小説版イバライガー/第21話:時をかける少女(前半)
OP(アバンオープニング)
イバガールは、プールサイドに座っていた。
NPLに足を浸し、水面を見つめる。
何もない。
少し前まで、ここにはミニライガーRの「コア」が沈んでいた。
そのミニRは今、イバライガーRとともにパトロールに出ている。
ミニRが起動できたら、次はミニガールのはずだった。
けれど、NPLの中には何もない。
新たなパートナーとして目覚めるはずのコアは、ここにはない。
それでもガールは、水面に映る自分の姿を見つめ続けていた。
もう一人の私。
いつかきっと会えるよね。
Aパート
「はい、できた!」
「うん、似合う、似合う!!」
「そ、そうか?」
「カッコイイよ。なんていうか……宇宙海賊って感じ?」
「か、海賊? しかも宇宙?」
……確かにそんな感じだ、とシンは思った。
ワカナとカオリが、初代イバライガー用のマントを作ったのだ。NPLを繊維に織り込んでマント状にしたもので、エモーションを伝導させることができる。ネガティブのパワーと戦う際には、有効な防御シールドとして機能するはずだ。
だが、作った二人はそんなことは考えていない。
回復したとはいえ、初代イバライガーの身体には多くの傷が残ったままになってしまった。
機能的に問題はないが、プログラムの一部が消失してしまっている。Rやガールのプログラムを移植することでリカバリーはしたが、その時点の傷のある身体がディフォルトになってしまい、自己修復しても以前の完全体には戻れなくなっている。
ワカナたちは、その痛々しい姿を隠すためにマントを作ったのだ。
初代自身は気にしていないようだが、二人の気配りを拒否するはずもなかった。そうした想いを受け止めて力に変えるのが、イバライガーなのだ。
その想いは、シンにもある。
だから余計な口出しは避けていたのだが、それでもせっかく作るのなら、せめてNPLを使って実用性も持たせろと言ってしまった。
そのせいで海賊っぽくなってしまったのだ。
イバライガーの体細胞でもあるナノパーツを液状にしたNPL=ナノ・パーティクル・リキッドを素材に応用できれば、予備のボディパーツを持っているようなものだ。破損したときもナノパーツで修復することができるし、イバライガーたちなら、ナノパーツ自体をコントロールして変形させることもできる。戦いの幅を広げつつ、リスクを抑えることもできるのだ。
だが、NPLを繊維化するのは意外に難題だったらしい。マントの縁がきれいに揃っていない。ボロ布のようになってしまっている。カオリは可愛いアップリケとかフリルとかでごまかそうとしたが、さすがに初代は遠慮した。
それでも背中に小さな「18」の刺繍がある。イバライガーの「イバ」を意味しているらしい。
初代が近づいてきた。
黒いマント、顔の傷。う~ん、本当に宇宙海賊っぽい。
「カオリの言う通り、似合ってるよ。悪くない」
「なら、それでいい。このマントは私にとってもありがたい。損傷の分だけ防御力が低下していたのをカバーできる」
「本当は、その傷を完全に治すまで休んでいてほしいところなんだけどな……」
「そうも言っていられんだろう。状況は私が想定したよりも、ずっと進んでいるようだからな」
「やはりミニガールは無理なのか?」
「ああ。ミニライガーRのケースは特別だ。同じことをもう一度やるのは危険すぎる。他の方法もないわけじゃないが……それもリスクが高すぎる。より確実で安全な方法を見つけるまでは、ミニガール開発は凍結しておくべきだ」
「そうか……」
イバライガーR専用のバックアップ・システム「ミニライガーR」の起動には成功した。
当然ながら、次はイバガール用の「ミニガール」の開発を行う予定だったが、それは中止せざるを得なかった。
ミニRの起動が、想定通りに成功したわけではなかったからだ。
起動できたのは、初代イバライガーが「ハイパーイバライガー」と呼ばれる謎の力を喚び出したからだった。
ハイパーの正体は、今もはっきりしない。エモーション・ポジティブそのものが実体化したかのようで、存在は希薄ながらもパワーは桁違いだった。R、ガール、ブラックの全ての力を合わせても、アレには及ばないかもしれない。
あの力を自由に使えれば。
だが、初代はそうしようとはしない。
ハイパーを喚び出すこと。エモーションの力を限界まで引き出すこと。
それ自体が危険なことなのだと言う。
あの時も、ミニRを起動するためというよりも、オレたちをエモーションから遠ざけるために、止むを得ずハイパーの力を喚んだというのが本当のところらしい。
ハイパーとは、エモーションとは何なのだ。
初めて見たはずのハイパーの姿に、自分がデジャブのような感覚を覚えたのは何故なのだ。
オレとハイパーには、どんな関係があるのだ。
「……シン。君の気持ちはわかっている。焦らすつもりはない。いや、君たちのためにも、これ以上伏せておくべきではない。今夜だ。全員が集まったら……」
初代の言葉に、ワカナが緊張したのがわかった。
自分も同じだろう。
とうとう、このときが来た。
ずっと知りたかったこと。同時に恐れていたこと。
初代の横顔を見つめた。
表情は変わらない。けれど険しい顔をしているように見える。
不治の病を宣告する医師。
シンには、そんなふうに見えた。
「行かせろ! このパワーならヒューマロイドどもが何をしようと問題にならん! 我が爪で全てを引き裂いてやれるではないか!!」
ダマクラカスンは猛り狂っていた。
体内を凄まじいエネルギーが駆け巡っている。
これほどの力は味わったことがない。
イバライガーどもに敗れ、繭の中で力を蓄えて復活した。その時点で以前よりも大きく強化されたはずだが、それでも今のパワーは尋常でなさすぎる。あのハイパーと呼ばれていたモノでさえ、今なら圧倒できるはずだ。
にも関わらず。
ダメだ。動くな。今の貴様は私なのだ。
身体の中から声がする。
奴の声だ。
TDF隊員だった人間と、奴らが造り出したPIASというガラクタに取り憑いていた力は、今、自分の中にいる。
自分と同じ四天王。原初のジャークの一人。
アザムクイド。
今の自分は、四天王二人分の力を有しているのだ。単なる二人分ではない。乗算だ。数十倍に跳ね上がっている。この世界の全てを蹂躙できるはずだ。これほどの力を使うなというのか。
そうだ。まだ早い。まだ足りない。力だけだ。それも不安定だ。
今戦えば、奴らの力を目覚めさせてしまう危険もある。
奴らの力だと? このパワーに匹敵する何かが、奴らにあるというのか。そんなはずはない。俺はあのヒューマロイドたちと戦った。戦力は分析してある。まだ見せていない力も含めてだ。今なら破壊できる。それはわかっているはずだ。
危険なのはヒューマロイドではない。あの人間だ。
シン、そしてワカナ。
あの二人こそが、ジャークを阻む本当の敵なのだ。
人間だと? あのような脆弱な者の何が危険だというのだ?
今の我らに対抗できるほどの力を、人間が秘めているというのか?
そんなことがあるというのか?
そうだ。あの人間たちは目覚めつつある。
我らがそうであるように、奴らもまたエモーションの申し子なのだ。
光と影、陰と陽は常に拮抗する。今はまだ不確定要素が多すぎる。不測の事態が起こる可能性は常にある。
この世界には存在しないはずのヒューマロイドが現れたこと。
それらがさらなる不確定を生み出し続けていること。
人間どもが奇跡と呼ぶ現象が起こりすぎている。
ならば、どうする?
このまま座して見物を続けるというのか。それはできん。
滅びを求めるのはジャークの本能だ。それはお前にも止められんぞ。
今少し、奴らの力を試す。
そのための道具を、ルメージョが造った。あのPIASという素材を使ってな。
あの素材は面白い。我らには及ばぬが、力だけなら四天王に匹敵するものを生み出せよう。
狙いは、あの女……か?
いや、男だ。だが、男の中に眠っているものを目覚めさせるには、女もまた目覚めていなければならん。
故に女だ。それで奴らは己の運命から逃れられなくなる。
目覚めさせるだと?
奴らの力を引き出してやるというのか?
奴らの光は、まだ弱すぎる。
我が闇を、より強く、濃く高めるには光が必要なのだ。
その光の中にこそ、真の闇が宿っている。
それを呼び起こすのだ。
「聞きましたか?」
「ああ、いよいよ、ということだな」
「全員が集まったら……と言ってましたけど……『彼ら』もでしょうか?」
「どう……かな……。ミニブラックはともかく、ブラックまで来るとは思えないが……」
イバライガーRとミニライガーRは、木立の隙間から空を見上げた。
定期パトロールの途中である。
基地エリアに隣接する農林省管轄の研究機関の屋上を駆け抜け、高速道路を飛び越えて、物流センターの上、学園病院へと移動し、その後は住宅街を抜けて、今はTX研究学園駅から1キロほど離れた森の中だ。
すぐ近くには大型ショッピングモールなどの商業施設も多いが、それらは大通り沿いだけで、少し裏に入ると昔ながらの農村地帯が広がる。
つまり、見通しがよく、目立ちやすい。こうした場所は、点在する住宅地を通ったほうが移動しやすいのだ。人々の意識の死角を縫えば、誰にも気づかれずに通り抜けられる。
「今日も、周囲に、目立った反応は特に感じられないようですね」
ミニRの言葉に、Rは黙ってうなずいた。
微量なエモーション・ネガティブの反応はあるが、それは誰もが持っているものだ。一人ひとりの精神状態によって多少の濃度差はあるが、ジャークに取り込まれた者ほどではない。
ただ、大型商業施設などの人が多い場所では小さな反応が多すぎて、本当にジャークが潜んでいたとしても見つけにくい。だから近くまで移動して、入念に索敵する必要があるのだ。大きな反応なら、わざわざ出向かなくても察知できる。
今日はこの後、北大通りと並行して進み、TXつくば駅周辺の中心街を通って帰還する予定だった。イバガールとワカナは、Rたちとは反対のつくば市南側から土浦市方向をパトロールしているはずで、シン、イモライガー、ミニライガーたちは買い出しを兼ねて、牛久市方向を回る予定になっている。
むろん、この程度のパトロールでは万全とは言えない。相当の見落としもあるはずで、どちらかと言えば気休めに近い。事実、毎日パトロールしていてもジャークの拠点を見つけたことはほとんどないのだ。
ダマクラカスン、ルメージョ、そしてアザムクイド。
奴らも、このどこかに潜んでいるはずだが、ただの一度も捕捉していない。あれほど巨大なネガティブ反応なら、どこにいても感知できるはずだが、見つかるのは戦闘員化された人間くらいで、ジャーク本体は影も踏めない。
そのあたりにも、ジャークの秘密があるに違いなかった。まだ我々はジャークとは何かがわかっていないのだ。
それでも。
奴らはいる。この近くに必ず潜んでいる。
最初にジャークが生まれた、つくば市北方の素粒子研究機関。その事故の際に、周囲に飛散したジャークの因子。
その影響を受けたエリア内でしか、ジャークは出没していない。
恐らくジャークは、まだ本来の力が出せないのだ。一定のジャーク因子があるエリアから離れられない。断言はできないが、その可能性は十分にある。だからこそ、今が勝負なのだ。本格的なジャークの拡散が始まる前に、ケリをつけるしかない。
こうした予測はTDFはもちろん、日本政府、さらに世界各国でも行っているだろう。
ジャーク事件の詳細は伏せられているが、水面下では各国にも一定の情報共有は行われているはずで、今、この地域には世界中の情報機関が集まっている。ジャークの拡散が世界そのものを滅ぼしかねないと判断されたら、このエリアを丸ごと消滅させるくらいのことはやるだろう。
その日は遠くない。すでに核ミサイルの照準になっているかもしれないのだ。
猶予はない。だが焦ってどうにかなることでもない。
「そろそろ移動しよう。もうすぐガールとワカナが出る予定の時間だしな」
「はい、あと12分後のはずです。そのときまでには基地から4キロ圏内に戻っていたほうがいいでしょう」
巡回に出る時間は、微妙にズラしている。
誰かが戻ってくる頃になったら、次の者が出る。
巡回コースも、はっきりとは決めていない。
ジャークは、こちらの基地を把握している。わずかな時間でも戦力を分散させすぎるのは危険だし、特定のコースでは狙われやすい。
だから、行き当たりばったり。
下手に決めるよりノリでやってたほうがいいというマーゴンの意見に、珍しくゴゼンヤマ・エドサキ両博士が賛成したのだ。
いつまで続く戦いか、わからない。緊張だけでは持たない。息抜きするのも大事だ。それに、論理的な思考のほうが読まれやすい。
ゴゼンヤマ博士はそんな理屈を言ったが、エドサキ博士は「つまり何を考えているかわからないバカのほうが予測されないってことよ」と、ミもフタもなくツッコんでいた。シンやワカナも苦笑しつつ、同意した。
イバライガーRは特に口を挟まなかったが、基本的には同感だ。
テキトーに頑張る、というのは意外に悪くない。
ジタバタしても何にもなんないなら、ソレっぽいことやってりゃソレらしくなってくるって。
マーゴン流に言えば、そういうことだ。そして、それはたぶん正しい。
ソレっぽい……というより、そうした大雑把さが生み出す予測不能な何かが、自分たちには必要だと思うのだ。
これまでも、そうだった。
理屈だけでは割り切れない何かがあるから、戦ってこれた。
記憶すらあやふやな自分やガールが、この世界にいるのは理屈ではないはずだ。
理屈は、ただの結果。今の状況が生まれたのは、それぞれの時点では全く先の読めない偶然の重なりによるもののはずだ。
だらだら過ごすのも、必死に頑張るのも、どちらも何かの可能性なのだ。
無限に重なり合った可能性のどれを掴むことになるのかは、掴んでみるまでわからない。
「その可能性の一つ……イバライガーが生まれた未来。もう1つの歴史。それが今夜わかるんですね。私たちも、シンたちも、結果しか見えていなかった。なぜ今の結果なのかがわからなかった。それが今夜……」
「そうだな。今日までの全てが、ようやく見えるようになるのかもしれない。私たちが誰なのかが……」
「予想は、ついているんでしょう?」
その通りだった。気づいている。自分が誰なのかに。
だが、それもまた結果だけなのだ。そうだとしても、なぜそうなったのかを知らなければ、力は力にならない。ジャークを倒し、シンたちを守り、この時代を救う。そのために私たちは、自分が何なのかを知らなければならないのだ。
イバガールは、パチンコホールの屋上看板の上で立ち止まった。
少し、離れすぎた。ワカナのバイクは、300メートルほど手前の信号で止まっている。
信号が変わり、ワカナが走り出す。目の前を通り過ぎていくのを見てから、ガールはジャンプした。
今日は土浦方向に向かう予定だ。
RとミニRは、約5キロほど離れたTXつくば駅周辺にいて、他の仲間はまだ基地にいる。
新たに生まれたミニライガーRは、とてもいい子だ。生真面目なRのバックアップらしく礼儀正しく丁寧な口調で、でも戦闘力はミニライガーというよりも小さなイバライガーと呼べるほどに高い。
ミニブラもブラックの子供時代って感じだし、私のパートナーも、やっぱり私に似ているんだろうなぁ。
イバライガーR専用のバックアップ・システム、ミニライガーR。
イバガール用のミニガール。
どちらも開発予定だったが、先にミニRでのテストが決まった。ミニRで成功したら、次はミニガールということになっていたのだ。
ミニRが優先されたのは、Rのほうが戦闘力が高いからだ。ジャークとの戦いは戦闘力だけが全てではないけれど、今はもっと強い力が必要だから、イバガールも納得していた。
Rもガールも同じイバライガーだが、自分とRではセッティングが違うようなのだ。
何か、リミッターのようなものがあって、力を完全に引き出せていない。イバガールは、ずっとそれを感じていた。
ガールは、走るワカナの背中を見つめた。
バイクは、土浦野田線と呼ばれる国道125号線から、バイパスになっている国道6号線に入っていくところだ。左折のために傾けたバイクが起き上がり、軽快に加速していく。こらこら、いくら信号や交差点のないバイパスとはいえ、スピード出しすぎちゃダメだぞ。
でも、あの人がお母さんなんだよなぁ。
ワカナと自分は姉妹みたいな付き合いだけど、本当はお母さん。
正しくはワカナじゃない。今のワカナとは別な、もう一人のワカナが自分たちを作った。
未来のワカナと、未来のシン。
二人は、どんな人生を送ったのだろう。
私たちは、どういう思いを託されていたのだろう。どんな気持ちで、初代を、Rを、そして自分を作ったのだろう。
どうして自分にはリミッターがあるのだろう。
どうして自分だけが、女性型イバライガーなのだろう。
ワカナの背中は、答えない。シンも知らない。別の時空の出来事なのだ。
疑問のいくつかは、今夜、初代イバライガーが語ってくれるはずだ。そうしたら思い出せるのかな。聞かされて教わるんじゃなくて、私は自分で思い出したい。自分は誰なのか。何処から来たのか。何をすればいいのか。
「心配しないで。大丈夫。あなたは、あなたらしく生きればいいの」
え?
今のは何? ワカナ?
いや、違う。ワカナは喋っていない。インカムでいつでも会話できるけれど、今は喋っていない。メモリーにも音声は記憶されていない。
幻聴? 何? 私、バグってる?
でも知ってる。
今の声は聞き覚えがある。
ずっと前。未来? 私が生まれた時?
じゃあワカナ? もう一人のワカナ?
耳を澄ます。現実の声ではないから耳を澄ますというのは変だが、とにかく意識を集中してみる。
もう一度、聞きたい。
あなたは何を知っているの? 私に何を伝えたいの? 私らしくってどういうことなの? 生きるって何? 私たちヒューマロイドも生きているの? ワカナ。もう一人のワカナ。答えて。
大きな音が聞こえた。
今のは、幻聴じゃない。爆発音。1キロほど先の市街地!
強引に車線を変えて割り込む。ごめん。
ギリギリでバイパスを降りるポイントに間に合った。加速しながら下り、サイレンを鳴らした。スピードを落として赤信号に割り込んで行く。
タイミングよく白バイの警官がいた。手で挨拶する。うなずいた。同行してくれるようだ。よし。
今や公認となったイバライガーたちは、表向きは警察組織の一員なのだ。
ワカナは一気に加速した。
今の爆発がジャークかどうかは、ここからではわからない。
それでも、こんな地方都市でいきなり爆弾テロとか考えられないし、火事にしては規模が大きすぎる。ジャークだと思うべきだ。
前方にオレンジの影が一瞬着地し、すぐに飛び去った。
「ガール!?」
「先に行くわ! ワカナは後から来て。決して現場には近づき過ぎないでね!」
「ちょ、ちょっと待って! もしかしたら……!!」
ガールの姿は、もう見えない。
ワカナは並走する白バイに合図した。白バイが前に出る。交差点に割り込み、封鎖する。警察署が近いせいか、先々の交差点にもパトカーや白バイが向かっているようだ。
状況を確認して、アクセルを開いた。
タイミングが良すぎる。
現在位置は、Rたちからも基地からも、同じくらいの距離。
全員がすでに事態に気付いて、こちらに向かっているはずだけど、誰が来るにしても数分はかかる。
狙われたのではないか。
自分たちが近づくのを待って、ジャークは行動を起こしたのではないのか。
初代とミニライガーたち。ブラックとミニブラック。RとミニR。
イバガールにだけ、バックアップシステムがいない。
戦闘力の面でも、ガールが一番危ない。
初代イバライガーには、ジャークも気軽に手出しできないだろう。
初代は前回、ハイパーイバライガーを喚び出した。あの力は脅威のはずだ。そう簡単に呼び出せる力じゃないようだけど、ジャークはそんな事情は知らないはず。あの力がある前提で対処してくるはず。
ブラックにはオーバーブースト、イバライガーRにもクロノブレイクがある。
Rの技は、実戦ではまだ成功していないけれど、その威力はジャークも把握しているはずだ。
けどイバガールには、そういう力がない。
ガールにも、Rやブラックに匹敵する力があるはずだけど、そうした力が発現する兆しはまだない。3人目の四天王級が目覚めつつある今では、戦力不足は否めない。
だからこそ、ガールが新たな力に目覚める前に、潰す。
ジャークがそう考えてもおかしくない。
ガール自身も、それに気付いているだろう。
それでも彼女は止まらない。人々を、私たちを守るためには躊躇しない。
だから、私も行く。
今、イバガールの力になれるのは私だけだ。私のエモーション。私の想い。それでガールをカバーできるはずだ。
彼女がみんなを守るなら、私は彼女を守る。
待ってて。私が追いつくまで無理しないで。
『ダメだ、ワカナ!! 行くな!!』
突然、インカムにシンの声が響いた。
急ブレーキをかける。バイクは斜めになって停まった。
「何よ!? 現場はもう目の前なのよ!? ガールもいるのよ!?」
『わかってる。だが下がれ。ガールも引き返させる。オレたちやRたちが着くまでは動くな!』
「でも……まだ人がいるんだよ? パトカーや救急車、消防車も集まってきてるし……それに……何か大きなモノが動いてる。黒煙と粉塵でよく見えないけど、あれは間違いなくジャークでしょ!?」
『そうだ』
「だったら……!!」
ワカナは、もう一度アクセルを回そうとした。みんなが危険なのだ。ガールがいるのだ。白バイの人たちだって、私たちに期待して道を空けてくれたのだ。危険な相手なのは最初からわかってる。今更ここで止まっていられない。
『ワカナ、私だ』
初代の声。
『気持ちはわかる。だが、行ってはいけない。あそこにいるのは四天王だ!』
四天王!?
さっき、チラっと見えたシルエットはダマクラカスンではなかった。もちろん、ルメージョでもない。
ということは……
「じゃあアレが3人目? このところ気配を感じていたアザムクイドって奴!?」
『違う。アレは4人目……私がいた未来の世界では最初に出現した四天王……カンナグールだ!!』
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