小説版イバライガー/第32話:奇蹟の輝き(後半)
Bパート
さっきのアラート。ルイングロウスが動き出したか。ワカナたちも出発したらしい。
自分も一刻も早く行かなきゃならない。
なのに、未だに何もできない。
まだBLとか言われてんだろうなぁ。おい、R。ヤバイぞ。ブラックもだ。ほっとくと、あいつらの妄想がどんどん広がっていくぞ。マーゴンあたりはすでに同人作り始めてるかもしれないぞ。いいのかよ。さっさと起きろよ。
いくらボヤいても、何の反応もない。
ちくしょう。どうしたらRの心にアクセスできるんだ。焦るばかりでまるでわからない。
いかん。とにかく集中しなくては。
え~っと……俺たちにはお前らが必要で……いや、必要とかじゃなくて生きていて欲しくて……それは友達だからで……でも、それだけじゃなくて……。
くそぉ! ダメだ。どうしても理屈を考えちまう。
感覚だけ、感情だけってどうすりゃいいんだ!? ワカナはどうやったんだ!?
つくば駅より、やや南東に2キロほど。
西大通りと呼ばれる長い通りに、南大通りという短い通りがぶつかる場所。
その手前を防御線と決めて、初代イバライガーは道の中央に陣取った。周囲をミニライガーたちが固めている。いつでもクロノダイヴァーに合体できる陣形だ。
4体のXたちは、一時的にシンクロを切って後方に待機させてある。戦闘中は4体それぞれを個別に操ることになるが、負荷も大きくなる。だから、ここに来るまでは全部同じ動きで使っていたのだが、いちいち5人で同じ動きをしているのも目障りなのだ。
ワカナたちの装甲車がやってきて、200メートルほど離れて停まった。
少し近すぎる気もするが仕方ない。遠すぎても、いざというときに守れない。
ドアが開くと、先に子犬が飛び出した。こっちに駆けてくる。ワカナもそれを追って、小走りでやってくる。
「ダメだ、ワカナ。下がっていてくれ」
「わかってるけど……状況は? ガールは?」
「あそこだ」
市街地を指差した。ミニRとミニブラックを連れ戻しに行っているのだ。同時に、逃げ遅れた人々も探しているはずだった。かなり危険なことだが、人々を見捨てることができないのは自分も同じだ。
「やっぱ、そうなったか~。無茶してないといいけどなぁ」
「大丈夫だ、感じる。ミニRたちも無事なようだ。かなり突っ込んだオトリ役をやっていたようで負傷はしているが、動けないほどじゃない」
並んで、市街地を見つめた。
煙がいくつか上がっている。炎も見える。
「私たちの街が……やってくれたわね、ジャーク……!!」
「熱くなるなよ、ワカナ。君とシンはイバライガー全員の中心だ。自分を守ることを優先していてくれ」
ワカナはうなずいているが、本番になれば忘れて無茶をするだろう。前回など、生身で竜巻に飛び込んでいる。
シンも、Xを使ったとはいえ、一人でルメージョを止めようとした。この二人は、目を離すと何をするかわからないところがある。そのおかげで危機を乗り切ってきたとも言えるが、無謀は無謀だ。させたくない。
今回は、ソウマとマーゴンがワカナのガードについている。あの二人でワカナを抑えられるかどうかは不安だが、気休めにはなる。
シンにはアケノがつくことになっていて、こちらは大丈夫だろう。あの女隊長は十分な判断力と戦闘力を持っている。
ねぎが吠えた。ワカナがあっと声を上げる。
国際会議場の辺りで大きな爆発が起こっている。
その炎をかいくぐって、イバガール、ミニR、ミニブラックが飛び出してきた。
「お待たせ! もう大丈夫だと思うよ。何人かを見つけたけど、さすがに連れてこれなかったから、地下や頑丈な建物に避難させてきたの」
イバガールは、ほとんど無傷だ。ワカナとハイタッチしている。フェアリーモードは使っていなかったはずだが、それでもランペイジの攻撃をかわしたらしい。通常モードでも力が上がっているようだ。
「おおっ、ねぎ! お前も来たのか~~」
ねぎは夢中でミニブラックの顔を舐めている。感情エネルギーが伝わっていくのがわかる。ミニブラックの傷が、急速に回復していく。まるでワカナとガールのようだ。
ミニRは、イモライガーが連れていった。こっちは急速には回復しないらしい。それでもパワーは戻り始めている。
「さ、ここは私と初代に任せて、みんなは下がって。もう来るよ」
「わかった。ガール……一緒だよ!」
「うん、当てにしてるわ、ワカナ!」
まだ戦えるぜ! と言い張るミニブラックを促して、全員が下がった。入れ替わりにXたちを前に出す。
「ガール、念を押しておくが……」
「わかってるって。倒すことより時間を稼ぐこと、でしょ。任せて。そういうのガールちゃん得意なのよね~~」
やはり心配だ。けれど、軽口ほどには甘く見てはいないようだ。集中力が高まっていくのを感じる。
「よし、行くぞ、ガール!!」
大通り沿いの建物が吹き飛ぶと同時に、5体の初代イバライガーとイバガールは飛び出した。
何? なんなの、どうなってんの?
モニタで気づいて、慌てて飛び出したものの、カオリは困惑していた。
出ていったはずのTDF隊員たちが、戻ってきている。
しかも彼らの後ろには、どう見ても一般人な人が大勢いる。何百もの人たちが、ゲートに集まっている。
どういうこと? この人たち、どこから来たの? なんで、こんなにいっぱい押しかけてきたの?
よりによってこのタイミングで。
とにかく走った。ここの敷地は広い。ゲートまで数百メートルはある。
着いたときには息が切れていた。
「……あ、あの……ど、どうしたんです? いや、その……ここは農業研究所で……一般の方の立ち入りはちょっと……」
連れてきたTDFの人たちは、小走りで基地のほうへ行ってしまった。
うわぁあ、困るよ、こんなに民間人連れて来ないでよぉ。
「……隠したって無駄ですよ。私たち見ちゃいましたから。ここでジャークと戦ってるのをね。実はここ、イバライガーの基地なんでしょう?」
ええっ、バレてる!?
いやまぁ、このところ派手なことが多かったから、気づかれて当然か。けど……。
「いや、でも……Jアラートが出てるんですよ。知ってるでしょ、避難しなかったんですか?」
「逃げて何とかなるならそうするけど……でも、そうじゃないんでしょ。もしもイバライガーが負けたら、逃げても無駄なんでしょ。相手は化け物だ。人間同士の戦争じゃない。降伏したって助からない。逃げても追ってくる。いつかは追いつかれて殺されてしまう……」
気づいた。元ジャークの人たちが相当数混じっている。彼らから聞いたのか。それともイバライガーショーを見たのかな。ネットで『アルテミス』をフォローしてる人もいるのかも。でも、それがわかったからって何でここに来るの??
「手伝いに来たんだ、おねーちゃん」
おじさんの声が聞こえた。高校生くらいの娘さんと一緒の人。
「Jアラートを聞いてすぐに妻の実家に避難したんだけどね、娘が……どうしてもイバライガーを助けたいって。それに、さっきの人が言ったように逃げても追いつかれちゃうかもしれないからね。それで、こっそり抜け出してきた」
娘が前に出てきた。
「クボデラヨリコです。イバライガーは前から知ってます。助けてもらったこともあります。父もです。だから来ました。大したことはできないけど、手伝います。ネットで見ました。イバライガーの力ってみんなの応援なんですよね? 大勢で応援すれば、彼らを手助けできるんですよね?」
最後まで顔を見ていられなかった。涙で歪んで見えない。鼻水も出ちゃってるかも。でも構わない。ありがとう。本当に、本当にありがとう。
涙をぬぐった。嬉しいけどダメだ、この人たちを巻き込んじゃダメ。
「ありがとう、ヨリコさん。でも、ここは危ないの。今にもとても危険な奴が大勢押し寄せてくるの。早く逃げて。お願いだから……」
言葉が途切れた。ヨリコが手を握ってきた。微笑んで首を振っている。
「あなたも、ここにいるじゃないですか。大丈夫です。イバライガーは負けません。私、信じてます!」
背後から肩を叩かれた。アケノ隊長さん。
「……こりゃあ無理だよ、カオリちゃん。この人たちの目は、そういう目だ。シンたちと同じ。力づくで追い返す余裕は今はないし、そもそもウチの連中も戻って来ちゃったし、覚悟決めるしかなさそうだよ……」
群衆のどこかから、イバライガーを呼ぶ声が聞こえた。
イバライガァアアアアアア!!
声はどんどん広がり、やがて大合唱となった。
基地のほうからも野太い声が聞こえる。TDFの人たちだ。
いつの間にか、カオリも叫んでいた。
イバライガァアアアアアアアア!!
イバライガーを呼ぶ声が、聞こえる。
戦いが始まっている。最後の決戦だ。なのに俺たちは、こんなところでじっとしてるのか。いっそ、もう一度Xで出るほうが……いや、それもダメだ。前回もロクな力になれなかった。ジタバタしても、みんなの足を引っ張るだけだ。
思わず、壁を殴った。拳が痺れている。
ちくしょう。あの声が、聞こえないのかよ。あんなに大勢の人たちが、お前らの名を呼んでるんだぞ。わかるか。お前らは、もうこの時代の仲間なんだ。この世界は、お前らを待ってる。
応えろ、イバライガーR。
あの声に。俺の声に!!
イバライガァアアアアアアアアアアア!!
突然、目の前が真っ白になった。
広いのか狭いのかもわからない。上下もわからない。
……もしかして、ワカナが言ってたのはコレか?
入れたのか、Rの心に。
いや、真っ白じゃない。暗いものを感じる。
この気配……知っている。そうか。そういうことだったか。
お前のいる場所がわかった。
今行くぞ、R。
「エターナル……レインボウッ!!」
光の矢が、数体のランペイジを貫くのが見えた。撃ち抜かれた穴から蒸気のように黒い霧が噴き出すとともに、全身が沸騰して四散していく。
「すごい……あのランペイジを一撃で……しかも数体同時に……これが、イバガールフェアリーの力……!!」
ミニRが、呆気に取られている。ワカナ自身も驚いていた。ガールが初めてフェアリーになったときには、戦いの様子を見る余裕などなかったのだ。
本当にすごい。ガールって、こんなに強かったの!?
押し寄せる大群のほとんどを、たった一人で食い止めている。クロノ・スケィルの鱗粉を散布して、空間を遮断しているのだ。
さらにエターナル・ウインド・フレアも同時発動して、周囲をコントロールしている。周囲2キロほどの空間全てがイバガールの一部になってるようなものだ。どこにジャークが接触しても、瞬時にクロノ・スケィルを移動させて塞ぐことができる。
マジで全包囲型のマップ兵器。
それでも何体かは、ガールの結界を抜けてくる。
けど。
「ブレイブ・インパクト!!」
結界を越えた場所には、初代イバライガーが回り込んでいる。イバライガーXも使っているようだ。1体に対して2体のXを集中させ、複数の拳を同時に撃ち込んでいる。ランペイジが、崩れ去っていく。
抜けてくる奴は、ガールの攻撃によってダメージを受けているし、分断されているから連携攻撃もできない。
これなら、いける。
『そうか、あの力はお前のしわざか』
すぐそばで、抑揚のない声が聞こえた。崩れたランペイジのボディが数メートル先に散らばっている。それが動いていた。数体分がくっついて、歪な姿に再生されている。しまった。いつの間に、こんな近くに。
ソウマがラヴを急発進させた。間に合わない。ワカナはMCBグローブを握りしめた。エモーション・フィールドで車体全体を覆って……いや、そんなものじゃ防げない。どうする?
フロントに取り付いたランペイジが腕を振り上げた。
その途端、後席から巨大な爪が伸びた。ランペイジを貫き、そのまま外へと飛び出していく。
「ねぎ!?」
子犬の姿から一瞬で巨大な獣に変貌したねぎが吠えた。それに応えるように、ミニブラックが飛び込んでくる。
「よくやった、ねぎ!! とどめだぁああっ! 時空っ雷撃拳っ!!」
歪なランペイジが蒸発していく。腕が一本残って蠢いていたが、ねぎが踏み潰した。さすがにもう再生はできないようだ。
「どうだ、ジャーク!! オレ様とねぎのコンビネーションは無敵だぜっ!!」
『元気がいいな、小僧。だが無駄な足掻きだ……』
また破片が喋った。あちこちから。
ねぎが、唸る。
結界を越えてきた1体が、破片を吸収していく。致命傷と思われるダメージが消えていく。
こいつら仲間を食べて生き返る?
『そうだ。我には500体分の命がある。多少破壊されたところで何の痛痒もない。お前たちのちっぽけな命が消えるまで攻め続けるだけのことだ』
十数体のランペイジが、一気に突進してきた。クロノ・スケィルに接触し、次々と崩れていく。それでも次のランペイジが屍を喰らいながら前進してくる。立ちはだかったXの1体が砕け散った。NPLが散らばる。早くも1つ失った。
「くっ!?」
敵は減っている。それは間違いない。
でも多すぎる。ガールのおかげで一気になだれ込んでこないけど、押されている。すでに最初に戦っていた地点から3キロは後退しているのだ。ダメージも受けている。ミニライガーたちがサポートしているけれど、やがては追いつかなくなる。
クロノ・スケィルも、いつまでも展開し続けられない。あれは時空突破の応用技だ。エネルギー消費は相当なはず。散布できるのはあと1~2回が限度だろう。
『お前たちは強くなった。10体にも満たぬヒューマロイドで、よくこれほど持ちこたえたものだ。そのまま戦い続けろ。抗い続けろ。押し潰されるまで我を楽しませろ!!』
「うるせぇ! 遊ばせてもらうのはこっちだぜ!!」
「そうです! それに再生できるのはソッチだけじゃありませんっ!!」
ミニブラックとミニRに、粒子が引き寄せられていく。さっき破壊されて散らばったXのNPLだ。二人の傷が回復していく。
初代が飛び出した。やはりNPLの煌めきが集まっている。両腕が太くなった。肩にも足にもNPLが付着し、強化装甲を形成していく。
フルアーマー初代!? すごい。
『それでいい。いいぞ、ヒューマロイドども。もっとだ。もっと力を見せろ。その全てが徒労に終わり絶望に包まれる姿を見せろ。お前たちのポジティブが死に絶えたとき、我がお前たちを喰らってやろう。ポジティブの使徒をネガティブの一部としてくれよう!!』
「うぅううるさぁああああいっ!!」
叫んだ。もう1つの声が、ぴったり重なって聞こえた。イバガールだ。羽を広げて突っ込んでいく。そうだ。行こう、ガール。
ワカナは思念に集中した。
見てなさい、ルイングロウス。あんたは勝てない。
さっき、シンのエモーションが途切れたのを感じた。Rの中に入れたんだ。みんな、それに気づいてる。もうすぐ来てくれる。最後まであんたに屈しなかったイバライガーRが、新しい力を得て帰って来る。
希望の火は、もう灯ってるんだ。
負けるもんか。
希望は見えない。全てが闇。
蠢いているのはランペイジだけだ。
それでも、イバライガーRは歩き続けていた。
下がれ、ランペイジども。お前らじゃない。
私が掴むべき力は、違う。
ブラックが教えてくれたもの。命を賭けて託してくれたもの。
必ず見つける。出会ってみせる。
ここを永遠に彷徨うことになったとしても、永遠の果てで見つけてみせる。
そして還る。私を待っていてくれる人たちの元へ。
闇が、掴みかかってくる。
何度来ても無駄だ。私は負けない。負けるわけにはいかないんだ。
この闇を抜ける。そこにいるはずだ。
私が会わなくてはならない人が。
声が聞こえた。幻聴だろう。聞こえるはずのない声だ。
光が見えた。やはり幻を見ているのか。ここには光などない。囚われてから一度も感じたことはない。
声と光は、どんどん近づいてくる。
闇が、揺らいでいる。
誰かいるのか。ここに入ってこれる者など、いるはずがないのに。
「時空鉄拳! ブレイブ……インパクトッ!!」
光が闇を撃ち抜き、道を作った。
その道を歩いてくる者。懐かしい顔。
「R!! 無事かっ!?」
シン!? シンなのか?
なぜ、ここに!?
「迎えに来た。詳しい話は後だ。とりあえず、ここから出ようぜ」
シンが拳を握った。さっきの時空鉄拳はシンか?
いや、私だ。シンが私になっている。どういうことだ?
「理屈は忘れろ、R。まぁ俺もなかなかそれが出来なかったんだけどな。とにかく俺についてこい」
シンが拳を引き絞った。パワーが上がっていく。自分も同じ動きをしていた。
わからないが、信じられた。シンは本物だ。本当に来てくれた。
しかも一人じゃない。何人ものシンを感じる。とてつもない力が流れ込んでくる。
この力。もしやこれが……。
気づいたときには、真っ白な世界にいた。
ここは、どこだ。
シンはどこに行った?
「こっちだ」
声のほうに振り返った。
赤い提灯。店主らしい男が、せわしなく団扇を動かしている。
焼き鳥屋? なんだ? どうなってるんだ?
奥の席で、手招きしているシンが見えた。歩いて行って、席に上がり込んだ。
「やっと来たか。これで飲める」
「てめぇは遅いんだよ。手間をかけさせやがって」
「そう言うなよ、ブラック。お前だってRがここに来ることを信じてたんだろ?」
「うっせぇな。てめぇ、オリジナルだからって調子に乗るんじゃねぇぞ」
わけが、わからん。なんなんだ、これは。
シンが3人いる。一人はいつものシン。もう一人はブラック。そして残りの一人は……。
「何をボケっとしてんだ、お前だって同じ姿だろ?」
グラスに自分の姿が映っていた。シン。私もシンになっている?
そうか、現実じゃない。ここは私自身の中だ。
イメージの世界……エモーションの世界だ。
「さぁ、飲もうぜ。お前らと飲むのを楽しみにしていた」
一人のシンがグラスを上げた。
この人を知っている。何度も『声』を聞いた。
「悪いな。苦労させちまった。俺のしでかしたことを押し付けちまった」
「気にすんなよ。お互い様ってやつだ。つ~か、俺もお前だしな。誰にも文句言えねぇよ」
「そりゃ、そうだ」
二人のシンが笑っている。今のシンと未来のシン。直接会うのは初めてのはずだ。
「すまない。私のせいで、みんなに迷惑をかけた。特にブラックには……」
「ウジウジしてんじゃねぇ。酒がまずくなる。だいたい、てめ~だけシラフってのが気にいらねぇ。もっと飲め。俺の酒だ。飲めないとは言わせねぇ」
「飲めるさ。お前が飲めるなら私も飲める」
「ふざけんな! 誰がお前だ!? てめ~と俺は全くの赤の他人だ。甘えたこと抜かすんじゃねぇ!!」
「そうだ。俺たちは1人だが、4人だ。同じで別人だ。だからこそ力が生まれる」
「ああ。ワカナもこういう世界で自分たちと会ったらしい。あっちはカフェで女子会だったとさ」
「らしくねぇなぁ。ワカナが焼き鳥屋のほうが似合うだろ?」
「だよなぁ。あいつ全然女らしくねぇし」
「トンデモね~やつをパートナーにしちゃったよな」
「でも、大事だろ?」
「おいR。お前ここに来ても真面目だなぁ。真顔で訊くなよ、そんなこと」
苦笑された。まぁいい。気持ちは伝わってくる。
この世界では全てがオープンだ。
「さて……そろそろ行かなきゃな。ここに時間は関係ないけど、気分的にあんまりノンビリしてられないしな」
「そうだな。それじゃ、やるか」
「何を?」
「ワカナたちはやったんだろ。ほら、コンサートの楽屋でアイドルグループが手を重ねてやるやつだよ。ファイト!って感じの」
「誰がやるか、そんな真似!!」
「まぁブラックはそうだろうなぁ。実際、俺もちょいと恥ずかしい」
「じゃ、乾杯しよう。もう二度と集まれんかもしれない。これが最初で最後だ。1度だけ付き合えよ」
グラスを掲げた。ぶつかる。音は1度だけだ。
完全に同じタイミングでぶつかった。飲み干すのも全員同時だった。
「行ってきます、シン。ずっと見守ってくださってありがとうございました。そしてブラック。もうしばらく我慢してくれ。必ず迎えに来る」
「てめぇの迎えなんざ待たねぇよ。情けねぇ素振りを見せやがったら、俺が取って代わるからな。覚えとけ」
「わかった。見ていてくれ。私の……いや、私たちの力を」
「シン、出会えてよかったよ。ワカナも言ってたけど、俺たちより少し大人っぽいよなぁ。やっぱ場数の差か」
「まぁな。けど、お前が俺になるわけじゃない。俺たちは同じだが別の時空の別の可能性だ。お前はお前の人生を生きろ。俺のことは忘れていい。この世界を守り、最期まで生きて、しっかりと死ね。それが出来りゃ上等だ」
焼き鳥屋が消えた。
また、真っ白な世界だ。
シンはシンのままだが、自分はヒューマロイドの身体に戻っている。
シンの手に、光があった。
「あいつらが持たせてくれた。これが俺たちの力だ。さっそく使うことになる。いいな?」
「わかってる。行こう、シン!!」
白い世界が遠ざかる。
消えたはずの焼き鳥屋が見えるような気がする。
ブラックを相手に、未来のシンが杯を重ねているはずだ。
二人の会話も、聞こえる。
「ようやく行きやがったか。ったく、アイツは甘すぎんだよ」
「お前はカッコつけすぎだ、ブラック。そんなんじゃ肩が凝るぞ」
「余計なお世話だ、バカヤロウ!」
「ま、ここではツッパっても無駄だけどな。意識だけの世界じゃ本音は隠せない。素の自分に戻って少し楽になっただろ?」
「ちっ、本人相手じゃどうにもなんねぇな」
「もっとも、すぐにお前も呼び出されるだろうけどな。それまで、もうしばらくは付き合えよ。外の話も聞きたい。俺とワカナは上手くいってるか? 他の奴らは元気か?」
「心配すんな。見せてやるよ。バカたちが足掻いてバカなものを……てめぇが大事にしてたものを守りきるところまで全部を、な……」
ED
ソウマは、何かを感じて急ブレーキをかけた。
イバガールの動きが変わった気がする。
いや、イバガールだけじゃない。初代も、ミニライガーたちも、全員が同時に今までとは違う動きをした。
「来た」
助手席から、ワカナのつぶやきが聞こえた。目に、涙が滲んでいる。
思わず周囲を見回した。本当に来たのか? どこだ?
「時空爆裂……!! マキシマム……インパクトッ!!」
凄まじい爆炎が空を奔った。映画で見た巨大隕石の落下シーンそっくりだ。
爆炎は一直線にランペイジの群れに突っ込み、巨大な火球を生み出した。数十体が一瞬で蒸発していく。
とんでもない衝撃波が来ると思ったが、何も感じなかった。火球の周囲が煌めいている。あれはエモーション・フィールド? 衝撃を限定空間内に封じ込めているのか?
ワカナと共に車を降り、空を見つめた。黄金の輝きに包まれた空を。その光の中心が降りてくるのを。
光は、地上に降り立っても消えなかった。
こちらに歩いてくる。
「ワカナ、ソウマ。それにみんな。待たせて済まなかった……」
「ううん、いいの。信じてたよ。帰ってくるって。必ず来てくれるって」
「ありがとう。もう心配ない。後は任せてくれ」
黄金の光は、再び歩き出した。火球は、もう消えている。まだ敵は多い。大群が蠢いている。
それでも光は、力強く歩み続ける。
声が聞こえた。
「……行くぞ、ルイングロウス。私に託された新たなRを見せてやる……!!」
光が疾走し始めた。
大群の中に飛び込んでいく。
「くらえ、ジャーク!! これがダブルR……時空戦士イバライガーRレディアンスの力だ!!」
次回予告
■第33話:オーバーブースト /ブラック・ガイスト発動
新たな力「レディアンス(輝き)」を得て復活したイバライガーR。未来のシンたちからハイパーの力を託される初代。Xとシンクロするアケノ。秘策を託されるソウマ。多くの力に守られて、シン・ワカナはミニブラたちとともに戦場へと走る。時空を超えた想いがつながり、ついに復活するイバライガーブラック。発動する究極のオーバーブースト!!
さぁ、次回はいよいよルイングロウス編のクライマックスだよ!! みんなでイバライガーを応援しよう!! せぇ~~の…………!!
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