小説版イバライガー/38話:家族の肖像(後半)

2019年7月27日

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Bパート

 作戦の朝が来た。
 ナツミはいつも通りだ。みんなで朝食を摂り(あのミニたちと一緒に)、シャワーを浴びて(あのミニたちと一緒にぃい!)、着替えて(あのガキどもと一緒にぃいいいいい!!)、待機(あのガキ……以下同文)している。

 ナツミたちは、基地から歩いて出かける。ルートはあらかじめ決めてあり、人気の少ない場所を選んで進む。元々、この基地は畜産試験場だったため郊外にあり、周囲に人家は少ない。他の研究機関は点在しているが、どこもジャーク事件が公表されて以来、閉鎖されている。すぐそばの主要幹線道路も通行量は激減し、普段なら定期的に手入れされている中央分離帯の植え込みも雑草が伸び放題になっている。
 イバライガーたちは、すでに移動ルートの各地に分散して待機しているはずだ。自分も、受け持ちエリアがある。そろそろ出発しなくてはならない。

 だが、本当にいいのか。もしものことがあったらどうする。ブラックの策だというが、そこが気に入らない。あの冷徹な奴が考えたことなのだ。ガードをつけたとはいえ、本当はナツミの危険など考慮していないのでは。
 もし、そうだったら許さん。俺は貴様らの仲間などではない。任務でここにいるだけだ。ナツミを守るためにいる。それを邪魔するのであれば、たとえイバライガーブラックであろうとも倒す。どこかで俺のエモーションを感じているはずだ。本気だぞ、わかったかブラック。

「ほい」
 玄関ホールに出た途端に、突然何かを投げられた。牛乳パック?
「そうカリカリしてちゃパワー出ないよ~。カルシウム補給してさ、気楽に行ったほ~がいいぞ」
「そ~ですよ、ソウマさん。はい、クッキーも。朝食あんまり食べてなかったでしょ?」
 マーゴンとカオリだ。こいつらに気を使われてしまったのか。しかも食欲魔人としか思えない女から食べ物を受け取ってしまった。それほど俺は頼りなく見えていたのか。
「ほらほら、またマジになってる~~。大丈夫ですって。ネアカじゃないとエモーション・ポジティブ増えないんですよ? ナツミさんを守りたいなら、なおさらボケておかなきゃ」
「その方面ならボクがとことん教えてやるぞ~。なんなら弟子入りしてもいいぞ。マネージャーとか付き人とか欲しかったんだよね~~」
 やかましい! と怒鳴りそうになるのをグッとこらえた。口惜しいが、落ち着け。アルファ波が充満するくらいリラックスしたほうがエモーションが強まるのは事実なのだ。ただしボケはやらんぞ。マネージャーや付き人は地球が滅亡しても断る。
「とにかくボクらもサポートするから、ナッちゃんを頼むよ。まぁサポートっていっても今のとこは応援くらいしかできないんだけどさ」
「いっぱい食べて、エモーションいっぱい送ります!」
「ふ……わかった。精一杯ボケてエモーションを送ってくれ。牛乳とクッキーはもらっていく」

 外に出て、指揮車に向かった。PIASが待っている。
「頼んだよ~、ソウマちゃん」
 この声。今度はワカナか。
「ボケはもういらんぞ。肩の力はもう抜けた」
「そう言わないでよ。私だってナツミが心配なんだから」
「それなら情報をしっかり送れ。ヤバイと思ったら俺は動くぞ。お前らが止めてもだ」
「だよね~。愛しのナツミを守る王子様だもんね~、けっけっけ」
「うるせぇ! そんなんじゃねぇ!!」
「今さら隠しても無駄だってば。いいじゃん。応援するよ私は」
「ほんとか?」
「あのナツミを落とせるかどうか。もう超おもしろい! 話題沸騰! 久々においしいネタだもん~~」
「やっぱ消えろ、お前!」
「じゃあ頼むね。帰ってきたらナツミの好きなものとか、どんな映画に誘えばいいかとか色々教えてあげるから頑張ってよ」

 ワカナが駆け去っていった。
 ったく、どいつもこいつも、ここの連中は。

 ナツミの好きなものだと? 映画に誘うだと?

 ……本当に教えてもらえるのか?

 


『5、4、3、2、1……作戦スタートです!!』
 カオリの声と同時に玄関のドアが開いた。物々しく配備されたTDF隊員たちの間を縫って、ナツミたちが外に出ていく。TDFは今回の作戦には参加しないが、イバライガーたちが出払って基地のガードレベルが著しく低下しているため、非常態勢を取っているのだ。カオリは彼らの野戦テントに出向して、こちらとの連絡役を担当している。

 ワカナはマーゴン、シンと一緒にモニタに見入っていた。エドサキ博士とゴゼンヤマ博士は、後ろで腕組みしている。
 周囲の映像は、ミニブラックとミニRが送ってくる。ナツミには自分が使っているヘッドレシーバーを貸したから話もできるけれど、緊急時以外には直接通話は避けることになっている。ルールなんか無視して無駄話とかしてあげたほうがいいんじゃないかと思ったけど、ナツミは真面目だからノッてこないだろうなぁ。
 それにしても……。
 てくてくと歩いていくナツミと二人のミニライガー。もしも誰かに見られたときのことを考えて、ミニたちには麦わら帽子をかぶせマントで体を覆わせたけど、正直めっちゃくちゃ怪しい。

「あからさまな罠だなぁ。こんなのに引っかかると思う?」
「引っかかるさ。ブラックが言ってただろ。モラクルは自分の身を守ることは考えていない。ナッちゃんを殺せると判断すれば、例え破壊されても突っ込んでくるよ。俺はモラクルと一緒に行動することが多かったからわかる。改造されてるとしてもモラクルはモラクルだ」
 シンがモニタから目を離さずに答えた。わかりきったつまらない答えだ。やっぱり緊張してる。ちゃんと受け答えできているけど、意識はナツミに集中してる。ちょっと気になったけど、コイツはそういう奴だし、私もそのほうがいい。

「……あの頃のことは覚えてないのかな?」
「わからない。でもナッちゃんの話では、OSそのものは残してあるらしいから覚えてる可能性はあるな。ルメージョのプログラムに支配されて、自分で自分を制御できなくなってるんだと思う」
「そうだとしたら意識があるってことだよね……ルメージョだったときのナツミと一緒か……かわいそうだな……」
 モラクルには、イバライガーたちのような自我は与えていない。ヒューマロイドには違いないが、自立型のAI搭載というだけで、それも高性能なパソコンといったレベルだ。
 それでもワカナは、モラクルを道具と思うことはできなかった。たぶん、ナツミもそう思ってる。人ではなくなってしまった者たちの中に囚われていたからこそ、その想いは自分より強いかもしれない。姿形がどうあれ、彼らだって生きている。人とは生まれ方が違うだけだ。

「感傷的になるなよ? 気持ちはわかるが、今のモラクルは危険な敵だ。無事にナッちゃんが帰ってくるまではクールでいろよ」
「わかってるよ。そっちこそ冷えすぎて大事なことを見落とさないでよね」
「大丈夫、ボクが見てるから。現場でいつもドッカンバッキンやってるお前らと違って、ボクは見る専門だからな。バリボリ」
「ちょっと! 煎餅のカケラをコンパネに落とすな!!」
「気にすんなバリボリ」
「気になるわバリボリ!!」
「お前らなぁ……バリボリ」
 つい全員で煎餅を頬張ってしまった。でもまぁ、落ち着いたか。
 こういうときのマーゴン、絶妙だよなぁ。バカだけど。

 アホな会話してた間に、ナツミたちはだいぶ進んでいる。すでに3キロ近くは離れた。動きはまだない。元々人通りの少ない幹線道路の歩道を、不恰好な麦わら帽子二人と、ボディコン美女の謎トリオが進んでいく。

『こちらRだ。目標は今、私のエリアに入った。ガールは次のエリアに移動し……待てガール、止まれ! 他のみんなもだ。この感じ……来ている。まだ捕捉できないが……近くにいるぞ!』

 緊張が走り、ワカナはモニタに向かって身を乗り出した。
 手のひらがチクチクする。コンパネに散らばった煎餅のカケラのせいだ。

 本当に出てきた。来てしまった。シンが不慣れな手つきでコンパネを操作しようとして、割り込んできたエドサキ博士に押しのけられた。超速操作で全員の現在位置をチェックしていく。恐らくモラクルも、みんなの位置を測っているはず。その上で、全員から最も遠い場所で仕掛けてくる。
「さすがね、モラクル。あと約100メートル。そこなら誰が駆けつけたとしても数秒だけ遅れる。脱出は不可能だけど、目的を達成できる可能性のあるピンポイント。間違いなくソコを狙ってくるわよ」

 数秒、出遅れる? ジャーク相手に? 永遠と同じじゃないの? やっぱり止めればよかった。ブラックは何してんの!? ここまで仕切ったくせに肝心なときに姿を見せないなんて無責任じゃん!

 落ち着けワカナ。ナツミが必要だと言ったのはブラックだ。手を打ってないはずがない。アイツはそういう奴だもん。
 ナツミたちが歩いていく。ピンポイントまでもう20メートルを切った。さっきまでと同じに見えるけど、アラートは伝わってるはずだよね。
 頼むわよ、ミニたち。

 


 麦わら帽子とマントを投げ捨てた。もう変装している場合じゃない。

「始まりますよ、ミニブラ。恐らく距離は800メートルくらい。方向はわかりません!」
「ちっ、使えね~な。場所くらいわかれよ!」
「人のせいにしないでください! あなただってわかってないじゃないですか! とにかく二人で前後を固めますよっ!!」
「うっせぇ! オレ様に命令すんな!!」

 ミニブラは、まだ麦わら帽子をかぶったままだ。やっぱりコイツはダメだ。任務をわかっていない。2日も一緒にいたのに、まだナツミさんを疑っているのか。当てにならない。私が盾になるしかない。
 そう考えて、ミニRが前に出ようとしたときだった。

 気配が弾けた。右。しかも速い。カウンターは……追いつかない。ミニブラの帽子が飛んだ。無理だ、間に合わない。ガードだ。エモーション・フィールドを全開にして抑え込むしかない。
 衝撃。なんとか止めることができた。いや、刃が食い込んでくる。なんて無茶な奴だ。無理すれば腕が引きちぎれるはずだ。それでも押してくる。大丈夫、まだ耐えられる。
 押してくる力が弱まった。ミニブラもフィールドを展開したようだ。遅い。今まで何してたんだ。けど、これで取り押さえされる。このままフィールドで包み込めば捕まえることもできる。

 そう思った瞬間、別の気配を感じた。なんだ、これは? 奴の背後……いや背中。触脚みたいなものが何本も飛び出してくる。見覚えがある。カンナグール。アレと同じものが体内に潜んでいたのか。まずい。あのときはRと二人掛かりだった。それでも押されていた。ブラックでさえ、止めきれなかった。アレが同性能なら、ミニブラと二人ではパワー負けする。

 ダメだ。ナツミさん、逃げて。いや、それもダメだ。彼女では追撃をかわせない。援軍はまだ来ないのか。まだ数秒さえも経ってないのか。
 触脚が、さらに増えた。全方位攻撃が来る。左右はともかく頭上まではカバーしきれない。ダメだ、やられる。

 


「うぉおおおおおおおおっ!!」
 アラートが鳴った瞬間に、ソウマはウイングを展開し、全力で飛び出した。
 ミニRたちからの情報はキャッチしている。予想以上に強い。ピンチだ。それでも、まだ間に合うはずだ。エネルギーを使い果たしてでも、間に合わせてみせる。

「ダメだ、ソウマ。まだ動くな」

 突然、目の前に真紅のイバライガーXが現れた。アケノ隊長? なぜここに!?
「ブラックから話は聞いている。状況もわかっている。だからお前を止めに来た。動くな」
「何を言ってるんです、彼女が危険なんだ!!」
「わかっている。だが、ここは通せん」

 どういうことだ。やはり俺たちには知らされていない裏があったのか。だが、そんなことは今の俺には関係ない。
「ふざけるな! あんたを倒してでも俺は行くっ!!」
 本気だった。パワーを集中しろ。相手は、あのアケノだ。もしかしたらジャーク以上の化け物だ。

「ふ、エキスポ・ダイナモ全開か。本当にナツミのために力を引き出しているようだな。これは手強い……」

 くっ。余裕のつもりか。知ったことか。俺は行く。何がなんでもだ。
「どけぇえええええええ! アケノォオオオオオオオオッ!!」

 


 ソウマの元にはアケノか。そして、こちらには……。

「悪いな。そういうことだ」

 目標まで1キロ、別方向から来たRやガールとの合流地点。そこにイバライガーブラックが待ち受けていた。
 昨日、Rから話を聞いた時点で、予想はしていた。我々を止めるということは、相当の確信を持っているらしい。Rも身構えてはいない。
 そうか、お前たちには見えているのか。

「そっちも色々と仕込みはしていたようだが、それは使うな。そして、ここで見守ってろ」
「……わかった。見届けさせてもらおう。ただし、お前たちの思惑が外れたと判断したときは動くぞ。そのときは邪魔をするな」
「いいだろう。外れたら、だがな」

「ちょ、ちょっと初代!? 何言ってんのよ? Rもなんか言ってよ! ブラック、どういうつもり? ナツミを助けるんじゃないの!? 邪魔するならっ……!!」
「俺も倒すか? 面白い。が……今は落ち着け。ここはお前らが出しゃばるところじゃねぇ。あいつらに任せな」
「何言ってんのよ!? 押されてるじゃん! ヤバイでしょ!?」
「ヤバイのは、こちらも同じだ。わからんのか。あの女はただの女じゃない。ジャーク最強の四天王の一人、ルメージョだった女だ。出来損ないの人形ごときに倒せるとでも思ってるのか」
「で、でも……今は普通の人じゃん!?」
「いや、そうでもないようだ。ガール、見ろよ」
 Rが指差し、ガールが振り返り……動きを止めた。
「え……ええっ!? 何あれ!? あれは……あんなことが……!?」

「1つめの覚醒が始まったな。だが、まだある。もう1つ、目覚めるものが」
 ブラックも振り返った。なるほど。あれがナツミさんの力か。

 だが、あれだけでは止めきれまい。
 もう1つ。ブラックが確信し、Rが予想したもの。
 今は自分にもわかる。ガールも同じだろう。感じられる。すでに始まっている。
 初代イバライガーは、身体の力を抜いた。
 もしもに備えてナツミのルート周辺にはNPL結界を仕込んであったが、もはや必要あるまい。

 


 触脚が弾き飛ばされた。
 なんだ、誰が? 自分もミニRも動けなかったのに。

「私が、支える。二人とも、下がりなさい」

 なんだ、これ? ナツミの……エモーション・フィールド? でもこれは……ポジティブじゃねえ。ネガティブ!? いや、ポジティブも感じる。どういうことだ。右腕はポジティブ、左腕はネガティブ。バカな。ポジティブとネガティブを同時発動してるってのか? そんなことできんのかよ!?

「私の中には、まだルメージョの因子が残ってる……だからこそ、できる。力は弱いけど、あなたたちが逃れる間くらいは持たせてみせる。逃げなさい!」
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!! オレたちはお前のボディガードだぞ。それが逃げてどうすんだよっ!?」

「子供はね……生きなきゃ……ダメなのよ……。絶対に……大人より先に死んじゃ……いけない。生きて……大きくなって……また次の子供を守る。そういう……ものなの……」

 お、おい……やべぇぞ、それ。パワーが限界ぎりぎりじゃねぇか。
 すげぇ能力だけど、これじゃ長く持たねぇぞ。

「子供って……私たちはヒューマロイドですよ!? 人間の子供と同じ体型でも人間じゃない。その機械と同じで……」
 ミニRが、叫んでやがる。そうだ。てめぇは嫌いだけど、てめぇの言う通りだ。
 オレたちは人間じゃねぇ。子供でもねぇ。子供に見えるだけだ。

「違う! 姿なんかどうでもいい!! 生まれも関係ない!! あなたたちは子供。私は大人。弱くても、怖くても、大人は子供を守るの! ワカナだって……シンだって……他のみんなだってそうしたはずよ。私は、その友達なの。子供を傷つけさせはしないわっ!!」

 な、なんだ、この女……。オレに逃げろってのかよ。お前を置いてきぼりにしてかよ。

 ちくしょう。ちくしょう。なんだよ、弱いくせに。人間のくせに。
 その右腕のエモーション、マジじゃねぇか。本気でオレたちを守るつもりかよ。封印してたルメージョの力まで使いやがって。

 くっそぉおおお、この人間は殺させねぇ! 裏切り者かどうかなんか知ったことか!! 子供だっていうならそれでもいい。ここは引けねぇ。ガキにはガキの意地があるんだ。援軍もいらねぇ。この人間はオレが……オレたちが助ける! 何がなんでもだ!!


 子供……私たちを子供と呼んでくれた。人間じゃないのに。ヒューマロイドなのに。
 それでも、子供と呼んでくれた。本気で私たちを守ってくれた。

 なんだ、この気持ち。
 ノイズが走る。視界が歪んでるような気がする。

 涙?

 そうだ、私は泣いているんだ。
 私たちは泣けないけれど、それでも泣いている。たぶんミニブラもだ。

 死なせない。この人は絶対死なせない。私たちを子供だと思ってくれる人を失いたくない。
 そうだろ、ミニブラ!!


「うぉおおおおおおおおっ!! 行くぞ、ミニR!!」
「ああっ、ミニブラ!! 私たちの力の全部を……ナツミさんのためにっ!!」

 想いが重なる。私とミニブラの……オレとミニRの意識が混じり合う。

 使命なんかじゃない。
 自分のためでもねぇ。

 オレは……私は……

 この人を……守るんだぁああああああああああっ!!

 


 さっきのエモーションは、間違いなくナツミだった。
 俺の想像を超えた力だ。彼女にあれほどの奥の手があったとは。
 だが、今のこれは……。

 何が起こっている? この凄まじいエモーションはなんだ? まるで嵐だ。シンとワカナ……ではない。ましてマーゴンやカオリのボケの力などであるはずもない。

 耳元で、声が聞こえた。
「見ろ、ソウマ。もう一人……いや二人、お前と同じやつが目覚めたぞ」
 声が遠のき、身体が軽くなったのを感じてようやく、自分が羽交い締めされていたことを思い出した。

 アケノはイバライガーXを解除して、地面に寝転がっている。ボロボロだ。あれは俺がやったのか。覚えていない。

「ふ、賭けは成功だな。これほどとは思わなかったが」
「隊長……あれは何です? もしやハイパーイバライガー?」
「いや、違うな。あれはバロムクロスだ。お前の歳じゃ知らないだろうけどな。ミニブラとミニRの力が共鳴しあって増幅している。つまり……」
 アケノは言葉を区切って、身体を起こした。

「……あれは、ミニライガー同士のオーバーブーストだ」

 


 触脚をつかんだ。引き剥がす。押し返してくるが、私たちはもう負けない。
 おうよ。ナツミには、1ミリも近づかせねぇ。

 全身に力がみなぎっている。これがオーバーブーストか。
 今まで手伝うばっかりで自分で発動させたことはなかったからな。ちくしょう、ブラック。こんなすげぇモンを独り占めしていやがったかよ。

 おおりゃぁああああああ!!

 タイミングを合わせて、二人同時に連続蹴りを叩き込む。吹き飛んだダークモラクルを追って疾る。身体は2つだが、もうどちらがどちらの思考か、わからない。構うものか。どっちでも今は同じだ。オレたちは……私たちは……1つになっている。
 腕を掴んだ。引きちぎってやる。
 そう思ったとき、何かが流れ込んできた。

 

 壊せ。私を壊せ。
 ようやく見つけた。マスター・ワカナが見せてくれた写真の女性だ。
 シン、ワカナ、マーゴンと一緒に写っていた女性だ。

 ナ……ツミ……。

 彼女を助ける。それがマスターのコマンドだ。
 しかし私の身体は彼女を殺そうとしている。私には私を止められない。
 壊せ。私を止めてくれ。

 私はもう帰れない。私を生んだ人々の元へは戻れない。
 それでいい。私は使命を果たしたい。

 私の知らないヒューマロイドたち。
 お前たちもマスターを守る者なのだろう。ならば使命を果たせ。

 壊せ。私を壊して、マスターのコマンドを実行せよ。

 

 二人同時に後方に跳んだ。
「……そういうことかよ……」
「……事情はわかりました。でも、それを聞いた以上……」

「……ぶっ壊すわけにはいかねぇなぁああああ!!」

 もう一度、突っ込む。モラクルも逃げない。もう逃げても逃げきれないことを悟っているのだろう。せめて刺し違える。そういう動きだ。

 無駄だ。もう、お前はオレたちには勝てねぇ。
 そうです。その身体、返してもらいます。本当の持ち主にねっ!!

「やるぞ、ミニR!!」
「わかってます、ミニブラッ! 発動!! 名付けて……!!」
「……キズナモード!!」

 全身から、光が迸った。世界が白くなる。
 向かってくるモラクルも、ナツミも、白の中に溶けていく。

 ナツミが微笑んでみえた。

 

■ED(エンディング)

 光が消えて、元の世界が戻ってきた。
 モラクルが倒れている。無傷というわけにはいかなかったが、致命的なダメージは与えていないはずだ。
 ナツミは座り込んでいるが、怪我はしていない。それでも、かなり疲れているはずだ。連れ帰って休ませてやりたいが、自分たちも起き上がれない。

 心配はいらない。近づいてくる気配を感じる。
 R、ガール、初代。ソウマにアケノ。ブラックまで。

 ナツミはヘッドレシーバーでワカナと話しているようだ。
 落ち着いて、とか言いながら苦笑している。あっちも大騒ぎっぽいな。

 おい、ミニR。動けるか?
 今日は無理ですね。慣れないことをやってしまいましたから。
 オレもだ。でも、いい気分だぜ。
 ええ、いい気分です。

 なぁ。オカアサンって、ああいうのかもしれねぇなぁ。
 そうですね。本当に人間になったような気がします。まるで生まれ直したような……。

 おい、アニキはオレのほうだぞ。生まれたのはオレが先なんだからな。
 何言ってるんです、オカアサンができたのはたった今じゃないですか。先も後もありません。
 てめぇ、アニキに逆らいやがって!
 そっちこそ兄だというのなら、もっとしっかりしてくれないと!!

 くっそぉお、やっぱ気に食わねぇ!!
 それもこっちのセリフです!! だいたいミニブラは……
 うっせぇ、お前こそ……

 ………………。
 …………。

 

次回予告

■第39話:博士の異常な愛情
近づく決戦の気配の中、ジャークの動きを探り続けるソウマとイバライガーたち。そんな中、ナツミと初代イバライガーは密かにシン・ワカナを呼び出し、重大な事実を告げる。エモーションの謎。オーバーブーストの危険性。戦いの先に待ち受ける運命。それを知りつつも立ち向かおうとする二人の覚悟を受け止めた仲間たちは、世界と二人を救うべく動き始める……。

 


(次回へつづく→)

 


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