カソクキッズ19話:「宇宙の重力」の謎に挑む!
ガイエスブルク要塞と質量
ボクが大好きなアニメ(本来は小説でそっちのほうがさらに好き)に「銀河英雄伝説」というのがある。
2人の主人公が出てくるんだけど、ボクは自由惑星同盟側の主人公「ヤン・ウェンリー」の大ファンで、架空のキャラクターとはいえ「最も尊敬する歴史上の人物」でもある。
で、その劇中でね、主人公たちのいる要塞に、同様な巨大移動要塞が攻めてくる話があるの。
ワープアウトした巨大な物体。それを感知したオペレーターが叫ぶ。
「質量は……!! ……質量、極めて大!」
「もっと正確に言わんか!!」
「し、質量、約40兆トン!!」
「兆だと!?」
ここから、ファンなら絶対に覚えている「イゼルローン要塞VSガイエスブルク要塞」の壮絶な戦いが始まるのだけど、先のセリフでは「質量」は、大きさや重さを示しているよね。
他のアニメや漫画や小説でも、似たような表現はあって、そして間違っているわけでもないから、ボクは「質量=大きさ、あるいは重さ」と思っていた。
でも……。
本当は質量とは「動かしにくさ(あるいは動かしやすさ)」のことで、重量や大きさとは別のことだったんだ。
例えば、月の重力は地球の約6分の1。だからボクが月に行けば、体重が6分の1になる。
だけど、ボクの「質量」はそのままだ。
あるいは風船が膨らむと大きさが変わる。
でも、中の空気は別として、風船そのものの質量は変わってない。
モノの重量や大きさは、場所や状態によって変化するけれど、質量は変化しない。
質量とは、見た目の大きさや重さのことではなく「動かしにくさ」のことだったんだ。
巨視的(目に見える)世界では「動かしにくさ」が大きさや重さと比例する事が多いから、そういう認識でも間違いではないのだろうけれど、極小の世界を研究する素粒子物理学では、その認識ではダメなわけだ。
でも、なぜ質量があるのかは、まだ科学的に解明されていないんだって。
2012年7月に欧州原子核研究機構「CERN(セルン)」で発見された「ヒッグス粒子」という粒子があり、これが質量の正体だと考えられている。
真空中は、実はヒッグス粒子(正しくは粒子ではなくヒッグス場というフィールド)に満ちていて、物体が動く時には、このヒッグス粒子の影響を受ける。
ボクらはヒッグスの海の中にいて、だからヒッグスの抵抗が生じる。
それこそが質量の正体だ、というのである。
そういう仮説が元々あって、実際にソレが発見されたわけだけど、発見されたモノが仮説通りかどうかは、今後の研究を待たなきゃわからない。
まだ見つけただけで、質量はいまだ正体不明のままなんだ。
でも、せめて、その意味の正しい認識くらいはしておかなきゃな~~。
※追記
冒頭で触れたガイエスブルク要塞の40兆トンだけど、ああいうのって、説明を端折ってるのかもしれないよね。つまり単なる40兆トンじゃなくて「1Gの状態に換算すると40兆トン」なんだろうなぁと。1Gに換算するというのが「言うまでもない前提」になっているんじゃないかなって。正しくは「質量=動かしにくさ」であって重さじゃないのだけど、それでは一般の人はピンと来ないから、重さに換算して語る。でも重さは環境で変化する(宇宙だったらゼロになっちゃう)から「1Gの環境なら」で話すのが前提になってるんじゃないかなぁと。いや銀英伝好きだから、イチャモンつけるより擁護したいのよね(笑)。
宇宙は重力だらけ!!
宇宙空間は、無重力だと言われる。
実際、宇宙飛行士などはプカプカ浮いてるし、重力がないように見える。
でも、本当は宇宙は重力だらけなのだ。
だって重力は「光速と同じ速度でどこまでも伝わる」んだから。
そして、あらゆる物質には万有引力があるのだから。
すげぇ小さい微生物だって、その大きさに比例した引力があり、それはつまり重力の発生源だということで、その重力は宇宙の彼方まで伝わっているのだ。
そういう重力があっちからもこっちからも伝わってきているのだから、宇宙は重力だらけのはずなのだ。
ただ、重力は距離の二乗に反比例して減少するから、あっという間にゼロとしか言えないくらいにまで弱まっちゃう。
伝わってないわけじゃないけど、ないのと一緒レベルになっちゃう。
それに、あっちの重力とこっちの重力が打ち消しあったりもする。
だから無重力に見えるのだ。
多すぎて逆にゼロみたいなもん。
宇宙飛行士がプカプカするのも同じ。
例えばスペースシャトルが飛んでいる宇宙は、地球のフチのような高度。あの高さなら、地球の重力の8割くらいは伝わってる。
つまり、宇宙を飛ぶスペースシャトルには0.8Gほどの重力がある。体重60キロの人なら、48キロになるだけ。全然、無重力じゃない。
だけど実際には無重力。
それはスペースシャトル自体の遠心力のせいだ。
バケツに水を入れて、振り回す。
早く回せば、逆さまになっても水はこぼれない。
遠心力のせいだ。
この遠心力と重力は同じもの。加速で感じるのも、地球から感じるのも、どっちも「G」なのだ。
スペースシャトルもそれと同じ。
飛んでいるというよりも「地球の丸みに沿って無限に落っこち続けている」ようなものなのだ。
地平線の向こうに向かって、ず~~っと落っこち続ける。それによって遠心力が発生する。その遠心力と地球からの引力が釣り合って、打ち消しあって、結果的にゼロになる。
これが無重力の正体で、無いどころか多すぎてプラスマイナス=ゼロな状態なのだ。
地球からの重力も他の天体からの重力も弱すぎになっちゃうほど遠くの宇宙に行けば、やっぱり無重力状態になるわけだけど、これも本当はゼロじゃないのだから、正しくは「微小重力状態」ということになる。
ゼロと考えて差し支えないほど重力が微小なだけで、重力だらけであることには違いがない。
万有引力の法則がある以上、惑星どころか、ミジンコでもボクらでも、すべての物質は重力発生源で、その重力はどこまでも伝わっているのだから。
なお余談だけど、本当は重力って、もっとずっと強いはずらしい。
ボクらが1Gとして感じている地球の重力も、本当はもっと強いはずらしいんだ。
そうでないとオカシイらしいの。
なのに1Gが1Gに感じられるのは「重力が他の次元に漏れてる」からだという。
重力の大半は、他の次元に漏れちゃって、それで今の重力に感じているんだっていうの。
まぁ、この辺まで来るとボクごときではイマイチわからなくなるんだけど、どうもそういうことらしいと言われてるのよ。
でも……漏れてなかったら、ボクの体重も何倍にもなっちゃうんだろうし……漏れててよかった~~~(笑)。
ヒッグス粒子は本当に質量の正体なのか?
2012年に、ついに発見されたヒッグス粒子。
でも、発見の時点では「ヒッグス粒子だと思われる粒子」であって、それが本当にヒッグス粒子だったかどうかは未確認だった。
なので、このヒッグス発見直後の2012年8月に描いた「カソクキッズ:ヒッグス特番」では、ヒッグス粒子かどうかはまだわからないという前提で描いている。
Aさんはこの住所にいるはずだと訪ねて、そこにちゃんとAさんの家があって、インターホンを押したらAさんと同じ姿の人物が出てきたからって、それが本物のAさんかどうかは、まだ確定していないのだ。実はそっくりな双子かもしれないし、怪盗が化けてるかもしれないもんね。
その後、色々と検証を重ねて、約1年後にようやく「やっぱりアレはAさん=ヒッグス粒子だった」ということになり、こうした理論を考えたヒッグス博士がノーベル物理学賞を受賞したんだけど、それでもまだ、スタートラインに立っただけ。
発見されたヒッグス粒子が予想通りのモノかどうかは、まだわからない。
例えばAさん=漫画家という予想で調べたのに、Aさんは絵が描けない人だった、といったことになるかもしれないのだ。
(まぁ、そうだったとしても簡単に諦めないのが科学者って人たちで「手で描いてる予想だったけど実はデジタル制作なのでは」とか「手が不自由でも足で描ける」とか「作者は彼でも他の作画担当が存在する」とか、色々な可能性を探っていくことになるんだろう)
とにかく、そういうことを検証していくには、これからもヒッグス粒子を調べ続けていかなきゃならない。
そして、そのためには現在、世界中で協力して建造しようと計画されている新型粒子加速器「国際リニアコライダー」が必要なのだ。
CERNの加速器で発見されたんだから、今後もCERNでやればいいと思いたいところなんだけど、それだと非効率的すぎるのだ。
有名な数式「E-mc2」。
何かの「仕事」も、「物質」も、全部エネルギー。もちろん、素粒子もエネルギー。
ある素粒子を見つけるというのは「その素粒子が存在するエネルギー領域にアクセスする」ということだ。
我々が生きているエネルギー領域では見えないモノがあり、そうしたモノは、それだけ高エネルギー領域に存在する。
未発見の素粒子を見つけるには、ターゲットの素粒子が「粒子」として実体化するだけのエネルギーを空間に叩き込まなきゃならない。
真っ暗で何も見えない空間。100ワットの電力を流してみても無反応。でも、1ギガワットだとランプが灯る。何もないと思っていた場所に、高エネルギーでないと反応しない何かがある。
そういう感じなのだ。
送り込んだエネルギーで「ヒッグス粒子を生み出す」という感じ。
CERNの加速器「LHC(ラージ・ハドロン・コライダー)」は、大出力だ。
山手線一周に匹敵する巨大な円形加速器で、KEKの加速器「KEKB」よりもずっと強力。パワーアップして生まれ変わった「Super KEKB」でも及ばない。加速する粒子もハドロン=陽子で、KEKBで加速している電子よりも遥かに重い。
それだけの大出力だからこそヒッグス粒子を発見できたのだけど、これって「アレもコレも全部まとめて一気に爆発させてしまって、その破片の中から目的のモノを探し出す」ようなもんなのだ。1粒のチェリーを調べたいのに、チェリーパイ同士をぶっつけて散らかして、そこからお目当てのチェリーを探すようなもん。
確かに、その方法でもヒッグス粒子は見つかる(実際、見つけた)。
けど、その方法では探すだけで大変すぎる。毎回部屋中にチェリーパイをまき散らかして、1粒の特別なチェリーを探して……では、研究なんか進まない。
それで「国際リニアコライダー=ILC」なのだ。
ILCは、CERNの加速器LHCよりもパワーは弱い。
けれど、それは大砲とライフルの違いのようなもの。
小さな標的を狙うのに、大砲で周辺ごとドカーンとぶっ飛ばして、後で本当に標的を巻き込んだかどうかチェックするよりも、ライフルのピンポイント狙撃で標的だけを確実に仕留めるほうが、ずっといい。
ILCは、それができるのだ。
ILCは、KEKBやLHCのような円形加速器ではなく、十数キロに及ぶ直線型加速器だ。
最初の発射時点ではそれなりに広がっていたビームを、ダンピングリングという円形加速器を周回させて、ビームの中の粒子の向きを揃えていく。
まっすぐ飛んでいるように見えるビームも、実は粒子単位では微妙に向きが違っているのだ。
それを同じ向きになるように均して、超平行なビームにする。
それを十数キロの超電導加速空洞に送り込む。
そして絞り込む。最初は太いビームだったのを、エネルギー量はそのままで細く、細く、絞っていく。
最終的なビームの直径は、わずか6ナノメートル。その一点に全エネルギーを集約させる。
LHCのような巨大なビーム砲ではないけど、一点だけに絞れば、LHCよりも遥かに強力なナノビームとなる。
それでヒッグス粒子がいるエネルギー領域を、ピンポイントで狙うのだ。
そうすれば、確実にヒッグス粒子だけを見つけられて、スムーズに研究もできるというわけだ。
大出力に対するピンポイント狙いというのは、いかにも日本的な戦法だけど、実際、ILCの開発は日本が主導的になって進められている。
つくばのKEKには、ILCのための実験施設がいくつもある。毎年9月の一般公開のときには、そうした施設も見学できるから、興味ある人は一度見てみるといい。
ILC用の超電導加速空洞や、それが組み込まれる「クライオ・モジュール」の試作機とかね、けっこうカッコイイよ~~。
上記コラムの中で「大砲」とか「ライフル」とか「ビーム砲」とか言ってるけど、カソクキッズ連載中には加速器を武器に例えるのはNGだった。ビームラインの一番最初の「電子銃」はそういう名前だから銃でいいんだけど、それ以外はダメ。アニメとか漫画の世界ではビームは大抵は武器なので、ソッチ系に例えたほうが説明しやすいんだけど、平和利用前提の研究だから武器に例えるのはマズイんだよね。
なので、このコラムでは武器に例えて説明しているけれど、漫画本編ではそういう表現は避けている。カソクキッズ以外のILC関連漫画も2作描いている(カソクキッズ本編の最後にも4話連続で「ILC特番」を組んでいる)けれど、そのドレでも武器っぽい描写はしていません。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。