カソクキッズ26話:めがが語る加速器のアレコレ

大事なツッコミ役・めが

 26話は「加速器」についてのおさらいだ。
 プレゼンターは、めが

 この、めが(メガネをかけているというだけの理由で命名)というキャラは、けっこう不遇なキャラなんだ。
 主人公4人の一角なのに、どうにも損な役ばかり巡ってきちゃう。

 基本的にツッコミ役だから、めちゃくちゃなボケに振り回されることが多くて、表紙などでも、一番目立つポジションは女子2人に取られちゃう。次点のオイシイ場所もメイン主人公の「じん」に持って行かれる。そんで後ろのほうで、宇宙人に追いかけられたり大ダコに襲われたりしてるの。ごめんな、めが。

 でも、めがだって大事なウチの子だ。
 それに、意外とファンもいる。もしかしたら、メインのじんより多いかも。

 いや、ファンの方とお会いしたときに、そういう声を聞くことがあるんだよね。

 一番人気は大抵は、ぽに&たまの女子2人。
 フジモト博士やタカハシ博士のファンも、けっこう出会いやすい。
 でも、その次はめがなのよ。
 不思議と、じんのファンって人には出会わないの。
 ま、嫌いって人とも出会ってないんだけど。

 とにかく、隠れめがファンもいるようなので、作者としては安心している。
 じんは、いいんだ。アイツ、そういうこと気にしないと思うから(笑)。

 で、この1stシーズン26話は、めがが中心のお話にするつもりで描いたんだけど……やっぱり途中からボケ軍団に持って行かれがちになっちゃった。

 いや、序盤の加速器の種類とかをマジメに紹介してるときにはね、めがは適任なんだ。
 ぽにだと大雑把すぎるし、たまだと変な深みにハマりそうだし、じんは明後日の方向に暴走しちゃうし。
 ちゃんと解説しなきゃいけないときには、めがなのだ。

 ただ、解説してるだけじゃ漫画にならないんで、徐々にいつもの脱線が始まる。
 そうなると、めがは被害者になっちゃうんだよね(苦笑)。

 でもさ、このエピソードでは、必死にめがの出番を増やすように頑張ったんだぜ。
 マニアックなオタクネタをあえて仕込んだりして、読者を置いてきぼりにするリスクを背負ってまで(笑)。

 ………………。

 ……ごめん読者。
 やっぱ、めがを被害者にしとけばよかったかも……(おい)。

 

「コライダーロボ」と「8分の1計画」と「中盤以降の後継機」

 このエピソードでは、冒頭にガンダムっぽい「コライダーロボ」が登場する。
 盾が加速リングになっていて胸に測定器がくっついてるロボで、めがの自作フィギュアって設定だ(笑)。

 中盤では、加速器がなぜ大きいのかを説明するシーンで、たまが巨大化する。
 このシーンでは「8分の1計画」もしくは「巨大フジ隊員」をイメージしてシナリオを書いていたんだけど、若い作画スタッフには伝わらなくて、結局「巨大綾波」と言って仕上げてもらった。

 

 さらに後半では、KEKB加速器をさらにパワーアップして「Super KEKB」に改造する計画(このエピソードを描いた時点では、まだ改造は始まってなかった)の話題で「アニメでは中盤以降に後継機が出てくるのがお約束」「それまでの主役機はサブパイロットが乗って……」といった脱線トークをさせている。

 

 この手のオタネタが出てくるのは、このときだけじゃない。
 ボクはカソクキッズに、けっこうオタクネタを盛り込んでいる。

 もちろん、そういうのはお遊びなのだけど、それだけじゃないんだよ。
 アレは、読者へのサインなんだ。

 作者はこういう奴だというサイン。
 さらに、KEKはそういうお遊びを許してくれるトコなんだというサイン。

 ボクは意識して、そういうサインをあちこちに盛り込んでいるの。

 だって、素粒子物理学なんていう、一見お堅いネタをやってるんだもん。

 面倒臭い、そこまで聞いてない、自分には関係ない、興味ない。
 そういう声が、どうしても聞こえる気がするのよ。

 どんなに分かりやすく描く努力をしても、分かりやすくすることが誤解を生んでしまうこともある。
 ときには難しいことを難しいままにぶつけなきゃならないこともある。

 すると、読者が挫けちゃうかもしれない。
 やっぱ面倒臭いんだな。難しいんだな。自分程度の興味じゃ付いていけないんだな。
 そう思うかもしれないという危惧が出てくるの。

 読者には小学生の子もいる。
 変な思い込みがまだなくて、なんでも楽しめて、どんどん吸収できる年齢だ。
 興味さえ維持できれば、1~2年で大人顔負けの知識を身につけちゃう年齢なんだ。
 彼らは、一度好きになったら自分でどんどん調べて、思いもよらない場所に到達しちゃうんだ。

 だから、カソクキッズを描くときには、そういう状態になる前にあきらめちゃうことがないように、というのを一番気にしてたんだ。そのために、ギャグの形で色んなサインを盛り込んでたんだ。

 作者はオタでバカで、難しいことはやっぱ分かってなくて、でも分からないなりに楽しんでるよ。
 分かることより、楽しむほうが先。遊んじゃうほうが先。親しくなるのが先。
 先に遊んで慣れてから、興味の度合いに応じて深まっていけばいいんだよ。

 そういう気持ちを伝えるために、必死にバカを盛り込むんだ。

 ふざけすぎくらいでちょうどいい、と思ってる。

 本当の理解、本当の勉強は、専門書でやればいいのだ。
 カソクキッズは、専門書に興味を持てるようになるための入り口なのだ。
 ほっといたら面倒臭い勉強になっちゃうことを、楽しい趣味に変えるための作品なのだ。
 アホらしい、この程度かよと思うようになったら、卒業してもっと先へ行けばいい。
 そうなるまでを支えられれば、それで十分使命を果たしたことになるのだ。

 KEKの一般公開や科学イベントなどで、時々、将来は研究者になりたい子に出会うことがある。
 その中には、カソクキッズを読んだことがキッカケという子もけっこういた。
 他にも、カソクキッズが好きでKEKの職員になっちゃったという方にもお会いした。

 一応は、使命を果たせているようだ(笑)。

 

なんの役に立つのかわからないこと

 このエピソードの中盤には「加速器研究はなんの役に立つのか」という話題を盛り込んでいる。
 この質問は、多くの研究者が苦手としているもので、だからこそ、あえて盛り込んだ。

 苦手な理由は明白だ。
 なんの役に立つのか、研究者にもわからないからだ。

 研究者は、謎を解き明かしたくて研究を続けている。
 宇宙の本当の姿、その成り立ちとメカニズムを知りたくて、研究している。

 でも、それを知ったらどうなるのかは、とても答えにくいんだよね。

 本当は答えられると思うんだ。

 例えば、ヒッグス粒子の性質を解き明かして、その制御方法を理解できれば、物質の質量を自在に変化させられて物流を大きく変えられるかもしれない、とか。

 けど「かもしれない」を公式発言にはできないのよね。
 そんなの単なる妄想で、妄想を語るのは科学者じゃないから。

 それなら、もっと具体的な成果を語ればいいじゃないかという意見もある。

 WEBも素粒子研究の副産物だ。電子機器が使えるのも電子を発見したからだ。X線なんか「なんだかわかんないからX」と名付けられたのに、今ではレントゲン検査や非破壊検査など、わからないどころじゃないレベルで活用されている。
 そういう成果は、山ほどある。

 だけど、それらは結果的にそうなっただけ。

 電子発見の歴史は、オイゲン・ゴルトシュタイン(陰極線の命名者)、ウィリアム・クルックス(陰極線管、いわゆるクルックス管の発明者)、ジャン・ペラン(陰極線がマイナスの電荷を持つことを発見)といった先行研究を経て、J・J・トムソンらによって発見された。

※注
トムソンは電子の発見者として紹介されることが多いが、本当は「発見に大きな功績を果たした人」であって、彼だけが発見者ではない。またトムソンは電子を「微粒子(corpuscles)」と呼んでおり、電子(electron)という名前を提唱したのは、ジョージ・ジョンストン・ストーニーという人だ。

 でも、彼らは発見し、その性質を明らかにしただけ。
 それを受けて電子の利用方法を見出していくのは、その後の人たちなのだ。
 クルックスやトムソンに「電子はなんの役に立つのか」と聞いたら、やっぱり「わかりません」と答えただろう。

 ある人が、細長くて先っぽがとんがっていて、反対側が平い面になってる物を作って「釘」と名付ける。
 それを知った別な人が、それを使えば木を打ち付けられると思いつく。

 科学の発展とは、そういう感じだ。
 未知のものを見つける人と、それを何かに役立てる人は別々なことのほうが圧倒的に多い。
 なんの役に立つのかわからないのは、当たり前のことであり、なんの役に立つのかわからないものによって世界は支えられているのだ。

 ……とはいえ、科学研究に予算を出すのは、世間の皆さんだ。

 なんの役に立つのかわからないものに、片っぱしから出資するわけにもいかない。
 本当に役たたないものと、いつか大きく役立つものを区別することもできない。

 だから、どうしても聞きたくなる。
 なんの役に立つのですか? と。

 で、研究者は「わかりません」と言うしかなく、でも、そのわからないモノを支えていかないと世界は停滞してしまうのだ。

 厄介な問題だよなぁ(苦笑)。


福島原発事故のときも専門家の研究者は「直ちに放射能の影響が出ること考えられない」という言い方をしていた。研究者はパニックにならないように答えたつもりなんだけど、これを聞いた人たちには「直ちにはないにしても先々ではあるかもしれないんだな?」と思い込む人が続出した。「直ちに」というのは「今すぐ」という意味じゃなく「現在までの研究でわかっていることから判断して、将来的にも影響が出るとは考えられない」ということなんだ。世の中には絶対ということはないので「現在までの研究でわかっていること=直ちに」という言い方になっちゃうんだ。正しい言い方をしようとするから、わかりにくくなるんだけど、ちゃんとした研究者は正しい表現を常に心がけているものなんだ。
でも、専門家でない人、迂闊な言葉を平気で使う人は「絶対」などと断言する。そっちのほうがわかりやすいから、人々はそっちに引っ張られる。そしてデマに振り回されてしまうんだ。

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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