作者としてのこだわり/あえて予算オーバーに踏み込む編01:序章

2018年6月15日

イントロダクション

 この事例は、広告制作会社を経由して担当した案件だ。

 ウチはクライアント(広告主)と直接やる仕事も多いんだけど、広告代理店や制作プロダクションからのオーダーだって引き受けている。
 キチっと代金払ってくれて取引上の問題がないのなら、誰からでも引き受けてアタリマエだしね。

 代理店などを通じて請け負うときに気掛かりなのは、クライアントの気持ちがダイレクトに伝わって来にくいことだ。

 ボクにとっての依頼者は、あくまでも代理店の担当者であって、クライアントじゃない。
 それでもクライアントの反応に左右されるわけで、そのへんがね、怖いんだ。どんなに丁寧に手を引いてもらえても、目隠しで歩くのは怖い。
 しかも、この例のような、それほど懇意でもない代理店だったりすると、なおさら。

 なんせ一見さんだからねぇ。
 営業の技量なんか全然読めない。交渉力があるのかないのか、その人を信じていいものかどうか判断できないのよ。

 だから、少しでも「見える」ように工夫をする。

 できれば一度は、クライアントにも直接会わせて欲しい。
 たった一回の接触でも、それは重要な手がかりになるから。

 そして、その先は自分の経験値で勝負だ。

 似たような案件、似たような状況、似たようなタイプに何度出会ったか。
 色んな仕事での似たようなソレをつなぎあわせて、今後を予測し、対策を講じ、後は出たトコ勝負。そうするしかないんだ。

 本件はそういう案件。

 最初に問い合わせがあってから、一時ペンディングになって、再起動してからは漫画じゃないコト(しかも得意で自信満々とは言えないモノ)のほうが先に動いて、さらに漫画自体もお客の要望を超えた提案をしちゃって……。

 そういう1つ1つを受け入れてもらえて、なんとかゴールにこぎ着けた。

 もっとも、この案件だけが特別ではなくて、割とありがちなんだけどね(笑)。
 大抵の仕事はこういう感じで、この事例を紹介したところで特別なことはあんまりないようなもん。たくさんの仕事の中の1つというだけ。

 ただ、この「メール商談ライブ」のシリーズは、こうした当たり前も含めて……というより当たり前こそを知ってもらって、今後、こうした仕事に関わる時の参考にしてほしいと思って掲載している部分も大きいので、あえて「普通の仕事」を選んでみたんだ。

 ごく普通の退屈なように思える仕事だって、その進行具合の1つ1つを見てみると、けっこう色んなことがあるものなんだぜ(笑)。

 

お客様からのメール/その1

うるのクリエイティブ事務所
ご担当者様

突然のご連絡にて失礼致します。
○○の☆☆と申します。

貴社サイトを拝見させて頂きました。
弊社、広告代理店ですが広告においてのマンガ利用に非常に興味があります。
クライアントに提案したいと考えておりますが、代理店or業務提携という扱いで良いのでしょうか。

条件などございましたらお教え頂きたく存じます。
何卒宜しくお願い申し上げます。

(以下、書名)

 

「お客様からのメールその1」補足解説

 このメールは、ウチのホームページの「お問い合わせフォーム」から送信されたものだ。

 ほとんどの新規案件が、そう。
 まずは、こうした簡単なお問い合わせから縁が始まる。

 代理店とか業務提携とか書いてあるのは、ホームページにそういう方を募集してますと書いてあったからだろうなぁ。いや、そういう付きあいが出来る方を増やしたいとは思ってるんだけど、別に一見さんでもお引き受けするんだけどね。

 とにかく、せっかくご連絡くださったのだ。
 このメール1本の問い合わせを実のあるものにしていけるかどうか。

 まずは、そこからだ。

 

うるのメール/その1

うるのクリエイティブ事務所代表の「うるの拓也」です。
お問い合わせありがとうございます。
(ご返信が遅くなったこと、大変申し訳ありません)

当社のマンガを扱っていただく際には、特に契約等は必要ありません。
条件もほとんどないのですが、

1)公序良俗に反する作品(ポルノなど)はお断りします。
2)作品はデジタルデータでの納品となります。
3)作品をクライアント以外の第三者に転用・譲渡・販売する事は認めておりません。

当社は著作権を手放しはしないが、主張もしないというスタンスです。このため、クライアント自身がマンガを二次使用しても一切追加料金はいただきません。
けれど、作品の著作権そのものを手放すわけではないということになります。

基本的には、この3点だけです。

それと、これは条件ではありませんが、案件が生じた際に、できるだけ早めにご相談いただけるとありがたいです。事前に企画提案したり、類似の作例を提供したりできることもありますし、スケジュール確認も必要ですから。
(せっかくご注文いただいても、先行案件とカブってしまうとお断りせざるを得ないこともあります)

企画提案からだと制作料が高くなる、といったことは一切ありません。というより昨今は企画料なんか取れないことのほうが多いですし、だからといって考えなしに仕事するわけにもいかないので、全部コミコミでやることにしています。

なお、金額的には良質な作品を描くためのギリギリを設定しておりますが、懇意な代理店様、連載等の継続的なお仕事、社会性の強い案件等の場合には、特例的な料金を設定させていただくこともあります。

ご都合がよろしければ、一度伺って御挨拶させてください。
今週は無理ですが、来週であれば14~17日の間はご希望の日時を空けることができると思います。

■追記
以下、ちょっと長くなりますが、これまでに広告マンガの仕事を続けてきて、気付いた事、ありがちなこと、注意すべきことなどを記載しておきます。

私たちが、どんなことに配慮しつつ、良質な作品づくりを目指しているか、どんなふうに代理店様をサポートしているかなどです。お仕事を確保してくださる代理店様は一番大切なお取引先ですので、常に最大限の協力をしていくように心掛けています。どんなことでもお気軽にご相談ください。
(ただし、作品制作に打ち込んでいるときや、何らかの締切直前などのタイミングには動きが取れないこともあります)

では、どうぞ、よろしくお願い致します。

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マンガ広告取扱いについての解説
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マンガを読む事には、現代の人々は慣れていますが、描くとなると、その背景にある部分は見えないことが多く、無茶すぎる要望だったり、対応可能であってもソレをやるとクライアントにとってマイナスになるといったことも少なくありません。

例えば、わずか8ページしかないストーリーマンガで、2人の主人公の20年に及ぶ波乱万丈の人生を詳細に描いてほしい、といった要望を受けたことがあります。
これは無茶苦茶で、8ページに収まるわけがありません。

こういうことにクライアント様は気づけないことが多く、単に要望に沿うというだけでは、良質な作品は生み出せません。
また、キャラクターのイメージ、タッチ等も作品内容と密接に関係しますから「こんなタッチがいい」と言われても、そのタッチで描くのは不適切である場合もあります。

シナリオを用意しているお客様も少なくないのですが、それがそのまま利用できることは、まずないと言えます。
当社作品見本(リンクURL)に掲載されている作品中、お客様の要望通りに描いたモノは、20XX年に描いた××××社様の4コママンガ1本だけ。
これは社内新聞のオマケだったため、紙面全体の構成を重視し、プロデューサーのイメージを優先したためです。
それ以外の全ての作品は、元々のシナリオがあろうがなかろうが、当社で再提案・再構築して描いたオリジナル作品です。

マンガ広告とは、マンガの面白さ、ストーリーや登場人物への共感などを企業や商品に上乗せして、広告価値を高めるものだと考えていますので、例え1ページであろうとも、起承転結がきちんとしていて、コマ割や描写にメリハリのあるものを描くべきなのです。
そうでなければ、そもそもマンガにする意義が失われてしまい、クライアントに何ら寄与することができないからです。

ですのでマンガの仕事では、クライアントが何を考えていようが、必ず提案し直すステップがあると考えるべきで、スケジュール設定にも、できるだけ余裕を持たせたほうがいいです。

なお、そうした提案を「余計なお世話」あるいは「クライアントに逆らう行為」と感じる方も稀にいらっしゃいます。ですので、そうした際には、私が代理店様と同行し、直接クライアント様とお話しすることも多いです。
(出来の悪いものが仕上がってしまうことに気付いているのに、それを無視するのは不誠実ですし、いくら代金をもらえても実績にならない仕事は望ましくないですから)

代理店様にとって頑固な方でも、漫画家本人が訪ねていくと素直になってくれることは多いです。その場で漫画家の目線から意見やアドバイスを行うとお互いに見えてくることもあります。だからモメそうなときは、できるだけ直接お会いして代理店様をサポートするようにしています。

最終的には、お客様には「モチはモチ屋」と思ってもらい、任せてもらえるというのがベスト。マンガにはマンガだけの文法や表現、演出があるし、特定の作者が描く以上、その人の作風に引きずられる部分はどうしてもあります。だから結局は「任せてもらう」しかない部分は消せないわけで、クライアントが任せきれないと感じているままで進行すると、後々トラブルの種になりやすいのです。
それを回避するために、必ず任せることを納得(説得ではない)させなくてはならず、ボクは契約前にそのことに最大の注意を払います。

(そうしたことが多いので、ボクは普段から「長髪のポニーテール、作務衣に雪駄履き」という「漫画家っぽい格好」をしています。
これは記号で、まさしくコケおどしでしかないのですが、そのおかげで相手に漫画家として受け入れられやすく、打ち合わせもスムーズになるんです。言ってみれば「漫画家が漫画家のコスプレをしている」のですが、営業現場では意外なほど効果があって、面倒だけどやめられないんです)

(以下、書名)

 

「うるの送信メール/その1」補足解説

 いつも通り、最低限の事前情報的な内容で返信した。
 ま、最低限とは言っても、業務メールとしてはかなり長文なんだけどさ(笑)。

 興味の薄い人、具体的な案件がまだない人だと、ここで途絶える。
 さて、今回はどうかな。

 

お客様からのメール/その2

うるの様

ご連絡ありがとうございます。
もし可能であれば、是非一度ご挨拶させて頂きたいです。
仰る公序良俗等々の3点は問題ございません。
14-17日でご都合の良い日時をご指定頂ければ予定を空けておきます。

ただ、現状でお願いを決定しているものではございません。
なので、せっかくお越し頂いてもすぐにお願いさせて頂けるか分からないのが正直なところです。社内にデザイン担当もおりますので、上からは社内で出来る事は社内でと都度言われておりますので。。
それでも宜しければご相談させてください。

現状、私の方で提案したいと考えているクライアントとしては

●女性向け×××系会社
●▽▽▽向け観賞魚系会社

こちらには特にお力をお借りしたいと考えております。
個人的には説明商品には特に漫画の力が有効ではないかと思いますので、いろいろとご相談させて頂きたいと存じます。
お忙しいところ大変お手数とは存じますが、ご検討のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

(以下、書名)

 

うるのメール/その2

うるのです。

> 14-17日でご都合の良い日時をご指定頂ければ予定を
> 空けておきます。

では、15日午後でいかがでしょう?
先刻のメールではうっかりしていましたが、私は地元の大学で非常勤講師を引き受けており、14日はその講義の日でした。(といっても半日なので、15時頃でよければ伺えるのですが)

ですので、15日の午後以降であれば、何時でも大丈夫です。
(16・17日でも可です)

> ただ、現状でお願いを決定しているものではございません。
> なので、せっかくお越し頂いてもすぐにお願いさせて頂けるか
> 分からないのが正直なところです。

気になさらないでください。こういうことはご縁だと思います。
ご縁があれば、いつか何かの形でおつき合いできることもある、そういうことだと思うのです。ボクも業界経験が長い(もう25年になります)ですから、すぐに都合良く仕事になるなどとは考えていません。
(なったらいいなとは思いますが、1つの会社と取引するのに3年かけたことだってありますし、一瞬で仕事が決まることもあります。こういうのはタイミングなので、まず縁を持つことが大事だと心得ております)

> 社内にデザイン担当もおりますので、上からは社内で出来る
> 事は社内でと都度言われておりますので。。

それは当然のことですね。
ほとんどの代理店様の場合、マンガを扱う場合でも、当方が担当するのはマンガ部分のみで、デザインや企画の全ては社内で行っているものです。
ただ、イラストもできるスタッフを抱えている場合でもマンガはイラストを並べたものではなく、かなりの専門職となるので、当社をお使いいただいているのです。
(そもそもマンガは「そういう案件」にしか使えない技能なので、社内に抱えるのはコスト高でありすぎますしね)

> ●女性向け×××系会社

これは消費者の女性を登場人物にして、第三者的な視点で商品情報を語らせる、といった構成が考えられますね。1ページの雑広なら、少しコミカルで楽しいものにしたり、4コマ作品(女性向けの4コマ専門誌は多い)を2つくらい掲載する(あるいは1つずつにして複数バリエーションを作る)のもいいでしょう。
4コマは、デザイン次第で様々なスペースに転用しやすいメリットもあります。

> ●▽▽▽向け観賞魚系会社

観賞魚との関わりや触れ合いを、昔懐かしい「ボクの夏休み」的な部分を持たせた構成で描く、なんてのはいいかもしれませんね。
もっとも、このクライアントは観賞魚そのものではなく、観賞魚用品のようですから、ひょんなことから観賞魚と出会い、飼育用品や飼い方を学んでいく・・・というのが自然かもしれません。

> お忙しいところ大変お手数とは存じますが、ご検討のほど
> 何卒宜しくお願い申し上げます。

いえいえ、漫画家もしっかり営業しないといけない時代ですから。
それに今月で長期連載していた「カソクキッズ」が完結するので、しばらくマンガスタッフが暇気味になりそうですし、そろそろ営業に精を出そうと思っていたところなのです。
もっとも完結とは言え、すでにより長期のセカンドシーズンの続行が決まっているので、次回シリーズとして仕切り直す充電なんですが、どちらにしても連載に頼って商売しているわけではないので、様々な方とご縁を作っていくのは大切なのです。

どうぞ、よろしくお願い致します。

(以下、書名)

 

「うるの送信メール/その2」補足解説

 まだ、すぐに発注できるわけではないけど、漫画で提案してみたい相手がいる、というところだな。
 OK、それはそれでいいことだ。

 実際のオーダーまでは、かなり遠いと思われたけど、それでも、その場で思いつく程度の感想や提案はしておいた。
 そういうことで曖昧だったモノが徐々に具体的になっていくものだからね。

 挨拶だけでも、直接会っておこうというのも同じ。
 今はただの可能性だけのモノでも、それを実体化させるために打てる手は打っておく。

 仕事って、そうしてないと、すぐに流れ去って二度と帰って来なくなるのよ。

 

(「あえて予算オーバーに踏み込む編02」へ→)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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