カソクキッズ2話:ビッグバンと高エネルギー
楽しい勉強とは?
ビッグバンと高エネルギー。
2話目にして、いきなりの大テーマ。
宇宙はビッグバンという超爆発で誕生した、と言われている。
前回のエネルギー保存則で言えば、エネルギーは形を変えるだけでなくならないわけだから、宇宙がビッグバンではじまったなら、今の宇宙にある星も、ボクらも、素粒子さえも、何もかもが、ビッグバンのエネルギーが姿を変えたもの、ということになる。
すげ~よな、ボクも、みんなも、ビッグバンの一部なんだぜ?
さて、宇宙創成の秘密に迫るというのは、本当にKEK……というより、世界中の科学者が追い掛けている最大のテーマと言ってもいいものなんだけど、ビッグバンの瞬間に近付くには、その瞬間から10秒後のことを調べて、その10分の1、そのまた10分の1、と限りなく繰り返していくしかないらしい。
でも、10分の1を何回やったって、絶対にゼロにならないんだよなぁ……。
今では宇宙誕生の瞬間から、0.000000000000001秒後の状態が分かるらしいんだけど、まだまだ迫りたいらしい。
素人的には「もう十分じゃん!」って思っちゃうんだけど。
でも、こういう話は聞いていてワクワクする。
日常生活には何の関係もないんだけど、ロマンがあるよね。
いや、そ~じゃないな?
とにかく好きなんだよ、そういうネタが。
普段からちゃんと調べたりするほどじゃなかったんだけど、でも好きなの。
ま、SFとかが好きだからなんだけど、SFって「ありそうだ」と思わないとのめり込めないでしょ。
だから、嘘を描くにしても、うまくダマしてほしいし、こっちもそれなりに知識があったほうが楽しめるんだよね。
つまり、楽しいから好きなんだ。
学校の授業では面白くなかったのに、KEKでの話はとっても楽しい。
めんどくさい素粒子の名前とか原子のこととか、勉強と同じようなことも覚えなきゃならないのに、何故か楽しい。
そのテーマに迫るため、という目的があるから、関連を学ぶのも楽しいんだと思うんだよね。
楽しい事を味わうために学ぶのは、全然辛くないんだよ。
学校の勉強ってさ、テーマがないから楽しくないんだよな。
覚えるために覚えてるだけで、目的が見えない。
それ覚えたら何になるの、って感じでさ。
ちゃんと目指すものがあれば、勉強は楽しくなる。
ゲームを満喫するためなら、教科書より複雑でブ厚い攻略本を何冊も読めるんだから。
やっぱり人間は、楽しくないと学べないんだ。
カソクキッズを楽しんで描けてよかったなぁ。
漫画の校正もマジで熱いんだよ?
以前に書いたように、この第2話もほとんど完成した後に大幅に加筆&改稿して描いたものだ。
この後の3話目までは、ずっとそう。
連載開始前の、まだ腰がしっかり定まってなかった間に進めていたものだから、いざ本番となったらアレもコレも足りないと感じて、丸ごと捨ててやり直すレベルで描き直していたんだよね。
なので、毎月スッタンバッタン。
本当は連載開始時点では、3話分のストックが先行して出来上がっていて、多少の余裕を持って進めていけるはずだったのが、全部やり直しにしちゃったせいで、常にギリギリになっちゃったの。
いやぁ、よく8年間、1度も落とさずに続けられたもんだよ(苦笑)。
月の前半に打ち合わせ(事実上の勉強会)をして、そこで学んだことを約1週間くらいかけてネームにまとめる。
それをウチのテストサーバーにアップして、監修の皆さんに見てもらう。
そしてOKをもらえたら、本番の作画に入る。
何の問題もなく、全部がOKということは滅多にないんだけど、ちょっとしたセリフのミス、科学解説がやや不正確という程度なら作画しながらでも調整していけるので、多少の直しが必要でも致命的な問題がないのなら作画を進めちゃう。
完璧を待っていたら、絶対に間に合わなくなるからね。
そうして作画もほとんど終わりに近づいたあたりで、やはりテストサーバーにアップして最終校正をしてもらう。
ここで色々と修正が出ることが多い。
ネームの段階で見落としていた部分にツッコミが入ることも少なくなくて、超ドキドキ。
セリフを修正するくらいで済むはずなんだけど、もしも作画から直さなきゃいけない問題が出たらどうしよう。
本当に、毎回おっかない。
でもビビってたら一歩も進めないし、間違ってるのなら、どんな段階でどんなスケジュールだろうと直すしかないのだ。
このときも、そうやってドタバタしながら仕上げていった。
そして完成した漫画を、またテストサーバーにアップする。
最終チェックが終わるまでは公開できないし、そもそもKEKのサーバーには外部からアップロードできない。
WEB公開用のデータ(漫画のデータとWEBページのデータ)の全部を納品して、先方のWEB担当者さんにアップしてもらうしかないのだ。
というわけで、漫画が完成したことをメーリングリストで皆さんにお知らせすしたら、早速メール返信が。
「研修会中にもかかわらず、読んでしまって笑いをかみ殺している山中です」
や、山中先生、何の研修中ですかっ!?
い~んですか、そんなときに笑ってて。いや、光栄だけど。
続いて森田博士から。
「どうもありがとうございます。ギャグの雰囲気もばっちりですね。
2ページ目に「宇宙創世」という言葉が出てきますが、KEKでは「宇宙創成」で統一していますので、漢字の変更をよろしくお願いします。」
おおっと、そっか。
漫画などで「創世」のほうが見慣れてたもんだから、違和感を感じてなかったんだけど、科学的には「創成」だわなぁ。
ギャグを褒めてもらえるのは嬉しいな~~。
全部自分で描いてるといっても科学の部分はKEKの領分だからね。
でも、ギャグやキャラやストーリーなどは漫画=ボクの領分。
そこを褒めてもらえると、すっごく嬉しい。
優秀な博士たちに、アホでバカなギャグを認められるというのは、とても嬉しいのだ。
さらに藤本先生からも。
「第2話ありがとうございます。とってもノってきましたね。
ちょっと質問なのですが、ビッグバンの命名のところで、ホイルのビッグバンの話になっていますが、ホイルはルメートルのモデルを揶揄したのでしたっけ?私の記憶では、ガモフのモデルだった気がするのですが……?
というのも、ルメートルのモデルは、途中で話題として出てくる冷たい膨張モデルでした。
ガモフの熱い膨張モデルに対して揶揄したもののように覚えていたので……。
もし、ルメートルに対してであるとの文献があれば、それでよいのですが……」
どわぁああ! オレ間違ってた?
さっき納品データもアップしちゃったけど、差し換えなきゃ!
ちょっと解説しておくと「ビッグバン」という言葉は、もともとは悪口なんだ。
フレッド・ホイルという科学者(SF小説なども書いている有名な素粒子物理学者)がいて、ホイルは「定常宇宙論」という全然別なモデルを考えてたので、ラジオ番組に出演した際に、宇宙が大爆発で始まったとする考えについて「そんなのはビッグバンなアイデアだよ」とからかったんだ。
でも、その後の研究でビッグバンは間違いなさそうだということになって、そのまんま悪口だったネーミングが定着しちゃったわけ。
そこで漫画の中でも、こういうネーミングの由来を紹介したのだけど、そこに藤本博士からツッコミが入ったわけだ。
漫画では、ホイルがからかったのはジョルジュ・ルメートル博士のモデルだとされているけど、違うんじゃないの?
ジョージ・ガモフっていう博士の理論じゃなかったっけ? と。
再び、森田先生から。
「たしかにWikipedia等でみると、ホイルがBBCでビッグバンをからかったのが1950年、ルメートルのアイデア発表が1927年、ガモフたちが元素合成の論文を出したのが1948年、なので、時系列的にはガモフですね。
ただ、ビッグバンのアイデア自身はルメートルが有名なようなので、●元の文章
当時、対立する意見としてフレッド・ホイルという科学者が唱えた「定常モデル」があり、ホイルはイギリスのラジオ番組の中で「(ルメートルの理論は)ビッグバンなアイデアだ」と……
↓
●改定案
長い間対立していた意見として、フレッド・ホイルという科学者が唱えた「定常モデル」があり、ホイルはイギリスのラジオ番組の中で「(宇宙に始まりがあるというのは)ビッグバンなアイデアだ」と……とするのでいかがでしょうか。」
おおっ、根拠と解決策を示してくれたぞ!
ルメートルの名前もガモフの名前も出さないことにしようってわけだな。
どっちか確定しにくいなら、そこには触れないほうがいいもんなぁ。
すでに納品段階まで来てるし、締め切り時間も目の前だし、今から細かい検証は無理だもんなぁ。
と思ってたら、今度は高橋先生から
「”this ‘big bang’ idea” と揶揄した、というのは、日本語的にはきっと『このバ~ンって言う大爆発から始まったとかっていう(ばかばかしい)アイデアさ』という感じなのかと。
だって、日本語で「ビッグバンアイデアだ」って言ったって、別に馬鹿にしているとも感じないので。
なので、「宇宙がバ~ンっていう大爆発(ビッグバン)で始まったなんてありえない!」とか「宇宙がバ~ンって大爆発(ビッグバン)で始まったなんてアホくさ!」とか言い換えないと意味が通じないかと。いかがでしょう?」
うぁああ、コレもまた納得できるツッコミ。
今度の意見は、それまでの「ルメートルか、ガモフか」とは別な部分なのだけど、確かに日本語にする際のニュアンスの問題ってのはある。
でもなぁ、元の言葉の翻訳としてヘンになっちゃうのもマズイし……。
文字数的にもあまり増やせないシーンだし……。
というわけで、ボクはビッグバンに「バカバカしい」というルビをつける事で、この問題を解決したのだった。
……この回に限らず、毎回似たようなツッコミがある。
なんせ、専門家ではないボクが、素人ながらに勉強しつつシナリオもナレーションも書いているんだから、そんな付け焼き刃にミスがあるのはアタリマエだもんな。
でも! ボクのバックには、このように世界最高クラスの頭脳がいる!
失敗なんか恐れない! どんどん描くぞ!
で、いつか先生たちにツッコまれない完全な解説を書いてやる!
ド素人のボクが、物理学のプロが納得する絵と解説を書くなんて、痛快なことじゃないか!
※追記
なお、この第2話を描いた時点では「宇宙はビッグバンで始まった」として描写していたのだけど、その後、連載が進むと「インフレーション理論」が登場し、さらに「真空の相転移」というのも出てきて、今では「宇宙は真空の相転移によって生まれ、その直後にインフレーションと呼ばれる指数関数的膨張が起こり、その後にビッグバンという原則膨張になる」という認識になっていった。
もちろんKEKの人たちは2話の時点でもインフレーション理論は知っていたわけだけど、ここでソレを言い出しちゃうと複雑すぎて読者がついてこれなくなると思って、あえて言わなかったんだろう。
そういうわけでインフレーション理論は、ファーストシーズン後半まで登場しない。
インフレーション理論は、まだ完全に証明されたわけではない(本当に証明されたら間違いなくノーベル賞だろう)理論なのだけど、今では多くの科学者が支持している理論ではあるので、どうやら「宇宙の始まりはビッグバン」というのは古い考え方になりつつあるようだ。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは、電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。