小説イバライガー/第26話:燃えろ!イバライガーショー!!(後半)
Bパート
シンとマーゴンが基地を離れて、一週間が過ぎた。
進展はあまりない。
マーゴンは毎日、元ジャークの人たちと公園をブラついたり、近くの商店街で買い食いしたりしてるらしい。
シンも似たようなものだが、ソウマを相手に組手の練習などはやっているようだ。
もっとも台本にはアクションシーンまで詳細に書いてあるわけじゃないから、組手は二人のアドリブだ。どっちも負けず嫌いだから、練習というよりガチの仕合みたいになっちゃっているらしい。
ま、それも実戦練習ではあるし、シンはともかくソウマには、そのほうが気晴らしになるんだろうけど。
基地のほうにも、あまり目立った動きはない。
イバライガーたちは、いつものように毎日のパトロール。たまにジャーク化された人やゴーストを見つけることはあったけど、それもいつものことだ。
いつもと違うのは、私だけ。
毎日毎日、資料整理とか博士の手伝いとか、いや、それもやらなきゃいけないのは分かってるんだけど……ああっ、ストレスが溜まるぅうう!!
こんなことなら、私がショーに行けばよかったよぉお! 買い食いしたいよぉおお!!
「……行ってもいいわよ」
背後から、声がした。エドサキ博士。
「へ?」
「ワカナの性格じゃ、じっとしてるのはそろそろ限界でしょ。気晴らしっていうか、助太刀っていうか、とにかく、ショーの練習に行っていいわよ」
「で、でも……」
初代イバライガーから、きつく言われていた。
勝手には、どこにも行くなと。
買い物だろうと何だろうと、イバライガーの護衛がない状態では、決して動くな、と。
私だって、戦える。四天王級は無理だけど、戦闘員程度なら十分に勝てる。
ゴースト相手だとしても、イバライガーたちが来るまで持ちこたえるくらいの自信はある。
けれど、初代はエモーションを使うこと自体を危惧しているようだった。
もう、これ以上はエモーションに関わるべきじゃない。初代は、そう言った。
彼の危惧は、わかる。未来で、シンをイバライガーに変えた力。シンの身体を蝕み、悲劇の原因となった力。
ポジティブでもネガティブでも、どちらも危険な力なのかもしれない。
ただ、そうであったとしても、何かが起こったら、そんなことは言っていられない。
戦わなければ世界が終わってしまうのだ。
だからこそ、それ以外の時にはリスクは避けておくべきだ。
そう言われると、返す言葉がなかった。
以前はともかく、今はミニRやミニガールがいる。初代も復活し、ブラックともある程度は理解しあえている。イバライガーたちの行動も公式に認められているから、自分やシンが現場にいなくても混乱は起こりにくい。それに、人間は人間だ。いくらエモーションを操る訓練をしても、ミニライガーほどにも戦えはしないのだ。
それでワカナは基地にこもり、書類整理や博士たちとの研究をメインにした。
元々、研究員だったから、そういうことには慣れているし、嫌いでもない。実際の実験などは年に1回あるかどうか。ほとんどの時間は理論研究や議論であって、下っ端だったワカナたちは、そのための資料づくりなどが仕事のほとんどだった。宇宙の謎を解き明かすなどと派手なテーマを掲げていても、その実態は地味で淡々とした日常なのだ。
だから今の状況は、元の古巣に戻ったようなもので、それ自体には違和感はない。
ただ、ず~~っとソレだけというのは性に合わないのだ。
敷地内をジョギングしたりはできるけど、それだけじゃ、どうにも発散できない。
ナツミなら平気かもしれないけど、私は……。
「大丈夫。ガールたちが迎えに来るわ。荷物も、持って行ってもらわなきゃならないし」
「荷物?」
わっしょい、という声がした。
振り返ると、ミニライガーたちがタンクを担いで、地下から上がってくるところだった。
「そ、それ、もしかして……」
「うん、NPLをね、これに詰めて持っていくの。ショーで使うんだって」
「ショーで? NPLを??」
きょとんとしてるワカナのインカムに、声が響いた。
『やっほ~~。ワカナ、準備できた? もう基地に着くよ。荷物積んだら私たちもショーに出演だよ~~!』
ガールの声だ。ショーに出る? ガールが?
いや、私たちって言ってた。
もしかして私も? 様子を見に行くんじゃなくて出演??
「だから助太刀って言ったでしょ。<TDFの小学生>から連絡があったのよ。さすがにラチがあかないって。元ジャークたちにやらせるにしても、大幅なバックアップをしないとどうにもならないって。それで『本物』に出てもらうことになったのよ」
「えええええええ~~~~~~っ!?」
「待ちなさぁ~~~い!」
声と同時にステージに駆け込んできたイバガールを、シンは唖然として見つめた。
姿が……ビミョーに、いや、かなり歪んでいる。
ものすごく出来が悪いスーツって感じだ。
出来が良すぎるとリアルすぎてマズイというので、NPLを使ってわざと歪ませているのだ。
ま、まぁ、そういう配慮はわからんでもないが……ちょっとやりすぎじゃねぇか?
これじゃイバガールっていうよりイモガールだぞ?
それでもガールは、嬉々として自分の役を演じている。
「こんなトコにいたのね、ジャーク怪人ヒトデナシー!! 私が来たからには勝手なことはさせないわよ!!」
言って、スカートの裾をキュッと引っ張る。
姿はともかく、細かいトコまでこだわってるなぁ。
「くらぁ! シン!! いやヒトデナシー!! ボケっとすんな! ガールが出てきたら『て、てめぇはイバガール!?』のセリフだろ!!」
監督のマーゴンが怒鳴った。
くそぉ、わかってるよ! こっちは小学校の学芸会以来なんだぞ。もうちょっと手加減しろよ!
アクションが始まった。
姿が歪んでいても、本物のガールだ。アクションのキレはいい。というか、おい。ガチじゃね~のかコレ?
うわぁあ、その回し蹴りはやめろぉおお!!
「う~ん、いいよぉ。シン、見事なヤラレっぷりだ。本番もその感じでね~」
うるせぇ。演技じゃね~んだよ。本当にヤラレてんだよ!!
「ふふふ……、やるではないか、イバガール!!」
声がした。音声は、楽屋にいるRが声色で演じている。
ヒューマロイドなので、どんな声も出せるし、マイクを遠隔操作して同時に何役も演じることもできる。
そして、意外に演技も上手い。
登場したのはダマクラカスンだ。演じているのは、ソウマ。黄色い衣装の女戦闘員「ジャークガール」を連れている。
こっちの中の人はワカナだ。どっぷりと太って見えるボディ。奇天烈というか、むしろ正気を案じたほうがいいんじゃないかと思うほどに奇妙な動き。
お、お前、なんかストレスでも溜まってんのか??
「あ、あんたは……ジャーク四天王ダマクラカスン!?」
「ふふふ、覚悟するのだな、イバガール! このオレ様が来たからには、生きては帰れんぞ!!」
セリフに合わせて動くソウマ。い、意外に上手い。
いかん、このままじゃ俺のほうが浮いちゃうぞ。昨日まではグダグダすぎだったのに、今度はガチすぎるっ。
「行けい、ヒトデナシー! ジャークガール!! イバガールをスクラップにしてやるがいい!!」
また、アクションシーンだ。
今度はガールをやっつけるシーンのはず……なんだが、イバガールはさすがに手強い。
あ、ワカナの攻撃が当たった(ように見える)。
なんだよ、ワカナにはやられてやるのかよ。
ガールが倒れた。勝ち誇るダマクラカスン。
さぁて、問題はここからだ。
「待て! ジャーク!!」
いつものRの声だ。だが、声だけでなかなか出てこない。
ひそひそ声が聞こえる。
「ほら、出番ですよ!」
「出番くじゃ~~?」
ようやく出てきた。ミニRとイバライガーR。
やはり見た目はNPLでイマイチな感じに偽装されている。
Rは、スキップしながら出てきたが、それに気づいたミニRが慌てて手をつないだ。
本当はお手手つないで、なんてシーンじゃないのだが、仕方ない。接触しないとNPLは制御できないのだ。
直接接触して、外部からNPLを操る。そうやって何とかシナリオ通りに動いてもらう。それしか方法がないのだった。
ギクシャクとした動きで、ステージ中央に立った二人がポーズを取る。
「時空戦士イバライガーR!!」
「時空戦士ミニライガーR!!」
ポージングは、途中までサマになって見えたが、最後のキメポーズができない。
ミニRが手を離すと、ダラっとしてしまうのだ。どうにも「しゃき~ん」という感じが出ない。
「はい、カット、カット! いったん休憩。ま、こんなもんじゃないのぉ?」
マーゴンの声が響いて、練習が中断された。
ガールとミニRがNPLの制御を止めて、元の姿に戻っていく。
ワカナもマスクを脱いだ。衣装の内側から湯気が上がっている。
楽屋から駆けてきたカオリが素早く冷却スプレーをかけ、スポーツドリンクを差し出している。
シンとソウマも、手甲を外しマスクを取った。やはり、湯気。
ワカナが投げてよこした冷却スプレーを首の周りにかけてから、座り込んだ。
「……何とかそれらしくなっては来たが……やはり、元ジャークの演技は厳しいな。R本人がいるんだ。代わってもらったほうがいいんじゃないのか?」
「そういうわけにはいかねぇだろ。これは、あの人たちのショーなんだから。衣装にNPLを仕込んで、どうしようもない部分をサポートするのが精一杯さ。全部がグダグダじゃ困るからガールやミニRにはそのまま出てもらっているけど、他の主役級はできるだけ任せないとな」
「まぁ、俺はかまわんが……こんなザマをブラックが見たらブチキレるんじゃないのか?」
ちょっと、ゾッとした。
ブラック役も元ジャークに任せることになっている。
ミニR同様、ミニブラがサポートに付く予定だが、でれっとしたブラック役なんかを本人が見たら「貴様ら、命がいらんようだな!」とか言いそうだ。
「大丈夫、大丈夫。心配ないって」
ワカナがやってきた。
「ブラックは、そんなこと気にしないって。ていうか見に来ないって。むしろ『くだらんショーなど俺が見ると思うか。好きにするがいい』って言うと思うよ」
「……ま、そうだろうな~~」
「……というわけで、ちょいと行ってくるぜ、ブラック」
「好きにしろ。くだらんショーなど俺には関係ない」
言い終えるよりも早く、ミニブラックは飛び去っていった。
少しずつ情報をリークする、か。
そんなことで、あの混乱を止められるわけもない。
例え危機感を覚えても、現実になるまでは動かない。
いや、現実になってさえ、自分に都合の良いように思い込もうとする。
人間は、そういう生き物だ。
そんな人間がどうなろうと、俺の知ったことではない。
だが。
ブラックは、未来での出来事を思い返していた。
これまでも何度も検証した記憶だ。
その中ではっきりしなかった部分が、初代の告白でようやく見えてきた。
あの戦いの最後。
核ミサイルが降り注ぐ中、巨大なアザムクイドとハイパーの幻影が立ち上がり、世界が白と黒に飲み込まれたとき。
俺自身の記憶はそこまでだ。
初代の話では、その後、その全てが消えてしまったという。
ワカナが外に出てきたときには、何もなかったという。
消えるはずがない。あれほどのエネルギーが。
ならば、どこに行った?
答えは1つしかない。
あの力は、今もここにあるはずだ。隠されているだけだ。見えているのに見えないだけだ。
恐らくは、まもなく目覚める。
アレが、また始まる。
それを止められるかどうかは、賭けだ。手は打ったが、最後は賭けになる。
その賭けに勝てるかどうか。
あの力を、こちらのものにできるかどうか。
そこが最初の勝負になる。
これまでの戦いなど、前哨戦ですらない。
シン。ワカナ。もしものときは俺は躊躇しない。
お前たちの命を食らう。それがお前たちの望みでもあるはずだ。
初代はお前たちをエモーションから遠ざけようとしているようだが、それも無駄なことだ。
お前のことは、よく知っている。お前らは止まらない。だから俺も止まらない。
俺も、お前らも、全てが終わるまで止まることなど出来はしない。すぐに、それを知ることになるだろう。
それまでは好きにするがいい。
人間でいられる最後のひとときを、味わっておくがいい。
な、何、これ?
カオリは困惑した。
どう考えても、こっちの内部情報を知ってるとしか思えないコメントが、SNSで急速に拡散している。
ショーの内容、ジャークに関する怪しい噂、イバライガーのこと。
イバライガーの存在が公にされて以来、ネットではその正体について様々な憶測が飛んでいたが、今回のは今までとは違う。
かろうじて真実は隠されているけれど、知っている者が見れば、全てをわかった上で巧妙にボカしているようにしか思えない。
発信元は『暗黒のアルテミス』というアカウント。
フォロワーは5万人。けっこう多い。もっとも、このネタで急速にフォロワーを増やしたというわけではなく、かなり以前から大勢にフォローされていたようだ。漫画やアニメ、さらに科学、政治や社会情勢などについてまで、幅広くツイートしている。
誰だろう。TDF?
いや、この内容はTDFどころか、この基地の内部としか……。
と思ってたら、新しいツイートが。
『同僚が私の正体を探っているらしい。別に隠してないから振り返ればすぐにわかるんだけどな~~WW』
え?
振り返ってみた。エドサキ博士の背中。
その向こうにあるPC画面……には、いつものように研究データが表示されている。
何も変わりはな……。
デスクの脇にあるスマホ。そこにSNSの画面が写っている。まさか……。
「やっと気づいたみたいね……」
えええええええっ!? エドサキ博士が『暗黒のアルテミス』!?
だって、このアカウント、オタ好きで何か色々と知識豊富なマニアックなオッサンとしか思えないのに!?
「まだまだ甘いわね。ネット世界で性別や年齢は無意味よ。誰でも、誰にでもなれる。なれるだけの知識とボロを出さない工夫さえあればね」
エドサキ博士は、PC画面に向かったままだ。向かってキーボードを叩きながら、同時にスマホを操作している。
またしても『暗黒のアルテミス』のツイートが更新された。
ま、まさか今までもずっと、そうやって同時操作してたの!?
何? このヒトなんなの!?
カオリは、思わずサイドテーブルの引き出しを開けた。
ギュウギュウに詰め込まれたお菓子の中から、小袋の駄菓子を1つ、手に取った。
「いつか、こういうことも必要になるかと思ってね。シンやワカナ、それにイバライガーに出会った直後くらいから、SNSにアカウントを持って仕込んできたのよ。そこそこの拡散力を持ち、だけど特別に多いってほどじゃない程度の微妙なインフルエンサーっていうバランスになるように、ね……」
ぜ、全部計算づく!? なんなのぉ、このヒト!?
小袋じゃダメだ。この衝撃に対抗できない。
カオリはさらに引き出しの奥に手を突っ込んで、クレーンゲームで取ってきたお菓子詰め合わせを引っ張り出した。
「これからはカオリにも『アルテミス』に協力してもらうわよ。私は初代の情報を分析するので忙しくなるし。IDとログインPASSを教えるから、私の代わりに『アルテミス』を演じてもらうわ。まずは今回のショーの日程とかの拡散からね」
ちょ、ちょっと!
わ、私がフォロワー5万人のアカウントになるの!?
そ、それってヤバすぎません!?
気が遠くなって、無意識に引き出し全部をぶちまけた。
これじゃ全然足りない。
カオリは席を立ってキッチンに走って行った。
「……ショーは、無事に終わったみたいだね?」
「はっ。特に問題はなかったかと……」
夕陽が差し込んでいる。オレンジというより茶色に染まった隊長室で、ソウマは立ったまま報告をしていた。
問題が全くなかったわけではない。
予想通りというべきだが、本番のショーも台本通りというわけにはいかなかった。
その場その場でシンやイバライガーたちが機転を利かせて、なんとか終わりまで演じられたというだけだ。
それに……ダラダラしていたのは自分も同じだ。
バカバカしいと思っていた。やる気など、一度も湧かなかった。
とにかく、早く終わって欲しいと思っただけだ。
「あはは。あのダラダラのイバライガーRとブラックは見ものだったよね~~。シン君はマジでぶっ飛ばされてたし、あれは数日は筋肉痛かな~~」
アケノは隊長席に座ったまま、けらけらと笑っている。
見に来てはいなかったはずだから、ネット動画などで確認したのだろう。
相変わらずソフトクリームを舐めている。
こうして見ていると本当に小学生のようだが、戦闘力でも、実戦の経験値でも、自分を遥かに凌駕しているのは事実なのだ。
それは着任直後の模擬戦闘で、この身体で味わっている。
とにかく、報告は済ませた。これで任務完了のはずだ。
「では、私は元の任務に……」
敬礼して、きびすを返した。また当分は、つまらない任務が続くだけだ。
「うん、戻ってもらうよ。本当の『元の任務』にね。またPIASを使うから」
背中に当たる西陽の暖かさを貫くように、さっきまでとはまるで違う口調が聞こえた。
身体が硬直している。
PIASだと? アレをまた使うだと?
振り返った。ソフトクリームは、もうない。
ややうつむいている上に逆光のせいで、顔はよく見えない。
「PIASが期待値通りの能力を発揮できないのはわかってる。でも、対ジャーク用ではPIASが現行の武装の中で最も有効なのは間違いないでしょ」
確かに、そうだ。
通常の武装では、ジャークに太刀打ちできない。
NPL弾などに換装しても、身体能力のレベルで差がありすぎる。
だが……そのPIASを使ってなお、俺はジャークに勝てなかった。シンにも及ばなかった。
挙句に、PIASごと乗っ取られそうにさえなったのだ。
PIASの再稼動は理解できるが、今のままでは……いや、俺が使うのは……。
「何を気にしているのかは想像つくけど……今の段階では君がPIASに一番慣れてるし、イバライガーたちのこともよく知っている。他の人を訓練し直している余裕はないの。それに……今度のPIASは今までとは少し違うからね」
違う?
これまでのデータを元に改造した新型……ということか?
「まぁ試験機には違いないし、エキスポ・ダイナモは動かないままだけど、今度の使い方ならかなりパワーアップできるはずだし、ジャークに乗っ取られることもないと思うの。それを……アンタとアタシで運用するの」
アンタとアタシ? 隊長もPIASになるということか? 二号機?
よくわからないが、戦えるというのは正直ありがたい。
元ジャークの監視だのショーだのといった茶番は、もうたくさんだ。
「やる気になったみたいだね。それでいい。ショーはハッピーエンドで終わったけれど、現実は違う。このまま彼らだけに任せてはおけない。いや、彼らだって脅威なの。未来の話の通りなら、我々はジャークだけでなくイバライガーも倒さなきゃならなくなる」
その通りだ。友達ごっこをしていても、本当は奴らも危険分子なのだ。
今は共闘しているが、いつかは敵対せざるを得なくなるはずだ。
「アタシは戦うために来た。アンタも同じでしょ。だからアンタとアタシでやるの。他の、イバライガーに頼ってる連中はどうでもいい。戦う気のある者だけをアタシは選ぶ」
アケノが、顔を上げた。その顔から、ソウマは目が離せなくなった。
これは俺の顔だ。奴らに負ける前の、俺の顔だ。
「この世界は私たちのもの。私たちの手に取り返す。化け物たちの好きにはさせない。イバライガーにも、ジャークにも」
そうだ。取り返すのだ。
未来のシンは、化け物を倒すために自ら化け物となった。
それと同じことを、この女はやろうとしている。俺にも化け物になれと言っている。
よかろう。奴らに勝てるというのなら、何にでもなってやる。
全てが終わった時に、俺自身が裁かれる側になったとしても構わない。
日が落ちて、部屋が暗くなり、窓に映った自分の顔が見えた。
やはり同じ顔だ、と、ソウマは思った。
ED(エンディング)
ノバホールと呼ばれる音楽ホールの上に、イバライガーRは立っていた。
風が強い。眼下には、人がいなくなったつくばセンター広場が見える。
その一角で、まだ蠢く者たちがいる。
元ジャークの人たちだ。「くじゃ~~」を言い合いながら、次回のショーを計画しているようだ。
まだ口癖は抜けないが、表情は明るい。今回のショーをやり終えたことで、だいぶ元に戻った感じだった。
今後は、自分たちのサポートがなくてもやれるかもしれない。
ショーの中では、自分はジャークを倒して平和を取り戻した。
演じていたのは自分ではないが、観客たちの応援によって眠っていた力に目覚めたイバライガーたちが、ジャーク役のシンやワカナをやっつけるところを見た。
眠っていた力。
それは、本当にある気がする。
以前から、わずかに感じていた。
初代の話を聞いてから、一層はっきりと感じられるようになった。
自分の中に棲んでいる何か。それが徐々に表に出てこようとしているように感じられる。
イバライガーRには、それが何か予想はついていた。
ブラックが言っていた『声』とは、未来のシンの記憶だけではないはずだ。
自分自身。シン。そして、もう1つが潜んでいる。
それと向き合う日が、近づいている。
覚悟は、できている。
もう一度、元ジャークの人々を見つめてから、イバライガーRは運命に向かって踏み出すように虚空へと飛んだ。
次回予告
■第27話:アルタード・ステイツ /PIAS-EX登場
TDFに接触するイバライガーブラック。Rを襲う謎のフラッシュバック。自らの運命に迷うミニガール。イバライガーたちに匹敵するほどの力を得た新たなPIAS-EX。そして、ついに最終作戦を発動するジャーク。「かつての未来」を知ったことによって、一斉に動き出す運命の歯車。シンやワカナは、そしてイバライガーたちは、非情な宿命を打ち破ることができるのか……!!
さぁ、みんな! 次回もイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!
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