小説版イバライガー/第1話:世界崩壊の序曲(後半)
Bパート
主電源のある棟は、ここから数百メートル離れている。
誰もいなくなった長い廊下を、3人は走り出した。
灯は落ちて、ずっと先の屋外から差し込む光だけが道しるべだった。
背後で、ドアが開いた。
「ティクス……博士……?」
通路の奥。
さっきまで自分たちが立っていた場所から声だけが聞こえてきた。
「ふふふ……やっと分かったよ」
普通じゃない。
ヘリウムガスでも吸ったかのようにカン高くなったり、ひどく低くなったりしている。
3人は動けなかった。
博士が近付いてくる。
「感情には属性があったんだよ……。善意と悪意……プラスとマイナス……ポジティブとネガティブ……。我々は……悪意のエネルギー領域にアクセスしてしまったのだ……」
博士が近付いてくる。
その姿は、人ではなかった。
服は破れ、トゲのようなモノが全身から出ている。
肌の色が青黒く変化し、目が異様に大きい。
そして、見ている間にも変貌を続けていた。
「博士っ!?」
「早く……逃げろ……。エモーション・ネガティブは、人間に憑依しようとしている……」
「そ、そんなコトが……!?」
「ニ……ゲェ……ロォオオオオオオ……!!」
もはや人の声ではなくなった叫びに押されるように、3人は駆け出した。
「ちっくしょぉおお! どうなってんだ!?」
外へ飛びだす。
そこには悪夢が広がっていた。
炎。黒煙。その漆黒の中から、数分前までは人であったはずの変異体たちが現れ、逃げ惑う人々を襲っていた。
襲われた人もまた変異し、悪夢が広がっていく。まるでゾンビ映画だ。
「きゃぁああああああ!!」
ぼう然としていたシンとワカナの意識を、ナツミの悲鳴が切り裂いた。
触手のようなモノがナツミに巻き付き、連れ去っていく。
「ナ、ナッちゃん!!」
「ナツミィイイイイイイイイ!!」
駆け出そうとした二人の前に、数体の変異体が立ちはだかる。
緑色の肌。せり出してくる牙。爪。
「くそぉ!」
シンたちは、再び通路の中に逃げ込むしかなかった。
追ってくる怪物たち。
通路には、ティクス博士の姿はない。
ドアを締めながら、あの実験室へと進む。
一番危険な場所。
だが、今はそこへ向かうしか道はない。
測定器は、不思議な白い輝きに包まれていた。
あの唸りは止まっている。
「これは……エモーション……感情エネルギーの輝き……?」
「一体……なにがどうなったんだ……」
「……生命の概念が……変化したんだよ……」
その声にふり返った二人の前には、ティクス博士が……いや、かつてティクス博士であったモノがいた。
「博士!?」
「……そうか、このボディは博士のものだったか……。惜しいな。我らをこの世界に喚び出した知識は有用だったのだがな……」
ティクス博士の面影は、完全に消えていた。
青黒く膨張した身体と昆虫を思わせる顔は、凶暴な気配を濃厚に漂わせている。
「お前は……誰だ?」
「……我らはジャーク。我が名はダマクラカスン。ようやく……この時を迎えた……。我らジャークが目覚めるときが……!!」
「ジャーク?」
「ふふふ、醜いか、この姿が? だが、オマエたちもジャークとして新たな世界を生きることになるのだ。
ポジティブとネガティブ。二つの力の均衡は今崩れた!! この惑星はエモーション・ネガティブが支配する星となる!!」
ダマクラカスンの咆哮に、空気が揺れる。
後ろは怪物と化した職員たちが蠢く通路。
退路はない。他の人々のように怪物と化すか、あの爪に引き裂かれるか。
シンとワカナには、絶望的な選択肢しか残されていなかった。
「ワカナ……オマエは逃げろ。ヤツは……オレが食い止める……!!」
「……何言ってんのよ? 空手の試合じゃアタシのほうが強かったでしょ?」
「試合なら……な。けど、これは実戦だ。ケンカならオレのほうが強ぇえ。オレが道をつくるから、お前は走れ!!」
言うとともにシンは駆け出した。
一瞬でいい。あの爪に切り裂かれたとしても、一瞬だけ時間を稼げれば、ワカナが逃げる時間は作れるはずだ。
ナツミは救えなかった。せめてワカナだけは、絶対に守る。
「ほぉ。ニンゲンの分際で向かってくるか。見上げたものだ。だが……」
全身が硬直した。何か禍々しいものが、身体に入り込もうとしている。
動けない。意識が、遠のく。
「ふふふ、オマエを引き裂くわけにはいかんようだ。オマエたちもジャークとなるのだからなぁ!!」
シンはとっさにふり返った。ワカナの全身も、ふるえている。
バケモノになるのか。オレたちも。ナツミを連れ去った、あの怪物に。
二人の目が合った。
ワカナの目から涙が溢れている。人間の証だ。
身体に入り込もうとするナニカに必死に抵抗している。
バケモノになんか、なるものか。
「無駄だ。いくら抵抗しても、まもなくキサマらはジャークの一部となる。楽になれるのだぞ。ほれ、この博士のボディもそう言っておる。愛だの夢だのという煩わしいモノは全てなくなる。オマエらは必ずジャークに感謝するようになる」
「うわぁあああああああああああああ!!」
シンとワカナが叫んだ。
精一杯の、そして最後の抵抗。
そのとき。
エモーションの輝きが巨大に膨れ上がった。
白い闇。
その光の闇を切り裂くように、一筋の蒼い輝きが迸る。
蒼い光が、二人を照らし出す。
シンは身体が軽くなるのを感じた。
侵入しようとしていた理不尽なものが、追い出される。打ち消される。
二人はよろめきながら立ち上がり、蒼い光源を見つめた。
輝きの中に、何かがいる。
それは、災厄を詰め込んだパンドラの箱に最後に残っていた希望のように、歩み出てきた。
紅のボディ。その姿に、シンはがく然とした。
「そ、そんな……そんなバカな……!
アレは……まだ存在するはずがないのにっ!?」
それは、シンの研究ノートに描かれていたヒューマロイド……。
イバライガーだった。
ED(エンディング)
実体化したイバライガーは、シンたちとダマクラカスンの間に立ちはだかった。
シンとワカナは、その背中を見つめていた。
思考がまとまらない。
なぜ、まだ理論段階のイバライガーが実在するのか。
ジャークとは何なのだ。
世界はどうなってしまうのか。
物語は、まだ始まってさえいない。
次回予告
■第2話 想いの力
悪の軍団ジャークに、謎のヒューマロイド・イバライガーの出現。次々と起こる異常事態に大混乱のシンとワカナ。そこに再び襲ってくるジャークの怪物。大ピンチのイバライガーに想いが届いたとき、紅の機神の本当の力がついに……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ〜〜の…………!!
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