描く前に全てが決まる(メール商談ライブ):07
うるの送信メール/その10
うるのです。
前回お送りした「ネーム」ですが、作画ができた分から差し替えしています。
現在、4ページ目まで、作画済みのモノに差し替わっています。
ネーム段階と作画済みのモノとの印象の違いなども、これで、ある程度分かるか思います。
■マンガネーム(URL)
前と同じモノが表示されるようなら、それはお使いのブラウザのキャッシュ機能によるものですから、表示後に再読込みしてみてください。
(9月6日時点では、作画版に差し替わっているのは4ページだけなので、その後のページは以前のままです。それらは、毎日順次差し変わっていきますので、お楽しみに)
(以下、書名)
「うるの送信メール/その10」補足解説
通常は、作画が全部終わってから見せるのだけど、このときは冒頭4ページの段階で披露した。
先の「作画への不安」を払拭するためだ。
本番ではこうなるのか、これなら大丈夫だ。
そう思わせなきゃならないからね。
実は、この冒頭4ページの作画も、ボクが相当に手を入れている。
どうしてもね、キツめに描いちゃうタイプのタッチだったのよね。
アクションやサスペンスものならOKだろうけど、広報作品だとキツすぎるんだ。
チャンスを与えてあげたくて起用したんだけど、これはちょっとボクの人選ミスだったなぁ。
でも、いまさら後には引けないから、こっちで手直ししながら作画を進めてもらった。
直したモノを見せて、こういう感じだよ、と言いながら。
こういうのは、実際にやってみせないとピンと来ないからね。
ボクがNGを出した絵だって、当人はそれでいいはずと思って描いているんだから、口で言うだけじゃ伝わらない。
実際にやってみせないと。
そうやっているうちに、だんだんとボクが希望する絵が仕上がってくるようになってホッとした。
問題は全部解決、というほどではなかったんだけど、そのへんは新人さんなんだから仕方ないよね。
※補足
前にもも書いたけど、ボクは作者が死んでも継続できる体制が欲しい。
矛盾しているようだけど、そうなんだ。
普通の漫画は漫画家本人が倒れたりしたら、そこでオシマイなんだけど、ウチの仕事は広告漫画だからね。
基本的に単発の読切だし、特定の作者の絵柄に依存する部分はあまりない。
一定品質の短編を描き続けられれば、作者は誰でもいいというところがある。
だから理想形は、全員が作者になり得る体制。
それぞれの作風はあるだろうけど、ボクも含めてスタッフみんなが作者になれる関係。
で、そのときに作者じゃない人がアシスタントをやればいい。
ただし、その場合、作品を描く部分だけじゃなくて、こういうメールのやり取りや折衝などまで、互いにカバーしあえないとダメなんだよね。
そこが出来るのがボクだけでは、結局はボクが倒れたらソコで終わりだもん。
どれほどの作品を描ける力を持っていても、それを発揮できるところに立てない。
そういうわけで、全員が全員の代わりになり得る体制を目指してやっているのだけど、漫画はともかく、こういう営業やマネジメント部分はねぇ……。
教えてはいるけど、適性的には他の人にはあまり向いてないんだろうなぁって感じている。
ボクがやってることをそばで見ているから、いざってときにはセルフ・プロデュースで凌ぐことはできるようになるだろうと思っているんだけど、継続的にやっていけるかと言うと……能力の有無以上に「そういうのは、できればやりたくない」ってのが漫画家の本性だからねぇ(笑)。
まぁ、それならそれで仕方ないとも思うんだけど。
ただ、全く出来ないというのではダメだと思っている。
それでは自分で仕事を確保することが不可能になる。
誰か営業してくれる人と組まない限り、何もできなくなる。
すると、その人に逆らえなくなる。
無茶や無理や理不尽や、納得できないコトを言われても従わざるを得なくなる。
ボクが自分の考えで自分の作品を描けているのは、自分でプロデュースしているからだ。
ボクだって、作品をつくること以外の部分は誰かにやってもらいたいと思い続けているけど、そこを託せる人に出会えていないから自分でやっている。
そこをやってくれるという人には何度も出会ったけれど「満足して託せる人」はいなかったから。
気持ち良く描けないなら、誰が漫画なんて仕事をするものか。
広告だろうと何だろうと、やはり漫画は作者自身が描きたくて描くべきだ。
読者のためでも、自分のためでも、とにかく描きたい気持ちが作品をワンランク上に押し上げてくれるんだ。
それがなければ、タダの作業になっちゃうよ。
タダの作業なら、この仕事はキツすぎるよ。割に合わないよ。
漫画が好きで、描きたい気持ちで描き続けるために、筋の通らないことにはNOと言えなきゃならないと思う。
NOを言っても食えなくならないためには、いざとなったらセルフ・プロデュースでやるぞ、やれるぞ、という裏付けがなきゃ。
そうでないと漫画家じゃなくてタイコモチになりかねないのよ。
生活かかってるから、そういうときもあるのは仕方ないと思うけど、それでもタイコモチを続けていると根っからのソレになり切っちゃって、漫画を描いていても「漫画家の力は失われている」みたいなコトになりがちなんだ。
漫画だけでなく、デザインや企画の世界でも、そういう例をいっぱい見てきたもん。
客がそう言うんだから、それでいいじゃんと思考停止しちゃってる人たち。
それに従うことが客のためにならないとしても、それを考えようともしない人たち。
そんなのクリエイションじゃないじゃん。
ボクは、この業界にいられればお茶汲みでも総務でもいいわけじゃない。
自分の作品を描く。つくる。
そのためにいる。
それができるのなら、どんな業界でも構わない。
自分の作品と胸を張れないモノをつくるくらいなら、こんな業界にはいたくない。
営業してくれるヤツ。
経理してくれるヤツ。
作画してくれるヤツ。
色んな仲間は大勢欲しい。
仲間を信じて一緒に進みたい。
でも、いざとなればテメー一人で全部やる。
理不尽に折れるくらいなら、全部やる苦労のほうがずっとマシだと思う。
仲間全部がタイコモチの道を選ぶなら、一人で飛び出す。
支え合うとは言ってるけど、本当はそんなつもりなんかない。
お互いに自分の足で立つ。
その上で力を合わせてこそ、限界以上の力を引っ張り出せる。
寄りかかり合ってたら、一方が倒れたら両方倒れちゃうんだから。
仲間外れを恐れない力を持ってこそ、仲間も守れるんだと思うんだよね。
だからボクは、漫画の仕事をプロデュースする部分もスタッフに教えている。
それをやりたがらなくても、いいんだ。
ただ、やるしかないときにはやれるようになっていて欲しいだけ。
そうでないと安心して死ねないのよ。
うるの送信メール/その11
うるのです。
> 私は全面的に先生を信頼してお任せしたいと思っています。
> セリフの細かい部分や表現が気になったのみで
> 絵の作りなどは変えていただきたいようなところはありません。
本当にありがとうございます。
ただ、医者じゃないけれど、いわゆる説明責任は果たしておきたいので、いろいろメールさせていただいています。
いいものを描くんだ!と気合いは入れていて、自負も多少はあるのですが、やっぱり不安はあるから、口数が増えちゃうんですよね。修業が足りないなぁ。
でも、その不安がバネなので、むしろ燃えてくることも多いんです。
> 以前も書きましたが、あの短い面談の時間で
> ストーリーや全体の構成を作られたことに
> ただただ感銘を受けています。
こういうのは、訓練すれば誰でもできるかもしれません。
ただ、何十年もの訓練の結果なので、気軽にはできないでしょうけど。
ボクは、誰でも頭の出来は同じくらいだと思っています。
アイデアやイメージを思いつく能力も。
ボクの感じ方では、脳の中は色々な部屋になっていて、生活の能力をつかさどる部屋とか、事務処理をする部屋とか、別れている。そしてアイデアを思いつく部屋というのもある。同じ部屋にずっと居続けるのは大変で、みんな部屋を頻繁に移動しながら暮らしている。
でも、ボクの場合は、そのアイデアの部屋に常駐していられるように訓練してしまった。だからすぐに思いつける。そんな感じだと思っているんです。
でも、その分、他の部屋を疎かにしているわけで、誰でも出来そうなことができなかったりもします。トンがっている、というのは、同じだけどこかを犠牲にしているからトンがっていられるんでしょう。
ボクが優れているわけではないんです。自分の土俵では強いけど、他の事をさせたら無能かもしれないですから。漫画家ってファンにチヤホヤされがちだから、そうやって釘を刺していないとアブナイんですよね。
> 楽しみにしていますのでどうぞ、よろしくお願いします!
はい、ご期待に応えられるようにがんばります!!
(以下、書名)
「うるの送信メール/その11」補足解説
ここで語っている「アイデアの部屋に常駐していられるように訓練」というのは『ドラゴン・ボール』で、悟空と悟飯がセルと戦うときに、ずっとスーパーサイヤ人のままでいることに身体を慣らすようにしたのと同じことだと思っている。
誰でもちょっとだけならスーパーサイヤ人に変身できるとする。
でも身体を慣らしていないと、その状態を持続できないから、まず持続できる身体を作る。
そうなってしまえば、その状態を前提に様々なことを考えられる。
そのほうが一瞬だけ限界突破するより、ずっと有利だってことだよね。さすが悟空……いや、鳥山先生だよなぁ。下手にテクだけ磨くより基礎的な部分の底上げが大事だっていうのを、よぉく分かっていらっしゃるんだろうなぁ。
ただし、弊害もある。
スーパーサイヤ人じゃないほうがいい時には、むしろ役立たずになっちゃうのだ。
悟空も日常レベルではロクに働きもしないし、湯飲みに触っただけで壊しちゃうし、本当に困ったヤツだった。
で、世の中ってのは日常のほうだ。そっちが普通の世界。
謎の生物だの宇宙人だの神様だのが攻めてくる世界ではないのだ。
スーパーな力に慣れてしまうと、マトモな世界では無用の存在になってしまうのだ。
ボクはあえて、そうなることを選んだ。
依頼者は日常に生きているけど、時に謎の宇宙人に挑むような状況に出くわす。
それが漫画だ。
一人ひとりで考えると滅多にないことなんだけど、日本中、世界中で考えればしょっちゅう起こっていること。
だから自分の出番はあり続ける。
普通にやってるときには、ボクはいらないんだ。
普通のことでは人並み以下のコトしかできないんだ。
普通じゃないコトをやるときにだけ、呼んでくれればいいの。
そして普通じゃない局面では、普通じゃない人に任せて欲しいわけ。
そういうことを理解してもらうために、ボクは前述のような例えをした。
トンガっているのは、他を犠牲にしているからだよ。
ボクがすごいんじゃないよ。
そう言わないとね、丸く収まらないのよ。
漫画の仕事は普通じゃないから、普通の人は口出しできない状況だらけになる。
それでも客は客。
何でもかんでも言いなりっていうのは、面白くない。
けど、口出しして欲しくはないわけ。
だから普通じゃないことに気付かせる。
ボクはすごいんじゃなくて、異常なんだと。
異常が正しくなっちゃうマトモじゃない状況なんだと。
そこに気付けば、黙って任せてもらいやすいのよ。
言い負かされてカチンとも来ないのよ。
だって異常な世界なんだから。
マトモに生きてる人間としては、異常でない世界では口出しできないのが正常なんだから。
マトモでありたいのなら、任せて言うことを聞いているほうがいいんだと。
お客がそう思っていてくれると、仕事がスムーズなのよ。
なので、ボクはそう思ってくれるように動いてるの。
見た目からカタギではない恰好(『打ちあわせや営業に行くときの恰好で工夫していること』参照)もしてるし(笑)。
お客様からのメール/その12
うるの先生
制作ありがとうございます。
どんどん進んでいって楽しみです。
1点ご相談なのですが、最近歩いていて「思ったより楽しい人だね」とか「意外におちゃめで好感持てるね」といったことを言われます。
どうも私は、ミスなくきちっと仕事をやるけど完璧なタイプのように思われているようです。事実とは全く違うのですが。
で、一コマでいいのでちょっとしたお茶目さを入れて頂くことはいかがでしょうか?
例えば学生から「また財布置きっぱなしでしたよ」とか、たしなめられて頭をかいているところを主人公か奥さんが「結構おっちょこちょいだったりしておちゃめなところもあるしね」とか。
物を忘れるとか、置きっぱなしにする、とか、家事は苦手、とか、大勢に影響のないところで何かひとつ入れて頂くと「いい人だけど面白みがない」といったイメージが払しょくできるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
(以下、書名)
「お客様からのメール/その12」補足解説
うわははは!
いや、ごめんなさい、気持ちはわかります(笑)。
よし、何とかしよう。
何とかできそうだし。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。