来る。
そういうもんなんだ。
ボクが描いたモノでも問題ないのであれば、見ず知らずの人に頼むより、知ってる人に任せたいもんなんだよ。知らない人と新たに関係を構築するのはストレスだからね。
まだ接触してない、見ず知らずってだけでも不利なんだ。
自分のほうが上手くても「すでに接触している人」のほうに仕事は流れる。
これは何でもそうなんじゃないかなぁ。
知らない店より行きつけの店のほうが安心だもん。
先の大手さんは、今ではリアルイラストだけでなく、3Dイラストの仕事までウチに回してくれている。
ボク、3Dは苦手どころか全然できないんだけどね。
それでも「外注で誰かに頼んでいいから、やってくれ。ディレクション部分だけでいいんだ。間にアンタが立っていてくれれば安心して依頼できるから」と言ってくれるので、この案件では制作自体は丸ごと外注して、ディレクションとマネジメントだけを担当している。
クライアントには外注先を伏せたりしていない。
それどころか毎回の打ち合わせは、その外注先の事務所にクライアントに来てもらってやっている。
つまり、その気になればボクを外してもやっていけるハズなのよ。
それでも、外されないの。
そんなもんなんだ。
結局は「人」として買ってもらえるかどうか。
作例よりも、自分をわかってもらうことのほうが大事なの。
作例も、自分をわかってもらうための手段の1つだけど、素人の皆さんは作例だけじゃわからない。
「腕を見て判断してくんな」と言ったところで、判断できるだけの目がないんだから、それじゃダメなの。
わからないからこそ「人」を重視するってトコもあるんだから。
助言や提案してくれたりするほうがありがたい。
そういうコトを期待できそうな人がいい。
とことん「人」なんだ。
作品や作風は後回しなんだ。
だからこそ、もっとバリバリ自分のコトを書かないと。
伝えないと。
何をどう描けるのか、どんだけ気配りできるのか、自分に仕事を任せると、どれだけ気持ち良く、楽になれるのか。
思いつく限りのアレコレを書いて、お客の不安を取り除いてあげるべきだと思うんだ。
作例も多いほうがいいけれど、それより多くの言葉や図版やフローチャートで伝えなきゃプレゼンにならないんだよ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。









うるの拓也












