カソクキッズ5話:科学者集団と脱線しまくりの打ち合わせ!
信じられない体験を8年間も!
カソクキッズ第5話はE=mc2……つまり、かの有名なアインシュタインの相対性理論をテーマに描いたのだけど、ここでその説明をするのはやめておく。
このブログは裏話を紹介するもので、科学それ自体を説明したいわけじゃないからね。
興味ある人は、漫画本編のほうを読んでね。
あ、ちなみにE=mc2は「イー イコール エム シー 二乗」じゃなくて「イー イコール エム シー スクエア」と読むとかっこいいぞ。
さて。
そういうわけで今回は、裏話らしく「科学者の皆さんとの打ち合わせがどんな感じだったか」などを紹介しよう。
たぶん、みんながイメージしてるソレとは、全然ちがうと思うよ(笑)。
では、まずKEKに到着したところから。
KEKはとにかく広い。
正面ゲートを入ってすぐ左のパーキングに車を停めて、守衛所で受付を済ませる。
再び車に乗って、数百メートル先の研究本館という建物へ行き、そこのパーキングに停める。
張り紙があって、このパーキングに駐車しておけるのは30分までだそうだ。
ま、打ち合わせだけだから、30分でも大丈夫じゃないかな。
が、いつも戻ってくると駐車違反の張り紙が……!
30分どころか、あっという間に2時間、3時間。
ミーティングでモメているわけじゃない。
単に盛り上がっているのだ。
KEKでのミーティングでは、もちろん漫画の内容や今後の事をしっかりと話し合うのだけど、実は脱線も多い。
というか、脱線しやすい要素が必須なミーティングなのだ。
その要素とは、もちろんボク。
ボクは研究者じゃなくて一介の漫画家。
だから、ミーティングとはいうものの、その大半はボクへの個人業業になってしまうのだ。
サラッと書いてるけど、これはトンデモないことなんだ。
だって……
「ノーベル賞を受賞した世界的研究機関で……」
「様々な分野の専門の研究者が……」
「幾人も集まってスペシャルチームを組んでくれて……」
「ボクだけのために……」
「個人授業をしてもらう」
だったんだよ?
……………………。
マジでトンデモねぇええええええええええっ!!
自分が体験したことが信じられない。
いろんな文章を文節ごとに区切って組み替える遊びがあるけど、本当にそんな感じだ。
ポプラン中佐じゃなくても「1年前には想像もしてなかった」ことだよ。
しかもコレ、一度じゃないんだもん。
毎月だったんだから。
足掛け8年間も、ず~っと毎月続いたんだから。
(実際にはファーストシーズンとセカンドシーズンの間に約1年の休載期間を挟んでるけど)
こんなスペシャルな個人授業を受け続けた経験のある人って、全人類でもどんだけいるのかって話だと思うの。
かなりのVIPだって、ここまでじゃない気がする。
大げさでなく、本当にそう思うのよ。
そんな状態だったんだから、楽しまなきゃ嘘でしょ。
単なる仕事、なんて割り切っていられない。
だから、必死で食らいつく。
ボクなりに理解しようと、あらゆる手段で会話に加わろうとする。
で……。
出ちゃうんだ、ギャグとかアニメネタとかが。
だって、そういうのしか知らないんだもん。
アニメや漫画や映画で見た様々なシーンの中から、科学っぽいシーンを思い出して、それと絡ませることで理解しようと必死なのよ。
ギャグやボケを言ってしまうのも、そのボケ方でアリかどうかを探ってるのよ。
盛り上がる脱線
しかも、そうしたオタクネタにも、博士たちは平然と応じてきたりするんだ。
むしろノッてくるのよ。
なので「CP対称性の破れ」について話し合っていて、反物質のハナシになると、
「そういや、星野之宣の漫画「2001夜物語」に「悪魔の星」っていう反物質星が出てきて……」
「あ、星野之宣いいよねぇ!」
と、始まる。
これが加速しちゃうと
「彼はJ・P・ホーガンのSF小説「未来の二つの顔」のコミック化もやってたよ」
「ロバート L.フォワードの「竜の卵」もいいよね」「A・E・ヴァン・ヴォークト著の「イシャーの武器店」では、一人の人間の中のエネルギーが解放されて宇宙がうまれるんだっけ?」
「まだ見つかってない粒子もあるわけでしょ、ミノフスキー粒子とか……」
「エヴァンゲリオンのヤシマ作戦で日本中の電力を集めるでしょ、あれが高エネルギーなんじゃない?」
「ガンダムSEEDディスティニーで、円筒状の無人コロニーを使ってビームを曲げるっていう描写があるんだけど、あれって円形加速器で粒子を曲げるのと一緒なの?」
「涼宮ハルヒの憂鬱の「エンドレスエイト」は量子論的だよね」
「映画の「容疑者Xの献身」の冒頭で加速器が出てくるよね」
「あ、ガオガイガーにも加速器出てくるよ」
「他に、どんなアニメに加速器が出てるのかなぁ?」
……と、まぁ、どこぞのSF&アニメ研究会かとしか思えないような会話になってしまうことが多々あるのだ。
ツクバがアキバになっちゃうのだ。
むろん、息抜きみたいなモンだし、博士たちが本気でオタクなわけではない(と思う)から、いつまでも脱線し続けるわけじゃないのだけど、それでも、かなり濃いネタでも、しっかりチェックしてたりして、油断できない。
しかも、ソレを本物の科学者たちが、科学的に納得できる解釈を考えちゃったりするんだから、たまらない。
バカバカしいとか非科学的って笑ったりはしないんだよね。
フィクションには、頭デッカチでガチガチな博士がよく出てくるんだけど、本物は、もっと柔軟で空想の世界にも理解を示してくれるんだ。
もちろんギャグにも、ちゃんと反応してくれる。
どの人も本当に立派な研究者なのだけど、フツーの人でもあるのだ。
フツーに楽しむ。フツーに笑う。
いや、当たり前のことなんだけど、これはちゃんと言っておきたいんだ。
世の中には「科学者=お堅い人」的なイメージを持ってる人も、けっこういるからさ。
ボク自身も、こうやって一緒に作品づくりに取り組むようになる前は、ちょっとだけ、そうしたイメージ持ってたし。
でも、違うんだ。
ボクが思うに、科学者っていうのは「色々な事に興味を持てる人」なんだと思う。
科学にも、SFにも、ファンタジーにも、アニメにも、漫画にも。
特別な人じゃなくて、ボクらと同じ普通の人。
カソクキッズ保護者会の研究者たちを見ていると、そう思う。
まだiフォンが発売して数カ月の頃。
あるミーティングで、一人がさりげなくソレを出して「ソフトバンクの『犬のおとうさん』のヌイグルミももらえるんだよ」と、すっげぇ嬉しそうに自慢した。
そこに、同席の保護者会メンバーがツッコむ。
「なんで勝手に契約するんですか! ワタシに言ってくれれば紹介して、それでワタシも『おとうさん』がもらえたのに!」
漫画『寄生獣』が実写映画化された頃。
一人が、ガチャガチャで当てたミギーを持ってきた。
「い~でしょ、一発で出たんだよ~~」と、これまた超嬉しそう。
KEKじゃない別の研究機関の人からは
「ストナァアアアアアアッサンシャァアアアアアアアインッ!!」って書かれているメールをもらったこともある。
ね、しっかりボクらの眷属でしょ。
最初はね「おいおい、アンタら、日本を代表する科学者でしょ? ボクらの日常とはかけ離れたスゴい設備でスゴい実験をやっている科学者も『犬のおとうさん』欲しいのかよ!」とか思ったんだけど、彼らだって普通の人なんだから欲しいのよ、おとうさんもミギーも。
ノーベル賞を受賞した小林誠特別栄誉教授ご本人も、wiiを買うためにゲームショップの行列に並んでいたって聞いたしなぁ。
科学者も、全然フツーの人なんだよなぁ。
スゴいことに挑むフツーの人たちと一緒に、フツーじゃないスゴい漫画に取り組める。
それはボクにとって、ものすごく嬉しくて、楽しくて、誇りにもなったんだ。
そういうわけで、ボクは最先端の科学者集団に、毎月個人授業をしてもらっている。
どうだ、どんな英才教育でも、これほどのスペシャル授業は受けられないぞ!
誰も体験できないようなコトを、ボクはずっと体験してるんだ。コレを自慢しないでど~する!?
けど、ボクは、みんなの代表として、そういう体験をさせてもらっているのだ。
ボクがすごいんじゃなくて、そういう運に恵まれて、そういう役を与えられただけだと思うんだ。
だから、できるだけ、それをみんなに届けるのがボクの責任だとも思うの。
漫画のカタチで伝えてきたんだけど、それだけじゃなく、その打ち合わせなども伝えるべきコンテンツだと思うの。
それで、こうしてブログに書いているわけ(笑)。
もったいないボツネタを披露
第5話中盤で語られる「相対論に関するDr.フジモトのセリフ」は、藤本先生ご本人に考えてもらった。
劇中では例によって「難しい事を難しく言う」というネタに使われただけだったのだけど、実際には、もっともっと詳しく「慣性系」と「相対性原理」に関する説明が届いていたんだ。
ページ数の関係もあって、劇中では触れられなかったんだけど、あまりにモッタイナイので、ここで触れよう。
「慣性系」と「相対性原理」
タマが宇宙船に乗っています。
エンジンの噴射により、宇宙船はぐんぐんと加速しています。
宇宙船の外は何も見えず暗黒の宇宙が広がるばかり。
でもタマは操縦席に押し付けられているのを感じるので、宇宙船が加速していることがわかります。
突然エンジンが止まりました。
タマは操縦席に押し付けられることがなくなったのを感じます。
突然、ジンの宇宙船とすれ違いました。
ジンの宇宙船のエンジンも止まっており、直線にスーッと同じ速度で動いていました。ここで問題です。
ジンの宇宙船が動いていたのでしょうか?
それともタマの宇宙船が動いていたのでしょうか?
それとも両方とも動いていた?はっきりさせようとしてどんな実験をしても、どちらの宇宙船でも自然法則に違いがなく区別がつきません。
「相対性原理」により、どっちが動いていて、どっちが止まっていたのか区別することはできないのです。このように、自分が動いているのか、止まっているのかをはっきりさせることができない状況にあるとき、その人は「慣性系にいる」といいます。
「系」とは、実験をするときの場所を図る基準(座標)と時刻を測る時計を決めたことを言います。
タマもジンも、それぞれの宇宙船に長さを図る基準と時計を持っており、しかも自分が動いているのか、止まっているのかをはっきりさせられないので「慣性系にいる」ことになります。
……というのが、藤本先生が送ってくれたメール。
劇中では「光速度不変の法則」の一部として、コレを元にした解説を挿入したんだけど、本当は、藤本先生が言うように「慣性系」と「相対性原理」を語らないと、物足りないというか正しい理解に至らないんだよなぁ。
ま、カソクキッズは理解するためのベンキョーじゃなくて、興味を持たせることが目的だから、あまり詳しい説明だとかえって読者の学習意欲を削ぐと思うので、端折るのはやむを得ないんだけどさ。
でも、どこかで、こういう「分かりやすい説明」を目にしてくれるといいな。
(実際には、こうした説明をわかりやすいと感じるためにも、それなりの知識がいるんだけどね……)
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。