カソクキッズ14話:EPRパラドックスと藤本博士のベルト
カソクキッズ・ファーストシーズン14話は、KEKの素粒子実験の中核とも言える「Belle測定器(ベルそくていき)」と「Bファクトリー」のことを描いた。
測定器って言っても、すごく大きいんだ。
なんせ、ビル4階分もあるんだから。
「Belle測定器」「Bファクトリー」と呼ばれているのは、ボトム・クォークという素粒子を扱っていることと、B中間子というのを調べているからで、B中間子は電子(el)と陽電子(le)の衝突で生まれる。つまり「B」「el」「le」をくっつけると「Belle」になる、というわけ。
ま、測定器や研究内容については、ボクがここで語っても仕方ないので、実際のカソクキッズ本編やKEKのホームページなどでチェックしてね。
とても興味深かったEPRパラドックス
この1stシーズン14話では「EPRパラドックス(アインシュタイン、ポドルスキー、ローゼンが共同で発表した論文)」なんてのもチラっと出てくる。
当時のボクはピンと来てなくて、しかもページ数的な制限もあってコラムでちょこっとしか触れられなかったんだけど、でもEPRパラドックスって、とっても興味深いんだよね〜。
多くの素粒子は、プラスとマイナスが対になっている。この2つは同時に生まれる双子みたいなもんで、どちらかがプラスならもう一方は必ずマイナス。
けど、どっちがプラスでどっちがマイナスかは、最初から決まってるわけじゃない。
素粒子は「量子」だからね、例の「シュレーディンガーの猫」と同じ観測問題があるんだ。
つまり、誰かがどちらかを観測するまでは「両方ともプラスでありマイナスでもある状態」なのだ。
プラスの可能性とマイナスの可能性が、重ね合わせになってるの。
……ま、ややこしくなるから詳しいことは、ほっとこう。
ボク、物理学者じゃないから、詳しくなるとマトモなこと言えなくなるし。
とにかく、そういうもんなのだ。
2つの可能性は重なりあっていて、誰かが見て、どっちかだと確認するまではどっちでもあるのだ。
さて。
そこで、誕生した双子の素粒子を、観測はしないで、それぞれ遠く引き離してみたとしよう。
例えば何百万光年も。
そういう状態にしてから、一方を観測する。
すると……
観測した瞬間に、遥か数百万光年の彼方にある、もう一方の素粒子も、一方が観測されたことを瞬時に察知する、というのだ!
観測するまでは両方ともプラスでありマイナスだったのに、誰かが片方を「プラスだ」と確認したら、その瞬間に、どれほど離れていようとも、観測されたという情報が一瞬にして伝わって、片方がマイナスになる、というのである。
これがEPRパラドックスで「量子テレポーテーション」「量子もつれ」などとも呼ばれている。
距離も時間も越えて、情報がテレポートしちゃうのだ。
んなバカな! と思うんだけど、どうやらコレが本当らしい。
ちゃんと実験で確認されているのだ。
論文を書いたアインシュタインご本人も「んなわけあるかい!」と認めてなかったらしいのだけど、本当にそうなんだって。
なんで、そうなのかは聞かないで。
ボク、物理学者じゃないから、詳しくなると……(以下、略)。
まぁ、素粒子(物質)そのものをテレポーテーションで送れるわけじゃないんで、量子テレポーテーションでワープできるというわけじゃない。
それなら、せめて超光速通信に……と思いたいけど、観測するまでは「どっちがどっちかわからない」なんだから、意味のある情報を送るのも無理。プラスとマイナス=ゼロとイチなんだからコンピュータと同じだけど、ゼロとイチの区別ができないのでは全く無意味だもんねぇ。
それでも、この量子もつれ……EPRパラドックスは、素粒子の世界を理解する上で、とても重要なことの1つなのだ。
何が重要かは、ボク物理学者じゃないから(以下、略)なので、よくわかんないけど、とにかく重要なんだってば。
こういう魔法かSFみたいなネタって、ワクワクするじゃん。
そんだけでボクは、今のところ十分。詳しいことや難しいことは、知りたくなったら学べばいいし、学びたくなったときには、ちゃんと答えてくれる人たちがいることも知ってるから、ボク的にはそれでいいのよ(笑)。
藤本博士とベルト
たぶん、この14話を描いた頃だったと思うんだけど、とあるミーティングの最後に、藤本先生が割り箸と輪ゴムを持ち出して、なんか不思議な手品みたいなコトを披露してくれた。
面白かったんだけど、よく覚えてなくて、後日、改めて聞いてみた。
すると藤本先生、素早くズボンのベルトを抜いた。
ええっ?
アニメ・デビルマンの明クンか!?
「アレね、ベルトでやったほうが、同じ現象をカンタンに説明できる事が分かったんですよ」
ボクはベルトの一方の端を持つ。藤本先生も一方を持ち、そのまま横に360度ねじる。
そして、お互いにベルトを持ったまま、藤本先生はボクの手の下をくぐらせる。
横にねじるんじゃなくて、ベルトの縦方向にぐるっと回して元に戻る。
すると、ねじれが逆になる。
あれ?
次はベルトを2回転、720度ねじる。そして同じ動作をする。
今度はねじれがなくなって元に戻ってしまった。
へ?
ぽか~んとしているボクに、藤本先生は言う。
「これがね、粒子のスピンとか、そういうのに関係していると思うんですよ。これが何なのか(何を意味するのか)はまだ分からないんだけど、これでノーベル賞が取れることもあり得るわけで……」
事務所に帰って、スタッフにその話をした。やらせてみると、やはり不思議がっていた。
なんで、ねじれが変わっちゃうんだ?
2回転ねじったときに、ぐるっと回すとねじれが消えているってコトは、2回転ねじれは、ねじれてないのと同じってことなのか?
1回転のときは逆ねじれになる、4回転してから回すと2回転になる。
回すと、2回転分のねじれが消えるらしい。ナンデ?
いや、本職の物理学者が「分からない」って言ってることが、分かるはずもないんだけど。
とにかく科学者ってのは、そういう人たちのようだ。
なんでもないような疑問をずっと考え続けて、いつか何かに到達する(かもしれない)人たちが科学者なんだな。
ボクは科学の世界の人間ではないんだけど、漫画家も何かを考え続けて、自分なりの論理にまとめていく仕事であることは変わらないから、そういう部分には共感できる。
藤本先生、ボクもボクの課題を考え続けるから、いつかノーベル賞取ってね。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。