お客に値引きしてほしいと言われたら?
値引きには基本的に応じるべきじゃないと思っている。
軽々しく応じられるってことは、そもそもが吹っかけているとも言えると思うんだ。
本当に良心的な金額で請け負っているのなら、値引きの余地なんか最初からないハズなんだ。
だから、応じないというより、応じられない。
ただ、そうは言っても、値引きしてと言われることはある。
割としょっちゅうあって、そういうときは個別に交渉している。
自分だけが泣かされるような値引きには決して応じないけど、値引きしてあげる分だけ、お客にも何かを折れてもらって、バランスが取れるように交渉してるんだ。
そういう交渉ができるようになると、値引いたほうがトクをするってこともあるんだよ。
なので、よりよい結果にするための値引きなら考えるけど、損する値引きは絶対に嫌。
ボクの仕事が高いと思うなら、安い人のトコに行ってよと思っちゃうな。
値引き要求に応じてあげてもいいことはあまりない
こういう仕事をしていると、値引きしてくれと懇願されたり、時には威圧的に脅されたりすることもある。
30歳のときに、とある本を作った。
編集や企画も全部一人でやったから、いわゆる丸投げで本を作ったということなんだけど、そのときに理不尽な値引きを要求された。仕事が全部終わって、当初に提示された通りの額面の請求書を、代理店の社長さんに出したときだ。
「ウチもちょっと厳しくてね。だからこの請求をね、もうちょっとだけ削って欲しいんだよ」
「いや、でも……仕事は全部一人でやりましたし、余計な経費はかかってないはずだし、最初にこの額面でと伺っていたはずですが……」
「う~ん、確かにそう言ったかもしれないけどねぇ……まぁ、どうしてもこの額面でないとって言うなら仕方ないけどねぇ。でも、こんな額面じゃ今後は仕事を回せなくなっちゃうんだよねぇ。ここでツッパらないで、これからもウチと取引したほうがいいと思うよぉ?」
確かにその代理店の仕事は多かった。
フリーとして独立したばかりの頃で、大事な取引先をなくすのは痛かった。
「今後のために」という社長の言葉に押されて、ボクは泣く泣く請求額を削った。
受け取れた代金は、本来の半分程度だった。
その後、先輩と話をした。
この代理店を紹介してくれた人で、ボクを育ててくれた恩人でもある仲の良いプランナーさんだ。
「バッカだねぇ、オマエ。あの社長、もう二度とオマエに仕事出してこね~よ」
ボクはがく然となった。
なんで? だって言う通りにしたじゃん!?
「そんな無茶や無理をさせたら、向こうだってバツが悪いに決まってるだろ。他にも作れるヤツはいるんだから、顔を合わせづらいヤツをわざわざ使うわけないだろ」
実際、その後パタリとその代理店からのオファーは来なくなった。
ボクはギャラを失っただけだったんだ。
(このときのことは「広告漫画家物語03:DTP時代の始まり〜独立/自由業の不自由さを思い知る」に詳しく記載しています)
でも、その後もボクは何度かプレッシャーに屈服して、値引きさせられる体験をした。
そしてあるとき、同様のケースで断固嫌だと突っぱねてみた。
どうせダメになるなら、もう取引先がいなくなろうが、もらうものはもらったほうがいいと思ったのだ。
半ばヤケクソでボクは意地を通した。
相手との関係は悪くなった……と思った。
ところが、この相手はその後も仕事を回してきたのだ。
このときボクは、デビュー直後に聞いた大先輩の漫画家(又聞きなので面識はない)の言葉を思い出した。
「編集者の言いなりになっても読者に嫌われたら終わりだ。逆に編集に嫌われようが読者に支持されていれば仕事は続く」
ボクはようやく気付いた。
安易に応じちゃダメなんだ。
むしろコンチクショーと思われたほうがマシ。
相手も悔しいから意趣返しの機会を求めて発注してくることがあるし、お互いに負い目もない。
そのほうが付きあいやすいんだ。
結局、人間と人間のことなんだ。
それ以来、ボクは安易な値引き要求には応じていない。
今でも値引きすることはある。
でもそれはあくまでも交渉としてで、値引きしたほうが得をする場合もあるからだ(詳しくは後述)。
とにかく堂々と交渉して、相手に負い目を感じさせず、自分も損をしない形での値引き対応ができようになったとは思う。
少なくとも、ビビッて引くことはなくなったな。
ビビることはあるけど、そこで逃げてもどうにもならないってわかったからね。
立ち向かうしかないことには立ち向かうしかないんだよね。
値引きするときは相手にも同じだけ折れてもらう
値引きは本来あってはならないものだと思う。
不当な値引き要求は法律でも禁じられている。
でも実際には、そういう話はいくらでもある。
いちいち弁護士に相談してたら、その費用だけで破産しちゃうくらい頻繁に。
だから、交渉術を身に付けることは大事なのだ。
さて、以下はボクの例だけど、ボクは「一方的な値引き要求」は断固として飲まない方針でやっている。
ただ、頑ななだけでは世の中渡っていけない。
正論を言ってるだけではラチがあかないことも多い。
昔のボクみたいにスグに折れちゃう人もいるし、すると、そういう人にばかり仕事が行くようになって、価格破壊が進む。
世の中どんどん悪くなる。法律がどうであろうが、結局はセルフディフェンスできなきゃダメなのだ。
で、ボクは値引きに応じるときには、必ず条件をつけることにしている。
この条件は仕事内容や相手によって違う。
例えば「やたらと請負条件がウルサイ相手」だったら、コレとコレの条件を外してくれるなら、こっちも料金面で便宜を図りましょう、とか。
このケースは、全体としての額面がそれなりに大きくて、条件さえ合えば、ちょっとくらい値引きしてでも請け負いたいと思っている場合だね。
「顔の広い相手」だったら、他の客を紹介してくれるなら、といった条件を出すこともある。
他のお客ではなく、同じ会社の次の仕事を回してもらう場合もある。
そっちのほうが多いかな。他の客を紹介されるほうがありがたいんだけどね。
仕事するには、営業経費ってのも意外とかかるものなのだ。
お金だけじゃなくて、仕事になるまでの手間という意味でもね。
何せ、よその会社だったら営業専属の社員がいて、その人に給料を払ってるんだから。
仕事を作り出すってのは、それなりのコストがかかるもんなのよ。
なので、そういう費用や手間を「お客に経費を還元してやる」ほうがずっとマシということもあるんだ。
ちょこっと値引いてあげることで、次の仕事を効率よく受注できるなら安いモノってコトもあるのよ。
他にも「代金を先払いしてくれるなら」といった条件のこともある。
ボクみたいな小規模事業主にとってキャッシュフローはとても重要なのだ。
何百万円の仕事だろうが、その代金が振り込まれるまではゼロなのだから。
給料があるわけじゃないんだから、目先のお金があるかどうかは最優先。
もしも赤字で借金ということになれば、そこには利子が発生する。
契約通りのお金を数ヶ月後に受け取ったとしても、利子分目減りしていることになるのだ。
だったら先払いにしてもらって、利子分を値引きしても同じなのだ。
先払いは最近は認められにくくなってるんだけど、そこを何とかして先払いするのなら代金のほうも考慮しましょうって感じだね。
残念ながら、キレイゴトだけでは個人事業主は勤まらない。
値引き問題は必ず発生すると考えていい。
だけど、それに安易に応じていたらやっていけなくなる。
先に「負い目があるから発注してくれなくなる」と書いたけど、その逆に「おっ、コイツ、叩けば叩くだけ安くなりそうだぞ」とつけ込まれることだってある。
だから自分なりの値引きのロジックを作っておく必要があるのだ。
そういう展開を予想して、対策も考えておけば、いざというときにオタつかないで済むからね。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。