広告漫画を企画する/依頼者のズレを補正して自分のフィールドに引き込む
アメリカ第七艦隊VSランボー一人。
どっちが勝つだろう。
あるいはゴジラVSフツーのオッサンなら。
ガチで正面決戦するのなら、いくらランボーでも勝てそうにない。
フツーのオッサンがゴジラを倒せる可能性もゼロだろう。
けど戦い方を工夫すれば、ランボーが第七艦隊を制圧することはできるだろう。
旗艦の艦橋に潜入して、総司令官の身柄を押さえちゃうとかね。
また、そもそも「勝つ」の意味が違う場合だってある。
ゴジラを倒すのではなく、窮地から逃げ切れれば勝ち。
そういう状況なら、オッサンにだってわずかな可能性はあるはずだ。
お客は、正面突破で第七艦隊を倒すようなコトを要求してきたりする。
でもバカ正直にその通りにやることはないのよ。
何のために第七艦隊を倒さなきゃならないのかを考えて、同じ結果になる別な方法を考えたっていいの。
つ~かソレを考えないと、大抵は玉砕の道しか残ってないのよ。
依頼者のズレを補正せよ!
広告漫画の仕事で最初にやるべきことは「企画のズレを直す」ことだ。
広告主や広告代理店などが用意する企画というのは、すごくズレてることが多いんだよね。
なので「あ、コレはダメだ。ズレてる」と気付いちゃったら、企画から見直してもらうしかない。
このズレてるってのは、漫画としてズレてるってこと。
普通の広告なら、その考え方でいいとしても、漫画にするならソレじゃダメってことはアレコレある。
漫画は前後のツジツマも考えずに言いたいことだけ言ってればいいってモンじゃないからね。
漫画っていうのは、キャラクターたちの行動を見せるものだ。
読者が注目するのもソコ。舞台がドコであっても、小道具がナニであっても、まず第一はキャラだ。
喫茶店を舞台にしたドラマだとしても、主役はその店のマスターなどであってお店じゃない(普通はね)。
でも広告は逆。
そもそも広告の基本ってのは、ソレと知らせることだ。
喫茶店なら喫茶店であることが第一義。
マスターのキャラとか、味へのこだわりとか、居心地の良さとかは付加価値であって、絶対的なメインは「喫茶店であること」。
つまり設備や設定がメインであって、漫画とはベクトルがまるで違う。
他にも漫画は感情的、広告は理性的とも言えるかな。
「理由はわからねぇ。けどオレは行かなきゃならねぇんだ!」なんてのが漫画には多々あるけど、広告でソレはない。
「ランタチイムは500円だから行く」といった具合に、合理的な理屈で読者を消費行動に導くのが広告。
表現や言い回しは色々あっても、基本的に理性的なんだ。
感情的になって泣きわめいてもお客は来ないもんねぇ。
だから普通の広告物と同じ論法で広告漫画を考えてると、ズレちゃうんだ。
漫画には漫画の戦い方ってモノがある。
同じ球技でも野球とサッカーくらい違う。
にも関わらず、サッカーに出るのに野球するつもりでいられたら、勝てるわけがないのよ。
だから勘違いを補正してあげなきゃなんないの。
漫画で広告するってコトは、野球じゃなくてサッカーするってコトですよ、と。
「ええっ、だっていつもはココで野球やってんだよ?」
「でも今はサッカーなんですよ」
「だってサッカーなんか知らないよ?」
「そうでしょうねぇ。だからボクに任せてよ」
……という具合に仕事が始まる。
そんで
「今、盗塁すればいいんじゃない?」
「いやコレ、サッカーだってば!」
……という感じで仕事が進んでいくのだ。
たまに、どっちも引けなくて野球とサッカーを混ぜて新しいゲームを考えなきゃならないようなコトもあるんだけど、そういうときは大抵失敗に終わっちゃう。
なんせ、読者にはルールさえわからないからメチャクチャにしか見えないもん。
そういう広告漫画、一度くらいは見たことあるんじゃないかな。
自分のフィールドに引っ張りこめ!
さて、そういう問題を何とか乗り越えたら、次は「自分が勝てそうな土俵を選ぶ」ことだ。
依頼者が用意した土俵が、自分に合ってるとは限らないでしょ。
戦うのなら自分が有利なフィールドで戦うべきなんだ。
だから考える。
与えられた土俵で自分は勝てるのか。
どんなヤツを相手にしなきゃならないのか。
そもそも勝つとは、どういう状況を言うのか。
漫画が上手に描けたところで勝ったわけじゃない。
広告として反響が出れば勝ちなのか?
でも、それは漫画とは関係なく、広告自体、あるいは商品自体の力かもしれない。
そういう勝ち方で広告主はボクを評価してくれるのか?
……とまぁ、色んなコトを考える。
ギャラを受け取る以上、広告主に協力する、従うってのは前提ではあるのだけど、だからって何でも言いなりに盲従してればいいってモンじゃないのだ。
それに、広告主の要望が妥当なコトだったとしても、自分には向いてないってコトもある。
一般の人って、漫画家なら何でも描けると思ってるから「同じ球技だからやれるでしょ」と、野球選手にサッカー依頼するようなコトをするんだから。
だいたい、自分に向いてる案件だったとしても、何もかもピッタリってコトは、まずない。
微妙なズレは必ずあって、でもソコが致命的だったりするんだ。
なので依頼を受けたとしても、その依頼内容をそのまま引き受けちゃうとトンデモないことになるケースは珍しくない……というよりも、ほとんどがそうだ。
だから土俵をズラす。
いや、土俵はそのままでルールを変えるという感じかも。
依頼内容の要点(広告としての最終的な目的)を把握した上で、自分が引き受けるのだったら、こうやったほうが上手くいくと思える方向に調整していくのだ。
大事な仕事で結果も出したいんだから、わざわざ苦手なフィールドで戦うことはない。
それに広告主は「勝った」という結果さえあればいいというところがある。
前にも書いたように、広告主は漫画が欲しいわけじゃないんだから、言い換えれば「勝ち」さえすればナニで勝ってもいいんだよ(ただし反則で勝ったのでは後で問題になっちゃうからダメだけど)。
屈強なレスラーと格闘技で戦ったら、ボクは絶対に勝てない。
でもゲームで対戦するなら勝ち目はある。
ボクが漫画を連載した「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」には、日本どころか世界が一目置くようなスゴい物理学者が大勢いる。
けれど、そういう人たちを集めたクイズ大会で、ボクは彼らが答えられなかった問題のほとんどに答えられた。
KEK一般公開で催されるクイズ大会は、基本的には来場者が素粒子物理学クイズに挑むものなんだけど、公のプログラムには記載されていない(もしくは目立たないように書かれている)裏メニューがあるんだ。
この裏メニュークイズ大会では、素粒子物理学者たちをパネリストに招いて、でも素粒子物理学とは関係ないコトばかりを質問する。
今年のAKB総選挙で勝ったのは誰? 火山の地図記号は? リュウグウノツカイを描け、とか。
これが、ものすごく面白い。
全然違うモノを描いておいて屁理屈こねてリュウグウノツカイだと言い張る往生際の悪い博士とかね、大爆笑必至。
でも、この往生際の悪さこそが科学的な閃きにも通じてるんだろうな~とも思えて興味深いんだ。
「質量ゼロなのに質量があるのはヒッグス場が質量を与えているからだ」なんていう理論は、無理やりツジツマを合わせてるみたいに感じるけど、実際にそうなんだもんな(ちなみにボクも特別ゲストとして、このクイズ大会に出たことがあるんだけど、そのときは惨敗だった)。
おっと、いかん、脱線してしまった。
とにかく、どうせ戦うのなら、十分に勝ち目があるフィールドに相手を引き込んじゃうほうがいいのだ。
ものすごく乱暴な言い方をすれば、爆笑させようが感動させようが、ウケてしまえば何でもアリみたいなモン。
読者にウケて、広告情報を伝えることさえできればいいのだ。
イソップ寓話に『北風と太陽』という有名な話があるけど、アレとも通じるかな。
広告主は旅人の上着を脱がせられればソレでいいのだから、提示された方法に固執しなくてもいいんだ。
見えない壁を見る能力を磨け!
こういう自分が有利な土俵にズラしていくやり方は、他のことにも応用が利く。
例えば、プレゼン競合で同じ漫画家同士でぶつかることになり、知名度でも技量でも相手のほうがずっと上だったとしても、戦い方はある。
こっちのほうが安いよ、と主張するのだって1つの手だし、納期が早いとか、地元在住だからとか、似たような案件の成功実績があるとか、漫画だけじゃなくてアレやコレもできるとか、ね。
ボクの場合だと、広告主が見落としている要素や課題を探して、ソコを攻めることが多いな。
「アレをこうしてくれとおっしゃってますけど、それだとコレとソレが抜け落ちちゃっていませんか? ボクならソコをこうすることができますよ」といった具合。
これも土俵をズラすテクニックの1つだね。
何度も書くけど、広告主は漫画の素人だから、漫画を作るって事がどういうコトかわからない。
だから広告主と代理店だけで考えた漫画広告企画なんてのは、まさに頭の中で考えただけのシロモノであることが多いんだ。
なので、ほぼ必ず見落としがある。
そのまま進んでも壁にぶつかっちゃうぞっていうナニカが。
そういう壁が見える能力っていうのは、とても強力な武器なんだ。
これはキャリアを積み重ねないと見えないモノだからね。
その武器は、漫画家としてのキャリアだけでなく「広告漫画家」のキャリアを磨いていくことで、さらに強化できる。
そうやって、できるだけ勝てそうな戦いに変えちゃうんだ。
依頼者だって負けてもらっちゃ困るんだから、交渉次第でどうにかなることが多いのよ。
口八丁手八丁。
何とかして勝率の高い仕事に変えていくの。
戦いそのものから逃げるわけにはいかないけど、自分の戦い方とはコレコレで、自分にとっての勝利とはナニソレってのはあるんだから。
そのへんを見極めておいて、そういうヤツだと周囲にも認識させるようにしていけば、そういう勝利を求める人が寄ってきやすくなって、ますます勝率を上げやすくなるのよ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。