カソクキッズ17話:こっちの世界に来てはいけないよ
こっちの世界に来てはいけないよ
17話を描いたときのハナシ。
ネームができあがって、いつものようにミーティングを開いた。事前にみんなに読んでもらって、その後集まって問題点を洗い出したり、解決策を協議したりする。
で、そのときに言われちゃった。
「うるのサン、こっちのヒトになっちゃってますよ」
こ、こっちのヒト……!!
そう、一般人よりもKEKの科学者たちに近い思考になってるぞ、と指摘されたのだ。
これ、普通なら喜ぶべきなんだけど、この漫画では違う。
ボクは読者の代弁者なんだから「こっちのヒト」になっちゃいけないのだ。
自分で読み返してみると、なるほど「こっちのヒト」な言い回しに気付く。
でも、こういう連載を続けていれば、どうしても科学への理解は深まっていく。そもそも理解してなきゃ描けないんだから。
だから、分かった上でもう一回バカに戻って、シナリオを書かなきゃいけないんだけど、どうやら「分かったまま」で書いちゃった部分があったわけだ。
漫画を描くってのは、同時に、あるいは交互に、色々な立場の人を演じるようなものだ。
この漫画の場合は、キッズたち4人と博士2人を演じている。
キャラクターになりきって、それぞれの立場で描いているわけだ。
本当にその場にいるつもりになって、アイツならきっとこう言うだろう、するとコイツはこう動く、と考えていく。
作者だから思い通りに動かせるというものではなくて、そのキャラらしくない動きは、絶対にしてくれない。
ここは話を進めたいのにギャグに走っちゃったり、逆にボケてほしいのに真剣になられちゃったりする。
作者は、そういうハチャメチャな出演者をコントロールして番組を進行させるバラエティ司会者みたいなモンなんだ。
でも、本当にハチャメチャなままだったら、番組がどうなるか分からない。
そういうわけで、事前にリハーサルをして出演者に言い含めておいたりする。
キミ、このへんでテキトーにボケてね、キミはココで、ちょっとスルドいことを言ってね、という具合に。
その指示がアマかった。
番組の進行を優先しすぎて、優等生的なことを要求し過ぎて出演者を畏縮させてしまい「こっちのヒト」な内容になっちゃったわけだ。
特に、この17話は「ここまでの締めくくり」的なエピソードだったから、実は基本的な構成案は連載スタート時に出来上がっていて、それに手を加えて描いていた。
2年近く前に作ったモノをベースにしたわけだけど、それなりに自信のあるシナリオだったから、そのまま活かす方向で描いていたんだ。
でも、17ヶ月の連載中に変わっていった部分がある。
当初とはキャラたちの理解度も、科学界の状況も、変わっているんだ。
なまじ自信のあるシナリオだったから、それに引きずられてしまったけれど、そんなモン捨てて、もう一度「今の17話」を描かなきゃならなかったんだよな。
それをKEKの人たちは見抜いた。
「こっちのヒトになっちゃってますよ」は、そういう一言だったんだよね。
科学的なチェックだけやってるわけじゃないんだよな。
ちゃんと作品の空気を読んで、読者目線でチェックしてくれる。すげえな。
下手な漫画編集者より、ずっと上だぞ。
そういうわけで、全面的に直したのが、実際に公開された17話。
どうかな?
「こっちのヒト」になってないかな?
サイエンスカフェと時空戦士イバライガー
この17話のとき、KEKで「サイエンスカフェ」を開催した。
公開ミーティング。
何度も書いているけれど、毎月のミーティングはすごく楽しくて、ボクはずっと「このミーティングこそ公開したい!」と思っていた。
なので、それを実現したのだ。
17話のネームを監修の保護者会メンバー、サイエンスカフェの参加者に配布して、来場者の前で、ライブ・ミーティングをやったのだ。
いつもと同じようにミーティングしてるだけなんだけど、思った通りに大受け。
保護者会メンバーの藤本博士、高橋さんは、劇中のフジモト、タカハシと同じ服を着てきてくれたし。
で、そのとき。
本編中で「国際リニアコライダー」に言及するシーンがあるの。
コライダーと仮面ライダーを混同してボケるシーンで、だけど本当に仮面ライダーを描くわけにもいかないので、そこにはダミーで「時空戦士イバライガー」の画像を入れてあったんだ。
このブログでも連載してるけど、ボク、カソクキッズと同時進行でイバライガーにも当時から深く関わっていたからね。
ま、ネームだから本番では差し替えられるし、もしもこのままになってもイバライガーなら気軽に許可を頼めるので、アタリとして入れてあったんだ。
そのカットを見たときに、来場者の一部がザワついた。
「おい、これ、イバライガーじゃないのか?」
この17話を描いたのは、2010年の春。
この前月に水戸で「コミケットスペシャル」が開催され、そこで注目されたことからイバライガーの知名度は急激に上がっていくんだけど、この時点ではね、まだイバライガーを知る人は少なかったんだ。
なのに、ボクのサイエンスカフェに来てくれた人たちが、イバライガーに反応している。
「イバライガー知ってるの!?」
ボクが思わず聞いたら、大ファンなんですという返事が。
すげぇ嬉しかった。
カソクキッズを好きな人が、イバライガーも好きだったんだ。
自分が関わっている作品の両方を好きだなんて。くぅううっ、たまらんっ!!
実際に公開された17話では、そのシーンにはイバライガーでも仮面ライダーでもなく、KEKのオリジナルキャラ「素粒子戦隊リニアコライダー(これはこれで色々とアレな戦隊だけど)」が表示されているけれど、ネーム段階ではイバライガーだったんだよ。
(なおイバライガーは、この後、セカンドシーズンの4章22話でシルエットとして登場させている)
最終回にならなくてよかった
この17話は、まるで最終回のように締めくくっている。
実際、そうなる可能性が小さくなかったからだ。
いや、打ち切りとかじゃない。
この後の4章、そして5章と、全30話でやっていく予定というのは承認されていた。
反響も悪くなかった。
むしろ期待以上で、ようやく保護者会メンバー以外のKEKの人たちも認め始めて、ここからが本腰という感じだった。
でも、ボクのほうがね、力尽きちゃったんだ。
予算が乏しくても構わない。
ボクが描きたくて描くんだ。
もう仕事じゃない。
そう思って続けてきたんだけど、それでも現実ってのは厳しくて……。
足りない分を自己資金で補い続けてきたけど、それが尽きちゃったんだ。
いや、最初に資金をど〜んと充当して、とかじゃないから、毎月いろいろな仕事をして、それで補っていたのだけど、この直前にね、2つの大型倒産に巻き込まれてしまった。
総額200万円ほどの売り上げが、事実上の回収不能。
娘の高校進学のために積み立ててきたお金を一部使いこませてもらっても、カバーできない。
そういう状況になっちゃったんだ。
それでも、この17話を描き終えるところまでは、踏ん張った。
3章のラストエピソードだからね。
無理でも何でも、そこまではケジメ。投げ出せるわけがない。
でも、その後の4章、5章を凌げるとは、とても思えなかった。
やめるなら、ここだ。
そう思って、最終回のように描いた。
ここで終わりたくはなかったけど、そうなっても仕方ないと思って。
そこから復活への顛末は「広告まんが道/ヒストリー/広告漫画家物語18〜19」で触れる予定なので、興味ある方はそちらを読んでね。
仲間たちの協力、KEKの支援、ファンの皆さんの声などに助けられて、3ヶ月の休載だけで再開することができた。
そして1年後の完結まで休むことなく続けられて、さらに、その翌年から3年以上にもわたって「セカンドシーズン」まで描くことができたんだ。
この17話を描いたときには、もう終わりかもしれないと思ってた。
あきらめないで本当によかった。
最後まで走ることができたのは、ボクの力でもなんでもない。
皆さんのおかげだ。元気玉のおかげなんだ。
その思いに応えたいという気持ちが、足掛け8年に及ぶ連載期間を支えていた。
カソクキッズに関わった方、読んでくれた方の全てに、改めて感謝したい。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。