小説版イバライガー/第16話:時空突破(前半)
OP(アバンオープニング)
ベッドでうとうとしていたクボデラヨリコは、母親の悲鳴で飛び起きた。
あたりを見回す。
いつの間にか夕方近くになっていて、部屋の中は薄暗い。
物音はベランダからだ。母は、洗濯物を取り込むために出たのだろう。
西日を遮るために下ろしていたブラインド・カーテンをあけた。
母が、洗濯物を抱えたまま硬直している。
脅えた目で遠くを見ている。
「お母さん! どうしたの!?」
慌ててベランダに飛び出したヨリコは、母の視線を追いかけて、同じように硬直した。
黒い球体が、空に浮かんでいる。風船なんかじゃない。ものすごく大きい。
場所は……つくばの駅あたりだろうか。ここからは3キロくらい離れている。それでも、空を覆い尽くすほどの大きさに感じる。
そして見ている間にも、少しずつ膨らんでいるのだ。ときどき稲妻のような光が走っている。
異常気象どころじゃない。何か、ものすごく嫌なもの。
「お母さん! ヨリコ!!」
父の声で、我に返った。リビングに飛び込む。父は、食い入るようにテレビを見ている。
臨時ニュース。大通りを見下ろす映像。夕方とはいえ、まだ明るい時間のはずなのに夜のように暗い。
煙も溢れていて、何が起こっているのか、よくわからない。
それでも土浦学園線をまたぐ遊歩道の橋からの映像だと、すぐに気づいた。見慣れた風景が異様な状況になっている。
サイレンが鳴り響き、逃げる人々が大通りに溢れ、車列は乱れ、あちこちでぶつかっている車も見える。
その間を縫うように、人々が走る。信号も、横断歩道も無視して駅方向へと逃げていく。
テロップには「茨城県つくば市街地に避難命令」「大規模テロ?」といった文字が流れ続けていた。
「お父さん、何が起こったの!?」
「さっき、映ったんだ。アレは……」
父はテレビのチャンネルを変えた。どのチャンネルも、現場からの中継だ。
「違う、そこじゃない」つぶやきながらチャンネルを変え続けていた父の手が、止まった。
ノバホール前の交差点を国際会議場方向へ曲がったところのようだが、辺りは大量の粉塵に覆われていてはっきりしない。
それでもビルが一棟、崩れかけているのがわかった。あちこちで爆発も起きている。
この場にそぐわない観光バスが数台、崩れ落ちるビルを囲むように停まっている。横倒しになっているバスもある。
カメラは、それらを舐めるように映し、ビル、そして上空の黒い球体へとパンしていく。
「あっ、ソコだ、ヨリコ! 見ろ!」
父がビルの屋上を指差した。人影? 黒、赤、オレンジ。
「あ、あれは……!!」
思い出した。
いや、口止めされていただけで、忘れられるはずもない。
父のバードウォッチングに付きあって、霞ヶ浦湖畔に出掛けたときの事件。
見たこともない化け物が現れて、自分たちも心を操られて……。
「お父さん! あのときの人たちだ!!」
「ああ、間違いない。きっと、あのときみたいなコトが起こったんだ……」
父の声は、落ち着いていた。ヨリコも、不安が薄らいでいることに気付いた。
あの人影を見たからだ。
今はもう画面に映っていないが『彼ら』がいるのだ。
「二人とも何をしてるの! 早く避難しなくちゃ!?」
母が悲鳴に近い声をあげた。
「落ち着け。こういうときはパニックのほうが怖いぞ」
父が母の肩を抱いた。子供の前でベタベタするような両親ではないが、今はその姿が好ましく思えた。
「で、でも……ここも避難勧告が出ているのよ?」
「大丈夫だ、何も起こらない。みんな一緒にいよう」
「どうして? なんで何も起こらないって思うの?」
「……あの人たちがいるから」
ヨリコはつぶやいた。
自分と父は、恐ろしい事件に巻き込まれた。それはPTSDを引き起こしてもおかしくないほどの記憶だ。
けれど、それよりも、必死に立ち向かう人たちの姿のほうが、ずっと強く印象に残っている。
あのとき助けてくれた人たち。
確かシンって呼ばれていた。
もう一人の女の人はワカナ。
そして赤とオレンジの、テレビの特撮番組に出てくるような謎のヒーロー。
イバライガー。
ヨリコは、その名をつぶやいた。
今回は前よりずっと大きな事件だ。でも、いつか起こると自分は気づいていた。
怖い。けれど、怖くない。あの人たちがいる。きっと負けない。
必ず、私たちを守ってくれる。何故かわからないけど、そう信じている。
父が、母の肩を抱いたままソファーに腰を下ろした。
3人で、テレビを見つめる。
イバライガー。
ヨリコは、もう一度つぶやいた。
Aパート
「オレに合わせろ、ミニブラ。力を……使うぞ!」
「いつでもいいぜ! ブラック!!」
激しくビル全体が鳴動していた。屋上も、あちこちが崩れ始めている。
だが、イバライガーブラックも、ミニライガーブラックも、そんなことは気にも留めない。
全神経を、上空の黒い球体に集中した。
すでに、市街地の数ブロックを覆い尽くすほどに膨らんでいる。
まもなく、あの中心に特異点が現出するだろう。
その瞬間を突く。
特異点が発生した直後に、オーバーブーストで増幅したブラックとミニブラックのフルパワーを叩き込む。
エネルギーと質量は等価だ。ピンポイントに過剰なエネルギーを集中させれば、自らの質量によって縮退していく。
ブラックホールと呼ばれる現象だ。
それを引き起こす。特異点を、時空の向こう側へと崩壊させる。
「オーバーブースト……発動!!」
声とともにミニブラックの動きが止まった。彼の意識はブラックの中に溶け込み、1つになった。
それを確かめるように、ブラックがゆっくりと拳を引き絞っていく。
その動きに呼応して、シンクロした二人のエキスポ・ダイナモが輝きを増していく。
クロノ・スラスターが拡張し、唸りを上げる。二人の全エネルギーが、ブラックの拳に集積されていく。
ブラックは一瞬、地上を見下ろした。
シン、そしてイバライガーR。
わかっているはずだ。この時を待っていたのだろう?
期待に応えてやる。爆発は、止めてやる。
後はお前たち次第だ。
刹那を、掴んでみせろ。
「シン、ワカナ、離れていてくれ! ガールはウインド・フレアで、少しでも被害を食い止めるんだ! 私は……あの中に突っ込む!!」
「バカな! ブラックがオーバーブーストで狙っているんだぞ!! そこに飛び込むつもりなのか!?」
「あの黒いのの中がどうなってるかもわからないんだよ!?」
イバライガーRは、空を見上げた。視界いっぱいに広がった巨大な暗黒。
その中心に特異点が生まれるはずだ。そしてそこに、希望と絶望が眠っている。
掴んでみせる。希望を。
そして必ず『彼』を連れ戻す。
「もう時間がない。今やるしかないんだ。街を救いつつ彼を……初代イバライガーを呼び戻すチャンスは、今だけだ!」
「け、けど……」
「彼は必要だ。シンにもわかっているはずだ。たとえ私がどうなろうと、この機会を逃すわけにはいかないんだ」
Rは、全員を見渡した。誰も口を開かない。
危険すぎる。それでもやるしかないのだ。ここで躊躇すれば、初代イバライガーは永遠に戻ってこない。
「わかったわ、R。行ってきて。あなたが戻ってくるまで、私は絶対にここを支えてみせる!」
「ああ! 頼んだぞ、ガール!!」
わずかに身構えた瞬間、二人のクロノ・スラスターが吠えた。
イバガールは、ブラックのそばに着地した。
「いい、ブラック! 今から私の風で結界を作るわよ! タイミングを合わせて!!」
「知らん。お前の好きにするがいい」
「ったく! もぉいいわよ! いつもいつも勝手なんだから!! 時空旋風……エターナル・ウインド……」
必殺技の発動モードに入ったガールの視界を、一瞬イバライガーRが横切った。
赤い槍のように、球体へと突っ込んでいく。
「おおおおおおおおおおっ!!」
Rは拳を引き絞った。
その動きは、ブラックと同じタイミングだった。
「ふん、ようやく動いたか。いくぞR。この力、受け止めてみせろ」
「来い、ブラック!! 時空鉄拳……ブレイブ……インパクト……」
「時空雷撃拳……モード・オーバー……」
3人の動きが重なった。
それぞれの最大必殺技が、同時に発動する。
「……フレアァアアアア!!」
「……バァアアアニングゥウウ!!」
「……ブーストォオオッ!!」
屋上から、凄まじい力が放たれるとともに、ビルが一気に崩壊した。
シンとワカナは、激しい粉塵の中で祈り続けていた。
ガールの風が、輝く粒子が、球体を包みこんだ直後、Rが突っ込むのが見えた。
それを追って、ブラックのパワーが炸裂し、黒一色だった視界の全てが反転し、真っ白になった。何も見えない。
オーバーブーストで増幅された時空雷撃拳は球体を突き破り、剥き出しになった特異点に撃ち込まれたはずだ。
一瞬だけブラックホールと同じ状態になった空間は、周囲の大気を飲み込みながら蒸発する。
全ては、ほんの一瞬。
だが、特異点の中では一瞬と永遠は同じことだ。
還って来い。彼と共に。
祈り続けた。想いを届ける。
応えてくれ。オレたちの想いに気付け。
何も見えない。暗いのか、明るいのかもわからない。上下の感覚もない。時間さえない。
止まっているのではなく、ないのだ。
特異点に飛び込む直前、様々な想いを感じた。
自分の中の何かが、それに反応している。前にも感じた、何かの意思。それが目覚めかけている。
Rは、その感覚に身を委ねた。いや、身体という実体は、この世界では意味を成さないのかもしれない。
それでもRは、その感覚だけに集中した。
ゴゼンヤマ博士が託してくれたデータ。
シンの想い。ワカナの想い。みんなの想い。自分の想い。何かの想い。
その全てが1つに溶け合い、輝いている。
Rは、その光に手を伸ばした。
オーバーブーストが、球体を突き破った。
球体の上方……地上と反対側の面が破裂したように吹き飛ぶ。球体は、その中心点に向かって急速に収縮しながら降下していく。
消滅を免れた残がいが黒い渦となって、まるで台風が地上に降り立とうとしているようだった。
渦の外周がイバガールの風と反応して、プラズマを発している。
ルメージョは、それを見つめていた。現場からは、すでに数キロ離れている。
地獄の蓋が開いたような光景。
だが、見かけだけだ。本当の地獄は、こんなモノではなかったはずだ。
イバライガーブラックのオーバーブースト。
その力は知っていた。あのヒューマロイドが、この状況に介入してくることも予想していたはずだ。
なのになぜ、それを見落としていたのか。
自分は、心の何処かで、こうなることを望んでいたのか。
心だと? そんなものはないはずだ。心などというのは、人間が生み出した幻想に過ぎない。
肉体とは「そうしたシステム」に過ぎず、感情や思考は電気信号というだけのものだ。インプットに対するアウトプット。それだけだ。
だがそれでも、ルメージョはイバライガーブラックに対して、何かざわめくものを感じる。存在しないはずの心が疼く。
封じた『ナツミ』の意識が反応しているのだろうか。
しかし『ナツミ』がナツミであった頃には、イバライガーブラックは存在していない。
彼女は知らないはずだ。わからない。
いずれにしても、球体は破壊された。
究極の四天王『アザムクイド』を喚び出すことはできなかった。
だが。
「……それでも結果は同じ。ほんの少し、時間が延びただけ。いや、あのまま世界が終わっていたほうが幸せだったかもしれないよ、シン、ワカナ……。少なくとも、おぞましい死に方をせずに済んだのに……」
イモライガーは、必死に走っていた。
直径1キロ以上に巨大化していた黒い球体は急速に縮んで、今は数十メートルになっていた。それが弾けながら落下してくる。
近くのコンビニの陰に避難して見ていたのだが、今は現場に向かって走っている。
怪我をした博士たちは、TDFの車で病院に搬送された。カオリも付き添わせた。
というよりも、オニギリの頬張りすぎで呼吸困難になっていたので、見た目は一番重傷のように見えたのだ。
搬送する隊員は、ほっぺたに付いたゴハン粒に怪訝な顔をしたが、ミニブラから預かったねぎが、そのゴハン粒をペロペロと舐め取っていたので、そのまま車に乗せた。
カオリは朦朧とした意識でつぶやいていた。
「今です……今なら……」
カオリがカオリなりに必死に計算したデータ。
それはイバライガーたちに届いたらしい。
スゴイものを見た。
あのブラックと、Rとガールの合体攻撃。それが球体をぶっ飛ばした。
そして弾け飛ぶ中に『ソレ』が見えたのだ。
落ちたのは、あの辺とアタリを付けて、イモライガーは駆け出したのだった。
普段は滅多に走らないのに、このシリーズではしょっちゅう走ってる気がする。
ずっと隠れ家にしていたビルはすでに崩れ落ちて、瓦礫の山になっている。
立ちこめる粉塵のせいで、息があまり吸えない。自分も呼吸困難になりそうだ。
オニギリ食ってないのに。ちくしょう。
それでも、瓦礫の山を登った。このへんだ。きっとこのへんに。
足を取られて転げ落ちた。ヘルメットがすっぽ抜けて、とがった鉄骨に突き刺さった。
ヤベ~~~! コェエエエッ!! 来なきゃよかった。
けれど、身体は動いた。
どんどん奥へと進む。いるはずだ。見えたんだ。
幻でもいい。見つけちゃえば幻じゃなくなる。
シャッターがひしゃげ、クルマがひっくり返っていた。
その陰。
イモライガーは、何故か確信していた。
そこに、いる。
駆け込んだ。
とたんに、何かにぶつかってはじき飛ばされた。
四つんばいになって、目を開けた。目の前に二本の足がある。それを辿っていく。
腰。ベルト。甲冑。全部黒い。黒い?
「ふん、確かお前はイモライガー……だったな?」
うわぁああああ! イバライガーブラック!?
やっぱ来なきゃよかった!!
「逃げるな。死ぬぞ」
う、動けない。最悪だ。ジャークのほうがマシ。
「いいか、ここを動くな。お前に預ける。オレはもうしばらく忙しいんでな」
言い放って、ブラックは立ち去った。その気配が遠のくまで、イモライガーは本当に動かなかった。
かなりの時間が過ぎてから、恐る恐る振り返った。
黒いモノはいない。地面に赤い腕がチラっと見えるだけだ。ホッとした。
……赤い腕?
イモライガーは慌てて駆け寄り、瓦礫をかき分けた。
「ガールッ!!」
イバガールが地上に降り立ち、そのまま倒れた。エネルギーを使い果たしているのだ。
シンとワカナは駆け寄り、抱き上げた。
「大丈夫か、ガール!?」
「え……えへへ……二人の『感情』は、いつもながら気持ちいいなぁ。大丈夫よ。しばらく休んでいれば、元に戻るわ」
「Rは? ブラックは?」
「わから……ない。でも、黒いのは、もう消えた……はず……よ」
「わかった、もう喋るな。休んでくれ」
「Rたちを探してくるからね。動いちゃダメよ。シン、あんたはここでガールを見てて」
「一人で大丈夫か?」
「もうルメージョもいないようだし、黒い球体も消滅したでしょ。何かいたとしても、残りはザコよ。名前のない技しかないシンと違って、ワカナさんはしっかりしてるからね」
「ほっとけ!」
「とにかく行ってくるわ」
「ダメだ、動くな」
ふいに瓦礫の山の中から、声が割り込んできた。
瓦礫が崩れる。
ミニライガーブラックだった。
三体のミニライガーを背負っている。
「無事だったか! ミニライガーたちは……」
「心配いらねぇよ。溜め込んでいたエネルギーは解放しちまったからな。元に戻るまでには時間がかかるだろうけど、ほっときゃそのうち復活するって」
乱暴な言い草だが、その通りだった。
ナノパーツのプログラムを元に戻して、エネルギーを補給すれば、ミニライガーたちは元通りのはずだ。
「ありがとう、助け出してくれたのね」
「へへ、コイツらはオレ様の子分だからな。そういや、ねぎは?」
「カオリに預けてあるから、今頃は病院のはずよ。大丈夫、ねぎも怪我はしてないから」
「そっか。とにかくオマエら全員、動くなよ。ヤベェのは、これからだぜ」
「なんだと?」
突然、大きな振動が起こった。
地面がひび割れ、周囲が震えている。地震ではない。大気も含めて、空間そのものが振動しているのだ。
同時に、凄まじい瘴気が吹き出した。
液状になって降り注いだ黒い球体の残がいが、一点に集まっていく。
悪意だ。凄まじい悪意が凝縮し、形を成そうとしている。
「こ、これは……まさか……!?」
「この感じ……知ってる……。前とは比べ物にならないけど……!!」
瓦礫の山が爆発した。破片が降り注ぐ。
シンとワカナは、とっさにエモーション・フィールドを展開し、全員を守った。
ガールも、ミニブラックも、もうほとんどエネルギーがないのだ。
粉塵と、それ自体に圧力を感じるほどに濃密になった瘴気が、周囲を闇に引き戻した。
その闇の中心に、凶暴な意思を感じる。
いる。
見えないが、それは確実だった。
しかも最悪の奴だ。
粉塵の中から、何かが飛び出してきて、転がった。
イバライガーR!?
ぴくりとも動かない。まさか、まさか……!?
「……すでにくたばったか。ソイツには借りがある。このオレの手で引き裂いてやりたかったのだがな……」
この声。忘れもしない。
粉塵の中から歩み出てきた姿を見るまでもない。
ジャーク四天王ダマクラカスン。
「貴様……生き返ったのか。よくもRを……!!」
「それはオレのセリフだ。貴様らこそ、ルメージョの邪魔をしてくれたようだな。だが無駄なことだ。オレが復活した以上、貴様らには何の希望もない。この世界を破壊する。このオレが、全てを根絶やしにしてくれるわ!!」
「そんなこと、させるかよ!!」
ミニブラックが突っ込み、拳を撃ち込んだ。
「ふん、何も感じないぞ、小僧。人間と変わらぬではないか。どうやらエネルギーを使い果たしているようだな」
ダマクラカスンは、ミニブラックの腕を掴んで、無造作に投げ飛ばした。崩れた壁に叩き付ける。
瓦礫の雨が容赦なく降り注ぎ、ミニブラックの身体を埋めた。
「ぐっ……ち、ちくしょお……」
「力を失ったガラクタ共と、取るに足らないニンゲンしかいないのか? せっかく復活したのだ。もう少し楽しませてほしいのだがな」
ダマクラカスンがRの身体を踏みつけた。
「て、てめぇえええええ!!」
シンは怒りに震えて立ち上がろうとした。
その頬を光弾がかすめた。光弾はそのままダマクラカスンの眉間へと奔ったが、寸前で掴み取られた。
「誰だ? 出てくるがいい」
振り返った。モヤの中から、黒いボディが歩み出てくる。
「引っ込んでいろ、シン。そいつはオレの獲物だ」
「イ、イバライガーブラック!?」
ブラックは真っ直ぐに、ダマクラカスンへと向かっていく。
シンたちのそばを通り過ぎるとき、静かにつぶやいた。
「Rは、届いたようだ。今はイモライガーに預けてある。早く行け」
「届いた? 預けてある? そ、それじゃ……!?」
ブラックは応えず、ダマクラカスンと対峙した。
「オレは他の軟弱な連中とは違うぞ。遊んでみるか、ジャーク四天王?」
相変わらず、凄まじい圧力だった。そこにいるだけで、重圧に押し潰される。
シンには、気が充満していくのが見えるようだった。周囲の風景が歪んで感じられる。
「ふん、貴様がイバライガーブラックか。だが、強がって見せても、貴様もエネルギーはロクに残っておるまい。さっきの大技で使い切っているのはわかっているぞ」
「それでも、お前を殺すくらいのことはできる」
「おもしろい! やってみせろイバライガーブラック!!」
気が弾けた。
同時に二つの影がぶつかった。
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