性格的に合わない担当者にぶつかったら、どうすりゃいい?
漫画持ち込みのときに、どんな編集者と会うかは漫画家になれるか、デビューできるかに大きく影響するよね。
ボクのときも、最初に持ち込んだ編集部では軽くあしらわれちゃって、それでムカっと来て、外に出てからスグに別の編集部に「今から漫画見てくれませんか?」って電話して、運良く見てもらえて、それがデビューにつながったんだから。
次の編集部でも「絵が雑すぎ」とかずいぶん言われたんだけど、丁寧に描き直せば新人賞は獲れるだろうとも言ってくれた。
ウマの合う人に出会える、自分の作品の面白さに気付いてくれる人に出会えるってのは大きいんだよね。
でも、そういう都合のいい出会いが毎回あるわけじゃないし、都合のいい出会い以外が仕事につながらないようでは、普通は生活が成り立つ受注量にならない。
だから、合わない人と出会ってしまっても、何とかウマくお付き合いしなきゃならないんだ。
あ、言っとくけど「性格的に合わない」って言うレベルの話だよ。
ソレとわかっていて無茶や無理や理不尽を押し付けてくるような、人間としてダメな人とまで我慢して付きあうコトはないんだからね(ソレが無茶だとわからずに無茶を言う人も少なくないけどさ)。
魂の抜けた漫画は描きたくない
さて、そういうわけで、合わない人とも付きあっていかなきゃならないんだけど、実はボクは、合わない人のために漫画を描けないんだ。
作業なら、仕事は仕事と割り切ることができる。
漫画の場合でも、作画の段階まで進んでしまえば、相手をどう思っていようが自分は自分の作品に打ち込めばいい。
作品だけに向き合っていれば、余計なコトなんか忘れちゃうし。
でも、そこに至る前に、企画やストーリーを考えなきゃならないでしょ。
人間関係がギクシャクしてると、そこをちゃんとやれないんだよ。
漫画を使おうが、広告は広告。
そして広告業って、水商売なんだ。
自分が気持ち良くなるんじゃなくて、相手が気持ち良くなるようにサービスする。
自分の気持ちは押し殺して、お客にそれなりの気持ち良さを提供して、それなりの代価を受け取ればいい。
普通の広告物ならね、ソレを経験と知識とテクだけでやれる。
けど漫画は、どうしても気持ちを込めなきゃならないんだよ。
経験と知識とテクを押さえた上で、気持ちでハジけないと漫画にならないって感じかなぁ。
そうしないと、見た目はちゃんとしてても魂が宿らない気がするんだ。
作品って、自分の子供みたいなモンでしょ。
ボクにとって広告漫画っていうのは、広告主と自分の間に生まれた子供なんだ。
当然、魂の抜けた子なんか作りたくないんだよ。
誇りと愛情を注いであげたいんだ。
そうじゃないと作品やキャラがかわいそうで、やっていられなくなる。
それに、そういう漫画だと、広告としての結果もイマイチなんだよね。
普通の広告ならテクだけを提供しても、それなりの結果に届くことも多いけど、漫画の場合は、お客が漫画をわかってないから、企画の根本のところから考えてあげなきゃならない。
それは、お客がハッピーになることを考えなきゃならないってコトなんだ。
でも、その相手を嫌っていたら、どんなに考え抜いたつもりでも、どこかで考えが止まっちゃってるんだよね。
考えたつもりなだけで、本当には考えてないモノになっちゃってる。
だから広告として失敗しやすいの。
で、失敗するとお客との関係はもっと悪くなって、依頼してもらえなくなる。
評判が悪いと、他からも仕事が獲れなくなる。さらに、自分だけじゃなくて、広告漫画そのものへの期待も薄らいでしまう。
色々マズイんだ。
合わない人のためには描けないから合う部分を探す
なので、お客と合わないままでは、ボクは漫画が描けない。
水商売だけど、水商売だけじゃやれないの。
どうしても情を交えないと、魂が反応しないの。
とはいえ、合う人と出会ったときだけ引き受けるなんてことでは、生活していけるだけの受注量にはならないのは前述の通り。
出会いは選べないし、相手のほうに自分と合う人になることを強要するわけにもいかない。
だから、合わない人を合わないままにしないために、お互いに受け入れあうことができるように、色々工夫するしかない。
なので、最初に出会ったときには、できるだけ自分がどんな奴かを伝えるように苦心しているよ。
正直、仕事の打ち合わせなんか、どうでもいいの。
「合う人」にならないと仕事できないんだから、そっちが先。
だから相手が許すかぎり、余計なコトや雑談をいっぱいする。
そうしながら、相手がどれだけ自分を受け入れようとしてるかを量るんだ。
もちろん、余計な話を好まない人もいるから、そういう感じだったら控えるけどね。
普通に仕事の話をして、でも、ただ聞くのではなく、できるだけ自分の意見を差し挟むようにして、それを受け入れるかどうかを見る。
1つでも2つでも、互いに同意できる、共感できる部分を見つけておく。
そうして、その部分だけを見るようにする。
嫌なところがあっても、ソッチは見ない。見なかったことにしちゃう。
そうしていると、だんだんと嫌なところも気にならなくなってきて、相手のほうも、こっちの嫌な部分を見ないようになってくるモンなんだよ。
そして少しずつ、お互いに受け入れられる部分が増えていく。
増えるごとに仲間になっていく。
そんな感じなんだ。
なお、どうやっても共感できる部分が見出せなかったら、それはもうダメと割り切りるしかない。
仕事も引き受けないな。
だって「こうすべきですよ」などと、意見や提案もしなきゃならないんだから。
そういうのが全部否定されちゃったら、その人が期待するコトは自分にはできないんだと思うしかないでしょ。
そうなら、引き受けてもお互いに不幸になるだけだもん。
性格的に絶対に合わない同士で結婚しても、そんなの続かないに決まってる。
お客と業者っていう立場の違いはあるけれど、だからって人間として上下があるわけじゃないんだから、一方的に求めるだけじゃなくて、受け入れあうようでないと仕事はできないんだよ。
繰り返すけど、嫌なトコまで受け入れなくていいんだよ。
嫌な面は見ないの。見なかったことにするの。
アリな部分だけ見るの。人間誰でも、どこかココだけはアリって部分があることが多いから、そこだけ見てればいいの。
そして、そういうモノを見つけなきゃならないから、メールだけでなく、実際に直接会うコトをボクは重視しているんだ。
会わなきゃ見つけられないモノが、いい仕事、いい結果を出すために、すごく重要だからね。
それに、アレもコレもダメって人でも、どうにかなっちゃうコトもあるよ。
参考例1:怒鳴りつけるワンマン社長と対決
以前にWEBサイトを担当した工務店の社長さんは、出入りの業者を怒鳴りつけることで有名だった。
そうやって萎縮させて、強引に有利な話にしちゃうタイプ。
そういう人に呼ばれたのだけど、もちろん、その態度のままじゃ漫画や広告企画の仕事なんかできない。
でも、そういう情報を知っていたから、ボクはわざと手ぶらで、名刺も持たずに会いに行ったんだ。
社内に入っていくと、他の業者さんが怒鳴られてるところだった。
ああ、これじゃ誰でも萎縮するわ、という感じ。
その業者さんが帰って、ボクの番。
社長室に入っていき、名刺すら持ってきてないと告げると、案の定怒鳴り始めた。
でも、そうさせるつもりだったから、ギャーギャー言ってる間はほっといて、言うだけ言わせたの。
そして息切れするのを待って、
「ボクは呼ばれたから来たけど、名刺が仕事するわけじゃないでしょう。ボクがあなたのことを知らないように、あなたもボクのことを知らない。モノづくりするからには、ボクに任せてもらうしかない。知らないヤツに仕事を任せられないでしょう。
だから今日は、名刺ではなくボクを見てもらいたいと思ったんですよ。けど、あなたはボクを見る気はないようだ。ならば、仕事も無理ですね。では」
と言って、帰ろうとした。
すると
「ちょ、ちょっと待て! 何もせずに帰ることもないだろう! 来たんだから話くらいはしていけ」と。
ボクは室内に戻り、自分なりの考えや取り組み方を話した。
そして、ちゃんと受注した。
全面的に任せるから、後は部下と相談してやってくれ。
そう言われたんだ。
社長が折れたというよりも、怒鳴っても通じない相手に面食らった上に、工務店の部材と違って自分には専門外の広報のハナシだから、黙って任せるしかないとわかったからだ。
そうなっちゃうと、もう社長とは会わなくていいし、会ったとしてもボクには怒鳴らない。
怒鳴っても無駄だから。
部下のほうも、ワンマンで手に負えなかった社長を黙らせたから、一目置いてくれて、ボクの意見を聞き入れやすくなってる。
ボクのほうも、してやったりという気分があるから、遺恨に思わずに仕事できる。
この会社とは数年、色んな仕事をさせてもらったよ。
見積りでモメたりしたコトもなかったなぁ。
他の業者は相変わらず叩かれていたようだけど、ボクにとっては「良好な関係のお客」だったね。
参考例2:威圧と不信感だらけの社長と対決
他にも、似たような社長と出会ったことはある。
漫画でサービス案内のパンフレットを作りたいとのことで、専務さんに呼ばれたんだけど、会議には社長も同席していて、何を言っても反論、イチャモン。
オマエの名前なんか聞いたこともない。
本当に漫画家なのか。オマエに本当にやれるのか。
そういう不信が先に立っちゃって、全然前向きにならない。
専務さんもオロオロしちゃって。
性格的にも威圧的なタイプだったと思う。
ペコペコしてる取り巻きも引き連れていたし。偉そうに見せて威圧する典型的なタイプだよね。
このときも、ボクは帰る覚悟で、こんなコトを言った。
「今回の漫画パンフレットの話は、御社にとって大事なモノを作るのですよね。大事だからこそ心配で、ボクを信じられずにいる。
ですが今回の件は、ボクが売り込んだわけではありません。御社のほうで、ネットでボクのホームページを見つけ、ボクのこれまでの実績や考えなどを見た上で、今日呼ばれたはずです。
それなのにボクを信じられない、ボクが何をやってきたかもわからないというのは納得できません。そんなに信じられない相手に、なぜ大事な仕事を任せるのです?
このような状態では、ボクも有益な提案はできませんから、今回は白紙に戻していただき、もう一度検討し直して、それでもボクが適任だと思ったのなら、改めてご連絡ください」
そう言って、椅子を立ったんだ。
もちろん、これもパフォーマンスなんだけど、本気で帰るつもりでもいたよ。
反感や不信を持たれている状態から仕事すると、どんなに上手く行っても、何か別な理由を見つけてネチネチされることが多いんだ。
そんなコトになるくらいなら、ここで帰るほうがマシなんだ。
このときは専務さんが止めてくれた。
そして
「この人は、キャリアも自信もあるようだから呼んだのだから、任せる方向で前向きな打ち合わせをさせてください」と、社長に言ってくれた。
社長は機嫌を損ねたようだけど、専務がそう言うなら後は任せると言って、取り巻き連れて退席しちゃった。
実務では専務が仕切ってたようだから、現場が業務上必要だと言えば、さすがに引っ込まざるを得ないってコトだったんだろうな。
そして打ち合わせは続行され、引き受けてボクなりの提案をし、作品を仕上げ、納品できた。
味方になってくれたとはいえ、専務さんとも、色んな意見でぶつかったりした。
漫画のコトがわからないからトンチンカンなコトも言われた。
その度に「それじゃマズイんですよ、とにかくボクを信じてくれ」と言って、仕事を進めていったんだ。
それなりの自信もあって言ってるコトだけど、ボクが常に正しいわけじゃないから、間違ってるかもしれない。
でも、同意できないことに同意したフリをするわけにもいかないんだ。
タイコモチになったら創作はできないから。
そうして漫画パンフレットが出来上がり、あの社長もソレを持って商談したらしい。
そして思いのほか反応がよかったらしく、すぐに第二弾の発注が、社長自身から指示された。
それを知らせてくれた専務さんからのメールに、盲導犬の絵本の話が書かれていたんだ。
専務さんは元保育士なのだそうで、かつて子供たちに読んで聞かせたらしい。
タイトルは「りこうなふふくじゅう」。
ご主人を守るために、あえて服従しない犬のお話。
専務さんは、ボクが「りこうなふふくじゅう」だと、おっしゃってくれた。
嬉しかったなぁ。報われたなぁって思った。
漫画の広告ツールなんて、同じ会社でいくつも作るもんじゃないから、その会社とは、第二弾までのお付き合いで、その後は取引してないんだけど、その数年後に、専務さんからメールをいただいたことがある。
別の会社の広告で、ウチの作品を見かけたと。元気にやっているのを見て、嬉しくなったと。
自分たちのパンフも同じ人に描いてもらったんだぞと自慢したくなったと。
これからもガンバって欲しいと。
それも嬉しかったなぁ。
嫌なヤツが嫌なままでは、どうせ仕事にならない
こういうふうに、ダメっぽい相手のときも、ダメにならないケースがあるんだよ。
怒鳴る人、威圧的な人ってのは、稀にいる。
でもそれは、そうすることが有効だと思ってるからやってるんだ。
その方法では首を縦に振らない人間だと気付くと、そして、それでもソイツが必要だと思えば、態度を変えるか、自分は引っ込むかになるものなんだ。
この例だけじゃなく、こういうことを、ボクは幾度か経験しているんだよ。
最初はおっかないと思うだろうけど、何度も経験すれば慣れてくるよ。
だんだんとビビらなくなる。ふてぶてしくなる。
ヤバイ相手をヤバイままにしていたら、どうせ仕事にならないんだし、それなら嫌われようが関係ないでしょ。
だったら言うこと言っちゃったほうがマシなんだよ。
ケンカして「お前、やるじゃねぇか」と仲良くなることだって、あるんだから。
あ、嫌われると、こっちをツブすためにネガティブキャンペーン始めちゃうような奴だったとしても心配ないと思うよ。
そういう小っちゃい奴がやることなんか怖くないし、そういう奴の言うことを真に受けるような奴も、そういう奴だから。
それが何千人になろうが、どっちみち関係ない連中なんだから、気にしなくていいんだ。
自分を嫌いな人が何千人いても、好きになれて受け入れあうことができる人が10人いるだけで食っていけるモンなんだよ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。