お客は時に味方、時に敵 ~依頼者との戦い編03:敵意

お客様からのメールその3
うるの様
お返事が遅くなってすみません。
4月2日(木)午後1時~3時で如何でしょうか?
現在のパンフレットをお送りしましょうか。
よろしくお願いいたします。
(以下、書名)
うるのメールその3
うるのです。
> 4月2日(木)午後1時~3時で如何でしょうか?
了解致しました。当日の午後1時に伺わせていただきます。
(場所は、御社ホームページで確認しました)
> 現在のパンフレットをお送りしましょうか。
いえ、当日にご用意いただければ大丈夫だと思います。
> よろしくお願いいたします。
こちらこそ、よろしくお願い致します。
(以下、書名)
補足解説:お客とのガチンコバトル
というわけで、アポの日程も確定し、実際に会いに行った。
そこで何が起こったかは『広告まんが道の歩き方:ヒストリー編/広告漫画家物語15:りこうなふふくじゅうだったアノ時』で触れているのだけど、読んでない人もいるだろうから、再録させてもらう。
会議室に通された。
薄暗い部屋。コの字型に並べられたテーブル。
ボクに連絡をくれて、今日の打ち合わせをセッティングしてくれた専務さん(女性)は、入口近くの席に、奥の席には社長が両脇に部下を立たせて座っていた。
専務さんは40代後半、社長は60歳くらいだろう。
う~ん、専務さんとの打ちあわせだって聞いていたけど、社長さんも同席するのか。
あの両脇の部下らしき二人は何のためにいるのかな。
と思いつつも、挨拶をして着席する。
専務が社長に、ボクのことを大ざっぱに説明する。
そしてボクに向き直って、今回依頼したい漫画広告について、改めて説明をしてくれた。
しばらく専務さんと話した。
社長は黙ったまま。両脇の二人も立ったまま。
少し話が弾んできた頃、社長が口を開いた。
「打ち合わせもいいが、そもそもキミで大丈夫なのかね? 役に立つものを本当に作れるのか?」
ムッとした口調。明らかに面白くないと思っている。ようするにボクが気にくわない。それがハッキリとわかった。
「いや、だからこうして打ち合わせしているわけで……」
専務さんがフォローに入るが、社長はムッとしたままだ。
「だいたい、漫画なんかで当社のサービスを伝えられるのか? 本当にウチのパンフレットを任せていいのか? キミ、自信はあるのかね? 今までにどんな成果を上げたというのかね?」
はは~ん。どうやら今回のことは専務さんが進めていたコトで、社長はあまりピンと来ていないんだな。
漫画もほとんど読まないタイプっぽい。
つまり漫画で広報するという企画自体に不信を持っている。
釈然としないまま今日を迎えて、そのまま打ち合わせが進んでいくのを見て、とうとう堪忍袋がキレはじめたってトコか。
両脇の二人が、社長の言葉にいちいちうなずいている。
取り巻きってヤツだな。
取り巻きを引き連れて、数で圧倒しようというわけか。ふ~ん。
「どうなんだね、キミ? 本当に漫画で売上を上げられるのか? 責任を取れるのか?」
言葉が、どんどん威圧的になっていく。専務さんは困った顔でボクを見ている。
たぶん、普段からこういうやり方で周囲を制してきたんだろうなぁ。
でもね、ボクには通じないよ、ソレ。
ボクは、社長に言いたいだけ言わせて、一息つくのを待ってから、口を開いた。
「社長、見ず知らずの誰かに仕事を任せるのが心配なのはわかりますよ。ボクだって責任なんか取れない。やるからには結果を出すために本気で取り組みますけど、結果を保証することなんか誰にもできっこない。そんなコトが出来るなら、広告漫画なんか描いてないで、自分で事業をやりますよ」
社長も、取り巻き二人も、ちょっと意外という顔をした。
反論される、意見を返されるとは思ってなかったという顔だ。
ボクが追いつめられてアタフタすると思ってたな。
ロクな社会常識もなく、コミュ障でオタクで根性もない漫画家風情が言い返してくるとは思ってなかったんだろ。
ボクは、さらに畳みかけた。
「それと……ボクの実績がどうこうおっしゃっていましたよね? ボクは自分の実績、経歴は全部WEBサイトで公開しています。あなた方はそれを見て、ボクを呼んだはずだ。ボクのほうから売り込んだ覚えはないですから。御社のことも知らなかったですから。
それなのに、御社にとって大事な仕事を任せるというのに、社長はボクについて何も知らないとおっしゃるんですか? そんないい加減な気持ちでボクを呼びつけたわけですか?」
ボクはノートやペンをバッグにしまい、立ち上がった。
「どうやら、しっかり考えもせずにボクを呼んだようですね。ボクは自分の力にそれなりの自信も持っていますが、こんな状態では仕事になりません。
今回の件は白紙に戻して、もう一度検討し直してください。その上で、改めて呼んでくれればボクはまた来ます。では失礼します」
そう言って、ドアに向かった。
パフォーマンスだけど、本気でもあったよ。
どうにでもなれ。こんなヤツのためには働けん。
落ち着いて喋ったつもりだけど、ボクもムカついていたんだから。
口調も、ここに書いたモノより乱暴だったかもしれない。少なくともムカついてることがはっきりと伝わる口調だったのは間違いない。
社長はポカ~ンとしてたよ。
そしてドアを出る前に、専務さんが慌てて止めてくれた。
「社長。この人なら任せられそうだと思ったから、私は彼を招いて、今日の打ち合わせをセッティングしたんですよ。とにかく今回の件は私に任せてくれませんか?」
「わ、わかった。それなら好きにしてくれ」
それだけを言って、社長は席を立った。取り巻き二人も出ていく。
ボクと専務さんは気を取り直して、打ち合わせを再開した。
……と、こんな具合だったんだ。
いや本当に、出向いてよかったと思ったよ。
こういう社長がいることを知らずに仕事を進めていたら、必ずどこかでひっくり返される。
しかも、専務さんが一生懸命カバーすればするほど、土壇場の、一番厄介なところで問題が噴出して、どうにもならない状態に陥ったはずだ。
取り巻き連れて威圧してくるような社長なんだから。
その方法がまかり通っていた会社なんだから。
専務さんが頑張れば一時は止められると思うけど、それは水かさを増すだけで、実は解決していないままになっただろう。
そして、いつかは決壊するんだ。
基礎工事のときに気付いていれば対処できたことでも、出来上がってしまってからは無理。
そういう局面になってから決壊する。
それを専務さんは止められない。
いくらボクを擁護してくれていて、漫画についても社長よりずっと詳しいにしても、所詮は素人だ。
アノ手コノ手で重箱の隅を突っついてくる相手を説得し続けるのは無理だろう。
いや、ボクにも無理だ。
なんせ相手はコッチの意見を受け入れる気がないはずだから。無敵モードなんだ。
何をどう言っても屁理屈を言い出す、ネットでよく見かける困ったチャンと同じようなモン。
この社長を決壊させずに仕事を完遂するのは無理。
だから被害が最小限のうちに、わざと決壊させておく。
この段階なら、まだ最初の打ち合わせをしただけだからね。いざとなれば、断ってしまえばいい。
そのときに不愉快なだけで、こちらのダメージもほとんどない。
どんなにギャーギャー言われても、耳を塞いで知らん顔してればいいだけ。
相手が考えを改めてくれない限り、未来永劫付きあう気がないんだから、よく思われようとか、事を荒立てないようにしようとか、そういう配慮もいらんしね。
人のいい専務さんには申し訳ないけど、この社長を何とかしない限り、あなたの仕事を引き受けられないんだから、止むを得ないんだ。
ここで迎合したら、後でもっと辛い目に合わせちゃうだろうし。
そういうわけで、このときボクは、わざと喧嘩を買った。
このタイプは論破してもダメ。どんなに論理的に説得しても決して納得はしない。
だから、喧嘩を選んだ。
そうすることで解決できると思ったわけじゃなくて、本気で喧嘩を買ったんだ。
刃向かって、腰を引かせるしかない。お前が何を言おうが、コッチは下がらないということを理解させるしかない。
で、反撃したら相手が引いてくれたの(笑)。
でもまぁ、何も考えずに喧嘩したわけじゃないよ。
これ以前にも、ボクはこのタイプに何度も出会ってるんだ。
最初に出くわした頃はね、やっぱビビってた。ボクはまだ若かったし、相手は堂々たる社長でお客様だし。
なので、どうしても腰が引けてしまって、オタオタしがちだった。
それでも、何度も経験すれば場慣れしてくるものだ。
経験を積むために、わざと出会ったりはしてないよ。
でも長く仕事していて、色んな人と会っていれば、どこかでこういう人には出会っちゃうのよ。
出会いたくはないけど、一定の確率では出てくる。
それを避けていると仕事にならない。元々、営業下手なんだから。出会いのチャンスは決して多くないんだから。出会えた相手は敵だろうが何だろうが味方に変えていかないと、食っていけないのよね(笑)。
だから、だんだんとね、扱いを覚えるのよ。
ボクの経験上に過ぎないけれど、今までに出会った「このタイプ」は、反撃に弱いんだ。
ワンマンでやりたい放題でやってるから、反撃された経験に乏しいんだよね。
だから無敵モードのワンマンタイプだと思ったら、ボクは躊躇なく反撃に出る。
いざとなったらご破算でも知ったことかと開き直っちゃえば、どうってことないもん。
そして、そうやって反撃してご破算になったこともない。
むしろ、一目置かれて長い取引になった経験のほうが多いんだ。
本宮ひろ志先生の番長漫画みたいな展開だよね(笑)。
そんなわけで、ダメ元ではあるんだけど、それなりの計算もあって受けて立ったんだよ。
喧嘩したらオシマイの可能性が高いけど、しなかったらオシマイ確定なんだから、やらないよりはマシだもんね。
そしてこれまでのところは、マシなほうに転んでくれているわけ(笑)。
お客様からのメールその4
うるのさま
先日は申し訳ありませんでした。
資料の一つをお送りします。
こんな細かいことを漫画に乗せるのは良くないと思います。
エッセンスのみお使い下さい。
よろしくお願いいたします。
(以下、書名)
補足解説:受注確定
先日の対面を経て、資料が送られてきた。
冒頭の「先日は申し訳ありませんでした」の一行に、先方の色々な思いが詰まってることが感じられるよね。荒っぽいやり方をして、ごめんね専務。
でも社長さんは面目丸つぶれだから、もう出て来ないだろう。
ボクのことを苦々しく思ってるだろうけど、この件には関わってこようとしないハズだ。まぁ社内では、この企画の話題が出る度に皮肉くらいは言うだろうけど、それは仕方ない。その考えを打ち破るのは、全てが出来上がってからだ。
終わってしまえば、結果を出せば、ああいうタイプは考えを変えてくれやすい。
ビジネスマンだからね。商売上「是」だと思えれば、理解はできなくても受け入れはする。
ボクはそうなるように頑張るだけだ。
届いた資料は、確かに詳しすぎた。
漫画に全部を盛り込むのは物理的に無理だし、専務さんの言うように良くない。
そもそも、漫画ってのはキャラとかストーリーとか、広告としてはノイズだらけだ。
文章にすれば5行で書けることに1ページ必要だったりする。
でも漫画である以上、漫画の部分を犠牲にしていたら漫画にならない。漫画で広報するという企画を選んだ以上、何もかもを詳しく盛り込むのは間違いなんだ。
要点に絞って簡略化し、ストーリーやギャグで薄めて食べやすくしてあるからこその漫画なんだから。
ただ、それでも、資料はできるだけ多くのものを集める。
漫画には描かなくても、作者としては知っておかなきゃならないし、先方が不要だと思っても「ソレ知ってたらアレが出来たのにぃい!」ってコトも少なくないのよ。
なので、資料は出来だけ集めておいて、必要かどうかはコッチで判断することのほうが多いんだ。
とにかく、こうして仕事は始まった。
反感バリバリの社長という壁は突破したけど、ここから専務さんとの長い戦いが始まるのだ。
(「依頼者との戦い編04:初戦」へ→)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。









うるの拓也












