キャラ誕生秘話とか現場のラクガキとか初音ミクとか
キャラクターのネーミング
前にもちょこっと書いたけど、ここでもう一回「カソクキッズに登場するキャラたちのネーミング」について語っておこう。
以前の文章と重複するトコも多いけどプラスアルファだって多いから、単なる再掲載じゃないよ。
主人公の少年は「じん」。
クールっぽい眼鏡の男の子は「めが」。
夢見がちなポニーテールの女の子が「ぽに」。
ちょっと不思議系で地球のヌイグルミを抱いてる女の子が「たま」。
いや、現場でね、キャラを作ってるときに便宜上、そう呼んでいたの。
主人公だから「じん」、メガネだから「めが」、地球を抱いてるから「たま」、ポニーテールだから「ぽに」。
何のヒネリもないんだけど、名前がないと打ち合わせがしにくいから、そう呼んでいたわけ。
でも、そうしているうちに、それに馴染んじゃって。
で、ミーティングの席などで、さりげなく「現場では、こういう名前で呼んでいるんですよ」とか言ってみて、そっと反応を見たりして、やがて「キッズサイエンティスト」の納品直前に、キャラクター紹介のページを作る時に、その名前で勝手に作ってしまった。
正式に承認されたわけじゃないんだけど、ダメって言われたら直せばいいしな、と。
いやぁ、OKでよかった!
ちなみに実際のぽには、ポニーテールじゃない。
最終デザインの段階で髪型が変わってしまったからね。でも、馴染んだ名前だから、そのままになったわけだ。
ウルトラセブンの必殺技アイスラッガーと同じだよ。
(ウルトラセブンも元々の名前はウルトラアイだったからアイスラッガーなんだよな)
この「じん」とか「めが」とかっていうのは、本名じゃなくてニックネームだと思っている。
「じん」は本名っぽいけど、さすがに「ぽに」っていう名前はないだろうと……いや、わからんな、今どきはどんな名前でもありそうな気がするし……。
で、でも、とにかく作者的には、本名だとは思ってないの。
本名は作者も知らない。
全然、考えてない。考えたこともない(苦笑)。
彼らは、どこまでいっても「じん」「めが」「ぽに」「たま」なんだ。
そしてボクは、この子たちを本当に愛している。
ボクにとっては、実在する我が子と同じにかわいいんだ。
だから誰が好きとか、そういうのはないの。
全員、かわいい我が子なの。
ただ、「たま」は最初に想定したキャラとは全然違う子に育ってくれて、そのへんが気に入っている。
ボクは「たま」を、あんまり喋らない大人しい子として設定したんだ。
知識は一番で、色々考えてもいるんだけど、滅多に喋らない。
最初はそういう子としてイメージしてたの。
でも、喋らないと存在感が薄くなっちゃうんだよね。
だから色々ね、ギャグとかでスポットが当たるように工夫してみたり、ここ一番のシーンで彼女が大事なポイントを指摘するとか、そういうふうに描いてた。
作画担当もずいぶんイジってくれて、そのおかげで個性の強いキャラにどんどん育っていったんだ。
ちなみに「たま」だけじゃなく、キャラたちのボケには、ボクが原作者として書いたものと、作画担当のアドリブの両方がある。
素粒子物理学の世界って、絵にしづらいというか、下手に描くと正確じゃなくなるというか、とにかく厄介なのよ。
それでセリフ劇になりがちなんだけど、単にセリフを並べるだけじゃ漫画として問題がありすぎる。
やっぱ、絵で楽しませたい。
それでキャラたちが、メインのストーリーの後ろで、ボケたりツッコんだり遊んだりしはじめる。
そういう細かい遊びがカソクキッズという作品を楽しくしてくれているんだけど、実はそれらの多くはボクじゃなくて、作画担当がアドリブで仕込んだものなんだ。
ちゃんとフキダシがあるギャグはボクが書いているんだけど、それ以外のたくさんの遊びは、作画担当のおかげなのよ。
だからボクは毎回、今回はどんなふうにボケてくれるかなとワクワクしながらシナリオを書いていて、作画スタッフのアドリブも加わって絵が出来てくるのを楽しみにしている。
ときどき、構成上とっても面白いボケをあえて切るしかなくて、悔しいことがある。
なんとか見せられないかなぁとアレコレ考えるんだけど、どんなに面白くても流れを乱すとか、解釈がちょっと違うとか、他の話題を盛り込まなきゃならなくなったとか、様々な理由でカットになっちゃったものもいっぱいあるんだ。
そういうの全部、保存しておけばよかったなぁ。
そうしたら映画の「未公開映像」とか「NGシーン集」みたいに、ここで披露できたのに(笑)。
疲れた時にフジモト&たま
この2人、要所要所で大事な事を言ったり、スルドいツッコミをしたりと、欠かす事の出来ないキャラクターなんだけど、基本的にはギャグキャラだから、しっかり描くというより、ちょっと気の抜けた感じに描く事が多い。
漫画を描くのって、結構体力や精神力がいる仕事でして、延々と着色したりしてると疲れてくるの。
特に、気持ちがね。
「うぉおおおおおお!」とか「萌え~~~」とかはね、描いていて楽しいんだけど、それなりにしっかり描かなきゃならないから、気が抜けない。
「科学的に正しくギャグる」ってのも、けっこうプレッシャーだし。
で、たまってくる。
なんか、モンモンとしたモノが。
そういうときにフジモトが出てくる。
ほえ~~っとした表情で、かる~くボケてたりする。
たまも、出てくる。
本筋と関係ない背景のすみっこで、やっぱりお茶目なコトをしてたりする。
ほっとするんだな。
コイツらを塗るんだったら、もうちょい頑張れるな。
そうやっているうちに、また「うぉおおおおおお!」をやろうという気持ちが復活してくるんだ。
漫画が、毎回ちゃんと仕上がるのは、実はフジモト&たまのおかげかもしれない。
現場のラクガキ
漫画のアイディアの多くは、ラクガキに潜んでいることが多い。
作画を担当しているスタッフは、そういうラクガキをいっぱい描いてくれるんだけど、ソレがカワイイの。
ちゃちゃっと描くからラフなんだけど、だからこそ味があるというか、これは制作現場の役得だね。
他にも、漫画を描く前には、その設計図となる「ネーム(絵コンテ)」を作るんだけど、その段階では大雑把な構図や表情が分かる程度のラフスケッチなんだよね。
そこに描かれているキャラクターたちには「ラフだからこそカワイイ」「ラフならではのイキイキ感」といったモノがあって、これもいいんだよ。
本番でキチンと描いたものが出来てくると「ああ、ネームのときのテキトーな絵のほうが好きだなぁ」ということは多々ある。
いや、本番のほうが、よく出来てるのは間違いないんだ。
ラフのままのモノでやっちゃおうと思った事は一度もないの。
でもラクガキだけにある不思議な愛おしさってのは、あるんだ。
そして、そういうのは作者だけじゃないらしい。
ファーストシーズン後半のエピソードで、小林誠博士が出てくるシーンのネームを見せたとき、思いっきりラフすぎる感じで描かれていた小林博士の顔が保護者会で「似てる!」「イメージ通り!」と大ウケ。
このままで描いて欲しいと言われてしまった。
帰ってスタッフに伝えると、困った顔でペン入れしてくれたのだけど、ペン入れすると何か違うんだよ。
そのままにペン入れしてるはずなのに、違う。
結局、ネームの鉛筆画をスキャンして、ハイライト調整やレベル補正をして使うことにした。
あのビミョーな味は、たぶん二度と出せないんだ。
描いた本人でも無理なんだ。
ネームって、そういう絵の宝庫なんだよね。
これからも、門外不出の素敵なラクガキを、いっぱい見せてね。
※補足
先の「NGシーン」は残ってないのだけど、ネームは全話(たぶん)残っている。
というのも、ネームのデータをアタリにして、その上のレイヤーに本番の作画を乗せていくような感じで描いているから。
なので、完成した最終データの一番下のレイヤーには、ネーム状態のものがそのまま残ってるんだ。
まぁ、ネームのレイヤーが1つではないこともけっこうあるので、そういう場合は一部のコマの絵がなくなってることもあるんだけどね。本当に全部を残したままで作画していくと、レイヤーが複雑になりすぎて素早く状況を把握しにくくなったりすることもあるから、そういうときには、いらなくなったレイヤーを削除しちゃうこともあるんだ。本当は全部残しておきたいけど、本番の作画の邪魔になったり、作業効率を落としたりするようだと困るからね。
でも、大半のネームは残っているはずなので、いつか、それも公開できるかも(笑)。
画像を掘ってたら、こんなの出て来た。これも作画担当が描いてくれたちょっとした落書き。単に留守中に電話があったよというメモなんだけど、キャラが描き添えてあると和むよね〜(笑)。
ミクミクなひととき
目の前で「初音ミク」が歌ってる。
いや、KEKでのミーティング中にYouTubeを見てるのだ。
隠れてこっそり見てるわけじゃないよ。
KEK的なネタの「初音みく」を見つけた、とのことで、みんなで鑑賞したの。
別に、漫画の参考になるわけじゃないんだけど、それでも、ちょっとでも加速器とか素粒子とか反物質とかに関係あると、つい見ちゃうみたい。
「初音みく」を調教してる皆さん、本物の研究者たちも、ミクを見てますぜ?
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。