カソクキッズ2ndシーズン5話:スケールを支配する力(マクロ編)
重力のスケール
カソクキッズ2ndシーズン5~6話は前後編で「スケールを支配する力」を扱った。
この先の2章(8話以降)で、様々なものを「みる」というのをテーマにすることになっていたので、その前フリというか、予備知識として、素粒子を「みる」にはどうするか、宇宙のはじまりを「みる」にはどうするかを理解しやすいようにと、ここでスケールのことを語っておこうということになったのだ。
宇宙には「4つの力」がある。
重力、電磁気力、強い力、弱い力、の4つだ。
最近は「第5の力」なんてのも出てきてるので、この4つだけじゃないかもしれないけど、とりあえず今(2018年現在)はまだ4つの力ということになっている。
そして、この4つの力は、それぞれ主役を張るスケールが違うんだ。
まず最初は重力。
これは宇宙規模というか天体規模くらいのスケールを支配している力だ。
ボクらも日常的に重力の影響を受けているし、加速すればGを感じるので、人間の日常レベルのスケールも重力が効いているわけだけど、日常スケールでは電磁気力の影響のほうがずっと多いので、惑星間、恒星間、銀河や星雲といったスケールで作用する力となると、重力がメインになるんだ。
なんせ重力はどこまでも届く。
距離に反比例して弱まっていくけれど、ゼロにはならない。
地球の質量や遠心力が生み出す重力だって、光速で宇宙の彼方にまで伝わっている。もちろん、他の星や銀河の重力も伝わっているわけで、本当は宇宙は無重力どころか重力だらけだ。
ただ、遠く離れるとゼロと同じくらいに感じられなくなるので無重力と同じくらいになっちゃって、考えなくてもいいってだけ。無数の星や銀河や銀河団があって、ブラックホールなどもあって、宇宙には重力発生源がいっぱいあるけれど、それでも無重力と同じになってしまうほど、宇宙は大きすぎるのだ。なので、正確に言うなら「宇宙は微小重力」なんだよね。
で、この重力は質量のあるものなら、何でも発生する。
いわゆる「万有引力」というやつのことで、遠心力や引力も重力と同じもの。
万有だから、ミジンコくらいに小さなものにだって引力はある。質量に比例して発生するから小さすぎると感じられないというだけで、どんなに小さなものにでも引力はあるのだ。
この万有引力を発見したのは、かのアイザック・ニュートンで、彼の発見=ニュートン力学は「慣性の法則」や「作用と反作用」などと一緒に学校でも教わる基本となっている。
でも……。
基本だというのに、カソクキッズでは今まで一度も扱ってこなかったんだよね。
読者層を考えたら最初におさらいしておかなきゃいけないことのはずなんだけど、監修の博士たちも凄い人揃いだから、そういう基礎の部分が抜け落ちてることに誰も気づかなかったんだ。
いやぁ、うっかりしてたわ!!
相対性理論はニュートン力学の強化オプション!
そんなわけで、ここで言い訳のようにニュートン力学について語っているのだけど、これもね、最初のネームでは組み込まれてなかったんだ。やっぱり誰も気づかずに重力の話ばっかりしてて、けど、何か説明不足に感じてたんだよね。
そこで日常的なスケールと対比して考え直してみたら、日常レベルの重力=万有引力の法則が出てきて、それで「あ、それ今までやってない!」と気づいて、急遽ネームを大幅改訂して組み込んだの。
恒星間とか銀河間といったスケールの重力を扱うには、ニュートン力学では足りない。
どうしても「時空」という概念を組み込んだ「相対性理論」が必要になってくる。
けど、日常規模での現象なら、ニュートン力学だけでも説明できる。だから一般教育ではニュートン力学だけを教えているんだ。
本編中で語っているように、ニュートン力学が古くて使えないというのではなくて、あれはあれで正しいのだけど、宇宙規模の現象に対抗するには、相対性理論という追加装備が必要ってことなんだ。普通の人は宇宙規模の問題には直面しないから、義務教育の範囲では相対性理論までは扱っていないわけ。
でも、ここはKEK。カソクキッズだ。フツーの場所ではないのだ。
だからニュートン力学より先に、相対性理論が出てきちゃう。
そんでニュートン力学の説明を全然しないまま、4年近くも連載しちゃってから気づいたりするわけ(笑)。
月って意外に遠くて小さい
本編ではちょっとしたオマケくらいに扱っているけど、月って意外に遠いよね。
漫画や映画では、主人公が大きな月光をバックにジャンプといったシーンがよくあるけど、実際にそういうふうに見えたことって、ないんじゃないかなぁ。
知識として月の大きさや月までの距離は知っていても、その数値通りに描写した例って、あんまり思いつかないんだよ。そのへんをしっかり押さえている作品もあるんだけど、そうじゃない作品のほうが印象的だったりして、感覚として本当の大きさや距離感がわかってない人はけっこう多いように思うんだ。地球のすぐそばに、けっこう大きな月が見えるような絵もありがちだしね。
それで、重力のスケールから電磁気力のスケールに移動する前に、ちょっとだけ月の話を入れたの。
月の直径は、約3,474km。
地球の直径が約12,756kmだから、月は地球の4分の1ほどしかない。
そして月までの距離は約38万kmだから、地球を30個並べたくらいに離れている。地球の反対側に旅行する距離の30倍だ。すげぇ遠いのだ。
だから、宇宙に地球がぽつんとあるような絵を描いたら、月は(やや大きめだけど)他の星と見分けがつかないくらいに小さく見えてしまうはずなのだ。
地上から月が見えるシーンを普通に描いたら、月はスミベタの塗り忘れくらいにしか見えないはずなのだ。
でも、それだと月だとわからないから大きめに描いて、そういう月ばっかり見ていて本物の月を滅多に見ない(たまに見ても天体観測でアップになった月ばかりを見てしまう)から、実際のスケールが感覚的にわかりにくくなってたりしがちなんだよね。
たぶん、こういう思い込みや勘違いは、他のことでもいっぱいあるんだろう。
ボクも知らず知らずのうちに思い込んでいることが山ほどあるに違いない。
でも今回はスケールの話なので、そのついでに、そういうことも描写しておきたかったんだよね。
メインのネタに対してはちょっと脱線なんだけどさ(笑)。
電磁気力のスケール
重力の次は「電磁気力(電磁相互作用ともいう)」のスケールだ。
つまり、ボクらのスケール。
引力や遠心力、加速で感じるGなどを除くと、日常スケールで感じる「力」は、ほとんど電磁気力なのだ。
このスケールになると、出番は重力よりも圧倒的に電磁気力のほうが多くなるのだ。
電磁気力は、以前は電気力と磁気力に分類されていた。
実際、マクロな見た目(ボクらが実際に見えている現象)では、電力と磁力は別物っぽく見えるもんね。
でも、この2つは本質的には同じものなのだ。電磁石というのがあるように、磁力ってのは電流で発生させられるものなんだ。電気にも磁石にもプラスとマイナスがあるのも同じ。電力と磁力は、同じ理論で扱えるのだ。
それで1つに統一され、今では電磁気力となった。
この電磁気力も重力と同じで、どこまでも届く。
なんせ電磁気力を伝えているのは光子(光)だからね。
ボクの体から光子が出て、電磁気力を伝えるから体が動くのだ。目には見えないけど、ボクらの体からは光が出たり入ったりしまくっているのだ。作用や反作用は全部が電磁気力で、それは光子のやりとりなのだ。パンチを繰り出すのは「うぉおおお!俺と光子をやりとりしろぉおお!!」なのだ。そんで、その電磁気力は宇宙の彼方にまで伝わっていくのだ。あっという間に弱まってほとんどゼロになっちゃって観測不能になっちゃうけど。
この電磁気力が主役のスケールは、地球くらいの大きさから原子スケールまで及ぶ。
地球くらいになると重力と主役を分け合ってる感じもあるけど、それより下なら圧倒的に電磁気力が主役。
そして原子同士がくっついて分子になってるのも、原子の中で原子核の周りに電子がとらわれているのも電磁気力によるものなのだ。大気圏からナノテクまで、今の人類が扱ってるアレもコレも片っ端から電磁気力の支配下なのだ。
すげぇよなぁ、電磁気力。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。