ニンゲンではない友人の話
ボクには、ニンゲンではない友人がいる。
いや、ペットとかね、動物との触れ合い的なことじゃないんだけど。
性別はオス。身長は180センチくらい、一応、直立二足歩行だ。
人語も解する。
本名は伏せるが、ペンネームかアニメの主人公かと思うくらいにカッコイイ名前だ。
顔は、造り自体は男前と言っていいだろう。
優男ではなく、がっしりとした男。時代劇などに出てきそうな顔つき。声も渋い。
キリッとした顔をして、ビシっとスーツでも着せればモデルにもなれるかもしれない。
とにかく、まずは、そういう人物を脳内に思い浮かべてもらいたい。
そして、それをデレ~~っとさせてみてくれ。
洗いざらし(いや、洗ってないかもしれない)のジーンズ、よれよれのTシャツ、ガニ股、猫背、裸足でサンダル履き。
髪の毛はボサボサ。無精髭。
左手には……そうだなぁ、イグアナを抱いているか、ボールニシキヘビが絡み付いているか、好きなほうをイメージしてくれ。
そんで右手をだらっと上げて、太くのんびりした声で「がぅ」と挨拶する(『究極超人あ~る』の、あのポーズに近い)。
ソイツが、ボクの友人だ。
これから書くことは、このブログの中でも特に信じがたいネタに感じるかもしれない。
けれど、逆なのだ。
本ブログ中、もっとも誇張なしで、事実そのままに書くつもりなのだ。
それでいて一番信じがたい内容になりそうなのだ。
そういう奴が実在するのだ。

ロリ、特撮、怪獣を好む者
奴とは専門学校の漫研で出会った。
性格は素直で、いわゆる気は優しくて力持ちなタイプ。
ロリコンで、漫画家志望。
吾妻ひでお先生の『ななこSOS』が大好きで、カイジューを称するだけあって特撮や怪獣映画も大好きだ。
彼が描く漫画は、もちろん怪獣漫画。
奴自身だという怪獣が街を破壊しまくる話で、怪獣のほうが主人公だ。奴にとっては、それが自然なことなのだ。
ボクが商業誌で恐竜ものの読み切りを描いたときにはアシスタントしてもらって、恐竜のデッサンなどで随分助けられた。
奴は、間違いなくニンゲンではない何かだ。
ボクがそう言ってるわけじゃない。本人がそう言うのだ。
俺、カイジュー。ニンゲンじゃねぇ。
これが奴の口癖の1つだ。
もちろん冗談だ……とボクも思っていたが、奴と関わるごとに本当にニンゲンではないのでは……と思うことが多くなった。
今では、もうニンゲンじゃなくてもいいと思うことにしている。
奴の正体がなんであったとしても、友人には違いないのだ。
スベスベ、ツルツルを好む者
奴は、ふわふわ、もさもさしたもの(犬や猫)は、あまり好きではない。
嫌いなわけじゃないが、あまり興味がないという感じだ。
その代わり、スベスベ、ツルツルしたものは大好きだ。
つまり昆虫や爬虫類。
ちなみにボクは体毛が少ない(下手な女性より薄い)ので、奴にとっては触り心地のいいモノだったようで、よく手を握られた。
いや、ヘンな気持ちじゃなくて単にスベスベが好きなだけなのだが、勘違いされるから人前ではやめろよ。
そういう奴だから、あちこちの爬虫類系ペットショップを知っている。
ボクも誘われて、一緒に覗きにいったことが何度かある。
ある店で、店内のはじっこに白い麻袋が置いてあった。
それを見ていた奴に、店長が言う。
「おっ、さすがだね。気づいたか」
何がさすがなんだ? あの袋がなんだっていうんだ?
「見ていい?」と奴が聞くとOKだという。
奴はさっそく紐を解いて、白い袋の中身をテーブルにぶちまけた。
何百匹ものヘビ!!
慌てて逃げ出したよ。
もう大丈夫だから戻ってこいと言われても、二度と入らなかった。
危険なヘビじゃなくても、あんだけいっぱいいたら怖いよ!
『吸血の群れ』だよ! 『スクワーム』だよ!!
奴が出てきたのは、それから十数分後だった。
ずっとヘビをスベスベしていたらしい。
食えないはずのものを食らう者
奴は、どんなモノでも大量に食う。
おひつでご飯をおかわりするし、不味いものでも「多ければ美味い」と豪語する。
前に何度かツイートでもネタにしたけど、彼の住まいの近所には「ものすごく不味い焼きそば」の店があるそうだ。奴がそう言うのだから、相当に不味いのだろう。
だけど、奴には「不味くても多ければ美味い」になるので、その店は美味い店なのだそうだ。
「今度、一緒に行こうぜ〜〜」と誘われたけど、断固として断った。
不味くて多いなんて最悪じゃね~か!!
仲間が集まってホームパーティのようなこと(ボクは当時、毎年の大晦日に、その年に見つけたバカ映画を持ち寄って大騒ぎする「バカ映画鑑賞会」を主催していた)をしたとき、奴はパーティバーレルのフライドチキンを抱えて現れた。
仲間たちは「おおっ、気が利くじゃないか」と思ったようだが、甘い。奴は、そんなタイプではない。
アレは奴の弁当なのだ。パーティバーレル丸ごとで、ようやく1人前。2リットルのペットボトルコーラが普通の人の缶コーラ1本分。それが奴だ。
案の定、奴は一人でパーティバーレルを食い尽くしてしまった。残ったのは、磨き上げたようにきれいな骨だけだ。
そんな奴にも、好き嫌いはある。
例えばタクワンはあまり好きじゃないらしい。
だが、食い残したりはしない。好きじゃなくても食えるものは何でも食う。
いや、食えないはずのものも食う。
他の友人と奴のアパートを訪ねたとき、奴はインスタントラーメンを作っていた。
豪華にエビが丸ごと入っているのを見て、友人は「おおっ、すげぇ!」と声を上げた。
またしても甘い。だから、そういう奴じゃないんだってば。
それは、近所の川で採ってきたザリガニなのだ。
そう、汚水で触るのも嫌なレベルの、あの川で採ってきたやつだ。
野菜も入っているが、それも、そのへんに生えてる雑草だ。
煮ているから食えるのではない。ボクは奴と何度も散歩したけど、その度に雑草を適当に引っこ抜いて食ってた。
多少の知識はあるから毒草などは見分けられるらしいけど、洗いもせずにいきなり雑草を食うってのは、やっぱ普通のニンゲンじゃないよなぁ。
もちろん、ただの一度も腹を壊したことなんかない。
奴は、ものすごい甘党でもある。
東京・神保町の交差点近く(芳賀書店の隣くらいだったかな)に、本格珈琲を飲ませる店があった。
渋い珈琲を出す雰囲気のある静かな店だ。まだ若かったボクらは格好つけて、珈琲の味なんかわかってないくせに、そういう店に出入りしてた。
(靖国通りを渡った反対側には、漫画編集者さんなどとよく打ち合わせした喫茶店「さぼうる」があった)
その店に、奴がやってきた。
ビッグサイズのキングギドラを抱えて。
近くのオモチャ屋で予約していたのだというシロモノで、渋い大人のムードの店内にはまるで似合わない。
そして、唖然とするマスターに向かって奴が注文したメニューは「琥珀の女王」。
クリームをたっぷり浮かべたアイスコーヒー(いや、ウインナーコーヒーかな)で、その店で一番甘いメニューだ。
だが奴は、それでさえガムシロップを2杯おかわりした。
その後、渋さが売りの6杯立てデミタスを飲ませてやったときも、大量に砂糖を入れ、またまたマスターを絶望させた。
(それでも苦い、不味いと言ってたし)
夜明けにドアを叩く者
奴は、夏でも冬でもTシャツにサンダルだ。
決して靴下は履かない。スキーに行ったときでさえ、裸足にサンダル姿だった。
「だってよぉ、靴下が塗れると染みて寒いじゃん」と言ってたけど、いや、まずサンダルをやめて靴を履けよ、靴を!
(さすがにゲレンデはスキー靴を履いてたけどね)
そんな奴も、バイトはする。
仕送りがあったけど、それだけでは様々な爬虫類もキングギドラも買えないからだ。
バイトは主に日雇いの肉体労働だ。
明け方、ボクのアパートのドアを叩く者がいる。
眠い目をこすりながらドアを開けると、奴が立っている。
品川まで日雇いのバイトに行くから、片道分の電車賃を貸してくれと言う。
いや、オマエのアパートは3駅先だろ。ここまで歩いて来たのかよ。
片道だけじゃ帰ってこれないだろうとツッコむと、帰りはバイト代があるから大丈夫だと言う。
仕方なく金を貸してやって、ボクはまた布団に潜り込む。
昼頃、再びドアを叩く者がいる。
またしても奴だ。
バイトはどうした、もう終わったのかと聞くと、あぶれてしまったという。
じゃあ、どうしてここにいる?
バイトできなかったなら帰りの電車賃はなかったはずだろと訊ねると
「駅前に自転車が落ちてたから乗ってきた。でも、さっきお巡りさんに取り上げられた」と。
それは落ちてたんじゃねぇええ!!
以降、奴のバイトはカミカゼと呼ばれている。
片道の燃料しか積んでいかない上に、玉砕の確率が高すぎるからだ。
もうちょっと計画性ってモンを考えろよ。
蠢く異形のものたち/ミズオオトカゲの亜美ちゃん
そういう奴が、アパートで様々な生物を飼っている。
窓辺の水槽には、カミツキガメがいる。
水はどんより濁っていて、中はうっすらとしか見えないが、金魚を入れると一瞬で消える。
指なんか入れたら、あっという間に食いちぎられる。
冬場のコタツの中には、ミズオオトカゲ(全長1メートル)が放し飼いになっている。
名前は「亜美ちゃん」だ(ネーミングの元ネタはもちろんアレだ)。
布団をめくると、赤外線に赤く照らされた亜美ちゃんが、シャーっと牙を剥く。
「平気だから入れよ」というが、冗談じゃねぇ!
ついこないだ、生きたハツカネズミ(エサ用)を食い殺すトコを見せてもらったばかりじゃねぇか!!
テレビの後ろでガサガサと蠢くモノは、カニだ。
爬虫類のエサ用に大量に捕まえてきたもの(東京ディズニーランド裏の海岸には凄まじい数のカニがいるのだ)が逃げ出しているのだ。
逃げ出しても捕まえないのだ。テレビの裏側の、ビデオなどのケーブルの隙間をカニが這い回っていても平気なのだ。
こんなトコだけど遠慮せずに上がれよ、というけど、誰が上がるか、そんな部屋。
でもまぁ、カニくらいなら平気だし、冬の亜美ちゃんは体温下がってしまうからコタツからは出てこない。
というわけで上がる。
でも座るとこもない散らかりよう。
ま、そこはボクも人のことは言えない。独身オタクの部屋なんてドコでもそんなもんだ。
とにかく座る場所をつくるために、邪魔な万年床を引っぺがす。
サソリが潰れていた。
「あ、そこにいたのかぁ♡」
そこにいたのか♡、じゃねぇええええ~~~~!!
そういうのまで放し飼いにすんなぁあああ~~~っ!!
「ペットで売られてるサソリは刺されてもアシナガバチに刺される程度だから平気だよ」
うるせぇ! アシナガバチにも刺されたくないんだよっ!!
布団をしまうために押入れを開けようとしたら、止められた。
「そこに逃げ出したアオダイショウがいるんだ」
だからぁあああああああああああああ!!
逃げたら捕まえろよぉおおおおおおお!!
以前に飼っていたイグアナには逃げられたそうだ。
深夜にビニール紐でつないで一緒に散歩していて、コンビニで買い物しようと電柱につないでおいたけど、出てきたら紐を食いちぎって逃げちゃっていたんだって。
いや、イグアナと一緒に深夜に散歩すんなよ。
一度、そのイグアナを連れてボクのアパートにやってきたことがある。
別な友人のクルマに乗せてもらってきて「ドライブに行こうぜ」と。
ドライブはいいけど、イグアナまで連れてくんなよ!
クルマの中では「コイツ酔うかな?」としきりに言ってたけど、知るかそんなの。
ちなみに、先のミズオオトカゲを紙袋に入れて(閉じていない)、フツーに電車に乗って、お茶の水の喫茶店までやって来たこともある。
電車の中にせよ、喫茶店内にせよ、もしも逃げ出していたら大パニックになるとこだ。
なお、コイツが暮らしているアパートの隣室にも友人が住んでいたのだが、ソイツがあるとき、ボソっとこぼしたことがある。
いつかヤツが「オレのタランチュラ、こっちの部屋に来てないか?」と聞いてくるんじゃないかと怖くて怖くて、と。
ああ、そりゃあ怖い。
ヤツの管理じゃ、どんだけ漏れていても不思議じゃないもんなぁ。
(数ヶ月後、隣室の友人は引っ越した)
やがてヤツも漫画家をあきらめて実家に帰ったのだが、それなのにボクの家に風呂を借りに来たことがある。
どうした、故障でもしたのかと聞くと「風呂場でワニを飼ってるから入れないんだ」と。
アホなのか、オマエは!
実際ニンゲンじゃねぇ!!
※一応書いておくが、奴は外来種や危険生物を捨てたりすることには批判的だ。自然環境を変えてしまうし、もったいないからでもある。
ただ、管理がズサンすぎて言行不一致になっちゃってたんだけど(苦笑)。
今もそういう嗜好は変わってないようだけど、さすがに今はちゃんと管理しているらしい(ボクとしては、いまいち信用できないんだけど)。
……というわけで、そういう友人の思い出を書いてみた。
学生時代から数十年が経った今でも、そういうヤツのままなのだ。
世界の終末が来ても、ヤツだけは生き残るだろう。
いつかヤツのことを漫画にしたい。
何も脚色しなくても、十分に漫画でしかあり得ないキャラになるもんなぁ。
本当に事実しか書いてないし、これでもヤツとの思い出のホンの一部なんだよ。
まだまだ、昆虫編とか梨園事件とか観賞魚事件とか、信じがたいエピソードが山ほどあって……。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。









うるの拓也












