小説版イバライガー/第31話:フェアリー(前半)

2018年10月24日

(←第30話後半へ)

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OP(オープニング)

 ……なに? ここは……博士たちの研究室?
 なんで私、ここで寝てたの?

 へ? ほとんど裸!? なんで!?
 痛っ。脇腹が……点滴も? 何? 私、怪我してる? 入院してる?

 !!

 そうだ、カタルシス・フュージョン。
 Rが元に戻ったところまでは、覚えてる。それで私はRに近づいて……。
 それから……それからは思い出せない。

 とにかく、起きなきゃ。服。私の服はどこ?
 ん? 足音? え? ちょ、ちょっと!? 今ドア開けないで! 開けるなってば!!

「起きたか、ワカナ!? 大丈夫か!?」
「いきなりドア開けるなぁあああっ!!」

 枕がシンの顔に当たって、ボフッという音を立てた。その隙に急いでシーツを引き寄せる。
 痛てて。急に動くと、お腹が引っ張られて痛い~~。

 どうなってんの!? 何があったの? 勘弁してよ~~~。

 

Aパート

 ワカナが目覚めた、と、ガールが教えてくれた。意識を感じ取ったらしい。

 すぐに研究室に向かった。手術が上手くいったことは確認している。担当したTDF救護班の男は、傷もほとんど残らないと言っていた。本当に凄腕だったらしい。即席とはいえ、器材なども本格的な病院に負けないレベルのものを持ち込んでいた。

 とにかく、気が急いた。寝顔は見たが、当然ながら話はしていない。早くいつもの声を聞きたかった。

「起きたか、ワカナ!? 大丈夫か!?」
 ノックもせずにドアを開けて、飛び込んだ。

 ワカナ。ベッドから身を起こして、周囲を探っている。ほぼ、裸で。

 いつものワカナだ。よかった。本当によかった。駆け寄って抱きしめようとしたが、枕をぶつけられた。
「いきなりドア開けるなぁあああっ!!」
「わ、悪かった! でも、そこに服も下着もないぞ。カオリが洗濯してたから。お前の部屋に行ってテキトーなの持ってくるか?」
「……ダメ。後でガールに頼む……」

 ワカナは、シーツにくるまっている。
「とにかく無理はすんなよ。もっとも、多少は起きて歩いたほうが術後の経過はいいらしいけどさ……」
「術後って……私、手術したの? 何がどうなってんの? あれからどうなったの!?」

 シンは、少し迷った。今、話すべきなのか。もっと回復するまでワカナには黙っていたほうがいいのではないのか。
 いや、ダメだ。コイツがじっとしてるわけがない。隠してるとかえってマズいことになるに決まってる。でも、どういう言い方をしたら動揺させずに伝えられるのか。

 迷っていると、ワカナに手を握られた。
「気にしないで。ヤバいんでしょ。私が怪我してて、やっと目覚めて……けど、顔を見せたのはシンだけ。ガールもRも駆け付けてこない。あの二人なら絶対に来るはず。でも、いないってことは……」
 いかん。勘付いている。これ以上黙っていたら不安が大きくなるだけだろう。もう話すしかない。

「最初に言っておく。良いニュースと悪いニュースってやつだ。まず、良いほうから話す」
「こういうときは、どっちから聞きたいかって訊くもんじゃないの?」
「良いほうは、ちょっとだけ良い。悪いほうはトンデモなく悪い。多すぎて一気に話せないほどにな。だから、良いほうを聞いて気持ちをしっかりさせておくほうがいい」
「……わかった。教えて」

「まず、Rは無事だ。まだ意識は戻らないが、姿は元のRに戻っている」
「ちょっとだけじゃないじゃん! すごく良いニュースじゃん!」
「言っただろ。悪いほうがトンデモねぇって。そっちに比べればちょっとなんだよ……」

 ワカナが見つめてくる。いいのか。本当に伝えてしまうのか。俺自身も、まだ信じられないのに。

 昨夜、眠っている間に起こったこと。伝えてくれたのはアケノだ。感情を交えず、淡々と、しかし詳しく、全てを説明してくれた。おかげで状況だけは理解できた。気持ちの整理は、まだできていない。

 あの喋り方だ。あれを真似するのが一番よさそうだ。問題は俺にそれができるかだ。まだ混乱している。アケノほど冷静になれていない。事実を受け入れることができないでいる。

 ベッドに腰を降ろした。もしもワカナがパニくったら押さえてやらないと。いや、それを俺は望んでいるんじゃないのか。誰かが先に泣き出すと冷静になれることがある。慰めるという行為が、自分の悲しみを打ち消してくれることがある。ワカナに話すのは甘えてるだけじゃないのか。俺が楽になるためにワカナを利用しようとしているのでは。

「シン……大丈夫だよ。覚悟はできてる。誰かが……ううん、たぶんブラックに何かあったんだね……」
「ワカナ……!? なんで……」

「ちょっとだけ……思い出したの。意識はなかったと思うんだけど……夢だったかもしれないけど……ブラックがね、来たの。いつものぶっきらぼうなブラックじゃなくて、なんか優しく感じた。それが逆に怖かったの……彼は……死んだの……?」
「……わからない。あのブラックが死ぬとは今も思えない。ただ、アイツは消えたらしい。光になって。自分の片割れ……Rの中に溶け込んでいったんだと初代は言っていた……」

 たった一人で、暴走状態になったRを抑えて戦ったのだという。そして、ミニガールを庇って致命傷を受けた。最後まで一人で立ち続け、静かに消えていったという。

「……他の人は……無事? ミニちゃんは?」
「眠っている。外傷はないようだけど、何故か目覚めないんだ。ブラックのことがショックすぎたのかもしれない……。他の連中は、忙しくしてるよ。Rの中から出てきた奴……ルイングロウスがとんでもねぇことを仕掛けてるからな……」

 ブラックが消滅し、Rとミニガールは起動不能。PIAS基地は乗っ取られ、ランペイジの量産が今も進んでいる。
 どうにもならないほどに、最悪な状態だ。

「さて……と。俺はみんなのところに行ってくるよ。すぐにカオリが来るはずだから心配するな。話はしたが、今は身体を治すことだけ考えてろ。無茶をすれば、みんなの足を引っ張るだけだ。大事なとこで邪魔はすんなよ」
「……わかってる……アンタこそ無茶はしないでよね……」
 シーツの中に、ワカナが潜り込んだ。シンは、その背中に手を伸ばそうとしたが、耐えた。

 敢えてキツい言い方をして、突き放した。触れれば、お互いに感情が溢れてしまう。本当は、もっと労ってやりたい。ずっと、そばにいてやりたい。見ていたい。抱き合って泣くことができたら、どんなに楽だろう。

 けど、そうはいかない。

 そっと廊下に出た。戻ってくるカオリの姿が見えた。うつむいている。すれ違うときに、少しだけ微笑んでみせた。カオリは気づいただろうか。わからない。ワカナを頼む。俺の代わりに見守ってやってくれ。この先、俺は止まれない。戻れない。

 カオリが研究室に入るのを見届けて、シンは再び歩き出した。
 ブラックは、最後に『裏技』と言ったという。自分自身の命を使って、Rを元に戻したのだ。
 俺にも『裏技』はある。
 できるかどうかはわからないが、やれた前例はある。
 やってみせる。これ以上、誰も死なせない。

 


 PIAS基地の手前3キロで、イバガールと別れた。
 イバライガーがジャークを感知できるように、ジャークもまたイバライガーを感知する。一緒に行動していては近づけない。

 十分に気配を殺して移動しても、3キロなら10分とかからない。
 ただ、実際に基地に侵入するのは無理だ。ルイングロウスは基地それ自体に取り憑いている。いわば、基地全体が奴の身体のようなものなのだ。いくらエモーションの反応を抑えても、人間サイズのものが触れれば、必ず察知されるだろう。残り数百メートル。そこが限界だった。

 あまり特徴のない民家が並んでいる。建売の住宅地だ。その一軒に、アケノは音を立てずに入った。玄関の鍵は壊れている。靴のまま2階へ上がった。西側の部屋へ向かう。ドアに象を形どったプレートがかかっていて、その腹にはローマ字で『YOUYA』と書かれている。子供部屋だろう。
 中に入る。ソウマ以下数名がうずくまっていた。

「ほい、差し入れ。様子はどう?」
 オニギリの包みと水筒を手渡した。オニギリはエドサキ博士が握ったもので、味が心配だったが、ちょいと齧ってみたら意外に美味しかった。水筒の中は、スポーツドリンクだ。ゴゼンヤマ博士がお茶を用意していたけど、利尿作用があるものはNGなのよね。
「動きはない……というか動き続けているというか……とにかく、ずっと同じです。ひたすら量産を続けているようです」
「やっぱ戦力を万全にしてから一気に……ってことかぁ。それまでに、こっちの対策が間に合えばいいんだけどね~」

「政府……いや、各国の動きは?」
「今はまだ静観してるよ。核攻撃は事態を悪化させるだけだっていう初代イバライガーの証言があるからね。ただ、アレが動き出したらわからない。核はともかく、大規模な空爆くらいはあると思うよ。そうなるまでに止めないと、この街は灰になる。しかもジャークは生き延びる。最悪がもっと最悪になって、本当に手がつけられなくなっちゃうだろうね……」

「結局、可能性は彼らだけですか……イバライガーRは、今も?」
「うん、お休み中。いつ起きるのか、起きたらどうなるのかも、全然わかんない。とにかく当分はここで見張っててね。あいつらはともかく、他のジャークが動く可能性もあるから、エモーション・センサーには注意してて。毎日一回は差し入れに来てあげるからさ」

 言って、部屋を出た。実際には、数時間おきに伝令を走らせているし、1キロ間隔で同様の観測スポットを設置してある。光や手旗信号も使っている。思いっきり前時代的だが、ネットも含めて通信を使うのは危険なのだ。こちらが動いていることはバレているだろうが、この場所を特定されるのはマズイ。

 周囲には、初代イバライガーやイバガール、ミニライガーたちも展開している。彼らは特定の場所ではなく、移動しながら見張っている。
 見張ったからといって、何ができるわけでもない。ただ見ているだけだ。
 イバライガーたちはかなり回復しているが、それでも戦力差がありすぎるのだ。1対1では、勝てない。全員でかかっても厳しい。しかも向こうは、すでに数十体は稼動できるはずだ。今戦えば、確実に負ける。

 今は、待つしかない。
 イバライガーブラックは、自らを犠牲にしてまでRを残した。感傷などではないはずだ。あの男が無策で死ぬなど、あり得ない。
 ブラックは冷徹に見えるが、本当は誰よりも熱いとアケノは思っていた。ブラックもRも、ベースとなっている人格は未来のシンなのだ。正反対に見えても、本質は同じはずだ。この世界を存続させるために、命を削ってジャークと戦い続けた別な世界のシン。その覚悟が長い封印期間を経て、さらに濃く、強く濃縮された。それがブラックなのだろう。

 そのブラックが、自分自身を失ってまでイバライガーRを遺した。
 それがジャークに勝つために必要だったからだ。それほどの何かが、Rにはあるのだ。

 そしてシンとワカナ。あの二人にも何かがある。
 彼らは、イバライガーたちのオリジナルと言ってもいい。

 現代の彼ら。未来の彼ら。その遺志を受け継いだヒューマロイドたち。別の時空の別の可能性。本来は決して重なるはずがない3つの同じ心。たぶん、そこに鍵がある。3つの想いが本当に重なった時に、何かが起こる。

 エドサキ・ゴゼンヤマ二人の博士は、そう予測している。

 この数日、博士たちとは、かなり突っ込んだ話をすることができた。ジャーク事件の始まりの頃から、ずっとイバライガーやシンたちを見守り続けてきた博士たちは、これまでのデータを元に、独自に研究を続けているのだ。
 その研究は、今回のルイングロウスの一件で大きく進んだらしい。特異点の中に封じられた意思の存在を確認できたことが、様々な事象の解明につながるのだという。

 いずれにせよ、イバライガーRが目覚めて、3つの想いが重なる瞬間までは、状況を見守っているしかない。
 恐らく、ルイングロウスは量産が終わるまでは動かないだろう。間に合う可能性は、十分にある。

 問題は他のジャークだ。ジャークが動けば、シンやイバライガーも必ず動く。そのときシンは、危険な賭けに出る可能性が高い。ワカナが負傷したとき、シンはキレていた。できるだけ抑えたが、あの感情は消えていまい。しかもRとブラック、主力と言っていい二人がいない。彼は、もう躊躇しないだろう。次に仲間に危険が迫れば、踏み込んではならない領域に入ってしまうに違いない。

 住宅街を抜け、大通りに出た。
 元々さほど交通量の多い通りではないが、今は1台も走っていない。歩く者もいない。回収されなかった生ゴミがカラスに荒らされて散らばり、早くも廃墟の趣さえ感じられる。

 この程度で済んでくれれば助かるんだけどなぁ。そうもいかないだろうなぁ。
 飛び上がったカラスを、目で追った。空は、厚い雲で覆われている。そこに白いものが見えた。

 雪? 雪だと? これは……!!

 


「ジャーク反応、急激に上昇中!! こっちに向かってくるわ!! この反応……たぶんルメージョよ!!」

 スピーカーから、エドサキ博士の声が響いている。カオリはドアを開けて、そっと様子をうかがった。あちこちから、ざわめきが聞こえてくる。窓の外を武装したTDFの人たちが駆けていった。

 初代やガールは、アケノ隊長と一緒に偵察に出ている。すぐに戻ってくるだろうけど、Rは、まだ眠ってる。ブラックはもういない。怖い。いつも怖かったけど、今は特に怖い。

 背後で、物音がした。ワカナが起き上がろうとしていた。

「ダメですよ、ワカナさん! 寝てなきゃ!!」
「そうは……行かないのよ……感じるの。これはルメージョだけじゃない……ナツミが来てる……」
「ナツミさんが? ていうか、ナツミさんとルメージョは同じじゃないですか!?」
「違うの。今回は……本当にナツミなのよ……」

 廊下からドタバタとやかましい足音が聞こえてきた。
 誰が来たかは見なくてもわかる。

「ワカナァアアアアアアアッ!! 大変だぁああっ!! これ! この感じ!! ナッちゃんだ!! ナッちゃんが来てる!!」
 マーゴン……いや、イモライガーが飛び込んできた。なぜか左手にハエ叩き、右手に萌えキャラフィギュアを持っている。あんまり意味はないんだろうけど。

「だから、いきなりドア開けるなって言っとろうがぁあああっ!!」
 重たい音がして、イモライガーのヘルメットがくるっと回った。枕元にあったペットボトルが床に転がってる。うわぁ、ワカナさん容赦ない……。
「……くっ、だが、こんなことでイモライガーはへこたれない……っ!!」
「いや、へこたれろよ!! お前もシンも、ドア開けるときはノックしろ!!」

 ワカナさんは、また素早くシーツに潜り込んでいる。
 怪我人なのに早っ! さすが体育会系。

「そんなギャグやってる場合じゃないだろ! ワカナも気づいたよな? ボクの妄想じゃないよなっ!?」
「うん、あれはナツミに間違いないよ。でも、ちょっとヤバい感じだよね……」

 マーゴンさんもナツミさんを感じ取ったらしい。そういえばマーゴンさんってシンさんの幼馴染で、ナツミさんも昔から知ってたんだっけ。ワカナさんより付き合い長いんだよね。でも、ヤバいって何だろ? そりゃジャークが来たんだからヤバいに決まってるけど。

「……なんでナッちゃんなんだ? あいつ、ルメージョに封じられてたんじゃないのか?」
「……たぶん、ブラックよ」
「へ?」

「ブラックはシンなのよ。ナツミが好きだったシンの一面。それを一番感じさせていたのがブラックだったと思うの。それが消えた。ルメージョを通じて、ブラックが死んだことを感じ取ったんだと思う。それで止まらなくなった……。怒りに我を忘れてる。ナツミの悲しみがルメージョを動かしてるんだと思う……。だから行かなきゃ。私たちでナツミを止めてあげなくちゃ……!!」

 そっか。ナツミさんにとってはブラックがシンさんだったんだ。その大好きな人が死んじゃった。それで……。気持ちはわかる。大事な人が消えちゃったら、私だっておかしくなっちゃうかもしれない。けど……。

「そ、そうなら今のルメージョって……」
「そう、ヤバいのよ。ルメージョの憎しみとナツミの悲しみがシンクロしてると思うの……」
「それって……つまり一人オーバーブースト状態!? ヤバいどころじゃないじゃん! そんなトコに出て行ったら死ぬぞ! 怪我してなくてもフツーに死ぬぞ!?」
「でも私は行く。どんな理由であれ、ナツミを助けるチャンスなんだよ。何が何でも私は行く!!」

 ワカナがイモライガーを睨んだ。ああ、ダメだ。この目。シンさんもそうだけど、この目になったら、この人たちは止まらない。絶対に止まらない。イモライガーも、ため息ついてる。

「……わかった。でも動くのはダメだ。車いす持ってくるから、それに乗れ。ボクが押す。点滴はカオリが持て。いいな?」
「い、いいけど……車いすなんてあったの?」
「安心しろ! こういうこともあろうかとボクが密かに造っておいたクロノエターナル車いすバーニング号があるっ!!」

 イモライガーが駆け出していった。ワカナさんは、ものすごく嫌そうな顔をしてる。うん、その予感たぶん当たってます。でも今は、そうするしかないっす。本当は寝てて欲しいけど、止められないなら守るしかないっす。

 私がっ! ワカナさんをっ! 守るっす!!

 声に出して言ってみようと思ったけど、あまりにも無謀なことに気づいてやめた。やっぱり自信ないし。怖いし。

「とにかくカオリ、私の部屋から下着と服、持ってきて……その……車いすバーニングが来る前に……」
 あ、それなら自信……ないなぁ。ワカナさんの部屋、散らかってるもんな~。服、見つかるかなぁ。でも怖くはないから、まずはそれだ。

「わかりましたっ! イモライガーより早く、服を見つけて戻ってきますっ!!」
 声に出せた。よぉ~し、行くぞっ!!

 


 外に出た。TDFが展開している。
 雪というより、氷の粒が飛び交っている。数キロ先に、竜巻が見えた。あれか。

「下がっていてくれ。危険だ」
 隊員の一人が声をかけてきた。見覚えのある顔だ。
「そうはいかない。あれは四天王のルメージョだ。TDFの装備では太刀打ちできない。ここは俺に任せてくれ」
「だ、だが……生身の民間人に……」
「生身じゃないさ。俺もイバライガーみたいなもんだからな」

 困惑する隊員を置いて、前に出た。ミニブラックが腕組みして立っていた。
 並んで立った。お互い、顔は前を向いたままだ。

「……心配すんなよ、シン。オレは落ち込んじゃいねぇ。これからはオレがブラックだ。アイツの分も暴れてやる。ジャークは全部、オレが叩き潰すっ!!」
「わかってるよ、ミニブラ。けど、今はここを守ってくれ。ワカナやミニガールやRが眠ってる。それを守るのがお前だ。お前を信じてるから任せるんだ。いいよな?」
「シン、お前……一人で行くつもりかよ? わかってんのか? アレはいつものルメージョじゃね~ぞ? かなりヤベ~状態だぞ?」
「ああ。だからこそ俺が行く。俺かワカナ。どっちかじゃないとナツミは止められない。後は頼んだぞ」
「わかった。けど……お前まで死ぬなよ。シンがいね~と、ブラックが本当にいなくなっちまう。ここまで巻き込んで今さらイクジホーキとかすんなよな」

 育児放棄か。思わず苦笑した。
 俺がもっと歳を取って、生意気な息子がいたら、こんな感じなのかもしれない。

 竜巻が近づいてくる。もう3キロを切っただろう。これ以上は近づかせられない。
 目を閉じて、意識を集中した。エモーションを高めつつ、心の中で強くイメージする。見えた。力の形。

「行くぞ、ルメージョ。いや……ナツミ!!」

 背後で、NPLプールの天井が吹き飛んだ。空間の一点に煌めく粒子が集まり、人型を形成していく。

 イバライガーX。
 ナノパーツをエモーションで操って創り出す擬似イバライガー。コアはない。意思もない。俺自身がシンクロして動かす。
 俺が、イバライガーになるのだ。

 生成までの時間は前回より短かった。勘を掴めたのか。それとも俺のエモーションが強くなっているのか。それだけヒトから遠ざかっているのか。
 構わない。それでみんなを傷つけずに済むのなら。

 跳んだ。地上に、自分の身体が見えた。ミニブラックが抱きかかえて運んでいる。幽体離脱した気分だ。

 意識だけのはずなのに、全身に痛みを感じた。前回と同じだ。気にするな。この痛みでXを動かしているのだと思えばいい。

 竜巻まで約300メートル。一度、ビルの屋根を蹴った。そのまま突っ込む。竜巻の外周が光った。無数の何かが飛び出してくる。円盤だ。氷を円盤状に固めたカッター。空中ではかわせない。イバライガーならどうする? 思い出せ、彼らの動きを。

「うぉおおおおっ!!」
 ブレイドを拡張し、薙ぎ払った。それでも、いくつかは食らった。バランスを崩し、地上に落下した。ギリギリでスラスターを使って減速したので、ダメージはほとんどない。

「ふふふ……シンかい? その姿……イバライガーにでもなったつもりかい? けど見かけだけじゃあ意味がないんだよっ!!」
 竜巻が、いきなり広がった。巻き込まれる。周囲の木々が斬り裂かれているのが見えた。鞭だ。渦の中に鞭を伸ばして振り回している。流れに逆らうな。踏みとどまろうとすれば、鞭に捕まる。流れに乗って中心を目指せ。そこに本体がいるはずだ。だが思い通りに動けない。何とか耐えているものの、これでは単に竜巻に吹き飛ばされているだけだ。くそ。

「ふん、所詮は付け焼き刃のガラクタだねぇ。人間ごときがどう足掻いたところでジャークに勝てるわけがないんだよ! 何度か手を差し伸べてやったのにお前は……お前たちは、それを振り払った。その挙句にブラックを殺した……」

 氷嵐とともに、言葉が全身に突き刺さる。
 この感じ、やはりナツミか。ナツミの感情が、ルメージョと重なっているのか。

「Rを……イバライガーRを差し出せ……ブラックを殺した……あのヒューマロイドを! ここに連れてこい!! バラバラに引き裂いてやる!! 魂を凍らせて砕いてやる!! 出てこい、イバライガーアァアアアルゥウウッ!!」

 悲しみと怒りが渦を巻く。怨念が押し寄せる。ナッちゃん。そこまでブラックを、いや俺を……。
 すまねぇなぁ。お前の気持ちに応えられなくて。けどよ……抱き止めてやることはできねぇんだ。俺はすでに選んじまった。お前を支えるのは俺じゃない。いつかお前が出会う誰かだ。そのために……誰かに出会うために、もうやめろナツミ。ルメージョの憎悪に引きずられるな。死を見るな。生きることを忘れるな。

「うわぁあああああああああああっ!! 黙れ! 黙れ! 黙れぇえええっ!! 何故だ! 何故ブラックは死んだ!? 何故お前はブラックを助けなかった!? もういい。もう全てどうでもいい!! 殺してやる。シンも、ワカナも!! 何もかも破壊してやる!!」

 だめだ。ナツミとルメージョは完全にシンクロしている。共鳴して増幅してキレちまってる。このままじゃ止まらねぇ。

 やるしかないか。俺の裏技を。
 すでにXを使っている。エモーションも消耗し始めている。この状態でやれるか。いや、この状態だからこそできるはずだ。
 ヒトから遠のいた今だからこそ……。

 

(後半へつづく)

 


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