小説版イバライガー/第31話:フェアリー(後半)
Bパート
初代イバライガーが突っ込んだが、跳ね返された。赤い目が集まってくる。
2つ、3つ……いや、もっと多い。
「行け、ガール! こいつらは私が抑えるっ!!」
「で、でも……!!」
「行くんだ!! このままではシンとワカナが……!!」
その通りだ。戦いは始まってる。ルメージョは、かなり危険な状態だ。しかもシンは一人で立ち向かっているらしい。
けど、こっちも同じくらいに危険だ。初代イバライガーとミニライガーたちに任せていいのか。いや、そう覚悟を決めたとしても、この場から離れることはできるのか。
コロニアル・ランペイジ。
Rを模したルイングロウスの分身体。まだ動けないと思っていたが、ここだけでも15体はいる。
ルメージョを感じて戻ろうとしたとき、突然襲われた。ダメージは、まだ多くない。ダメージを受けるほど戦えなかった。逃げるのが精一杯だったのだ。
こいつらを躱して、シンのところまで行けるのか。
ランペイジの1体が前に出てきた。目が点滅している。何かの通信を受けているのか?
『行っていいわよ、イバガール。待っててあげる。アンタもブラックを殺した一人。この手で引き裂かないと気が済まないからね……』
ルメージョ!? このランペイジたちはルメージョが操ってる!?
『初代イバライガーも殺さないわ。ここではね。やはり私自身でとどめを刺してやりたい。ただ、今殺されたほうがマシというところまではやらせてもらうよ。ルイングロウスから預かった15体のランペイジ。ヒューマロイド1体を壊すには大げさすぎるけどね……くくく……』
初代が、また吹っ飛ばされた。ミニライガーたちは必死に逃げ回っている。それでも追いつかれ、その度に傷が増えていく。
嬲っている。遊んでいる。とことん苦しめるつもりなのだ。
「ガール……いいから……行って……」
「いじめられたくらいで……ボクらが……泣くと思うな……よ……」
「う……ん……まだ……負けてない……まだ……頑張れる……」
くっ。この子たちを置いて行けっての? そんなことが私にできると思う!?
それでも行かなきゃならない。わかってる。イバライガーの使命は、人々を守ること。そのために初代もミニたちも耐えているんだ。
「……ルメージョ。待ってなさい。今日こそ決着を付けてやるわ!! そして初代も、ミニたちも、シンもワカナも……みんなを守ってみせるっ!!」
「いいのか? ルメージョに好きにさせて?」
「やむを得まい。アレは人間の部分を残しすぎた。取り込んだはずの人間に振り回されている……」
確かにそうだ。同じ四天王でも自分とルメージョはまるで違う。ダマクラカスンという姿は、人間の身体を完全に乗っ取り変異させたものだが、ルメージョは、未だに取り憑いているだけに近い。そうすることで人間の知識だけでなく感情までも利用できる利点はあるが、その分だけ影響も受ける。人間の意識に引っ張られる。それが隙につながったことも幾度かあった。
「だが、好機ではないのか? イバライガーブラックは消滅し、イバライガーRも動けん。あとは雑魚ばかりだろう。こちらはルイングロウスが目覚め、強力なコロニアル・ランペイジも量産されている。圧倒的ではないか。今こそ我ら全軍で目障りなヒューマロイドどもを片付けるべきではないのか?」
「いや、ルイングロウスは失敗した。奴はイバライガーRの身体を奪うことができなかった。奴らが眠らせていた力に目覚めるチャンスを与えてしまったかもしれん……」
「眠らせていた力だと? 特異点の力は奪ったではないか?」
「それではない。私は奴の中に潜んだことがある。そのときに感じた。我らジャークが決して近づけない光が、奴らの中にあることに。ルイングロウスは特異点などよりも、その力を……イバライガーR自体を奪うことに徹するべきだった……」
感情エネルギーか。奴らの原型となった者のメモリーが、今も残っているのか。それが力だというのか。一人の人間ごときのメモリーが、我らジャークを脅かすほどになるというのか。信じがたいが、アザムクイドは警戒しているらしい。
光と闇は拮抗する、か。
ルイングロウスが力を得たならば、奴らもまた別の力を得るのかもしれない。
「よかろう。奴らが滅ぶというのなら、それはそれで喜ばしい。我らは滅ぶために存在しているのだからな。それに……ルメージョの暴走が意外に上手くいってしまうこともあり得る。ルメージョが破れても、ルイングロウスは勝つかもしれん」
「そうだ。未来は我らにも読みきれん。故に今は静観すべきだろう。我らの力を使うのは、真の力を喚び出すときだ。それを成せば、他のことはどうでもよくなるのだからな……」
「カオリっ! 遅れてんぞ!! 急げっ!!」
イモライガーが怒鳴っている。カオリは少しよろけながら、必死で走っている。国道408号線のど真ん中を。
クロノエターナル車いすバーニング号は、イモライガーが押している。案の定、手押し車にハリボテくっつけただけのシロモノだけど、今はそんなこと気にしていられない。
竜巻までは、まだ1キロくらいある。
すでに風がものすごい。雪も舞っていて、寒い。振動が伝わる度に、脇腹が痛む。
でも行く。絶対に行く。ナツミを止められるのは私だけだ。
シン。私が着くまで無理しないで。
「ごめん、カオリ。でも頑張って。私をあそこまで連れてって! マーゴンも気合入れて押してよね!!」
「わかってます、ワカナさん! でも後でご飯オゴってもらいますよ!! ワカナさんの快気祝いも兼ねて!!」
「ボクもだ! 中華だな!! あのグルグル回るテーブルで、餃子とか焼売とか麻婆豆腐とかチンジャオロースーとか……!!」
「フカヒレスープ!!」「上海蟹!!」「ブタの丸焼き!!」
いつの間にか、中華メニューが掛け声になってる。いいわよ、食べさせてあげるって。TDFの予算で。
でも、そのためには、この街を守らなきゃ。避難してる人たちが戻ってこれるようにして、お店を開けてもらわなきゃ。
竜巻が、だいぶ近づいた。こっちに向かってきてたんだから、もっと早く遭遇してもいいはずだけど、向こうからは近づいてこない。
待ってるんだ。私を。
直接会うのは、ミニRが生まれたとき以来だ。
あのときは、ハイパーイバライガーの力に救われた。
『その力は忘れなさい。二度と呼び出すべきじゃない』
あのとき、ルメージョはそう言った。
ナツミの心を代弁したのだと言っていた。
でも、たぶんシンはやる気だ。
イバライガーXを使ったところで、今のルメージョに通用しないことはわかってるはず。Xはルメージョに近づくためだけ。
ハイパーを喚び出す。それに賭けてる。それがどんなに危険なことでも……ううん、危険だからこそ、シンはやる。自分を危険に晒して限界まで追い込んで、ハイパーにアクセスするつもりでしょ。私たちを守るために。
ふざけんな。
一人で突っ走って、一人で戦って、私を置いてきぼりにして。
未来の私が、どんな気持ちでいたと思う?
そんなこと、もうさせない。アンタがXを生み出したときに言ったはずだよ。今度こそ一緒だって。
私だってエモーションの使い手。未来の私とは違う。怪我してたって、心は戦える。
シン。ナツミ。
見せてあげる。私の想いを。
ワカナ? 出てきたのか!?
マーゴンとカオリが付き添ってるのか? バカヤロウ! 何をやってる!? 来るな、ここには来るな!!
風の気配が変わった。マズい。
当然、ルメージョも気づいてる。俺より先にワカナを襲うつもりか。それだけはさせない……!!
もう他に手はない。やれるはずだ。未来の俺はやったはずだ。俺のエモーションを全部使っていい。命も使っていい。必ずハイパーを喚び出してやる。
必死に意識を集中させた。ハイパーのいる場所。より高次で巨大なエネルギー領域。そこに俺のエモーションでアクセスできれば、ハイパーの力を引き出せるはずだ。
だが、なんの反応も感じない。なぜだ。未来の俺にはできたはずだ。何が違う? 俺が完全にイバライガーになっていないからか? しかし、この世界でも一度出現させている。あのとき喚び出したのは初代だった。それでも鍵になったのは俺だったはずだ。来い、ハイパーイバライガー。今こそ応えろ!!
「ふふふ、バカね。そんなことでエモーションが応えるわけがないでしょ」
嘲るような嗤い声が、風に乗って聞こえてきた。
「忘れたの? エモーションは感情エネルギー。想いの力。理屈じゃないのよ。ポジティブだろうとネガティブだろうと、理屈をこねるだけじゃ降臨しない。簡単に喚び出せるようなら、私たちがもうやってるわよ。ポジティブがハイパーの姿を示したように、ネガティブにもジャークの神がいる。この戦いはね、どちらがそこに手を伸ばせるかなのよ。私たちの戦いは、巨大なエモーション同士の戦いの末端に過ぎないの。宇宙規模の永劫の戦いの中の、ほんのちっぽけな局地戦。どちらが勝とうが大局的には大した違いはない。地球は……私たちは……人間は……その程度でしかないのよ……」
宇宙? 永劫の戦い? なんだ、何のことだ?
ハイパーとは……エモーションとはなんなんだ?
「わからなくていいわ。どうせ死ぬのだから。ワカナとシン。どちらを先に殺したほうがいいかしら? より大きな憎悪が生まれるほうがジャークとしてはありがたいわねぇ……」
竜巻が動いた。
カオリが吹き飛ばされ、ワカナとつながっていた点滴が引きちぎられている。車いすのような手押し車がくるくると回り、イモライガーも弾き飛ばされている。
倒れた手押し車から、ワカナが立ち上がった。こちらを睨んでいる。バカ! 何やってんだ、早く逃げろ!!
「ようやく来たわね、ワカナ。……よくもブラックを……シンを……あなただからこそ私は引いた。あなたならシンを支えていけると思ったから……それなのに……あんたは見殺しにした!! 許せない……許せるものかっ!! ワカナァアアアアアアッ!! 私から全てを奪った女ぁあああああ!!」
風が叩きつけられた。ワカナが宙に舞う。てめぇ! ルメージョォオオオッ!! 動けっ!! 動けイバライガーX!! ハイパー!! 何をやっている!? 俺はどうでもいい、ワカナを……ワカナを救えぇえええっ!!
『大丈夫……シン……』
何!? 今のはワカナ? 大丈夫って……?
ワカナは、風の渦に飲み込まれ、ぐったりしているように見える。
このままでは地上に叩き落とされるか、風で引き裂かれるかのどちらかだ。けれど……。
なんだ、この感じは?
何か、見える。これは……エモーション? ワカナの心が見えているのか。
光が……ワカナの想いが、空間に満ちていく。声が聞こえる。
ごめんね、ナツミ。私、ずるかったよね。あなたは笑ってたけど、ずっと親友のままでいてくれたけど、本当は辛かったんだよね。その上、こんなことになっちゃって、戦ったりもして。ごめんね。今日こそあなたのところに行く。いっぱい怒っていい。嫌ってもいい。それでも行く。全部、私は受け止める。そして……
「受け止めた上で、前に進むっ!! ナツミも、シンも、私自身も諦めない!! みんなでもう一度笑う!!」
「何を勝手なことをぉお!! 笑うことなど、もう二度とない!! 私のシンが……ブラックが死んだ今、笑える明日など永遠に来るはずがないっ!!」
「ブラックは死んでないっ!!」
ワカナが叫んだ。風は吹き荒れたままだ。
でも、空気が変わった。憎悪が押し返されている?
「ブラックは、今もRの中で生きてる!! あなたが愛した男は、簡単に死を選んだりしないっ!! それはあなたが一番よく知ってるでしょ! なのに、それを殺そうというの? そんなことは絶対にさせない。あなたのためにも……なんてキレイゴトは言わない。私が、それを許さないっ!!」
光が……ワカナの心が集まっていく。
ワカナ、お前……まさか……!?
イバガールは、竜巻に向かって全速で走っていた。
コロニアル・ランペイジ数体が追ってくる。当然だ。いくら初代イバライガーでも、15体全部を止められるわけがない。
何度か、追いつかれた。その度にギリギリで躱してきたが、ダメージは増え続けている。
そろそろ躱せなくなりそうだ。あと少しなのに。でも……行けたとしても、こんな身体で何ができるっていうの? ランペイジ1体ですら倒せない。逃げ回るだけの私が駆けつけても、何もできない。
それでも止まれない。何かが私を呼んでいる。ワカナの声? それだけじゃない。もっと大きな何かが、私を待っている。ボロボロになっても私は行かなきゃ。理由なんかわからない。そんなの関係ない。私は行く。ランペイジが何をしようと、欠片1つになったとしても、私は行く。
左。爪が来る。あの腕は伸びる。自在に曲がり、分裂もする。右にも1体が迫っている。上に躱すしかない。全力で高く跳んだ。なのに陽が陰っている。上を取られた。下も。横にも。囲まれた。避けられない。かまうもんか。爪でも牙でも好きにすればいい。それでも私は止まらない。止まるものか。
そう思ったとき、光を感じた。ワカナ? これはワカナの光?
ランペイジたちが光圧に押されたように引き離され、地面に落ちていった。ガールは、そのまま光の中に身を委ねた。これだ。私を呼んでいたもの。
光の元が、竜巻の中に見える。凄まじい風の中なのに、光は動かない。穏やかに、しかし強く輝きながら、ワカナを抱いている。
あれは……私?
自分とそっくりな姿。光が私になってる?
ワカナは、光の腕に抱かれながら、シン=イバライガーXを見つめた。
ダメだよシン。自分はどうなってもいいとか思っちゃダメなの。何がなんでも生きるの。いつか自然と命と別れる日が来るまで、しっかりと生きる。それこそが未来の私たちが望んだこと。
そうでしょ。ハイパーイバガール。
ハイパーは答えない。少し、光が弱くなったように感じた。やっぱりなぁ。今の私じゃ長くは無理か。
でも十分。ガールはもう来ている。ほら、光に包まれて。
来て、イバガール。
私の想いを、あなたの中にいる人に届けたい。
ブラックもね、Rの中にいる人に会いに行ったんだと思うの。ブラックがずっと求めていた力って、たぶんそれ。未来から託されたもの。それはガールの中にもある。ガールの中で、見守っていた人。その人と会いたい。私が思った通りの人なら、きっと扉を開いてくれる。
光が、道を作ってる。そのまま竜巻に飛び込んだ。
ワカナが微笑んでいる。そして私の姿の光。その中へ。
真っ白な場所だ。どこまでが自分なのか、わからない。自分と自分が混じり合ってるような気がする。これって特異点? Rは真っ暗って言ったけどなぁ。男と女じゃ違うのかな? そういう問題じゃないか。元々、色なんかないはずだもんね。私が白を感じてるだけなんだよね。
でも、この感じは前にもあった。『声』が聞こえたときだ。
会えるかな、もう一度。
そう思ったとき、ワカナが現れた。
でも二人いる。ワカナが二人。一人は、少し歳を取ってる?
ん? 空? 街? ここは……あ、ワカナがお気に入りのカフェだ。買い出しのときに時々ラテを買ってるお店だ。いつもはテイクアウトだけど、今はお店の前の席に二人のワカナが座って話してる。あれ? 手招きしてる。いいのかな、私が出て行って。いいや、行っちゃえ。
「やっと3人揃ったね」
「いいの? 私がいると目立ち過ぎちゃうんじゃない? いくらロボット特区があるつくばとはいえ、ヒューマロイドがカフェでお茶してるってのは……」
「何言ってんの。ガールだって普通の姿だよ」
へ? あ、あれ? 私、人間の姿……ワカナになってる? なにこれ?
自分の前にもラテがある。
飲んでみた。美味しい。
「ずっとそばにいたのに、会うのは初めてだね。私たちを見守っててくれたんでしょ。ありがとう。おかげで私もガールも今日まで頑張れたよ」
「頑張ったのはあなたたち自身よ。私は見てただけ。でも二人とも、かなり無茶してたよね? やっぱ私って猪突猛進っていうかバカっていうか……」
「ひどいよ~! 自分のことを悪く言わなくていいじゃん!!」
「そうだよ、それにさ、水くさいじゃん。もっと話しかけてくれればよかったのに。未来の話をいっぱい聞きたかったのに!」
いつの間にか、普通に話していた。
街の中のカフェで女子3人でお話しする。そんなことがあるなんて思ってもみなかったよ。
でもいいなぁ、こういうの。
「未来のことなんか聞いても意味ないでしょ。ワカナはもちろん、ガールも、もうこの時代の住人なんだよ。あなたたちの未来は、あなたたちだけの未来。私とは違うのよ。わかるでしょ」
「そ、そりゃそうだけどさ……でも、話したいことが沢山あるのに。買い物に行ったり、美味しいものを食べたり。シンと一緒に過ごしたり。できなかったこともいっぱいできるのに」
「シ、シンは関係ないでしょ!?」
「またまた~~。照れなくていいじゃん~~、公認カップルなんだし」
「そうそう。元気に生きて、ちゃんと結婚して、子供も作って……」
「こ、子供って……!?」
「私にも子供たちがいるわ。ガール、R、初代。それにブラックも。みんな私とシンの子供たち。私は、その子たちの活躍を信じて人生を閉じることができた。幸せだったとか満足だったとか言えるわけじゃないけど、それでも精一杯、最後まで生きたの」
初代に聞かされた未来のワカナの物語。悲しい物語。
何と答えていいか、わからなかった。ワカナも同じように黙り込んでいる。
「ごめんね。気にしなくていいんだよ。もう終わったことなんだから。これからは、あなたたちが生きる番。色々大変だと思うけど、それでも生きてね。私の命は私だけのものじゃなかった。あなたたちの命も、あなたたちだけのものじゃない。想いが受け継がれて、続いていく。次々と受け渡され、つながっていくもの。それが生きるってことだからね」
「……うん、生きるよ。あなたの分まで。そして伝えていく。あなたの想いを」
ワカナが応えた。そうだね。生きなきゃ。私も。
ヒューマロイドだって生きてるんだから。生きてれば、こういう奇跡にだって出会える。
でも……。
「……ねぇ、どうして私にはリミッターがあるの? どうしてRたちみたいな力が出せないの? いくら生きたくても、私の力じゃ、シンもワカナも……Rやブラックや初代も、ミニちゃんたちも守れない……。もっと強くなりたいよ。みんなを守れる力が欲しいよ……」
未来のワカナは、しばらく私を見つめて、そして吹き出した。
こっちのワカナまで笑っている。
「な、なによぉ! 私マジなんだよ!? 今、Rが大変なんだよ。初代もミニライガーもピンチだし、ブラックはいないし。今こそ私が頑張らなきゃならないんだよ。お願い、私に力を貸してよ!!」
「ガール、リミッターなんか、もうないよ」
「え?」
「確かにガールだけは私が一人でセッティングして、ちょっとだけリミッターも設定したんだけど……ほら、アンタすぐに無茶するから。何もしなかったら、あなたはもっと無茶をやって、もっとヤバいことになってたと思うし……」
「やっぱ、あるんじゃん、リミッター!!」
「でもさ、私がやったんだよ? エドサキ博士やゴゼンヤマ博士じゃなくて私が。しっかりしたセッティングなんか出来ると思う? 記憶だってブロックしたはずなのに戻って来ちゃってるでしょ。リミッターなんか、とっくに効果なくなってるんだよ」
「じゃ……じゃあ、今の力が私の限界ってこと? えぇええ~~!? ダメだよ、それ。今のままじゃダメ。もっと強くしてよ。力が……みんなを守る力が……!!」
「落ち着いて、ガール。心配いらないわ」
未来のワカナは、微笑んでいる。またラテを飲んだ。やっぱり美味しい。
「力は……もうあるのよ。気付いてなかっただけ。Rもね」
え? 力が……ある? 思わず自分の手を見た。元の手に戻っていた。ヒューマロイドの身体。いつもと同じだけど、何か違う。なんだろう?
「言ったでしょ。あなたは、あなたの人生を生きているの。イバガールは私のコピーなんかじゃない。この時代で目覚めて、仲間たちと一緒に頑張って、自分だけの人生を一所懸命に生きている。その生きてきた時間こそが、あなたの力なんだよ」
生きた時間が……力……? 私だけの力?
ワカナが、手を握ってきた。
暖かいものが流れ込んでくる。
「ガール、『私』の言う通りだと思うよ。ブラックが求めていた力って、ランペイジなんかじゃなかったんだよ。力は、今ここにある。私と、『私』と、ガール。託された想いと、私たちの心。それが重なって響き合うこと。それが力そのものなんだと思う」
そうか、心だ。力って、心なんだ。形のないもの。触れないもの。どこにあるのか、わからないアヤフヤなもの。
だけどそれが力を生む。想いの力……感情エネルギーって、そういうことなんだ。
もう一人のワカナの手が、重なった。
3つの手。3つの心。
でも1つの想い。
「……二人とも言ってたよね、カタルシス・フュージョンの前に。憶えてる?」
忘れるわけない。うなずいた。ワカナも。
「ミニちゃんを泣かせない。Rも泣かせない。そのためなら、私たちは……」
「……最強になれる!!」
イバガールが竜巻に飛び込んだ瞬間、光が溢れた。
ひときわ大きな光が竜巻を突き破り、地上に降り立った。ワカナを、降ろしている。
ガールか? けど、どこか違う。淡い光に包まれているせいか。
いや、そうじゃない。ガールが飛び立った。いつものジャンプではなく、本当に飛んでいる。背中の2つのマフラーが変形して、4枚の妖精の羽のようになっている。動きも、とてつもなく速い。イバライガーXの感覚を使っても追いきれない。
高機動形態に変化した? さっきのハイパーの力なのか。
「クロノ……スケィイイイルッ!!」
声が響いた。羽から鱗粉のような光が散布されている。その光が、竜巻を消滅させていく。時空突破!? あれはRのクロノブレイクと同じだ。極小の特異点……原子よりも小さなブラックホールを散布する全包囲型のクロノブレイクだというのか。
「イバガール!! あんたぁああああああっ!!」
竜巻を失って、剥き出しになったルメージョが叫んだ。逆上している。その背後に、3体のコロニアル・ランペイジ。連携攻撃か。ガールがショットアローを放った。なんだ? そんなものでは奴らは止まらないぞ。
「エターナルゥウウッ! レインボウ!!」
イバガールの気合とともに、エネルギーが放たれる。飛んでいくショットアローが一気に巨大な矢に変化し、さらに分裂した。また新技!?
「うがぁああああああっ!!」
矢に貫かれたランペイジたちが、一瞬で蒸発した。すごい。桁違いだ。
そうか、これが力か。教えられた。俺のやり方じゃダメなわけだ。死んでも守る、じゃないんだ。俺はどこか逃げていたんだ。何かを掴むには、犠牲を払わなきゃダメなんだと思い込んでいた。大事なものを手にいれるには、同じくらい大事なものを失わなきゃいけないと思ってた。
でも違うんだな。死んだら守れないもんな。
わかったよ、ワカナ。
俺も生きる。とことん生きてやる。生きて戦って、守り抜く。そしてお前の言う通り、みんなで大笑いしてやろうぜ。
「イバガール……お前はいったい……!?」
ルメージョの呻き声が聞こえた。エターナル・レインボウの余波を受けただけで、パワーのほとんどを失ってしまったらしい。
お前にはわからないだろうな。
ワカナとガールが掴んだものは、お前たちジャークには永遠に理解できないものだ。
暖かい光を感じて、シンは見上げた。
光を纏ったイバガールが、羽を大きく広げている。綺麗だ。そして雄々しい。
「今日こそ決着をつける。そう言ったよね、ルメージョ。返してもらうわよ、ナツミさんを」
ガールが羽ばたいた。
輝く妖精が、一直線にルメージョに突っ込んでいく。
行け、ガール。
見せてくれ。生まれ変わった……いや、本当のお前の力を。
「私はもう、今までのイバガールじゃない。この姿は……私とワカナと……もう一人の想いが重なった新しい力!! 私はっ!! 時空天使イバガール・フェアリー!!」
ED(エンディング)
イバガール・フェアリーが、舞い降りてきた。
腕にルメージョを抱いている。
「シン、ルメージョ……じゃなかった、ナツミさんをお願いね。私、今の力が続いてるうちに、もう一回行ってくるから」
言い残して、ガールは再び翔び立った。瞬間移動かと思うほどの速さで、空に消えていく。
初代たちを助けに行ったのだろう。シンは勝利を確信した。今のガールなら、10体前後のランペイジなどは敵じゃない。
ワカナが駆けてきた。
走れるのか。傷は平気なのか。それもハイパーの力なのか。
「ナツミ!!」
腕の中のルメージョに飛びついた。意識はない。姿はまだ、ルメージョのままだ。完全に排除したということではないのかもしれない。
それでも、ようやくナツミを取り返した。戻ってきた。
イモライガーとカオリが、こちらに向かってくるのが見えた。あの妙な手押し車を押している。
そこに、ルメージョを乗せた。
ワカナは寄り添い、いつまでもルメージョの髪を撫で続けていた。
次回予告
■第32話:奇蹟の輝き /Rレディアンス(RADIANCE:輝き)発動
覚醒したイバガールの力で救われた仲間たち。次はRの番だ。イバライガーを信じて基地に集まる人々。その想いに支えられて、シンはRのインナースペースに入っていく。一方、予測よりも早く量産化を完了させたルイングロウスは、ついに500体のコロニアル・ランペイジを出撃させた。迫り来る脅威に立ち向かえるのはイバガール・フェアリーだけ。それでも誰もが信じている。イバライガーRが帰ってくることを!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!
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