お客は時に味方、時に敵 ~依頼者との戦い編02:接触

お客様からのメールその1
初めまして。×××××の○○と申します。
「××の不安を安心に変える」「社員も会社も役員も得する制度」「×××××制度」「××××××」
硬くて難しいこの内容を、やさしく楽しくご理解いただけるように「マンガ」で作り、××××に加入されている会社にご案内できるようにしたいのです。
1)社長にご提案するパンフレット(カラー・マンガ)
2)社員にご理解いただくパンフレット(カラー・マンガ)
それぞれ4ページのもの
印刷は知り合いの印刷屋さんにお願いしようかと思っています。
相談に乗ってくださいませ。
弊社のホームページは http://www.××××× です。
よろしくお願いいたします。
(以下、書名)
うるのメールその1
○○様、はじめまして。
うるのクリエイティブ事務所の「うるの拓也」と申します。
マンガのお問い合わせをいただき、ありがとうございます。
※ご返信が遅くなり、失礼しました。
月末が近付くと締め切りがキツイものですから・・。
■お問い合わせ内容について
さて、お問い合わせいただきました内容について、御社ホームページを拝見させていただきました。
確かに「 硬くて難しい内容」ですが、マンガで概要を理解させるのは可能だと思います。
当社で数多く手掛けている「××関係」のマンガや、現在執筆中の「××・××××の取り扱い方(厚生省)」のマンガ等と同じ手法で描けると思います。
題材(解説すべき内容)が
「××××の不安を安心に変える」
「社員も会社も役員も得する制度」
「×××××制度」
「××××××」
の4つなら、それぞれ1ページずつの短編にまとめていくのが、一番いいかもしれません(長いマンガよりも短編集のほうが、気軽に読んでもらえますし)。
社長様向けのモノでは「経営者」を主人公に描き、一方の社員向けのモノでは「従業員」の視点で描いたほうがいいでしょうね(そのほうが共感しやすいでしょう)。
同じテーマで、対象を変えて描くのですから、ストーリー自体も「ザッピング」になってると面白いかもしれません。
基本的にマンガのストーリーは当社で作成し、クライアント様のチェックを受けた上で、実際の作品にまとめていくようにしています。
■ぜひ一度、詳しいお話を伺いたいのですが?
とりあえず、一度お会いしてお話を伺えると、よろしいかと思います。
当社の主要なお取引先はほとんど都内ですし、御社も茅場町とのことですから、お伺いする事ができると思います。
ただ、今は月末+年度末という、一番忙しい時期でして、4月1日以降のご訪問とさせてください。(4月10日以外なら動けると思いますので)
■参考:スケジュールに関して
納品までのスケジュールとしては、最短で4月末というところだろうと思います。
ただ、それはスムーズに進んだ場合のことでして、シナリオ確定やタッチ選定で難航した場合等は、翌月以降にズレこむことがあります。
(大抵はモメることなく進むのですが・・・)
■参考:料金について
今回のご要望では「カラー作品」とのことですので、ページ単価は「×××××円(×××××円+消費税)」となります。
パンフレット2種類でトータルのページ数は8ページですから、総額では「×××××円×8=×××××円」となります。
なお、表紙用のマンガイラストが必要になることが多く、それらが必要な場合は1ページ追加となります。
表紙用にイラストを描き起こすのではなく、マンガ本編の一部を表紙に流用する、といった場合は、この料金はかかりません。
■納品形態について
当社のマンガ作品はデジタル制作ですので、納品はデジタルデータとなります。
(途中経過の校正チェックなどもオンラインでご覧いただくことになります。メール等で作画データをお送りしますので、画面上でチェックしても一旦プリントしてご確認いただいても構いません)
多くの場合はインターネットを通じてのオンライン納品となりますが、CD-Rなどのメディアに収録して郵送する事も可能です。
■参考:作品の権利について
当社では著作権を手放すわけではありませんが、主張もしません。
従って、ホームページ、ポスター、新聞、電波媒体など、他の広報物に作品の一部または全部を流用するのは自由です。一切、追加料金はいただきません。もちろん増刷も構いません。
ただし見本を1部お送りいただけると幸いです。
また、作品を改造・改変したい場合も、自由に行って構いません。
ただし、当社以外の手で改変された場合、その品質等に関して保証する事はできません。
なお、作品を第三者に譲渡・販売することだけは御遠慮ください。逆に言えば、御社ご自身が利用する限りは原則的に無制限と言う事です。
(作品自体を有料販売っしたい場合は、別途販売マージンなどについてのご契約をお願いいたします)
以上です。
御社のお力になれれば幸いです。
(以下、書名)
「うるの送信メール/その1」補足解説
……とまぁ、ここまでが、最初のオーダー&それに対する返信だ。
返信する前に依頼先のホームページをチェックし、どういう客に対して、どんな商売をしてるのかなど、大雑把に業務内容を把握する。
そして今回の依頼では、何を作るのか、その内容についても概要を掴んでおく。
今は全然知らないコトでもネットで気軽に調べられるからね。
そして概要を把握した上で、漫画にできそうだ、予算的にも妥当な範囲になりそうだと判断してから返信を書いた。
これは、いつでもそう。
先方を満足させられる自信が持てないままで請け負っちゃうと、後でとても厄介なことになりがちだから、最初の返信をする段階で、すでに頭の中にざっくりとしたネームがあるという感じなんだ。
まぁ、まだボンヤリとしたモノだし、実際のモノとは似ても似つかないような「やれそう」というだけのモノなんだけど。
さて、そういうチェックをした上で書いた返信メールをチェックしてみよう。
まず最初に挨拶。
ま、これはアタリマエだよね。
でもそこに「年度末なので締切がキツくて返信が遅れた」といった補足を書き添えている。
一応は謝罪&弁解なのだけど、挨拶部分の「申します」「ございます」と比べると、ちょっとだけ、くだけた言い回しにしている。
これは、自分がどんな奴かを感じさせておくためなんだ。
最初からくだけていると、いくら何でも無礼だから、まずはキチンとご挨拶をして、その上で補足的に、わずかにくだける。
そうやって自分ワールドに近づけていくの。
その次に、いよいよ本題の「お問い合わせ内容について」を書いた。
ボクは長文メールを書きがちだけど、いつまでも本題にならないような長文送っていたら相手がイライラしちゃうから、ココはちゃっちゃとね。
ここでの主旨は「ボクに任せて大丈夫」と感じさせること。
だから保険とか医療情報とかの漫画を担当していることなどに触れて、近い分野の作品で実績あるよ、やり方も心得てるよと示した。
今回扱う題材そのものには、あまり触れていない。
この段階でざっくりと調べてはあるのだけど、所詮は素人の知ったかぶりに過ぎないもんね。
その道のプロに向かって浅い知識を披露したりするのはバカだから、この段階では喋らない。
その代わり、漫画という、コッチが専門の部分については軽く触れてある。
どういう構成にすべきかなどだ。
これも、実際に詳しく話を聞いてみるまでは意味がないことなのだけど、断片的な情報だけでも一定のアイデアがすぐに出てくる、というパフォーマンスにはなるんだ。
そういうことを語ることで、経験の多さを感じさせられるのよ。
そして最後に、ストーリーなどはこっちで作るよ、と伝えている。
ちゃんとレクチャーを受ければ、その先は丸ごと任せていいんだよ、と。
他所の会社の仕事でも、そうしてるんだよ。任せて大丈夫だから任されているんだよ。任される程度には、しっかり考えられるんだよ、タダのオタクじゃないんだよ、というアピールをしているわけ。
その次がアポイントだ。
漫画にすることが出来そうだと語った上で「直接会って、お打ち合わせしてみませんか?」と、呼びかけている。
メールだけじゃ、相手が本当はどういう人か分からないからね。
何度でも書くけど、会うってのは最重要なんだ。
仕事は、結局は人と人のことなんだ。
そして人は一人ひとり違う。
決まった攻略法なんてない。相手を知って、その人ごとの攻略法を見出さなきゃならない。漫画さえ描ければいいんだろ、じゃないんだ。
依頼主という人を攻略しておかないと、どんなにベストな漫画を描いたとしても評価されないこともあるんだ。
なお、ここでも年度末なので、締切を乗り切るまでは動けないということを書き添えている。
実際そうだったんだけど、本当はね、単に来月のいついつ頃でいかがですかと言うだけでもいいんだ。
いちいち締切ガーと書くのは、そんだけ仕事あるよ、忙しいのよ、評判の店なのよとアピールしておいたほうがいいと思うからなのよ。
その後に完成までのスケジュール、料金、納品形態や納品方法、著作権のことなどを付記している。
これらはコッチの請負条件だよね。
明朗会計でやってるよとか、版権のこともしっかり考えてあるよとか、そういうコトが相手を安心させる。
スケジュールについても、仮に打ちあわせ後すぐに着手できたとしたら、来月末までには出来上がってるよ、でも着手まで手間取るようだとズレ込むよとか、たくさんの案件を手掛けてきたからこそ書けるようなポイントに触れている。
そういう、小さな1つ1つが、信頼してもらうためには必要なんだ。
最初の返信の段階で、ジャブを打っておく。
軽く素振りしただけでも、プロと素人じゃ全然違うものだ。
まだリングに上がってもいない(つ~か試合のオファーがあっただけで、確定もしていない)のだから、本気で打つ必要はないけど、素振りくらいは見せて「おおっ、プロっぽい!」と思わせてはおかないとね(笑)。
お客様からのメールその2
うるの様
お便りありがとうございました。
会社で話をしました。
4月10日以降の予定を見たのですが、システム開発の役員の女性(中国籍)が10日から約2週間は、中国に帰っている期間でした。
まず私だけでも4月1日以降、そちらの事務所を訪問して、お話を聞いていただく時間を持ちたいのですが、いかがでしょうか。
4月10日以外でしたら私の時間調整はできます。
よろしくお願いいたします。
(以下、書名)
うるのメールその2
うるのです。
ご返信ありがとうございます。
> 会社で話をしました。
> 4月10日以降の予定を見たのですが、システム開発の役員の女性
> (中国籍)が10日から約2週間は、中国に帰っている期間でした。
あ、すいません、私が間違えやすいような文面を書いてしまったようです。
「今月中と4月10日以外は大丈夫」という意味だったんです。
> まず私だけでも4月1日以降、そちらの事務所を訪問して、
> お話を聞いていただく時間を持ちたいのですが、いかがでしょうか。
ご来社いただけるのは、とてもありがたいですが、前述のように、10日以外でしたら私も伺う事ができます。
多くのお仕事をやらせていただいてますが、漫画家の仕事場なんてのは、大抵はむさ苦しい安アパートでして、私も例外ではないんです(だから、あまり落ち着かないんですよ)。
本当に締め切りで動けない時には、ご来社いただくこともあるのですが、私も、ときには外に出るほうが気分転換になるので、できるだけは出向くようにしているんです。
というわけで、4月2~3日のどちらかでいかがでしょう?
できれば午後がありがたいのですが、御社まで伺わせていただきます。
(以下、書名)
「うるの送信メール/その2」補足解説
というわけで、このへんのやり取りは、アポの日程を決めるだけのこと。
わざわざ先方が来てくれるというのに「いやいや、こっちから行きますよ」と返しているのには、メール本文で書いた以上の理由がある。
メール中に書いたことも嘘ではないのだけど、それだけじゃないんだ。
先方の担当者以外とも接触を持っておきたいと思ったんだ。
オファーしてきた人が、その企画についての全権を持っているとは限らない。
漫画で広報しようというアイデアを出したのは他の人かもしれないし、実際に動き出したら、その人以外にも関係してくる人がゾロゾロ出てくることも珍しくない。
会社という組織を相手にするんだから、そうなることのほうが多いくらい。
で、その「他の人たち」が曲者かも知れないのよ。
コッチからは見えない敵になる可能性もあるのよ。
だから出来るだけ出向いて、出来るだけ多くの人と接触しておきたいの。
引っかき回しそうな奴がいるかどうか、いたらどう対処するかなど、判断材料は多いほうがいいし、上手くすれば、ほっといたら後々厄介になるハズの奴を事前にツブしておけたり、味方に寝返らせておくことが出来る場合だってある。
だから、出来るだけ出向くの。
その会社の空気を感じておくことも大事だしね。
このときは、出向いて大正解だった。
次の記事を読んでもらえばわかるけど、もしもこのとき、担当さんに来てもらって、その人とだけ話をしていたら、たぶんトンデモないことになったはずだ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。









うるの拓也












