小説版イバライガー/38話:家族の肖像(前半)

2019年7月27日

(←第37話後半へ)

■OP(アバンオープニング)

 ワカナは大あくびしながら、冷蔵庫を開けた。ミネラルウォーターを取り出して、飲む。眠い。
 珍しく早起きした……わけじゃない。寝てない。昨夜遅くまでナツミたちとお喋りしていて、そのまま何となく寝そびれてしまった。
 自室に戻るには、ホールを通る。昼間は常に誰かが出入りしているが、今は誰もいなくて冷んやりとしている。
 それでも、もうすぐ何人かは起き出すだろう。ごめんね、私は寝る。昼までは寝てる。

 そう思って階段を上ろうとしたとき、何かを感じて振り返った。
 玄関ドアから、朝日が差し込んでくる。その逆光の中を、誰かが歩いてくる。目を細めた。手に何か持っているようだ。
 影はまっすぐ向かってきて、躊躇なくドアを開け、目の前で立ち止まり、持っていたモノを放り投げてきた。慌てて受け止める。意外に重い。ミネラルウォーターを落としそうになって、ちょっとだけこぼれた。

「土産だ。後で主要メンバーを集めておけ」
 影は、ぽか~んとしているワカナの脇を通り過ぎて階段を上がっていく。上から再び声が聞こえた。

「肌が荒れているぞ。寝不足と便秘はやめておけ」

 うるせ~~~っ!! この夜行性のバカ!! 普段クールにキメてるくせにデリカシーがないトコだけシンと同じかよ!!
 返事はないまま、足音が遠ざかっていった。ったく何なのよ。

 それからようやくワカナは自分が手にしているモノを見て……悲鳴を上げた。

 

 

■Aパート

 イバライガーブラックが拾ってきた一本の腕に、全員の目が注がれていた。
 自分が知っているものとはかなり変わっているが、間違いなくモラクルの腕だ。
 初代イバライガーが提供してくれたデータに基づいて、イバライガー自体の理解と解析も兼ねて試作してみた女性型ヒューマロイド。

 その後造っていないのは、今の技術では実戦に耐え得るレベルのものは造れないことがわかっているからだ。それにヒューマロイド自体の研究や試験はTDF主導で行われている。実戦投入されたのはPIASだけだが、完全なヒューマロイド研究も進められているはずだ。
 この戦いが終わって人類が生き延びることができたら、世界は大きく変わるだろう。ジャーク事件に過度な介入をさせないための条件として、情報は同盟各国にも開示されているのだ。
 だが今は、それを考えていられる時ではない。
 ゴゼンヤマ博士は腕を持ち上げて、しげしげと眺めた。

「この改造はルメージョが?」
「はい。カンナグールを造る前に実験的に行ったもので、奪取したPIASなどのデータも組み込んであります。ただ、ベースとなる素体の強度が足りなくて実戦向きではないと考えていたようです。ヒューマロイドの構造や弱点を探るための試験機ですね」
「でも……テスト用にしちゃ武装がかなり強化されてるんじゃない?」
「そうね。使われなかったというだけで実戦も想定されていたのよ。暗殺兵器としてね」
「暗殺?」
「モラクルの動力は内蔵電池。エモーションを感知する機能はあっても、それをエネルギー源にしているわけじゃない。両腕にはシンやワカナが使っているMCBグローブと同様のエモーション増幅器が内蔵されているけど、それもミニライガーからの供給を前提にしている。つまりモラクル自身はエモーションを発しない。だからこそイバライガーにも感知できないステルス機能を持たせることができる。人間よりも遥かに高性能で、容易に社会に紛れ込み、倫理も葛藤も殺意もないまま人を殺せる。イバライガーの技術を軍事転用したらどうなるかの典型的事例と言っていいのよ」

 ナツミの言葉が突き刺さった。耳が痛い。全くその通りだ。
 造ったときに懸念していたことだった。モラクルには、ロボット三原則が組み込まれていない。ジャークと戦うということは、取り憑かれただけの人間も相手にしなければならない。むろん、人間には致命傷を負わせないようにプログラムしたが、いざとなればそれ以上のこともできる。最優先命令はシンやワカナの保護。その命令を達成するために殺傷以外に手段がないのであれば、それも厭わない。そうするしかなかった。
 ヒューマロイドには良心などない。イバライガーでさえ、元々はそうだ。R、ガール、ブラックの自我は、元になったシンやワカナから受け継いだものだし、初代イバライガーの心は、未来のワカナが自らの生涯と愛情の全てを捧げて育て上げたものだ。
 それほどの何かがなければ、本当の機械生命体は生み出せない。
 自らが造った鬼子。開けてしまったパンドラの箱。それを今、突きつけられている。

「ナツミくん……モラクルは……君を狙っているのか?」
「はい、間違いないと思います。他のジャークの動きがないこと。ブラックが感じ取ったというルメージョの残留思念。私への復讐心だけが暴走していると言っていいはずです。片腕を失った以上、修復が完了するまでは動かない可能性が高いですが、私を殺すまで決して止まることはないでしょう。アレはすでに博士が造ったモラクルとは別のものです。暗殺兵器ダークモラクルなのですから」
「こちらのプログラムに書き換える……なんてお気楽な方法は無理よね。そのへんはルメージョも対策してるに決まってるし」
「なんとか見つけ出して、破壊するしかねぇか……」
 ワカナとシンのつぶやきが聞こえた。二人も、できれば壊したくないと思っているようだ。特にシンはそうかもしれない。あの頃、モラクルと組んで動くことが多かった。初代は単独で、ワカナはミニたちと、シンはモラクルと、という編成になっていた。もしかしたら、自分以上に思い入れがあるのかもしれない。

『いや、壊すな。アレは使える。捕まえて連れ戻せ』

 スピーカーから声が響き、全員が上を向いた。この声はブラック?
「そう思うならアンタが捕まえてきてくれればよかったじゃん! 腕だけじゃなくて!!」
『うるせぇ! 俺が手出しすればアレは自壊するだろ~が。勝てず逃げ切れずとわかった時点でな。Rや初代でも同じことだ。お前らがやれ』
「どうしろってんだ?」
『ナツミの拘束を解け。そして自由にさせろ。そうすりゃアレは出てくる。奴はてめぇ自身を守ろうとは思っちゃいねぇ。自分が破壊されようが目的さえ達成できると判断すれば、必ず出てくる。論理的な帰結ってやつだ』
「あのなぁ……それじゃナッちゃんがヤバイだろうが!」
「そうだ! ナツミさんを危険に晒すことは絶対に認められん!!」
 シンとソウマが同時にツッコんだ。この二人、普段はあまり仲は良くないように見えたが、今は共闘ということなのだろう。ワカナも怒ったように天井のスピーカーを睨んでいる。
『ふん、てめぇら相変わらず考えなしだな。ナツミをこのまま基地に押し込めておくつもりか? それをナツミが受け入れると思うか? 次の戦いには、この女も必要になる。だが、力を失ったままでは連れていけん。あの機体が必要だ』
「くっ……」
 みんなが黙り込んだ。確かにナツミ君を閉じ込めておくことはシンたちも本意ではあるまい。彼女が戦いの力になるというのも間違いない。そのためにブラックは、モラクルを回収して再調整し、ナツミ君に使わせるつもりなのか。

 実際、ナツミ君はシン、ワカナに続く第三のエモーションの使い手と言えるだろう。どれほどの力を持っているかは不明だが、ルメージョだったときの記憶を残している以上、間違いなくエモーションの扱いも習得しているはずだ。もしかしたらシンたち以上に。
 ならば、ブラックに従うべきなのか。この腕を見る限り、もはやモラクルは私の手には負えない。だが彼女の協力があれば、モラクルを元の姿に……いや、新しい姿に生まれ変わらせることができるのかもしれない。私の業を封じてくれるかもしれない。しかし……。

「やるわ、ブラック」
「ちょ、ちょっとナツミ!?」
「ナツミさん!?」
「ワカナもソウマも落ち着いて。ブラックの言う通りよ。私もここでいつまでもじっとしていられない。多少なりともジャークの内情を知っている私がいたほうがリスクを抑えられる可能性も高くなる。もう、一人で待ち続けるのは嫌なの。どうなるにしても、みんなと一緒にいたい。そのためにモラクルを取り戻したい。あの中に秘められている『力』を……」
「力って……まさかルメージョの?」
「うん。危険なことはわかってるけど、使い道はあるわ。ジャーク側に飲み込まれないための対策も。そのためにもモラクルが必要なの」
「し、しかし……」
「お願い、ソウマ。やらせて」
「くっ……」
 ソウマもワカナも黙り込んだ。シンは何かを考え続けている。
『そこのボンクラどもにも、ようやくわかったようだ。やれ、ナツミ』
 ナツミがうなずいた。シンもワカナもソウマも、黙ったままだ。止められないのだろう。たった一人で長いことルメージョに捕らわれていたのだ。その彼女に一緒にいたいと言われれば、拒否できまい。
 その思いは自分にもある。だが、私まで感情に流されるわけにはいかない。年長者なのだ。研究のこと以外では何もできない人間だが、それでも最年長には違いない。諌めなくては。モラクルにどれほどの改造が施されているのか判断しきれないが、腕だけでもかなりの手が加えられていることはわかる。彼女が元ルメージョとはいえ、今は普通の女性だ。エモーションの力を使えたとしても、暗殺専用にセッティングされたモラクルを止められるほどとは思えない。ナツミ君を信じたい気持ちは強いが、それでもかなり危険なことなのだ。軽々に賛同はできない。

 言葉を発しようとしたとき、手を握られた。
「博士、私に任せてください。必ず『あの子』を連れ帰ります。私も、帰ってきます。力を貸してください。モラクルを再び本当の姿に戻すためにも」
 言葉とともに、感情とヴィジョンが流れ込んできた。これがエモーションを媒介にした接触テレパスか。体験したのは初めてだ。ここではほとんど隠し事がないから、今までこんな方法で何かを伝えられたことはなかった。
 本当の姿とは、これか? そうか、ナツミはそれを考えているのか。ブラックの狙いもそれか。
 それが可能なら確かに力になる。シンとワカナを……いや、多くの人を救うことができるかもしれない。
 ダメだ。希望を感じてしまった。もう私にも止められない。

「……わかった。アケノ隊長には、私から話をしよう。ただし……作戦の成功よりも自分を大事にすることだけは約束してくれ。君の知識や力はこれからも……いや、そうじゃなくて……君を救うためにみんなはずっと……いやいや、それも違うな……とにかく君が生きていることが我々にはとても大事なことで……いや待て、我々のためというのでもなくてだな……」
「わかってますよ、博士。私は生きます。私自身のために」
 うなずいて、手を握り返した。私はエモーションは使えない。それでも感情は伝わるだろう。
 待てよ。
 慌てて手を離した。これはセクハラというやつではないのか。そんな意図はなくても中高年が若い娘の手を握るなどというのは……。
 顔が熱くなった。ナツミ君が微笑んでいる。どうやら許容範囲だったらしいが、今後は気をつけなくては。
 ゴゼンヤマ博士は、そんなことを思いながら必死に笑い返した。

 


「シン、どうするつもりだ? 本当にやるのか?」
「……ああ。たぶん止められない……というより、俺たちが話し合うより先に、モラクル捕獲作戦は決定していたはずだ」
「どういうことだ?」
「ブラックの口調さ。ゴゼンヤマ博士がアケノに連絡すると言っていたが、たぶんブラックはすでに根回しを済ませているのさ。その上で俺たちに話し合いをさせた。俺たち自身の意思で決定させるためにな。儀式みたいなもんだ」
「ちっ。隊長も承認済みってわけか。だが、俺は認めんぞ。俺はナツミさんの護衛だ。彼女からは決して離れん」

「そうはいかん」
 ブラックが現れた。また手ぬぐいを引っ掛けている。なんだよ、その寛いだ格好は。てめぇ、さっきも自室でソファーに座って話していやがったな。自分だけ豪勢な家を建てやがって。
 と思ったが、さすがにそれを本当に口にするのは自殺行為だ。シンは文句を言いたい気持ちを必死に抑えた。ソウマも同じらしい。
「ソウマ、てめぇの任務は解任だ。お前のイバライガーPIASでは戦闘力が高すぎて警戒される。生身では何の役にも立たん。つまりお前は使えない。むろん、Rやガールや初代もだ」
「じゃ、じゃあ俺とワカナが……」
「お前らもダメだ。お前らはジャークの生贄だ。そこらをうろついていれば、モラクル以前にジャークが群がる。うじゃうじゃとな。うっとうしいぞ」
 なんて言い方しやがる。全身に虫がたかってるような気分になったじゃね~か。
「じゃあ、どうするってんだよ!? まさかナッちゃんを一人で行かせるつもりじゃね~だろうな?」
「心配するな、ボディガードはつける。人選も終わっている」
 ブラックが、親指で後ろを指差した。階段を降りてくる足音。複数だ。

「おぅ、ジャークの女を見張るんだってな。任せとけ、やべぇことしやがったらボコボコにしてやるからよ」
「任務受領しました。ナツミさんは私が守り抜きます!!」
 ミニブラックとミニR、だと? なんで……よりによってこの二人なんだ?
「ミニブラはナツミを疑っている。ミニRは信じている。全否定と全肯定。バランスは取れている。問題あるまい」
「そ、そうかぁ?」
「それとナツミの拘束は解除しろ。たった今から、こいつらがナツミに張り付く。アケノにはお前ら連絡しておけ」
「なんで面倒臭いことだけ押し付けてんだよ!?」
「奴の腕が再生されるまで2日ほど待つ。作戦スタートはそれからだ。じゃあな」

 ブラックは言いたいことだけ一方的に言って、地下へ降りていった。NPLでひとっ風呂かよ。ホントーに勝手な奴だ。入浴料取ってやりてぇ。
「じゃあ私たちはナツミさんの元へ行きます」
「一瞬も目は離さね~から安心しろって」
 ミニブラとミニRも立ち去って、シンとソウマだけが取り残された。

「お、おのれ、イバライガーブラックぅううう……」
 つぶやきが聞こえた。気持ちはわかる。

 


「おらおら、あんまり近づくなよ!? こいつはジャークかもしれね~んだからなっ!!」
 ミニブラックが怒鳴りながら歩いている。その後ろを苦笑しながらナツミが歩き、自分はさらに後ろだ。

 ミニライガーRは、ちょっとムッとしていた。
 本人もそう言ってるし懸念はわかるけど、ミニブラは言い過ぎじゃないか? 度が過ぎるようなら注意しなくては。
 というよりも、警戒する対象を間違えてるだろ。ボクらの役目はナツミさんから警護することじゃない。ナツミさんの警護を任されたんだ。全く、いつもながら勝手な行動をするやつだ。本当に目が離せない。むしろ仕事を増やしてるだけじゃないか。

 ダークモラクル捕獲のための囮作戦は2日後からの予定だが、ナツミさんの警護を依頼されたのは今日だ。当日まではナツミさんは外に出ない。周囲は他のイバライガーたちが固めているので、この基地内にいる限りは安全なはずだ。拘束スーツも着たままだ。
 けれど、スーツの設定はすでにオフになっている。スーツはNPLを織り込んで作られたもので、ジャークの反応がわずかでもあれば瞬時に固まって本人を拘束するようにセッティングされていたが、今はその機能を切ってあるのだ。着ているというだけで、仮にルメージョの反応があったとしても何も起こらない。
 TDFのアケノ隊長は、彼女から絶対に目を離さないことを条件に承諾したらしい。オン/オフのコントロールはアケノが握ったままなので、いつでもオンにできるけど、それだけでは足りないということだった。子供みたいな顔をしてるけど、厳しいところは厳しい。

 それで、自分とミニブラが警護に付くことになった。作戦のときにも付いていくことになっている。Rやガールでは強すぎて囮にならず、ミニガールやミニライガーたちでは弱すぎるということらしい。
 ダークモラクルの性能については、ナツミさんからレクチャーを受けた。自分だけでも対抗できると思えたが、ナツミさんを守れるかどうかは微妙だ。しかも相手はナツミさんさえ殺せればどうなってもいいという覚悟で向かってくる。悔しいが、一人でガードするのは難しい。

 それにしても、よりによってミニブラと一緒とは。
 今も目を離して、ねぎと遊び始めている。そのくせナツミさんを全く信用してない。お前なぁ。ナツミさんからのエモーションは感じてるだろ。ねぎも吠えてない。ジャークどころか気持ちのいいポジティブじゃないか。ジャークだったときでさえ、そうだったんだぞ。辛いのに頑張った偉い人なんだぞ。油断しないのはいいとしても、もっと敬意を払え。

「おい」
 後ろから声をかけられた。ヒソヒソ声。ソウマだ。
「どうしました?」
「あ、あのよ……その……なんともないか?」
「はい、万全です。少なくとも私がいる限りはナツミさんは守ってみせますよ」
「い、や、それはそうなんだろうが……そ、その……」
 ソウマは、今回の作戦が決定されるまでナツミさんのガード役だった。役目を外されてからも、隠れて見ていることが多い。
「ちょ、ちょっと確認なんだが……その……お、お前ら、風呂の中までガードしてるって本当か?」
「もちろんです! 絶対に目を離さないって約束ですから!!」
「う……そ、そりゃあ、そうだな……」
「今日は体を洗いっこしたんですよ。人間のお風呂だから私たちにはあんまり効果はないですが、楽しかったです」
「あ、洗いっこだとぉおおおお……」
「それと、トイレもお付き合いしますよ」
「トイレェエエエエエエエエ!?」
「寝るときも一緒のベッドです。私やミニブラは眠らなくても平気ですけど、ナツミさんが一緒に寝ようって」
「一緒に……一緒にぃいいい……」
 なんだろ? ソウマの反応がなんか変だ。やっぱり心配なのかな。安心させてあげるには、もっともっとそばで守ったほうがいいのかも。
「大丈夫ですよ、本当に絶対に1ミリも目は離しません。ばっちり! 全部! 赤裸々に見てますから!!」
「いや、少しは目を離せっ! ……っていうか……そういうわけにもいかんのか……うぐぐ……」
「うぐぐ?」
「な、なんでもない、と、とにかく頼む……頼みたくないが頼む……」
 ソウマがよろめきながら立ち去っていった。どうしたんだろう? 彼のエモーションが消えそうなくらいに弱まってる。「お、おのれぇええええええ……!!」って声も聞こえたけれど、理由はわからない。

 とにかく、ミニブラがいい加減な分も頑張らなきゃ。
 ソウマに心配されないためにも、どんなときも見逃さないぞ。どんなときもだ。

 


 イバライガーRは、基地の屋上で待機していた。ガールと初代はそれぞれに周囲を探索して回っているが、それなら自分は基地から離れないほうがいい。ここならダークモラクルが現れたら、確実に迎撃できる。

「やっぱり、何も見つからないや……」
 イバガールが戻ってきた。自分と初代、ガールの3人で手分けしてダークモラクルの捜索を続けてきたが、成果は上がっていない。
 昨日から基地の中には戻っていないが、全員、作戦の発動は確認している。それでも、実際にナツミさんたちが行動を開始する前にモラクルを見つけて捕らえることができれば、危険を回避できるのだ。特に初代イバライガーはシンやワカナが無茶をしてしまう可能性を案じて、今も熱心に探し続けている。

「……それにしてもブラックはどういうつもりかしら? そりゃあミニライガーたちの中では、あの二人が一番実戦向きだけど……どう考えても合わないと思うんだけどなぁ。そもそもアイツ、一度はモラクルを補足して腕を斬り落としてるんだから、自分が索敵すればいいのに」
 ガールが屋上に建てられたブラックの部屋……というよりコテージを眺めながらボヤいた。
 ブラックとは何度かすれ違った。部屋の前にいるのだから当然だが、特に言葉は交わしていない。交わさなくてもわかってる。

「なぁ、ガール。ミニライガーたちはずいぶん成長したと思わないか?」
「そうね。ミニガールも私とはかなり性格に違いが出てきてるし。他のみんなも。あの子たちは、あの子たちとして生きてるよね」
「ああ。ミニブラとミニRもだ。彼らは私たちのバックアップだが、二人とも自我が相当育っている。もう私たちの分身なんかじゃない。というよりも、彼らはすでに『イバライガー』になり始めていると思う」
「本人たちは気づいてないけど、背も伸びてるよね。力が上がった分だけ、必要とするナノパーツも多くなるもん。無意識にNPLから吸収しているみたいね」
「そうだ。このまま成長していけば、やがては私たちと同じ……もしかしたらもっと強いヒューマロイドになるかもしれない。ただ、それでは間に合わない。決戦は間近なんだ。私たちが新たな力を得たように、彼らにも何かが必要なんだ。そうでなければ次の決戦では戦えない……」

「そのためにブラックが仕掛けているってこと?」
「たぶん。ブラックはあれでいて、けっこうよく見てるよ。ナツミさんと一緒に行動させているのも布石の1つだと思う」
「まぁそうなんだろうけどさ~。その『何か』が実を結ぶ前に、ナツミを巻き込んで喧嘩しなきゃいいけどね~~」
「ナツミ? 『ナツミさん』じゃなくなったのか?」
「うん、昨夜ワカナとナツミと私の3人で女子会したの。ソウマを追い出して。楽しかったな~~。そんでお互いに名前で呼び合おうって」
「ふ、ソウマは災難だな」
「任務とか言ってるけどバレバレだもんね~~。うけけ、当分は面白そうだな~~」
「ソウマ、災難だな……」

 陽が落ちてきた。夜は一番危険なので捜索は中止し、交代で見張ることになっているが、まだ初代は戻らない。
「ガール、ここの見張りを頼むよ。初代を迎えに行きながら、周囲をもう一度チェックしてくる。ブラックを信じないわけじゃないが……」
「わかってるって。私だってナツミやミニたちを危ない目には遭わせたくないし、いつもブラックの思惑通りってのも癪だもんね。さっさと見つけてきちゃって」
 苦笑して、イバライガーRは跳躍した。

 ただの気晴らしのようなもので、見つけることはできないだろう。エモーションを全く発さずに身を潜められては、どうにもならない。
 2日後、ミニブラックとミニR、そしてナツミさんに何が起こるのか。
 少しだけ予想はつく。だが、それが本当にできるかどうかは賭けとしか思えない。
 とにかく、いざというときの対策だけはしておこう。たぶん、初代もそうしているはずだ。

 

(後半へつづく)

 


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