お客は時に味方、時に敵 ~依頼者との戦い編01:序章
このシリーズは「メール商談ライブ」の第二弾。
前回の「失敗社長編」は、非常に懇意なお客さんとの事例だったけど、今回は全くの新規、それまで会ったこともない会社の仕事の例だ。
しかも敵意むき出しの打ち合わせなど、思いっきりアウェーな状態から、最後に感謝のお言葉をもらえるまでのストーリー。
もちろん、内容はノンフィクションだ。
この序章と、メールのやり取りの合間に挿入した「補足解説」以外は、本当にお客とのやり取りそのまま。
クライアント名、請負額、仕事内容の詳細などは伏字になっているけれど、それ以外は前回同様にそのまま掲載していく。
なので、お客とボクがどんなやり取りをしていたか、よくわかるはずで、色々と参考にしたり笑ったりしてほしい。
なお「そんな細かいことは端折ってもいいだろ」と思えるような部分も、まんま掲載していくので、多少面倒くさい部分があるのはご容赦を。
そういう面倒臭い部分も参考資料だと思うんだ。
一般企業の依頼者って、こんなふうに連絡してくるのかとわかるでしょ。
もちろん、この案件の例に過ぎないから、みんながそうなわけがないんだけど、それでも多少の参考にはなると思うんだ。
ボクはボクのエル・ドラドを目指す
ボクは、クリエイティブな仕事をするにはクリエイター自身が舵を握らないとダメだと思っている。
お客に船頭を任せていると、迷いまくってドコにたどり着くかも分からなくなる。
つ~か、そもそも最初からドコに行けばいいのか知らないんだよね。
エル・ドラドに行って財宝を手に入れたいという要望があるだけで、どうやって行くかは考えてなくて、漠然と漫画という船なら行ける気がすると思ってるだけ。
だから漫画家自身で船頭をしなくてはならない。
そこまで漫画家がやるべきなのか、そんなコトまでやれるのかとは思うけど、そこをクリエイターでない者に任せているとロクなことにならないから、嫌でも面倒でもやらないわけにはいかないんだよ。
ボクだって行ったことはないし、海図などもない。
けれどボクは「ボクがエル・ドラドだと思う場所」には行ける。
そこはクライアントが想像しているエル・ドラドとは違う場所かもしれない(というより、十中八九違う)けれど、漠然と漂流してるよりは、ずっとマシだ。
ようするにエル・ドラドに行けなくても、行ったのと同等の結果を出してしまえばソレでもいいでしょ、という感じ。
エル・ドラドは無数にあるのよ。それぞれの頭の中に、それぞれのエル・ドラドがある。
だからこそ方向が定まらないし、考えもまとまらない。
なので、ボクはボクのエル・ドラドを目指す。
要望を聞き、予算や期限を確認し、その条件で目指すことができる場所に向かう。
お客には決して舵を預けない。
彼らは、ちょっとした水面の反射や蜃気楼を見る度にアッチがいいんじゃないかと舵を切ってしまうから。
そうやって遭難するから。
ボクを雇った以上は、ボクが目的地だと思うところまでは任せてもらう。
その場所が気に入らないのなら、そのときにボクをクビにして別な船頭を雇え。
だが、今はボクが船頭だ。
もちろん相手は客だから、強権発動して舵を変えることはできる。
そのときはボクも従うしかない。
けれど、その場合はボクは何の責任も負わない。
遭難しても自己責任。それで納得してるなら、好きに舵を取ればいい。
こうしたことをキチンと最初に伝えておけば、大抵は舵を奪われない。
ボクだって遭難したくないから、本気でやる。
そして、それなりの場所にたどり着けば、感謝もされるし、信用もされる。
言われた通りに船を漕ぐのではなく、自分で判断し、決断し、ふらふらと迷う人々を宥めて納得させ、ボク自身がゴールだと思う場所に向かう。
ボクは、それが「仕事」なんだと思っている。
そこまでしなくて済むほうがありがたいけど、そこまでしないで済ませようとすると大抵は遭難して、何とか陸地に着いても、そんなトコに着いても意味がないような場所になりがちだから、ボクは船頭であり続けているんだ。
自信があると客には言うけど、本当は自信なんか全然ないよ。
何度やっても怖い。
でも、何処かに着いて感謝されたときの喜びは、恐怖より大きいの。
だからボクは、漕ぎ続けてこれたんだ。
厄介な客を乗せて、何度も何度も広報の海に漕ぎ出すことができたんだ。
グダグダになりがちな広告漫画の裏側
一般の人の多くは、漫画家なんて生き物のことは全く知らない。
胡散臭くて、オタクで、ニートで、テキトーな落書きばっかりしてる連中と思われていたりもする。
特に、そういうモノにあまり触れずに生きてきた世代の人は、そういう目でボクらを見ることがある。
それでも今どきは漫画が世の中に溢れていて、そういうモノがウケていたりするという現実は知っているから、利用したいと思ったりはする。
広告漫画を手掛けるというのは、そういう人たちを相手にするということだ。
全ての人がそうではないのだけど、そういう人も一定数、必ずいる。
極力出会いたくはないのだけど、それでも完全に避けられるモノでもない。
避けていたら受注量が足りなくて困ってしまうかもしれないし、どんなに避けていても、どっかから必ず出てくる。
直接会う相手は先方の担当者だけでも、その裏側には大勢の人が関わっている。
それなりの発言権のある人が、ヤバいタイプだったりすると、予期しないところから攻撃されて、全てをひっくり返されることもあるのだ。
そんなコトはクライアントの内側の問題だろ、ソッチで何とかしてくれよ、というのは正しいのだけど、正しいからってソレで解決するものでもない。
何せ、ヤバイ相手が上司や社長な上、当の担当者自身も漫画に詳しいわけじゃない。あくまでも一般人なのだ。理路整然と説得できたりはしない。
そもそも「漫画で広報してみよう」というのは、タダの思いつきに過ぎないんだ。他所でもやってるし面白そうだというだけで、何の根拠もないんだ。
そんな薄っぺらいアイデアだけで、企画をゴリ押しできるもんじゃないんだよね。
だから漫画家の側で援護射撃してあげないと、この手の話はややこしいモノになりやすい。
ややこしくなってからコッチに回ってきて、そんな事情も知らずに引き受けて、気付いたときにはあわわ、ってなコトになりがちなんだ。
それに、上司などの権力者が介入してこない場合でも、関係者間で意見がまとまらないということも珍しくない。
ある連載の続編企画では、先方内部で1年近くも議論を重ねたのに何も決められなかった。「船頭多くして船、山に登る」ってヤツだね。
意見はアレコレ出るけど、ずっと平行線。その考えもあるけど、こうも言えるでしょといった議論が延々と続き、堂々巡りになっちゃうの。
それでボクが呼ばれ、それぞれの意見を聞いた上で「漫画家としての意見」で全員を納得させて、続編再開にこぎつけた。
アンタらが問題と思ってるコトは、オレが漫画で解決してみせる。
絶対に全員を満足させるとは断言できないけど、満足させられるだろうと思えるから、ボクはこの席に来た。
自信はある。自信の根拠がどういうモノかを理解してもらうには漫画家と同等の知識がないと無理だから、簡単に説明はできない。
でも、ボクの今までの作品と、その成果は知ってるでしょ。
先の連載で期待以上の結果が出たからこその続編企画でしょ。
だったら、ボクに任せてくれ。ボクはボクなりのやり方でやってみせる。やり抜いてみせる。
こんな感じで会議を押し切った。1年かかった議論を2時間で断ち切った。
だって、ほっといたら5年経っても前に進まず……というよりも途中であきらめて、企画自体が立ち消えになっちゃうハズだもん。
ボクのほうも、そんなにいつまでも待ってたら日干しになっちゃうし。
でも。
この連載企画の例なんかは、むしろ軽いほうなんだよね。
なんせ、それ以前の連載で結果を出したという実績があったからね。
一定の信用を得ていれば、後は「漫画家という別次元からの意見」で流れを変えるのは、それほど難しいことじゃないんだよね。
新規の相手だと、そういうわけにはいかない。
しかも漫画を利用しようというのに、本音では漫画ってモノを小バカにしているような人だと、とても厄介なことになる。
揉め事から始まる物語
今回のケースはトラブル……というか、揉め事から始まる。
先に記事にした「失敗社長」とは真逆の展開。
最初の段階では、敵意剥き出しでイチャモンをつけられ、恫喝されたりした。
それを逆転してハッピーエンドに導いたんだからオレってスゲェだろ、と言いたいわけじゃない。
むしろ、ヤケクソ。やぶれかぶれ。
なるようになれ。どうなっても知らん。どうせダメならオレが壊してやる。
そんな感じだったんだよね。
それが結果的にいい方向に向いただけなんだから、スゴくも何ともない。
ただね、出会いは常にアウェーだとも思っているんだ。
初めて出会って、最初から信用されることなんて滅多にない。
コッチだって、全然知らない会社をいきなり全面的に信用したりはしない。
お互いに探り合いながら、関係を築いていくことになる。
一緒に1つのプロジェクトに携わっていても、企業と漫画家では立場も違う。
当然ながら、色々とぶつかりあう。
時に折れて、時に相手をヨイショして。
そうやって、絶対に折れられない部分を守る。
折れるときも簡単には折れず、こちらのスタンスを示して、一筋縄ではいかないぞと感じさせておく。
そして折れ方も、相手の指示のままに折れるのではなく、できるだけ自分のほうに傾けて折れるように工夫する。
そんなことを繰り返しながら、作っていく。
ボクはほとんどのメールログを残しているので何でも事例に挙げられるんだけど、たくさんの仕事の中からこの案件を選んだのは、漫画を描くこと以外の、生々しい駆け引きのアレコレが感じられるやり取りになっていると思ったからなんだ。
しかも、この仕事ではエンディングがいい感じだったの。
マジで漫画みたいな展開になっていて、読んでて楽しめるだろうとも思うのよ。
折衝の1つ1つで、少しずつ感心させ、納得させ、こちら側に引き込んでいく。
一度に踏み込むと壁にぶつかっちゃうから、ホンのちょっとずつ。
そうしていないと、主導権を握り続けられなくなっちゃう。
それが実際にはどういうことだったのかを感じてもらいたいって思ってるの。
描くことの何倍も、そういう部分で色々やってるってコトをね。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。