小説版イバライガー/第16話:時空突破(後半)

Bパート
ガール、ミニブラック、ミニライガーたちを物陰に匿うと、シンとワカナは全力で走った。
ダマクカラスンの言う通り、ブラックも限界のはずだ。凄まじい気力でそれを悟らせまいとしているのだろうが、長くは持つまい。
最後の希望は『彼』だけだ。
「シィイイイン!! ワカナァアアアア!!」
イモライガーだ。誰かをかついでいる。それが誰かは、わかっていた。
「あ……あああ……」
ワカナが、崩れ落ちそうになったイモライガーから背中の『彼』を抱きとめた。
初代イバライガー。
「あの日」からいつもそばにいて、自分たちを見守ってくれた。二人とも兄のように慕っていた。
失ったときには、涙の全てを流し尽くしたと思った。
その彼が、戻ってきた。
けれど、その姿は痛々しい。
フェイスバイザーが引き裂かれている。片腕を失っている。右胸に大きな穴が空いていて、クロノ・スラスターの片方も吹き飛んでいる。
最後に見た姿そのままだ。あのときから、彼の時間は止まっていたのだ。
「生きているのか!?」
「わ、わからないんだ。動かないんだよ!」
「ねぇ! 私よ! ワカナよ!! 起きて! 返事をして!!」
いくら呼びかけても、反応はない。
それでも、死ぬはずがないと、シンは信じていた。
あのとき、オレ自身が言ったことだ。
イバライガーは死なない。オレたちがいる限り、絶対に死なない。死なせない。
オレが、オレたちが……。
ハッとしてシンは立ち上がった。周囲を見回す。
どこかに、まだいるはずだ。
「マーゴン、ワカナ。彼のそばにいてやってくれ。二人で彼に呼びかけ続けろ。感情エネルギーを注ぎ続けろ。オレは……」
「どうするつもり? 私たちの力じゃ四天王には通じないのよ?」
「わかってる。けど、1つだけ試してみたいことがあるんだ」
周辺市民の退避は、うまくいったらしい。
破壊は凄まじいが、人的被害は最小限に抑えられたはずだ。
それでも、負けだった。
PIASを使っても、あの女……ジャーク四天王には歯が立たなかった。
ソウマは、指令車に呆然と寄りかかって、瓦礫と化した一帯を眺めていた。
時折、激しい破壊音が聞こえてくる。球体は消えたが、まだ戦いは続いているらしい。
禍々しい気配は、むしろ濃密になっているほどだ。危険は去らない。
それでも、オレたちには、何もできない。
「ソウマ!!」
シンだった。生きていたか。
「ダマクラカスンが復活した。イバライガーたちは、エネルギーを失って戦えない。このままじゃヤバイんだ!!」
「……だから何だ? オレたちに何ができる? お前らの足を引っ張る程度のことしかできまい。この戦いは、人間の力じゃ届かない……」
「だからって、このまま終わってたまるか! アレを貸せ。オレが行く」
「……ダメだ。NPLはともかく、ここではインナースーツを吹き付けられない。お前にアレは動かせない」
「うるせぇ! とにかく貸せ! 力ずくでも動かしてやる!!」
シンは強引に司令車のカーゴに乗り込んだ。カプセルをこじ開け、半身を乗り出してスイッチを操作している。
そんなことをしてもどうにもならない。足掻きたいなら足掻け。だが無駄だ。お前の言った通り、そいつは不完全なシロモノだ。何も出来ないんだ。
駆動音が聞こえて、思わず振り返った。
シンの全身に各部パーツが装着されていく。バカな。インナーがないのに、何故だ。
バイザーが光った。動く。ウイングを展開している。ここから飛ぶつもりか。
「うぉおおおおおおおっ!!」
シンが叫んだ。
そのとき、ソウマは、信じがたいものを見た。
ベルトが……エキスポ・ダイナモが、わずかに光っていたのだ。
拳。受け止められた。蹴りが来る。身体の反応が鈍い。避けられない。
衝撃が来た。虚空から一気に叩き落とされた。瓦礫に突っ込む。崩れ落ちてくる鉄骨が右腕に当たり、オカしな方向にねじ曲げた。
立ち上がる。身体が重い。だが、それも、ただの状況だ。
「さっきの威勢はどこへ行った? 最強のイバライガーだと? 笑わせるな、ガラクタめ!」
爪。かろうじて避けられた。いや、避けきれてはいない。胸を少し抉られている。
それでもイバライガーブラックは立った。『奴』が目覚めるまでには、もう少し時間がいる。
それまでコイツを食い止めればいいのだ。
だが、予想より手ごわい。ダマクラカスンのデータは持っている。この世界に来た直後にRとガールが戦っている。
あのときの奴は傷ついていたが、それでも、そのときの戦闘データから、完全時の能力値は算出されていた。
しかし、このダマクラカスンは以前より強化されていた。
あの黒い繭の中で、力を蓄えていたのだろう。それも想定していたが、予測値よりもわずかに高い。
そのわずかな違いが致命的だった。
だが、それでも、差し違える気なら止められる。初代がそうしたように。
いざとなれば、躊躇しない。
だが、まだだ。まだ、その段階ではない。
「お前の相手は、もう飽きた。そろそろとどめを刺させてもらうぞ」
ダマクラカスンの目が光った。これまでで最大の攻撃が来る。
ここが限界か。
「待てぇえええええええ!!」
この声は……シン?
なぜ戻ってきた?
お前が死ぬことは許されない。自分の運命をわかっていない。
お前とワカナは、生き延びなければならないのだ。
全てを思い出すまで。
本当の力が蘇るときまで。
「さっきのニンゲンか。バカめ、死にに来るとは……」
ダマクラカスンは悠然と振り返ったが、そのときには吹き飛ばされていた。
「そこまでだ、ジャーク!! お前たちの好きにはさせないぞっ!!」
「ぐぅうっ! なんだ? ニンゲンごときが、なぜこれほどの力を……!?」
PIAS。あの劣化版スーツか。
着ているのはシンなのか。
エキスポ・ダイナモが発動している。まさか力が……蘇ったのか?
違う。伝わってくるエモーションは、いつもと変わらない。
まずい。これでは『あのとき』の再現だ。
「シン、やめろ! そのスーツを脱げ。その力はまだ使うな!!」
イバライガーブラックが叫んでいる。
焦っている? あのブラックが?
何なんだ。このスーツは、それほどヤバイものなのか。
だが、今はやるしかない。オレが、イバライガーになるしかないんだ。
全身を痛みが覆っているかのようだ。ソウマのようなインナースーツがないせいなのか。
だが動ける。オレの想いを、魂を使え。それが出来ればPIASは巨大な力を発揮できるはずだ。奴を止める。倒す。
これ以上、オレの仲間たちを傷つけさせるものか。
だが、意識が混濁していく。力を求めれば求めるほど、自分が自分でなくなっていく。
それでも……守る……みんなを……世界を……!!
「がぁあああああああっ!!」
PIAS=シンが叫んだ。エキスポ・ダイナモは暴走したように輝いている。
「オレたちが……! オレが……!! イバライガーだぁあああ!!」
シンの叫びが聞こえた瞬間、初代イバライガーのエキスポ・ダイナモが輝き出した。
身体は動いていない。それでも、ベルトから溢れる蒼く美しい光に、ワカナは魅入られていた。
「な、何が起こったんだ!?」
心配そうに覗き込むイモライガーに、ワカナは静かに答えた。
「……わからない……でも……生きてるわ、初代は……」
ワカナは初代を抱き続けていた。温かい光が語りかけてきたように思った。
行くのね。みんなのところへ。
私の想いも連れていって。
そう念じたとき、初代のバックルから一筋の光が迸った。
「呼んでいる……」
意識を失っていたイバライガーRが起動した。
「呼んでいるわ……」
イバガールも、立ち上がった。
「目覚めたか……」
イバライガーブラックが、不敵に笑った。
3人に、初代からデータが送られていた。
「こ、これは……」
「時空……突破……!?」
長かったのか、一瞬だったのか。
何もわからない。
だが、シンが叫んでいる。
シンの元に、周囲のエモーション・ポジティブが呼び寄せられている。
ダメだ。それはダメだ。
『あの力』は使ってはいけない。
兄弟たち。
私の想いを、データを受け取れ。
全てを、お前たちに託す。
新たな力を掴むときが来たのだ。
兄弟たち。
使ってみせろ。時空の力を。
シンを、止めろ。
初代イバライガーから転送されてきたのは、時空突破時のデータだった。
実際に時空転移を行えるわけではない。初代がこの世界に転移したときも、専用の粒子加速器を使っていた。
Rやガールの転移も、恐らくは同じだろう。イバライガー自身の出力だけで時を超えるのは無理だ。
だが、その能力は応用できる。初代がそうしたように。
初代は失敗し、時空の狭間に取り残されることになった。
それでも、時空の力を託された。
そうまでしても、シンを救えということだ。
「……なるほど、時空転移を技に応用する、か。自爆技を、あえてやってみせろと言うわけだな。おもしろい」
「ほんのわずかでもタイミングを誤れば、初代の二の舞いになっちゃうかもしれないわけね。ギリギリの限界を見極めなきゃならない……。いいわ、私がやるっ!」
「ダメだ、ガール、ブラック。私が……やる。特異点の中を見てきたのは私だけだ。適任のはずだ」
Rが立ち上がって、シンに歩み寄った。
「シン。もういいんだ。無理をさせて済まなかった。初代が、目覚めた。キミを待っている。行くんだ。キミの力は……想いは、私が預かるっ!!」
ふいに、シンのエキスポ・ダイナモの光が消えた。
意識を失って倒れるシンを、Rは抱きとめた。ガールに預ける。そして振り返った。
「目障りな機械人形どもめぇええええ! 許さんぞっ!!」
ダマクラカスンの爪が一気に伸びた。Rは動かない。
爪は胸にまっすぐ伸びてきたが、その直前でねじ曲がったように弾かれた。
「!?」
「Rを中心に……空間が……歪んでいるわ」
「……ふ、見せてもらうぞ、R」
「うぉおおおおお!!」
Rが叫んだ。シンの周囲に集まりつつあったエモーションが、Rに集中する。
光が、全身を包んでいく。周囲の空間そのものが圧縮されていく。
普段は認識していないが、空間は凄まじい量のエネルギーを持っているのだ。それがイバライガーRに集まっていく。
両手に全神経を集中して突き出す。捩じるように回す。
特異点の中で感じたものを思い出せ。時空の力を掴み取れ。集めろ。
「はぁああああああっ!!」
目に見えない巨大な何かを抱えるように、腕を広げた。
巨大なプラズマが奔る。その全てを身にまとう。
「くらえ、ダマクラカスンッ! これが、これがっ……!!」
時空をねじ曲げ、圧縮した空間の巨大な質量を叩き付ける。
それがイバライガーRが編み出した必殺技だった。
「時空突破!! クロノ・ブレイクッ!!」
ED(エンディング)
巨大な爆発が起こった。
火柱が、ワカナとイモライガーの顔を照らしている。
けれど、ワカナにはわかった。
乗り切った。勝ったわけじゃない。
でも、みんな無事だ。伝わってくる。
初代を見つめた。
エキスポ・ダイナモの光は収まり、今はわずかな光点が灯っているだけだ。
でも、それが息づいている。
還ってきた。
ようやく、その実感が溢れてきて、涙が止まらなくなった。イモライガーも大声で泣き出している。
泣きながら笑いあった。こんなに嬉しいのは久しぶりだ。
いつまでも泣いていたいと、ワカナは思った。
次回予告
■第17話:ゴーストハウス
前回の大事件のおかげでTDFに認めてもらえたシンたち。初代も帰ってきたし、お尋ね者の汚名を返上できたし、新しい基地も用意してもらえた……んだけど、へんなのよね~~、ココ。何かいるような気配がするんだけど……
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!
(次回へつづく→)
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うるの拓也












