小説版イバライガー/第37話:おかえりなさい(前半)

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■OP(アバンオープニング)

 起動した。動いている。
 けれど私は動かしていない。全てのシステムが、私のコマンドを受け付けない。
 にも関わらず、ボディは動いている。別なOSに支配されている。
 アクセスを試みたが、何も反応しない。メモリーにない機能がいくつもあった。外観もかなり変化している。
 マスターによってアップデートが行われたのだろうか。
 だが、私が知らない機能の多くは、私の基本プログラムに反するものだ。それらは決して使ってはならないものだ。
 それでも私は動いている。私はそれを止められない。

 マスターたちに何があったのだ?
 最後のメモリーは、彼らが泣き叫んでいる姿だ。私は彼らを助けなければならないが、すでにボディは動かなかった。
 あれから何があった?
 シン。ワカナ。Dr.ゴゼンヤマ。Dr.エドサキ。私のマスターたちは、どこにいるのだ。
 私は、彼らの元に帰らなければならない。

 身体が飛翔した。以前よりずっと静かで滑らかな動きだ。まるで私のベースとなったヒューマロイドたちのように。
 街並みを見下ろす。夜。深夜らしい。地形がメモリーにあるマップと一致した。建物は一部変わっているが、場所は特定できる。
 だが自分が向かっている先は、私が知っている彼らの居場所ではないようだ。

 私は何処へ向かっている? 何をしようとしている?

 ボディは応えないまま、夜空を疾っていく。右腕が月光を反射して光った。
 私にはなかったはずの刃。あってはならない武装。

 私は誰だ。
 何になってしまったのだ?

■Aパート

 基地の周囲に、徹底したエモーション防壁が施された。以前のNPL防壁などとは桁が違う。例え四天王級の攻撃であったとしても、一撃では破れまい。
 その上、本人にも特殊スーツの着用が義務付けられている。初代イバライガーが使っているNPLマントと同様のもので、わずかでもネガティブの反応があれば、瞬時に硬質化して拘束する。自分で脱ぐことはできない。トイレや入浴時などには、武装させた女性隊員3名が必ず立ち会う。
 やりすぎだ、とは言えなかった。ワカナは言ったらしいが、これが止むを得ない処置だということはわかっているだろう。
 彼女は、まだ安全ではない。本人がそう言っている。

「……窮屈だろうが理解してくれ。アンタを受け入れるためには、これがギリギリなんだ」
「気にしないで。これは私が望んだことなの。何もない、とは言えないから。自覚はないけれど、私の中に私以外のものが残っているのは間違いない。そしてそれを消すことはできない。できたとしても今はまだダメ」

 薄暗いカーゴの中で、彼女は少し微笑んでいた。
 ジャークから解放されたとはいえ、当分は籠の鳥だ。自由には程遠い。それでも彼女は微笑んでいる。確かに、これまでよりはずっとマシだろう。今までが地獄すぎた。微笑むことを忘れなかったというだけでも奇跡だ。
 強い女だ。俺が知っている誰よりも強い。それでいて弱く、危険でもある。

「心配するな。俺も常駐させてもらえることになった。何があったとしてもアンタのことは俺が守る」
「ありがとう、ソウマさん」
「さん、なんて付けるな。ソウマでいい。ここではみんな、そんな感じだ」
「わかった、ソウマ。私たちもそうだったしね。シン、ワカナ、マーゴン。いつも気安く呼び合っていたのよ」
「もうすぐ会える。たぶん、何も変わっていない。アンタが知っている奴らのままだ」
「うん、知ってる」

 また微笑んだ。この笑みは、俺に向けられたものじゃない。
 あの戦いの直後に、彼女の記憶は戻っている。そして記憶がなかった間のことを忘れている。あの涙も、あのときの微笑みも、もう彼女は覚えていない。
 そんなことはわかっている。それでも俺は見た。決して忘れない。そして二度と見ない。
 あの涙は、あれが最後だ。あんな思いはさせてはならない。俺の力は、そのためのものだ。

 ソウマはPIASのカプセルを見つめた。今はエキスポ・ダイナモは光っていないが、その力は感じる。
 俺はイバライガーになったんじゃない。
 彼女を守るナイトになったのだ。

 


 シンは、ワカナと一緒に正面玄関前に出て、到着を待った。ワカナはゲートまで駆けて行きそうだったが、それは引き止めた。どのみち途中で車は止められない。下手すりゃTDFに拘束されかねない。ここで出迎えるしかないのだ。

『接近中! まもなくゲートを通過します!!』
「了解っ!! 来るわよ、みんなっ!! 配置はいい!?」
『ま、待って。まだ最後のアレが……』
「急いでよマーゴン! もう見えてきた。ここまで1分とかからないわよ!?」
「いや、その……お前ら、もうちょっと落ち着けよ。ていうか、もっと自然でいいんじゃないか?」
「ナニ言ってんの! これまでで最大の作戦でしょ!! 気合い入れなさいっ!!」
『そうだよ、あれから一週間も待たされたんだぞ! ここでボクらの本気を見せなくてどうすんだよ!!』
『そうですよ! シンさん冷たいですよ!!』

 総ツッコミかよ。俺だってそれなりにドキドキしてんだぞ。つ~か、一週間どころか、もう何年も待ち続けていたんだ。あの日、掴めなかった手を取り戻すために、俺たちは戦ってきたんだ。でも……だからこそ普通に出迎えるべきじゃないのか? 当たり前の日常が一番大事なんじゃ……。

 ……そうでもないか。こんな基地で暮らしてる時点で日常でもなんでもないもんなぁ。過ぎた時間は取り戻せない。俺たちは、ここからもう一度新しい日常を築いていくしかないんだ。ワカナたちは、それを理屈じゃなく理解している。わかってないのは俺のほうかもな。
 シンは苦笑して、近づいてくるPIAS用の指揮車を見つめた。

『来ました! 玄関前まであと5メートル……3……1……タッチダウン!!』

 カオリの緊張した声が響き、最後にボフッというノイズも響いた。マイクを放り出して走り出したんだろう。
 ていうか、言わなくてもわかるよ。目の前なんだから。

 車が停車した。ワカナがそわそわしている。アケノはソフトクリームを舐めている。マーゴンとカオリが駆け出してきた。
 カーゴのドアが開いた。ソウマが降りてくる。飛び出そうとしたワカナが「お前じゃねぇよ!」という感じでコケそうになった。
 出てきた。真っ黒な特殊スーツ。風に髪がなびく。ワカナが硬直した。俺もだ。ナニを言えばいいんだ。考えていたはずなのに全部吹っ飛んだ。
 姿は、これまで何度も見ていた。けれど中身は別物だった。今、目の前にいるのは本当の彼女だ。俺たちが知っている彼女を感じる。
 ちくしょう、視界がボヤけてるぞ。もっとちゃんと見たいのに。

「ただいま……みんな……」

 声が聞こえた。幻聴じゃない。エモーションで感知したわけでもない。本当の声だ。
 ワカナが前に出た。近づく。彼女が両手を広げて、笑った。

「ナツミィイイイイイイイッ!!」

 その声が堰を切った。もう、わけがわからない。泣いて、笑って、誰彼構わず抱き合って。どうでもいい。ちくしょう、最高だ。最高だぞ、こんちくしょう。

「はいはい、もうそろそろ中に入って。そうじゃないとイバライガーたちが戻ってこれないでしょ」

 アケノの声だ。
 そうだった。ナッちゃんは解放されたわけじゃないんだ。もしものときのために、周囲にイバライガーたちが展開して見張っている。それがTDFの銃口で迎えさせないための条件だった。ナッちゃんがエモーション防壁で強化された館内に入るまでは、警戒態勢を解除できない。

 全員が、館内に入っていくのを見送った。泣きじゃくっていたワカナも、今は笑っている。マーゴンとカオリは先導して走っていった。休憩室に歓迎の飾り付けをしてたが、何か仕掛けがあるっぽい。アケノが早足で追っていくのが見えた。うん、まぁマーゴンのすることだもんなぁ。チェックせずにはいられんわな。

 ソウマは、ナッちゃんの背後にぴったりくっついて離れない。惚れたな、アレは。まぁいい。お前が助けたんだもんな。
 ただなぁ……ナッちゃんは手強いぞ。そう簡単にはオチないぞ。うひひ。
 最後に、TDFの女性隊員3人が入っていく。ナッちゃんの護衛……ではなく、監視役だ。シンの前を通るときに、3人とも申し訳なさそうに頭を下げた。わかってるさ、気にしないでくれ。あんたらだって好きで監視してるわけじゃないもんな。

 全員を見送ってから、シンは空を見上げて声をかけた。
「もういいぜ。みんな、戻って来てくれ。ナッちゃんを紹介するからさ」
 つぶやく程度の声だが、ボリュームは関係ない。エモーションで全員に伝わったはずだ。
 イバライガーたちの姿は、まだ見えない。物々しいムードにしないために、目視できない場所に隠れて見守ってくれているのだ。

 彼らが戻ってくる気配を感じてから、シンは踵を返した。

 


『どう思う?』
『やはり、ルメージョの因子は残っているようだ。わずかだし断片的だから発現できるとは思えないが……』
『うん、私もあれなら問題ないと思うんだよね。アケノ、気にしすぎなんじゃないのかな~~』
『仕方ないさ。前回のこともある。それに、他のジャークがナツミさんを狙う可能性は十分にある。彼女はルメージョの記憶も持っているんだ。ジャークの秘密が漏れることを恐れて暗殺される危険は小さくない』

 初代イバライガーとイバガールの会話を聞きながら、イバライガーRは一人うなずいていた。
 この一週間、イバライガーたちは全員、厳戒態勢だった。ナツミさんがTDFによって検査を受けている間、常に周囲を固め、ジャークの気配を探り続けていたのだ。そして2度ほど、何かを感じた。

 あれが何だったのかは、わからない。ジャークとは違う。殺意のようなものも感じなかった。だが、とても危険な気がした。実際には何も起こってはいないが、それがかえって不気味だ。何かが、すぐ近くにいる。けれど感知できない。
 とにかく、ナツミさんから目を離さないことだ。あの何かは、一瞬の隙を付いてくる。そんな気がする。

『R、みんな待ってるよ。早く戻ろう』
 ガールに呼ばれた。それでいいのか少しだけ迷ったが、そばにいるほうが守りやすいのは確かだ。
 イバライガーRは、周囲の気配を探りながら歩き出した。

 やはり何も感じない。それでも何かはいる。そうとしか思えない。
 この感じは、一体なんだ? 完全に気配を断てるジャークなのか。ルメージョがそうだった。だが、それはナツミさんの中に身を潜めているときだけだ。力を使えば必ずジャーク反応がある。それさえ感じさせないジャークなど考えられない。ネガティブだろうとポジティブだろうと、エモーションを完全に断って行動することなど出来るはずがない。

 それに……時折、別なものも感じる。ほんのわずかだが、まるで自分たちのような気配だ。
 最初はPIASかと思った。カンナグール。そしてルイングロウス。奪われたPIASが改造され、イバライガーのテクノロジーがジャークに利用されたことが幾度かあった。
 だが、アレはそれとも違う。わからない。気配だけでエモーションは感じないのだ。ポジティブもネガティブも。

 玄関前に、みんなが集まっているのが見えた。警戒を怠っている者は誰もいない。油断はしていない。大丈夫なはずだ。
 館内からのエモーションを感じた。優しい感覚だ。私たちに力をくれる。シンやワカナだけでなく、ナツミさんの想いも見える。これまでにも何度か感じた。ルメージョに囚われ続けていたというのに、このエモーションを発することができるのか。強い人だ。絶対に守らなくてはならない。

 Rは、踏み出す足に力を込めた。
 見えない敵であろうとも、指一本触れさせるものか。

 


 室内は、散らかり放題だ。マーゴンが仕掛けた数百発のクラッカーが弾けて、部屋中にあらゆる色が散らばっている。実は花火まで仕掛けていたらしいけど、それはアケノが止めさせたらしい。もっとも、本当に発射されたとしても私は気づかなかったかもしれない。クラッカーだって、いつ鳴ったのか覚えてない。
 マーゴンが何かボケて、ナツミが笑っている。昔、毎日のように見た光景だ。それが今、戻って来た。

 ううん、まだだ。私はナツミに言わなきゃいけないことがある。

「ナ、ナツミ……あ、あのね……」
 なんて言おう。どういう言い方をすればいいんだろう。ごめんね、じゃ軽すぎる。申し訳ございませんでもない。とにかく、まずは謝らなきゃ。何をどう謝ればいいのかわからないけど、まずそれを言わなきゃ何も始まらないし、終わらない。

「もういいの、ワカナ。シンもね。何も言わないで。全部知ってるから。一緒にいた頃よりずっと知ってる。それを感じ続けることが出来たから、私は諦めずにいられた。本当にありがとう」
「でも……でも私……」
「言ったでしょ、それはもう全部聞こえてたって。今までワカナがルメージョと出会う度に、ちゃんと聞こえてたよ。もうガードゼロで恥ずかしい告白とか山ほど聞こえてたんだよ? エモーションって怖いよね~~」

 ええええっ!? そぉなの!? そ、そりゃ毎回色んなこと思ってたけど……アレ全部ナツミに聞こえてたの!? うわぁああああ、ちょっとやめて!! ちゃんと謝らなきゃと思ってたけど、思ったことそのまんまってのは恥ずかしすぎる!! パンツ履いてなかったみたいな気分! おのれルメージョ! 今までで一番嫌ぁあああああ!!

「ちょ、ちょっと待て……それじゃあ俺の想いとかも……まさか……」
「うん。でもシンやマーゴンのほうがガードは固い感じよね。ていうかワカナは、エモーションなくても昔からバレバレだったし」
「確かに」
 シンとマーゴンがうなずいた。お前らなぁああああ。それじゃ私バカみたいじゃないかぁああああ。

「とにかく、全部わかってるから心配しないで。ここはポジティブの拠点なんでしょ。ずっとネガティブばかりの場所にいたんだから、もう泣くのはやめて笑ってよ。あと、他の皆さんも紹介して。知っている人のほうが多いけど、ルメージョを通じて見ていただけで、実際に会うのは初めての人がほとんどなんだから」

 ああ、そっか。私とシンとマーゴンを除くと、全員が初対面なんだ。カオリと博士たちは前の基地が襲撃されたときにニアミスしてるんだっけ? アケノやソウマとは直接戦ってたんだよね。イバライガーたちも。

「はひふぇふぁひへ、ひゃひゅひはふ! ひゅっほおはひひははっはへふ! ひょふへひひへはふ!!」
 緊張で口いっぱいに食べ物を突っ込んだまま、カオリが挨拶した。「初めまして、ナツミさん! ずっとお会いしたかったです!! 尊敬してます!!」と通訳しようと思ったけど、ナツミはニュアンスで理解しているようだ。

 博士たちも握手をしている。短い挨拶だけど、これから何度も語り合うことになるだろう。ジャークとエモーションの謎を解くには、ナツミの協力は不可欠なのだ。

 状況を察したように……というより完全に察してガールたちが入ってきた。一人ずつ、ナツミの前に出て挨拶をしている。

「お会いできて光栄だ、ナツミさん。あなたの声は私たちにも聞こえていた。心から感謝している」
 初代らしい挨拶だな~。あ、でもナツミの声が聞こえてたってのは引っかかるなぁ。イバライガーたちは何も言わないけど、私の声も漏れちゃってたんだろうなぁ。ルメージョに聞かれてたくらいだもん。うわぁあん、これからも聞こえなかったことにして。

「こんにちは、ナツミさん! これからよろしくね!! ワカナがバカやりそうなときは止めてあげてね」
「ワカナお姉ちゃん色々とドジなんで、今後も助けてあげてください」
 ちょっとガール! ミニガールも! そういうこと言わなくていいって。

「こんにちは~~、ボクたちもお手伝いするから何でも言ってよね!」
「へっ、覚えとけよ。このオレ様がミニブラック、こいつはねぎだ。いいか、オレたちの目はゴマかせね~からな。てめ~が本当に人間に戻ったかどうか、じっくり見張らせてもらうぜ」
 う~ん、ミニライガーたちはともかく、ミニブラはまだ信用してないんだなぁ。ブラックはいないけど、やっぱり油断はしてないよね。でも、ねぎは大人しい。あの子でもジャークの臭いを感じてないってことだよね。うん、よかった。

「ナツミさん、よく頑張ってくれた。初代イバライガーが言った通り、あなたがいなかったら私たちは負けていたはずだ。本当にありがとう」
「これからは私たちがあなたをお守りします! ジャークには二度と手を出させません!!」
 最後はRとミニR。やはり二人らしいセリフだ。私も同じ気持ち。ジャークにはもう何もさせないからね。ずっと一緒にいてよね。

「え~っと……あともう一人、一番ナツミが一番気にしてるかもしれない奴が屋上に居候してるんだけど……アイツ、協調性ないんだよね。今もどこに行ってるかわかんないし……」
「ブラックね。いいわ、近いうちに会うことになるでしょうし」

「さて……挨拶も終わったようだ。ここらで一旦、お開きにすべきだろう。ナツミ……さんも疲れたはずだ。少し休んでもらうほうがいい」
 ソウマが割って入ってきた。やっぱナツミを気にしてる。クールなふりしてるけど、私以上にバレバレじゃん。まぁ悪い奴じゃないし、実際ナツミを助けてるし、そのカップリング認めないわけじゃないけど……ナツミのタイプかどうかはビミョーだよなぁ。しかもライバルはブラック。手ごわいぞ~。こりゃあ見ものだわ、うひひ。

「じゃあ、部屋に案内するよ。私の隣だし」
「待って。その前に、私もみんなに言っておかなきゃならないことがあるの」
 ナツミは立ち上がって、全員を見回した。
「皆さんにお願いがあります。全員が知っているでしょうけど、私の中にはルメージョの因子が残っています。私はすでに普通の人間とは違う。だから、私に油断しないでください。そして……もしものときには……お願いします。どうか、それを約束してください。そうでないと私はここにいられない……」

 全員が、黙り込んだ。
 わかってる。わかってるけど、はいとは言えないよ、ナツミ。私たちは絶対に諦めないんだ。だから、あなたはここにいる。だから再会できたんだ。何があっても私は守るよ。前に言った通り、私は私が幸せになるためにナツミの幸せも守るんだ。
「大丈夫だ、ナッちゃん。みんな承知している。もしものときには……どうしようないときには、必ずナッちゃんの希望通りにするさ。俺たちにそれが出来るとは言えないけど、出来る奴もいる。ここにいる限り、二度とルメージョには戻らない。それだけは約束するよ」
 シンの言葉に、ナツミがうなずいた。
 いざとなったら殺してやる。とても言えないけれど、それを言わなきゃナツミが安心できない。だから言った。本当にその通りにすることは出来ないけれど、それでも言わなきゃならないんだ。私たちがやるべきことは、その約束を絶対に成就させないこと。

「それじゃあ、2時間ほど休憩しよっか。ちょっと短いけど……ナツミさんには訊かなきゃならないことが山ほどあるからね。こっちも余裕ないし、勘弁してね」
「はい。私も同じです。何かが起こる前に伝えておかなくてはならないことがあります。それがどんなに辛いことでも……」
 アケノとナツミが、見つめ合った。

 2時間後、か。
 以前に、初代イバライガーから未来の話を聞いたときのことを思い出した。あのときも、こんな感じだった。今度も重たい話になるかもしれない。
 シンに肩を叩かれた。わかってる。ナツミだけじゃない。私たちも覚悟はできてる。

 


 アレが動き出している。
 意思というよりも、ルメージョの残留思念だろう。あの女にしてやられたことが、それほど口惜しかったか。
 今さら、どうでもいいことだ。ダマクラカスンも動こうとはしていない。改造を施したとはいえ、所詮はガラクタに過ぎない。奴ら自身が生み出した自らのイミテーション……それも稚拙と言っていいシロモノなのだ。

 ただし、あの程度のモノでも奴らを傷つけてしまう懸念はある。
 アレ自体は、ポジティブでもネガティブでもない。ルメージョはそこに着目し、エモーションを発せずに行動できるステルスモードを組み込んでいた。意外に奴らのそばまで接近できるかもしれない。
 だが、それもどうでもいいことだろう。ルメージョは、すでに消えた。統一された思考力を持たない残留思念では、アレに仕込まれた機能を引き出すことはできまい。多少のダメージを与えられたとしても、実り始めたものが壊されるほどではないはずだ。

 身体の一部が、ざわめいた。ルメージョだったものの一部は、我らも取り込んでいる。それが蠢いている。
 もうよい。お前は役目を果たした。あの者たちを刺激し、育て上げることを成功させた。
 混沌へと還るがいい。そこで我らが為すことを見届けるがいい。
 もうすぐだ。この星……いや、この星系の全てがネガティブが支配する領域となる。それは、さらなる破壊と再生の元となる。

 見ているがいい。
 我の、お前の、全てのジャークの本体が目覚める様を。

(後半へつづく)

 


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