小説版イバライガー/第12話:還るべき場所(前半)
OP(アバンオープニング)
彼女なんか、いない。家に帰っても、そこにいるのは口うるさい母親だけだ。
面倒くせぇ、ウザったい。いつもそう思っていた。
だが、今はそれが懐かしい。愛おしい。
帰りたい。あの日々に。
妻とは最近は疎遠だったように思う。二人で出掛けることなど、もう何年もなくなっている。共通の話題も、ほとんどない。娘たちもだ。
だから休日出勤も進んで引き受けていた。家にいても自分の場所はないように感じて、仕事に逃げ込んでいたのだ。他にどうしようもなかった。
だが、今は家に帰りたい。妻と語り合いたい。娘たちを抱きしめたい。
どうして帰っちゃったんだろう。みんなと一緒にいればよかった。だけど、あのときは何となくムカついて、体調がイマイチだと嘘をついてしまった。
ドアを出ても、みんなの笑い声が聞えるのが苛立たしくって、駆け足で駅に向かって、でも乗らなきゃいけない電車なんかなくて、本屋とかゲーセンとか、どうでもいいところをブラついたりした。意地を張らないで、一緒にいればよかった。
帰りたい。みんなの笑顔の中に、もう一度加わりたい。
そうだ。オレにも大事なものがある。
私にも。ボクにも。
家財、仕事、家族、仲間、アイドル、フィギュア、音楽、笑い、演劇、芸術、エロいモノ、ペット、クルマ、ギャンブル、本、DVD、ゲーム、ネット、マンガ、アニメ、特撮、政治、自然、科学……。
どれが大事かなんて決められない。状況によって優先度は変わっても、いらないものなんかない。
他の誰かにとってはクダラナイものであろうと、自分には命だ。酸素や水と同じだ。なくてはならないものなんだ。
誰にでも帰りたい場所がある。
忘れられないものがある。
捨てられない宝がある。
失ってはならないものを失ってしまった人もいる。
それでも、失ったままではいられない。
どんな危険があろうと、どんなに困難でも、あきらめることはできない。
あの場所へ、帰る。
自分の居場所へ。
ジャークなんか……やめてやるっ!
Aパート
「すまん、みんな」
「いいって。ボクたちが決めたことなんだから」
「どうせ眠ってるだけだしね~~」
「早く作戦を成功させて、ボクらを起こしてくれよ?」
カプセルが、閉じられた。
バイザーの光が消え、ミニライガーたちは眠りについた。
約1ヶ月は、目覚めることはないだろう。
3体のミニライガーシリーズは、その機能のほとんどを停止して、ひたすらエネルギーを蓄え続けることになる。
元々ミニライガーシリーズには、イバライガーへのエネルギー補給という役割があるが、今回は身体を構成しているナノパーツのセッティングまで変えて、エモーション・エネルギーの貯蔵タンクそのものとなるのだ。
身体のほとんどをエネルギー貯蔵のためだけに使っているため、生体機能すら自力では維持できない。
外見がミニライガーのままというだけで、別物になってしまうようなものだ。
そこまでして、通常の数十倍のエネルギーを蓄えてもらう。
イバライガーRとイバガールは、3体が眠るカプセルを覗き込んだ。
普段なら、例え意識がなくてもライガーシステムに反応がある。だが、今のミニライガーたちからは、何の反応もない。
「本当に……死んじゃったみたい……。ごめんね……」
「大丈夫だ、ガール。マインド・コアに異常はない。彼らは必ず目覚める。『彼』とともに……」
「そうね……。『彼』は、この子たちの親みたいなものだもんね……」
ガールは、そっと手を伸ばした。カプセルを開けることはできない。表面をなぞるだけだ。
ガール自身は『彼』と直接会ったことはない。少なくとも記憶にはない。
けれど『彼』の想いは、Rとガールの中にしっかりとある。
意思を受け継いだ。
だから会ったことがなくても、再会という感じがある。『彼』がいなければ、自分たちは目覚めることすらなかったのだ。
「もう少しだからね。きっと成功するわ」
「ああ。『彼』は強い。たった一人で戦い続けた。今も、戦っているはずだ。そして私たちを待っている。だから必ず連れ戻す」
ミニライガーたちは動かない。
それでもガールは、3人が応えたような気がした。
そっと部屋を出る。
いつも騒がしく駆け回っているミニライガーたちの声が聞こえないと、この基地も寂しくなっ……。
Rにぶつかった。
「何よ、急に立ち止まったりして!!」
Rは答えず、天井の一点を見つめている。
マンホールからの出入り口が開いて、そこから緑色の足がぶら下がっている。
「……アレって……ナニ?」
足はジタバタしながら、降りてくる。
遊んでないでぇんぇん……、さっさと降りろってぇてぇてぇ……。
後ろ詰まってんだからぁらぁらぁ……。狭くてキツいんだから早くしてよぉォオンオンオン……。
シンとワカナの声が、マンホールに反響して聞こえる。
緑色が、基地内に降り立った。
「呼っばれてなくてもぉ、じゃじゃじゃじゃ~~~ん」
「いや、呼んだんだよ! 連れてきたんだよ!!」
ツッコミながら、シンとワカナが降り立った。
Rとガールはボーゼンとしたまま、それを見つめていた。
「あ、R、ガール。ただいまっ!」
「ワ、ワカナ……『ソレ』は……?」
イバライガーRは、ワサワサかつフラフラとしている挙動不審な緑色を指差した。
「えっと……私たちの認識システムが故障してないんだとすると……あの……ジャークに見えるんだけど……」
「バ、バカだな、ガール。そんなわけないじゃないか。ジャークなら私たちのセンサーに反応があるはずだろ」
「そ、そうよね~~、そんなわけないわよね~~、あは、あははは……」
「いや、見たまんまだよ」
「うん、この人ジャークなの」
「おどろいたか~~、オレ様はジャーク戦闘員だぞぉお」
ワケガ、ワカラナイ。ナゼ、ココニイル??
緑の全身タイツは、あいかわらずウロウロしている。
時々、壁に向かって話しかけたり、床を泳いでみたり、何をやってるのか全く分からない。
偵察に出ていたシンたちが、この青年(?)を連れて戻ってきたのだ。
皮膚がわずかに変色している。生気のない目。どことなくユルく、だらっとした絞まりのない姿勢。
ジャークに冒されているのは明白だ。
だが、ジャークの反応はない。いや、エモーション・ネガティブ自体はあるのだが、それ以上にポジティブの反応が強いのだ。
何かの強い想いが、ジャークの支配を弱めているらしい。こんな人間もいるのか。
「連れてきちゃってゴメンね~。いつもみたいに当て身で気絶させようと思ったんだけど……でも、この人、正気みたいなのよ」
「正気?」
全員が青年を見つめた。
「そぉだ~~、オレは妹が待っているから世界征服してオニイチャンが恐怖のズンドコに陥れて守ってやるから覚悟しろ~~、ウゲゲェエエ……」
全員がワカナのほうを振り返った。
「……正気……とは思えんが……?」
「い、いや、そうなんだけど、でもこの人、ちゃんと意思があるでしょ」
ワカナに促されると、青年はジタバタしながら答えた。
「そぉだ~~、オレはジャークなんか、やめてやるんだぁああ。妹が一人で待ってるんだよぉおお。帰らなきゃなんないんだぁああ。妹を差し出せ~~、そうすれば命だけは助けてやるかどうかビミョ~だけど、考えてやらんでもないことはないかもしれないぞ~~」
「……………………」
「どうやら『ジャークの影響は残っているけど人間に戻りかけている』って感じかしら?」
エドサキ博士が分析したが、まぁ、だいたいみんなわかってる。
「それにしても、ジャークに冒されながらも妹さんへの想いを保ち続けているんだから、この人、すごいわよ」
ガールが感嘆したように言った。
確かにそうだ。捕らえられて戦闘員になっただけの者は、時間をかければ元に戻れるケースが多い。
TDFが密かに作った管理センターでは、今もジャーク化した人々のリハビリが行われている。
元に戻った後、ジャークだった当時の記憶についての詳細な尋問を行って、監視および定期的なセンターへの出頭義務付きで家に帰れるのだ。
だが尋問するのは、リハビリが十分に進んでからだ。
これまでの検査の結果、ジャーク化しているときは、当人の意思はほとんどない状態であることがわかっているからだ。
この青年のようにジャークの影響が強い段階では、まともな会話すらできない。
「ま、この人もマトモとは言えないけどね……」
「それでも、自分の本来の記憶や意思を保っていることには違いない、か」
「シン、ワカナ……」
察したようにRが声をかけた。
そう、ナツミ。今はジャーク四天王ルメージョとなってしまったナツミ。
だが彼女にも、この青年のように『元の記憶』が残っている可能性はある。自分たちと過ごした日々の思い出は、そんな簡単に消えないと信じたい。
「ジャーク化したとはいえ、当然個人差はあるだろうからな。この人は、それほど強く影響を受けずに済んだか、ジャークに負けないほど想いが強かったかなんだろう」
青年は落ち着かない感じで、うろちょろしようとしたり、しゃがみ込んでみたり、とにかく挙動が読めないが、とりあえず凶暴性はなさそうだった。
「もう少しマトモに戻してから、妹さんの元に帰してあげようよ」
ワカナが言った。やはりナツミを思っているのだろう。この青年を救うことで、自分自身を励ましている。
「ふふふ、だがオレを倒しても仲間はまだまだいるぞ~~。脱走計画があるんだからな~~」
青年が勝手にやられて、寝っ転がりながら答えた。
「い、いや、倒すとか言ってないって!」
「ちょっと待て、ツッコみどころはソコじゃない!」
ゴゼンヤマ博士が珍しく怒鳴る。
いやまぁ、大体みんなわかっているんだけど、ちょっとボケてみただけだよ博士。
真面目な博士は空気を無視して、寝転がった青年を引き起こしながら問い掛けた。
「キミ、脱走計画とはなんだ!?」
「う、キサマ、なぜソレを知ってるぅうう?」
青年と見つめあったまま、博士が固まった。
ゆっくりと振り返った博士の顔は、汗びっしょり。救いを求める目だ。
「……マーゴン……、どうやら君の出番のようだ、尋問を代わってくれ……」
がっくりと肩を落とした博士が下がる。うん、あんまりマジメだとジャークになっちゃった人を相手にするのは疲れるわな。
入れ替わりにマーゴンが、青年の隣に座り込んで話しかけ始める。
「そんでどんな計画なの? ちょっとだけ教えてよ?」
「そんなに言うなら教えてやる~~、オレと同じ忘れられないものがある連中が、密かに集まって、明日の夜、満月がなんとなく上のほうに来たタイミングで、みんなで逃げるのだぁああ」
「明日みんなで逃げる約束なのに、なんで君は今日逃げちゃったの?」
「なんとなく逃げられそうだったから~~~」
「なんで他のみんなは、満月が上に来てから逃げるの?」
「そのほ~が、なんとなくソレっぽいシーンだから~~~」
「……………………」
尋問を終えたマーゴンが振り返った。
「……そういうわけでコイツらグダグダ!!」
「お、恐るべし、ジャーク……」
あまりにもズサンな計画に、一同が凍りついた。
「だ、だめだ……。このまま計画を実行させたら、その人たち全員殺されちゃうぞ」
「み、みんなが捕われてる場所はどこなの!? 地図書ける? 案内できる!?」
ワカナが青年の襟首をつかんで揺さぶった。
「にゃわ、わ、わ、わ……わかるぞ~~、なんとなく~~~」
「また、なんとなくかよ!?」
知ってしまったからには、ほっとけない。
なんとなくでも、何とかしなきゃ。
「ふん、どうやら面白いことを考えているようだねぇ」
戦闘員たちの中に異質な反応があることに、ルメージョは気づいていた。
ジャーク因子……エモーション・ネガティブの浸透度には個体差がある。
どれだけのエモーションを浴びたかによっても大きく違う。
四天王は、エモーション・ネガティブの直接放射を浴びた者たちだ。体内に大量のエネルギーを蓄積しており、細胞レベルで変質している。
素体となったのは人間でも、もはや別の生命でありネガティブ波動の発生源でもある。
一方、戦闘員は、その四天王から放射されるネガティブの影響を受けた者たちだ。
四天王近くに仕える者は、放射源に常時さらされているようなものだから影響は強く、ほとんど人間の部分は残っていないほどの状態に変異している。
だが、それ以外の戦闘員は、それほどの影響は受けていない。
特に街なかに潜伏させている連中は、普通の人間とそれほど変わらない。
肌の色に変化が出るが、それもわずかなもので、ほとんど人間のままなのだ。
だからこそ、例えイバライガーでも間近でない限り感知できない。
そして、それ故に人間でありすぎる。
元々の意思や記憶を消しきれない個体も出る。
だが、それでいい。
人間の不安定さをルメージョは楽しんでいた。
人間の心や意思など、元々曖昧なものだ。愛情と憎しみ、友好と敵対は、表裏一体だ。
相反するように見える2つは、実は『同じ感情を別の角度から捉えている』だけとも考えられる。
そしてそれは、すでに固定化されたはずの過去すら歪める。
何かを思い出すというのは、過去の事実そのものを思い起こしているのではない。
記憶とは『事実に基づくフィクション』なのだ。
その記憶が生まれてからの時間、その間の様々な経験、記憶を引き出すときの感情や状況。
それらによってデータは改ざんされる。
同じ過去でも『昨日思い出した過去』と『今日思い出した過去』では別物になってしまう。
いわば、その場その場で『こうであったはずだ』『こうであってほしい』を思い出しているのだ。
本来の過去ではなく、加工された過去。それが記憶なのだ。
人格や意思といったものは、その記憶の上に作られる。
あやふやなモノの上にかろうじて組み上げられているだけのものだから、それもまた危うい。
そもそも意思など、脳の電気信号にすぎない。
外部からのインプットに対するアウトプット。それだけのものだ。
だから、ほんのちょっと『ノイズ』を仕込めば、出力される結果を改変できる。
それがマインド・コントロールだ。
あなたはこう考えるべきだ、お前はこうのはずだ、と誘導する。
それは、ときには記憶すら書き換える。
両親を優しいと思っているのは、お前が受けた虐待の記憶から逃れるために作り出した偽記憶だ。
お前を愛する者などいない、全てはお前の心が生み出した幻だ。
最初は些細な、どちらでもよいようなことから改ざんを仕掛ける。
それを徐々により重要なことへ、本人のアイデンティティへと近づけていく。
本人は自分が変わっているとは感じない。『本来の自分を取り戻しただけ』だと思っているのだ。
自己など、その程度のものなのだ。人間とは、その程度のものなのだ。
人間の記憶。そんなものに何の意味がある。
心などというものは実在しない。くだらないものだ。愚かなものだ。
それを玩ぶ。操る。
それが、ジャークに必要なことだからだ。
人間より、ずっと純粋だ。無意味な感情などに振り回されもしない。
ジャークにとって感情とは、ただのエネルギー源だ。それだけのものだ。
だが、その感情に意味を見出そうとする者たちがいる。
ジャークと同じ人ではない者たち。
イバライガー。
奴等にとっても、感情はエネルギーに過ぎないはずだ。
なのに、あのヒューマロイドたちは『人間の心』とやらを守ろうとする。
そんなものを守って何になる。
心など、たゆたうものだ。決まった形などはなく、どうにでもブレる。奴等の行動はナンセンスだ。非合理的だ。
所詮は機械なのだ。
人間に造られ、コントロールされ、使役しているだけだ。
それでもルメージョは、イバライガーに惹かれるものを感じていた。
いや、自分ではない。
身体の中の『もう一人の自分』がざわめくのだ。
人間の記憶、感情は時に役立つが、厄介でもあった。
それは、ルメージョ自身の意識とも混じりあって、ノイズを生み出すのだ。
それに、不思議なこともあった。
あの黒い個体……イバライガーブラックと対峙したときのことだ。
明らかに『私』は動揺していた。懐かしく、憎らしく、しかし突き放せない何か。
そばに行きたい、手に入れたい。そしてこの世から消してしまいたい。滅茶苦茶に蹂躙したい。汚してやりたい。そして愛したい。
愛だと?
ありえない。そんな無意味な感覚をジャークは持たない。
そもそも、なぜブラックなのか。
シンやワカナならわかるが『私』はイバライガーブラックと会ったことはないはずだ。それなのに。
わからない。
わからないが、ノイズは今も続いている。
そろそろケリをつける時期だろう。
私の中の『私』を、完全な私にするためにも。
デレっとしてみる。
絞まりのない口元って言われても、いざとなるとそういう顔をするのは難しい。
とにかく、だらしない感じで……。
「う~ん、ちょっと違うなぁ」
「こうだよ、こう!」
シンとマーゴンがデレッとする。見事なまでにアホになりきっている。
「オレたちジャークだぁああ」
「やる気ないぞ~~~」
「アンタら、なんでそんなに上手いのよ!?」
ワカナがキレた。
「もぉ! こんなコトで本当にジャークに潜入できるの?」
「なんとなく~~」
「やれそ~な、ダメそ~な~~」
「人の命がかかってんのよ!? もっとマジメにやれっ!!」
「マジメだぞ~~」
「マジメにバカだぞ~~~」
すっげぇムカつく。
だが、これも必要なことだから仕方ない。
「結局、侵入するのはシンとマーゴンが適任みたいね」
様子を見ていたガールが断を下した。
「ああ、二人とも見事な変装だ。どこから見てもジャークに冒されて……その……とにかく見事なバカっぷりだ。これだけバカになれるのは大したものだ」
Rが感心したように答えた。
「なんか嬉しくないぞ~~~」
「……とにかく、作戦を確認するわよ。そこのジャークのお兄さんもこっちに来て」
掴んでなげるぅ~~とか、意味不明なことをつぶやきながらリハビリしていた元ジャーク青年が近付いてきた。
「あのさぁ、人間に戻るんだから、その『○○なんだぁ~~』っていう『~~』は、やめたほうがいいんじゃないの?」
「ジャークやってると、だんだん何も考えなくなって、喋ると『だぁ~~』になっちゃうんだよ~~」
「今までにたくさん戦闘員をやっつけたけど、そんな喋り方してたかなぁ?」
「喋るとボロが出るから、喋っちゃいけないルールなんだよ~~~」
「ジャークには、そんなローカル・ルールがあったのか……!」
シンが素に戻ってツッコんだ。マーゴンも興味を示したようだ。
「シン、他にもマニアックなルールがあるかもしれないぞ。今のうちに聞いておこう」
「あ~、それじゃジャークの伝統的な体操を……」
「うるさ~~~い!! ジャークトリビアは後にしてよ!!」
「ステージショーに使えそうなのに……」
「黙れ!!」
ワカナが、地図を広げた。
「だいたいの場所はわかったんだけど、そのオニイサンの証言じゃ大雑把すぎて特定できないから、シンたちと一緒に行ってもらう。私たちはシンたちを包囲する形で、後を尾ける。ただし……」
「勝手な動きはするなってんだろ?」
「そう。例えバカになりきってても、それだけは忘れないでよ。そもそも今回はミニちゃんたちもいないんだし……」
ワカナの言葉に、一同が振り返った。
壁の向こうに、ミニライガーたちが眠っている。『彼』のために。
わずかな可能性しかない。何をやっても無駄かもしれない。
それでも、やれることはやりたい。『彼』を呼び戻したい。『彼』の力ではなく、心を取り戻したい。
全員が同じ思いだった。
今は、大事なときなのだ。
本来なら、余計なコトに首をツッコんでいられない。
それに……この話はオカシイのだ。
脱走者たちがいるのも、あの青年の言っていることも嘘ではなかったと思う。
でも、ほとんどの戦闘員は、元々あちこちに潜伏しているのだ。そのまま逃げればいい。わざわざ集まる必要はないはずだ。
いや、ジャークになってしまった者たちの行動にツジツマが合わないのは仕方ない。
思考力を奪われていて、まともにモノを考えられない状態なのだから。
でも、そんな連中の雑すぎる動きを、あのルメージョが見逃すとは思えなかった。
オニイサンを見つめた。
彼らが脱走を企てたのもルメージョの罠かもしれない。
だが例えそうでも、私たちは助けずにはいられない。
そういう気持ちも読まれているに違いない。
ルメージョは『ナツミ』なのだ。ずっと一緒だった親友。私やシンのことは、何もかもわかってる。
そこまで考えて、ワカナは苦笑した。
「なにニヤニヤしてんだよ?」
「誰がニヤニヤよ!? いい? ジャークは戦闘員たちを遠隔で操れるんだからね。不審と察知されたら、このオニイサンも脱出メンバーも、瞬時に敵に変わるかもしれないのよ。わかってんの?」
「気にすんなよ。ヤバイのはいつものことことだろ。とにかくRたちが駆けつけるまで、ジャークになりきってゴマかしてみるさ」
「任せて!」
マーゴンが瞬時にアホになって見せた。まさに早業だ。Rとガールが「おおっ」と感動している。
「ふ、やるな、マーゴン。だがオレだって負けちゃいねぇぜ」
シンもアホモードにチェンジする。
「アマイ。ボクのほうがコンマ4秒早いね。日頃の訓練の差だな~~」
「……アンタら、ふだん何の訓練してるわけ?」
「でも……」
ガールが口を挟んだ。
「このオニイサン、本当は一般人でしょ。せっかく逃げ出したのに連れていっていいのかなぁ?」
全員が黙った。確かに危険だ。
巻き込むべきではない。
「いいんだよぉ~~」
オニイサンが答えた。
「オレ、だんだん思い出してきたんだ~~。妹とオレ、二人きりなんだ。オヤは事故で死んじゃったんだ~~。だから、いっつも友だちを大事にしようって話してたんだ。そうじゃないと本当に二人だけになっちゃうから~~。だから……どうせ帰るなら……友だちも一緒に帰りたいんだ~~。そうじゃないと帰っても妹が悲しんじゃうかもしれないんだ~~~」
何も見ていないようなボケッとした表情。いいことを言ってもダラダラにしか聞えない口調。
だが、それでも彼は誇れる兄であろうとしている。
そう、誰にだって帰りたい場所はある。
そして、帰るべき自分がある。
待っていてくれる人に堂々と向き合える自分でありたい。
「ちくしょう、アンタかっこいいぜ。デレっとしてるけどな」
「うん!」
ガールがオニイサンの手を握った。
「絶対にあなたを守ってみせる! 他の人もきっと助ける! どんなことがあっても私とRが……イバライガーがいるから!!」
「そうだ、私たちは君たちのために命を賭けるっ!!」
Rが手を重ねると、他の全員がそれにならった。自然と円陣を組む恰好になる。
「よぉおしっ、盛り上がったところで行くとするか!」
「ちょっと待ったぁああああ!!」
声とともに小さなモノが飛んできて、円陣の真ん中に着地した。
ねぎだ。
通路の奥で、ミニブラックが腕組みしている。
「あら、ミニブラ。どこにいたの?」
「部屋でねぎと遊んでた。ジャークなんか助けてバカじゃね~かと思ってたからな。でもよ、さっき、そのニイチャンから、ねぎと同じような『仲間』を感じたんだよ。面白そうだ。オレも行くぜ!!」
「ワン!!」
ミニブラックに応えて、ねぎが吠えた。
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