小説版イバライガー/第42話:崩壊領域(ディケイ・ボリューム)(後半)

2020年4月4日

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Bパート

 オーバーブーストだと!?
 あり得ない。あの力は特殊な条件でしか発動しないはずだ。シンとワカナ。その心を受け継いだイバライガーR、ブラック、イバガール。さらに未来の者たちの残留思念。決して揃わないはずの3つの要素が重ならなければオーバーブーストは起こらない。あの女では不可能なはずだ。

『ふふふ……持っているのさ、この女も。揃わないはずの要素ってやつを』

 この思念。まさか……ルメージョなのか。

『ようやく気づいたかい? ナツミ、ブラック、そして私。シンたちとは少し違うけれど……やれるのさ、オーバーブーストをね!!』

 ブラックから凄まじい気が吹き出した。周囲の瘴気が一瞬で蒸発する。体表も変化していく。黒いボディに走っていた白いラインが、赤へと変わっていく。これがオーバーブーストか。本当に覚醒したというのか。
 空間に分散していた細胞たちを呼び集めた。かなり消失したとはいえ、まだ7割以上は残っている。奴がどれほどの力を得たとしても、質量を集中させて強化すれば……。

「また質量で俺に対抗しようというわけか。甘いな、ダマクラカスン。むしろ好都合だ。的がデカくなって斬り易い」

 声が聞こえたときには、右腕が斬り飛ばされていた。
 バカな。すでに右腕の集積は完了していた。当初より質量を失っているとはいえ、全身ではまだ40メートル以上。腕だけでも奴の身体より大きい。あの刀も警戒していた。十分に防げるように量子レベルでプロテクトしていたはずだ。それを一瞬で斬ったというのか。わざと強固な場所を狙ったというのか。

「無駄だ。ナツミが俺の限界を超えさせた。今の俺はガイストじゃない。シンとのオーバーブーストとは別の力だ。無修正、そして無制限。そうだな……イバライガーブラック・アンレイテッド、とでも名乗ろうか」

 アンレイテッドだと? 無制限だと? バカな。バカな。そんな能力があるはずがない。俺は力を蓄えた。全てを蹂躙できるはずだ。イバライガーごときに負けるはずがない。まして人間の……女の力が加わった程度で……。

『ふん、相変わらずのバカだね、ダマクラカスン。アザムクイドに乗せられたかい? まぁ私もやられたんだ。笑いやしないよ。人間はジャークが思っているよりずっと強い。そいつに私たちは気づけない。どれだけ知恵を絞ろうとジャークがジャークである限り、人間の本質ってやつに気づけないのさ』

 ルメージョ。何を言っている。所詮は残留思念ではないか。貴様や女が力を貸そうが、この戦いは我らの勝ちだ。あの二人……シンとワカナという個体は、すでにアザムの虜なのだからな。ポジティブも尽きかけている。もはや終わったのだ。

『そうだねぇ。確かにポジティブは消えそうだねぇ。ポジティブは、ね』

 なん……だと? どういう意味だ?

『わからないのかい? 対消滅するならとっくに起きてるさ。もう一度、気配を探ってみるがいい。お前が感じているネガティブはどこから来ている? それは本当にネガティブなのかえ?』

 何のことだ、と言おうとしたとき、異変に気づいた。吸収したエモーション・ネガティブが身体から抜け出ようとしている。なんだ、これは。ネガティブが、別のネガティブに侵食されていく。取り込まれ、変異していく。

 な、何をした、ルメージョ? いや、ブラックの仕業か!?

『私は何もしちゃいないさ。ブラックもね。やったのは人間さ。私らが取るに足りないものとして見下してきた人間さ。いいかい、ダマクラカスン。1つ教えてやろう。人間はね、ポジティブの使徒なんかじゃあないのさ。光とともに、我々ですら驚くほどの闇も併せ持っている。光の強さは、闇の強さでもあるのさ。善人が悪事を働くこともある。悪人が世界を救うこともある。だから人間は恐ろしいのさ』

 人間が……恐ろしいだと? 我々以上の闇を持っているだと? それがブラックのあの姿だというのか。そんなはずがない。アザムクイドは何をしている。人間を殺せ。その者たちを殺せ。好きにさせるな。

『もう終わりなのさ、ダマクラカスン。お前が言った通りにね。ほぉら、始まるよ。あの二人が目覚める。全てが裏返る。どうやら消えるのは人間じゃなく、お前とアザムクイドのようだねぇ。見届けさせてもらうよ。本当の滅びを。我々ジャークが消え去る様を』

 


『なんだ、これは……!?』

 取り込んだ人間たちのエモーションは感じていた。抵抗しようとするポジティブの輝き。そのまま強まれば、オーバーブーストを発動しただろう。ポジティブとネガティブの対消滅によって島国は吹き飛び、リディーマーを召喚するに十分な特異点が生まれる。それで我らの策は成就するはずだった。

 しかし。

 ポジティブが消えた。代わりにネガティブが膨張していく。こちらの力さえ飲み込んで、ひたすら増幅されていく。
 これでは対消滅は起こらない。なぜだ。最も強力なポジティブの使徒を取り込んだはずだ。育成も慎重に行ってきた。計算に間違いはない。にも関わらず、取り込んだ人間からはネガティブしか感じられない。

「これが人間だ、アザムクイド。お前たちにはわからない人間の本質だ」

 女……アケノ。よもや……我を欺いたか。そんなはずはない。お前の行動は全て読めていた。我を欺こうとする策もだ。見落としなど、あるはずがない。

「そうだ。欺いてはいない。約束通り、シンもワカナも差し出したじゃないか。私が言ったことは何もかも真実だ。ただ、お前が人間をわかっていなかっただけだ。もう一度言う。私は欺いていない。欺かないことが欺くことだからだ」

 人間……だと……。わかっていないだと?

「人は光だけではない。どんな奴の中にも闇はある。そして闇が光に変じることもある。悲しみや苦しみが、優しさや強さに変わるときがある。私はそれを知っている。賭けではない。あの二人が、それだけの闇と光を持っていると確信したからだ」

 闇が光に変じるだと? 何のことだ。ネガティブは今も膨張し続けている。ネガティブ同士では対消滅は起こらないが、あの人間たちがネガティブへと堕ちれば、我らに匹敵する新たなジャークが誕生する。それだけの力があれば、対消滅がなくともリディーマーは喚び出せる。やはり人間は終わりのはずだ。

「ジャーク、お前たちは純粋だ。ネガティブに殉じている。だからこそ、人がどういうものか読みきれなかった。我々は正義の味方などではない。ポジティブの使徒でもない。光と闇、両方を有するからこそ人なのだ。光と闇がせめぎ合いながら生きるのが、人という生き物だ。そして弱い。闇も光も、たやすくひっくり返る。この作戦は、それを励起することが鍵だった。人の弱さ。それこそが最大の強さでもあるのさ」

 巨大に膨れ上がったネガティブの波動に、変化が起こった。中心に生じた2つの点から、全体へと変化が広がっていく。ネガティブが裏返る。ポジティブへと反転していく。我らが蓄えたエネルギーまで飲み込んで、闇が光へと変わっていく。
 発動させた特異点プログラムも書き換えられていく。赤から蒼へ、光が変わっていく。これは……これでは……まるで奴らの……。

 弱さが強さだと。光でも闇でもないだと。相反する力を共に受け入れるというのか。その矛盾こそが人間だというのか。

「始まったな。どうやら騙し合いでは私が……いや、人間が勝ったようだ。悪いな、アザムクイド。人間ってのは悪どいんだよ」


 アケノは、部屋の隅に転がっているモノを掴んだ。
「ようやくお前の出番だ。今なら、あの中でも本体とのシンクロは途切れない。二人をよく知るお前なら見つけられる。行ってこい。私が許す。ワカナの身体を好きなだけ這い回って呼び覚まして来い!!」
 投げた。体育座り状態で固まっていた小さな赤い塊は、空中で全身を伸ばし、雄叫びとともにコアの中に飛び込んでいった。

 


 闇が、光に変わった。上手く行ったのか。何も見えない。
 けれど、ワカナの手の感触だけは伝わってくる。
 絶対に離さないと誓っていた。この手がなければ負けていた。一人ではできなかった。

 俺たちは弱い。共感しながら裏切る。愛しながら傷つける。誰かの正義は誰かの悪でもある。人はそういうものだ。ポジティブとネガティブが混じり合っているのが人間なんだ。だから、ネガティブも俺の一部だ。取り込める。一体化できる。

 ネガティブを取り込んで操る方法は、ナッちゃんが見せてくれた。要領はすぐにわかった。どちらもエモーション。本質的には同じなのだ。
 ただ、バランスが難しかった。どうしても意識が一方に引っ張られる。ネガティブに身を委ねると、戻ってこれなくなる。ナッちゃんはルメージョの中で抵抗を続けている間に自然と会得したのだろうが、付け焼き刃では無理だ。ダークサイドに堕ちれば、自力では戻れない。

 でも、俺たちは二人だ。俺にはワカナがいる。自分の全てをさらけ出せるパートナーがいる。俺がネガティブに飲み込まれても、ワカナが引き戻す。ワカナがそうなったときは俺が引き戻す。闇に沈んでも、どちらかが光を守り続ける。

 ありがとう、ワカナ。お前が一緒でよかった。俺の無茶に付き合ってくれてありがとう。信じてくれてありがとう。
 これからも一緒にいよう。生きられるだけ一緒にいよう。
 この手は、決して離さない。

 


 シンの手を握り続けていた。
 私の全身が、怒りで、憎しみで、嫉妬で、悲しみで、染まっていく。

 私は、正義の味方なんかじゃない。みんなも、この世界も大事に思ってるけど、それでも一番大事なのは、この手に伝わってくる温もりだ。
 それを奪おうとするものは憎い。親友でも、仲間でも、嫌なときは嫌だ。私だってネガティブだ。ポジティブだけの人間なんかいない。誰だってそうだ。世界は綺麗なだけじゃないんだ。

 そういう想いまで、シンに預ける。私の中の綺麗じゃないものを、隠さずに預ける。
 同じだけ、シンの中の綺麗じゃない部分を預かる。
 それも愛する。綺麗な面だけを見続けることはできない。素敵なところを好きになるのは当たり前。嫌な面も含めて、その人なんだ。嫌なところまで好きにはなれないし認めもしないけれど、影と光は切り離せない。

 部屋の中でもちゃんとパンツ履け。洗濯物を溜め込むな。エロ本は見つからないように隠せ。私の誘いを断るな。

 文句はいっぱいある。でも、それが自分が選んだ人なんだ。
 これからも、ずっと一緒にいたい。生きてる限り一緒にいたい。
 この手は、絶対に離さ……

 ナニ、この感じ? なんかモゾモゾしたものが……しっ、しっ、あっち行け。今いいシーンなんだから邪魔すんな。

 


 うわぁああああ、なんだコレぇええええ!?
 何か俺の身体をまさぐってるぅうう! ワカナ……じゃねぇ! ジャークか? ジャークなのか!?

 んん~~? これ本当にワカナか? 胸、こんなに平らだったか?

 うわっ、てめぇ、マーゴンかよ!? なんでココにいるぅうううううっ!?

 なに? じゃコレ、シンの身体なのか!? いやぁああ、ワカナのほうがいい~~!!

 ジョーダンじゃないわよ!! エモーション・フィールドッ!! 絶対こっち来んなぁああ!!

 いい感じの心の交流ってシーンだったはずなのに、ブチ壊しやがってぇえええ!!

 なんだとぉ! こんなキモい世界まで助けに来てやった親友にナニを言うっ!! もう二度とポテチ分けてやらないからな!!

 やかましいっ!! もういい、こんなトコにいられるかぁああ!!

 そうよ、さっさと出ないとナニされるかわかんないわよ!! 行くよシン!!

 おおおおおっ!! 気合い入れろ、ワカナァアアアアアアッ!!

 よぉし、ボクもぉおおお!!

 お前はやめろ!! ノイズ混ぜんな!! あと、まさぐるな!!

 


 うわぁああああああ、の辺りから実際に声が聞こえ、ソウマは溜息をついた。

 魔法陣のせいで、何もかもがダダ漏れだ。街中にライブ中継しているようなもんだ。
 シンも、ワカナも、間違いなく健在だ。健在すぎるほど健在だ。作戦は成功した。ここから一気に逆転だ。まさに見せ場。
 だというのに、コレはなんだ?

「上手くいったようだな」
 初代が、そばに来てつぶやいた。いや、それはそうだが……。あのバカのフィギュアはワカナとイバガールに渡したと言っていたな。ナツミさんじゃなくて良かったと、つくづく思う。それなりの性能ではあるようだが、あんなアホがナツミさんに触るなど断じて許せん。たとえモラクルのボディだとしてもだ。

 それにしても……はぁ……。

 もう一度、溜息をついた。なんてこった。確かに俺はバカっぷりを見せろと念じたが……本当にその通りにする奴があるか。もうちょっとサマになるやり方はなかったのか。お前ら一応はヒーローなんだろうが。こういう復活シーンってのは見せ場だろう。フツーはもっと……とにかく少しは格好をつけろ。これじゃ俺たちまでマヌケじゃねぇか。
「いや、ソウマ。これでいい。実にあの二人らしい。これこそがシンとワカナの、その仲間たちの……人間の強さなんだよ。ふふふ……見事だ。本当に見事だ!!」
 初代イバライガーは、笑いながら感心している。ああ、そうかよ。まぁ……そうだな。

 もう一度、魔法陣を見上げる。その蒼い輝きの向こうに星々が見えた。赤から蒼に変わった魔法陣の光が、瘴気を打ち消したのだ。触手の動きも止まり、小さいものは蒸発しつつある。傷だらけだったPIASも光に癒されて、ほとんど修復されている。
 あれはもう魔法陣じゃない。
 巨大なエキスポ・ダイナモそのものだ。

 いつの間にか、自分も笑っていた。ったく、とんでもねぇことをしやがる。
 バカって奴は……本当にすげぇな。

 


 シンとワカナを抱き抱えて、真っ赤なイバライガーXが跳ぶ。イモライガーは、その足首にしがみついた。
 真下で、キモくてエロいナニカになっていた測定器ってのが、シオシオになってしぼんでいく。そして地震とは違うすごい振動で建物……ていうか何もかもが崩れていく。
 こういうこと、前にもあったな~~。あの時は何故かしゃもじを持ってドタバタしてたっけ。

「振り落とされるな。それと這いずったら破壊するぞ。バリアだけに専念してろ」
 抑揚のないアケノの声。やらないって。いくらボクでも「私」のときのアケノにちょっかい出すほどムボーじゃないって。
 ガラスの破片とか、天井の部品とか、時々バカでかい搬入用クレーンとか、とにかく無数のモノが落ちてくる。イバライガーXは、そうした落下物を踏み台にしたり、ときに壁を走ったりして回避している。ボクも一応はエモーション・フィールドを展開してるけど、なくても問題なさそうだな~。

 あっという間に天井を突き抜けて飛び出した。そういや初めてイバライガーに出会ったときも、今回と同じようにイバライガーに抱っこされて天井から脱出したってシンが言ってたな。第一話の再現か~。シリーズもののラストバトルにありがちな展開だよな~。

 とか言ってる場合じゃない。なんだアレ!?

 地面がのたうってる。建物が次々と崩れ、爆発もあちこちで起きてる。地下で何か、ものすごく大きなものが動いてる? まさか加速器ってやつ? 全長3キロある地下トンネルって聞いてるけど……それが動いてんの? まるでデカい蛇。いや、龍だよ。

『おのれぇえええ、ニンゲェエエエンッ!!』

 ものすごい叫び声とともに、龍が鎌首を上げた。ヤベェエエッ!! これ超ヤベェエエエエッ!! あれがアザムクイドかよ!? シンたちがやっつけたんじゃなかったのかよ!? あ、でもボス戦ってのは第二形態とか第三形態とかあるのがフツーだもんな。ああいうのが出てくるのが当然だよな~、あはははは……って笑ってる場合じゃね~ってば!!
 龍の頭がこっちを見てる。目が赤く光ってる。まさかビームか? ビーム出すのか!?
「イモライガー、任せる。弾き返せ」
 また抑揚のない声。ええええええええっ、ボクがぁあああああ!? 無理、無理、無理、無理、無理ぃいいい!!
 と、パニくってる間もなく発射された。うわぁあああ、ど~すりゃいいの!? しゃもじちょ~だい!! せめてご飯は大盛りで!!
 直撃された。ビームだもんな~。ほとんど光速だもんな~。かわせるわけないよな~。そりゃ、やられちゃうよなぁ。

 ん? やられて……ない???

「よくやった。次も頼む」
 え? やったの? ボクが? なんかスゲェ強化されてる? あの夜空に浮かんだエキスポ・ダイナモのせい?
 ………………。
 うわ~~はっはっはっは!! 我がIMOの力を見たかぁあああああ!! ナンボでも来いやぁあああああ!!
 言ってる間に、どんどんビームが来る。ほいっ! とりゃ!! おらぁああ!! 全部、弾く。いやぁキモチいいわ、これ。

 と……イバライガーXが着地した。ここは……筑波大学のグラウンド?
「では私は行く。シン、ワカナ。決着はお前たちに委ねる。イモライガーは二人を守れ」
 二人ともうなずいてる。いや、ボクはちょっとうなずけないぞ。アケノ行っちゃうの? どこに? あの龍はどうすんの? いくらボクがビームを防げてもやっつけるのはキビシ~よぉ?

「大丈夫よ、マーゴン」
「ああ、本当の力を見せるのはこれからだ」

 シンたちが夜空を見つめている。なんか余裕あるな、お前ら。
 ていうか……二人とも光ってるぞ? 大丈夫なのか? しかも、いつの間にかデッカいエキスポ・ダイナモが真上に来てる。これってもしかして……共鳴してんのか? 蒼い光とシンとワカナがつながってるのか? 同じこと前にあったよな。てことは……。
 アレか。いよいよアレをやるのか!?

 大学校舎の向こうに、龍が見えた。追ってきた。怒ってる。今まで以上に強力な一撃を放つつもりだな。でも、もう遅いぞ。今度こそボクが出しゃばるまでもない。
 やっちまえ、シン。ワカナ。

「来い、イバライガァアアア……アァアアアルッ!!」
「私はここよ、イバガール!! 待たせてごめん。やるわよ、オーバーブーストッ!!」

 


 シンが呼んでいる。
 奪わせない。諦めない。俺の未来は俺が選ぶ。

 ワカナが呼んでいる。
 終わらせない。私は受け継ぐ。そして伝える。

 私の中のシンが応える。
 そうだ。屈するな。戦え。抗い続けろ。

 私の中のワカナが応える。
 そうよ。つなぐの。命はつながり。

 私自身が応える。
 負けない。守り抜く。闇も、光も。

 私自身が応える。
 生きるわ。みんなも、自分も。

 全てが1つになる。シンの意思が、ワカナの祈りが、私たちと1つになる。

 オーバーブースト……イバライガーRリヴォルト発動!!
 オーバーブースト……イバガール・ドリーマー発動!!

 


 新たな力を得たRとガールが、龍に突っ込んでいった。
 光が弾ける。研究所も、市街地も、全てが光に、エモーション・ポジティブに覆われていく。
 すげぇな。さすがはクライマックスだぜ。

 ミニライガーブラックは、最後の触手に向かって歩き出した。かなり力は失っているが、それでも集まって合体して、ポジティブに抵抗しようとしている。ゴーストも取り込んでいるらしく、あちこち牙だらけの怪物になりつつある。

 けど……それがなんだ? 力が溢れてくる。全然負ける気がしねぇ。

 路地からミニライガーRが出てきた。並んで歩き出す。
「どうやら、お前もやる気らし~な。優等生キャラにしちゃノリがいいじゃんか」
「優等生は宿題をキチンと片付けるものなんですよ。あの様子じゃ、他への援軍は必要なさそうですしね」
 ミニブラックは、また光を見上げた。ミニRも、同じように見上げている。
「くっそぉ、ブラックはアンレイテッドで、Rがリヴォルト、そんでガールもドリーマーかよ。おい、ミニR。あいつらだけに差を付けられてちゃたまんね~よな」
「じゃあ、こっちもやりましょう。私たちにもオーバーブーストはあるんですから」

 走り出した。二人同時だった。歩調まで一緒だ。触手オバケがウニョウニョと動き出した。させねぇよ。何もさせねぇ。一撃でキメる。

「おっしゃあぁあ! 行くぜミニR!! キズナモード……発動ぉおおおっ!!」

 


 女子高生の電磁フィールドに踏み込んだ。抵抗は感じるが、わずかなものだ。
 格闘タイプの蹴りが来た。全力を込めた一撃。しかし片手で軽く弾ける。それも、奴らを封じるフィールドを展開したままでだ。

 通りの反対側から、ドリルが吹き飛ばされてくる。その後方でパワーアームが光に向かって荷電粒子ビームを連射しているが、すべて直前で跳ね返されている。PIASだ。やはりフィールドを展開している。

 初代イバライガーは、フィールドを縮めていった。PIASも同じだ。ゴーストたちは、もう逃げられない。市街地全域に及んでいた戦いを、小さな公園の中に抑え込んだ。
 集まった4体のゴーストは合体しようとしている。触手と同じだ。パワーを集中させて対抗するつもりなのだろう。シンたちの輝きによって弱体化したとはいえ、奴らはアザムクイドの分身だ。油断はできない。

「初代。俺たちもやってみないか。試してみたいことがある。今ならハイパーの力を使えるだろ? それを俺に向けてくれ。たぶん、面白いことができる」
 PIASが走り出した。なるほど、かつてイバライガーを憎んだ男と、そのナイフを受け止めた私の合体技か。確かに面白い。この戦いを締めくくり、人と私たちの可能性を示すにふさわしい。よかろう。やってみせろ、ソウマ。

 ハイパーイバライガー発動。エモーション・リンク確立。ハイパーの力をPIASへ。

「おおおおおおおおっ!!」
 ハイパーを取り込んだPIASのボディカラーが変わっていく。身体の中心線から左が青、右が赤。完全な融合は難しいようだ。それでも共鳴し増幅され、爆発的にパワーが上がっている。
 合体ゴーストが、ビームにエネルギーを集中させている。これまでにない最大出力。市街を吹き飛ばしかねないほどだ。だが。

「食らえ! ハイパァアアアッ……ブラストォオオッ!!」
 PIASの掌から放たれたエネルギー波が、ビームを中和し消滅させながら、ゴーストに撃ち込まれた。断末魔とともに、凄まじい爆発が起こる。その全てがフィールドに遮られ、半球状の空間が白熱した。圧縮された熱量は数万度にも達するだろう。

 その中から、PIASだけが歩み出てきた。ダメージはないようだ。開いた手のひらを上に向け、全てを掴むように握りしめると、エネルギーも空間も消えた。PIASは、そのまま静かに歩いてくる。カラーリングは元に戻っていた。

 

ED(エンディング)

 2つの光が、夜空を疾るのが見えた。
 あれは……イバライガーR……それに、イバガール……か……。

 なぜだ。なぜ俺は敗れた?
 アザムクイドは何を誤った?

 ルメージョは言った。
 人間は恐ろしいと。ジャークには決して理解できない強さを持っていると。
 この蒼い光が、それなのか。

 質量のほとんどを失った。もはや元の身体を維持するのも限界に近い。
 だが……まだだ、まだ終わらんぞ。俺は蹂躙する。破壊する。

 佇んでいる黒いボディに向かって踏み出した。爪がある。その腕を引き裂いてやる。牙がある。その首を食いちぎってやる。俺はジャーク四天王ダマクラカスンだ。イバライガーブラック。貴様を殺す。

「見事だ、ダマクラカスン。その怨念に敬意を込めて消滅させてやる。ひとかけらの原子すら残らんようにな」

 それでいい。来いブラック。俺を……楽しませ……ろ……。

 

次回予告

■第43話:エンド・オブ・デイズ /ダーク・リディーマー降臨
運命に抗うシンの思いが宿ったリヴォルト。ワカナの祈りが結実したドリーマー。2つの力がアザムクイドを打ち破る。空爆も回避され大団円かと思われたとき、消滅したはずの特異点プログラムが再起動する。鳴動する魔法陣から吹き出す莫大なエネルギー。最後の、そして究極のジャーク、ダーク・リディーマーがついに降臨する……!!

 

(次回へつづく→)

 


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