カソクキッズ13話:世界最強の加速器とは!?
カソクキッズ・ファーストシーズン13話では、世界最強の加速器「KEKB加速器」のメカニックなアレコレを描いたんだけど……。
今では「Super KEKB」にパワーアップしちゃったから、もう色々と違うんだよね……。
なので、どこがどう違うのかなどを書いてみようかな。
(「Super KEKB」については、セカンドシーズン15話で扱っているんだけどね)
なにが世界最強なのか
ボクは広告の仕事をしているので、最強とか最高とか最大とかって表現には敏感だ。
この手の言葉は迂闊に使えないのよ。
本当に最大なのか、最高なのか、その根拠は?
そういうツッコミが入るから、いい加減には使えないんだよね。こっちも世界中調べて裏を取ってるわけじゃないしさ。
だから大抵は「最大級」とかね、そういうふうにボカす。
最大と言い切らないで「級」をくっつけて、確証はないけど最大に近いはずだよ、自分たちは最大だと思ってるよ、あなたも最大かもって感じるはずだよ、というニュアンスを出すわけ。そうすることで嘘広告、誇大広告にならないようにするの。
とにかく、万人が納得するだけの根拠や証拠をはっきり示せないことは、はっきり言えない。断言しない。
根拠がある場合でも、いちいちソレを広告で示していたらクドいしスペースも足りなくなっちゃうから、やっぱり言いづらい。
そういうもんなのよね。
だけど、KEKの加速器は堂々と「世界最強」を名乗っている。
当然ながら、根拠があるからだ。
ここで言う「最強」というのは、ビーム自体の強度のことだ。
ビームっていうのは粒子の束だ。
ちっこい粒子が何億個も何兆個も集まって、ドバ~~っと飛んでいく。
当然、ぎゅ~っと詰まってるほうが強くなる。
さらに、向きも揃ってるほうがいい。パッと見では同じにみえても、ちょっとだけ斜めに進んでいる粒子とかが多いと強度が落ちる。
つまり、粒子の密度が高くて向きが揃ってるビームが「いいビーム=強度の高いビーム」なのだ。
で、そういう技術でね、KEKは最強なのだ。
威力とかエネルギー量とかで言えば、海外のCERNなどのほうがずっと上なんだけど、ビーム断面積単位の強度ではKEKが最強。
CERNの加速器がマシンガン(あるいはゴツいショットガン)なら、こっちは一発に賭けるライフルって感じかな。
欧米のように圧倒的なエネルギーでドカンとやることはできないけど、徹底的に絞り込んだピンポイントの一撃で勝負するのが日本なんだ。
「バンチ」と「ルミノシティー」が最強の秘密
KEKの加速器にはビームの強度を高めるための、いくつもの工夫が施されている。
実験ではビーム同士(電子と陽電子)を正面衝突させるのだけど、どっちもミクロな粒なんだから、ビームがスカスカだとすれ違っちゃって、あんまりぶつからなくなってしまう。
そこで粒子を「バンチ」という固まりにする。
1つのバンチは厚さ2ミクロン、直径110ミクロン、長さは7ミリくらい。そこに電子で600億個、陽電子なら800億個くらいをぎゅっと固めてある。
こういう断面積あたりのビームの密度を「ルミノシティー」といって、ルミノシティーが高いほうがビーム強度が高いんだ。
この13話を描いた時点ではここまでだったんだけど、さらにパワーアップされた現在の「Super KEKB」では、ビームの品質を高めるために、さらなる工夫が加えられている。
その1つが、最初の入射器(リニアック)の手前に作られた「ダンピングリング」。
このダンピングリングっていうのは、え~っと……競馬のパドックみたいなもん……かなぁ?
電子銃で作られたビームを最初にダンピングリングに入れて、ここでビームの向きをできるだけ平行に均すんだ。
そうやって作った超平行ビームを、加速リングに送り込む。
それを円形加速器で何周もさせて加速していくわけ。
ま、実際にはぐるぐるさせても大して加速はしていない。速さ自体は入射器の段階とあんまり変わらないんだ。
円形加速器ではエネルギーを高めていくって感じかな。円形なら無限に距離を稼げるからね。
ただ、円形なら無限に距離を稼げるとはいえ、円形だからこその弱点もある。
円周に沿ってビームを走らせるためには当然、曲げなきゃいけない。
でも曲げると放射光という光が出て、せっかく高めたエネルギーが減っちゃうんだ。カーブがキツければキツいほど減っちゃう。
だからカーブをできるだけ緩やかにしなきゃならず、そのためには円はデカイほうがいい。
それで加速器施設は大きいわけ。
KEKの場合は直径1キロ、円周3キロもある。東京ディズニーリゾートとほぼ同じ大き。
超ミクロなものを加速するために、それほど巨大なものが必要なわけ。
さらに最強な超平行ナノビームにパワーアップ
他にも工夫はあって、例えばビームを加速すると反作用が起こって制御しにくくなる。ビームが強ければ反作用も強い。
なので、それを抑え込むために「アレス空洞」という部分がある。アレス空洞には電磁波エネルギーが蓄えられており、それでビームの反作用を抑え込むのだ。
この技術も「Super KEKB」ではパワーアップされていて、さらに「ナノビーム方式」に変更されている。
つまり今までよりも、さらにギューっと絞り込むのだ。
この13話を描いた時点では「クラブ空洞」ってのがあって、固まって飛んでくるバンチをカニ歩きのように横滑りさせて、ぶつかる粒子量を多くする工夫が施されていた。
バッターの手前で斜めに変化する魔球って感じかな。粒子の塊は細長いから、先端同士をぶつけるより側面でぶつかったほうが面積あたりの粒子の量が多くなるからね。
でもSuper KEKBでは、ナノビーム。
今までの魔球は変化球だったけど、こっちは本当に魔球。
超電導技術を使って、ビームを徹底的に絞り込む。小さくする。エネルギーはそのままでボールの大きさが小さくなるようなもん。
ビーム先端をわずか60ナノメートルにまで絞り込んで、ミクロな一点に全エネルギーが集中するようにしているのだ。
巨大な魔王の最終形態が人間サイズで、だけど弱くなるどころかパワーが凝縮してる分だけ強い、みたいな感じ。まさにイマドキのラスボスだ。
パワーアップしたSuper KEKBは、以前の40倍の能力になっている。
ダンピングリングでつくる超平行ビームで20倍。
密度が高く、さらに先端を絞り込んだナノビームでも20倍。
合わせて40倍。
エネルギーの総量では海外には劣っても、ピンポイントでは世界最強。
そういう精密さで、海外の大出力にも負けない結果を狙うのが日本方式なのだ。
13話で描いた加速器はパワーアップする前のKEKBだけど、その時点でも十分にすごいし、以前の状態を知ってると今のスゴさがもっとわかるから、アレはアレで楽しんでほしいな~~。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。