「バカ」というお仕事

ロッテンマイヤーさんがワンダバでプンチャックシラット

 ボクが担当した、ある保険会社を紹介する連載形式の漫画を見返してみた。

 主人公は、不気味なオッサン。
 第1話冒頭は夜の街で、いきなり不穏な雰囲気。
 でも、ここはイントロに過ぎないので、大したことは起こらない。そもそも1話につき4ページしかないしね。
 2話目も飲み屋でぶつぶつ言ってるだけで、まだまだ。

 けれど3話目で、いきなりゾンビものになってしまう。
 もう、バカになってる。

 その後も7話では特撮ヒーローアクションになり、11話の「金のおの、銀のおの」をベースにしたエピソードでは、クライマックスで女神が夜叉に変貌してリヴァイアサンを召喚し、さらに超必殺技「ヴァリアブル・アックス」まで繰り出す。
 ここまで来ると、かなりバカが暴走している。

 

 もう一度言っとくが、これは「保険のセールスのための漫画」だ。

 

 他の例も、見てみる。
 とある、お酒の広告だ。

 ポスタータイプで、ようするに漫画の壁新聞のようなもの。当然、1ページ(1面)しかない。

 なのに主役の店主さんに、富士山の奥に眠る天然水を手に入れるまでの大冒険を語らせている。
 インディ・ジョーズばりの大冒険、嘘っぱちの伝説、意味不明の古代遺跡、挙句の果てにダイダラボッチまで出現する。

 やはりバカだ。どこが酒の広告なんだか。

 

 

 まだまだ、ある。

 商工会議所の事業案内では、ザクとガンダム(むろん版権避けるためにモドキだ)が出てきた。
 建売住宅の広告では、庭でトリフィドが暴れていた。
 海外オプショナルツアーを紹介する4コマ連載では、ETやらTレックスやらロッテンマイヤーさんやらのドタバタの果てに、ワンダバのメロディとともにオカマファイターのプンチャック・シラットが炸裂する。

 もう何言ってんのか、自分でも分かんないレベルでバカだ。
 でも、本当にそういうバカを描いてきたんだよ。
 広告で。

 またまた言っとくけど、どれもこれも勝手にやったわけじゃないよ。
 広告なんだから。

 ムチャクチャやってるようで、実際その通りでもあるのだけど、それでもやりすぎてはいない(ハズ)なのだ。

 お客さんにちゃんとネーム見せて、了解してもらった上で描いているんだから。
 OKだったんだから。
 ちゃんと広告になって、世の中に出たんだから。

 そして、結果も出しているのよ。それなりの反響を出せて、依頼主にも喜ばれたのよ。
 最初のゾンビやリヴァイアサンが出てくる保険漫画のキャラなんか、4メートル×8メートルに引き伸ばされて渋谷駅前に貼り出されたらしいし……。
 (そういう依頼があって、ソレ用のグラフィックデータは納品したけど、自分の目では確認していない。アレが巨人サイズなんて恐ろしくて……)

 

サンタがスクランダークロスするプロモーションアニメ

 こういう悪ノリは、漫画だけじゃない。

 実はアニメも手がけたことがある。

 もっともボクが作ったわけじゃない。ボク、絵が下手な漫画家なんで、担当したのは企画(シナリオとか)と絵コンテまでで、実際のアニメ制作は、ニュース番組などで解説用に流れるアニメなどを作っている会社にやってもらった。

 媒体は、とある大手(社名はほとんどの人が知ってると思うけど言えない)のグリーティングメール。クリスマスに懇意なお取引先に送るメールに、自社広告のアニメ動画へのリンクを記載するのだ。世界中の取引先に送るのだ。

 で、実際にボクが担当したアニメの内容はというと……。

 さすがにコレはゲンブツを見せることはできないので、絵コンテ前のシナリオを掲載しよう。
 (例によってクライアント名などは伏せてある。ご了承を)

 サンタのソリが、よたよたと東京上空を飛んでいる。
 プレゼント配りに疲れ果てて、サンタもトナカイもヘトヘト。
 突然、ソリが火を吹く。故障してしまったのだ。
 落ちていくソリ。パニくるサンタ。
 近づく地上。あるビルの屋上に「◯◯◯(クライアント名)」の看板が見える。
 その屋上で、赤い光が揺れているのに気づくサンタ。
 スタッフたちが、誘導灯を振っているのだ。
 最後の力を振り絞って、ビルへ向かうトナカイ。
 ビルからソリへとレーザーが発射される。
 レーザー誘導によって、無事にピットインできたソリ。
 数名のスタッフによってサンタが降ろされ、ソリにはメンテスタッフが駆け寄っていく(F1レースの感じ)。
 くたびれたサンタは赤コーナーの椅子に座らされ、タオルで拭かれ、スポーツドリンクが差し出され、片目のオッチャンのアドバイスも。
 そのサンタの目に、ソリをメンテする様子がぼんやりと見える。
 そのまま、目を閉じるサンタ。
 画面はブラックアウト。
 真っ暗な画面に、小さな赤い光が灯る。
 輝きが強くなるとともに、エネルギーがチャージされる効果音がカブる。
 その光に照らし出されるサンタとトナカイ(赤い光はトナカイの鼻)。
 顔を上げたサンタがニヤリと笑う。
 バイザーを下ろす。プレゼント配布先のデータが次々と表示される。
 一瞬目を閉じたサンタが再び、カッと目を開く。集中線。
 スロットルを一気に引く。
 エンジン始動。
 各種計器が一気に点灯していく。
 フルチューンナップされたニュートナカイの目が光る!
 「サンタ、行きまぁ~~す!!」のアングルで発進!!
 夜空に舞い上がるソリ。見送るスタッフ。
 ソリは、◯◯◯(クライアント名)のビルの上を旋回したのち、一気に超スピードに加速、流星のように飛び去っていく。

 ……とまぁ、こんな感じだ。

 1分ちょっとのアニメ動画で、先に書いたようにアニメ自体はボクが作ったわけじゃない。アニメ制作会社にはクライアントを通じて発注されていたので、ボク自身は接点がない。だから直接イメージを伝えることができず、コンテを渡しただけだった。

 でも……完成した動画を見てビックリ。

 ボクのイメージ通り!

 カット割、タイミング、音響。全部「そうそう、それだ!」って感じだった。
 いや、確かにそういうコンテを切ったんだけど、ここまでガチで再現されるとは!

 後で聞いたら、いつもニュース用のアニメしか作ってないから、こういうチャンスにみんなノリまくってくれたんだって。
 作ってくれた人たちとは最後まで会わずじまいだったけど、ホント嬉しかったよ。

 で、この仕事、翌年も、翌々年も、と、4年間も続いたんだ。
 初年度の作品がOKだったようで、ボクも「アレがOKなら……!」と、さらにバージョンアップを狙った。

 そのバージョン2のシナリオ「スクランダー編」がコレだ。

 またしてもヘロヘロで飛んでいるサンタのソリ。
 行く手には子供たちを乗せたスクールバスが走っているが、疲れ切ったトナカイは追いつけない。
 遠のいていくバスの後席には、プレゼントを受け取れず悲しむ子供たちの顔が。
 バスはどんどん小さくなる。
 絶望して諦めそうになるサンタとトナカイ。
 と、そのすぐ横を大型トレーラーが追い越していく。
 側面には◯◯◯(クライアント名)のロゴが。
 並走するトレーラーの助手席から突き出した手が、後ろのコンテナを指差す。
 ハッとしたサンタ、思わず振り返る。
 トレーラーのコンテナが開いていく。
 発射台がせり出してくる。
 サンタ・スクランダー登場!!
 大喜びのサンタ&トナカイ。
 助手席の男が、親指を立てて堅い笑みを浮かべる(顔は見えない)。
 翼が開く。エンジン始動!
 落ち込んでいたサンタとトナカイの表情は、熱血モードに。
 轟音を立てて発射されるスクランダー。
 いったん空に消えてから、再び突っ込んできて、走るトナカイとスクランダークロス!!
 トレーラー上空を旋回し、スタッフに親指を見せてから、一気に急加速して飛び去るスクランダー。
 再び、スクールバス。
 プレゼントをもらえず、しょんぼりしている子供たち。
 が、一人の子が何かに気づく。
 声をかけあって、窓を開く。全員が笑顔で何かを見ている。
 その眼前を駆け抜ける風。
 直後、子供たちの手にはプレゼントが。
 舞い上がるスクランダーに手を振る子供たち。

 ……というショートアニメだった。
 前年同様、ノリに乗って作ってくれたから、ボクも大満足だったよ。
 一部のお得意さんに公開しただけで一般公開はしなかったから、ほとんどの人が見てないのが残念だけど(笑)。

 

タバコをシコシコしてからのダイハード不倫バージョン

 せっかくだから(何がだ)、3年目のシナリオも掲載しちゃおう。
 3年目もクリスマスの話だけど、今度はサンタは出てこない。

 このときは、事前に特別な打ち合わせ……というか、他の事例の鑑賞会があったんだ。
 クライアントの会議室で、この件の責任者以下数名と一緒に「世界のバカCM鑑賞会」をやったのだ。いや、そういう会議なのよ。バカだけど真面目なのよ(笑)。

 未だによく覚えているのは「小型リチウム乾電池のCM」と「タバコのCM」。

 冒頭、デジタル腕時計をこよなく愛した夫が亡くなる。泣き伏す妻、葬儀などのカットが挿入され、3年後。墓参りに来た妻は、どこからともなく聞こえてくる不審な音に気づく。音の出所を探る妻は、やがて地面に耳を押し付ける。夫の腕時計がまだ動いていて、アラームが鳴っていたのだ。驚愕する妻のアップにメーカーのロゴがカブる。

 タバコのほうは、ハードボイルド風。

 ウエスタン風のバーに、男が入ってくる。店内には一人客の冴えない男、同じく一人客の美女、渋いバーテンがいる。男はカウンターに座り、ウイスキーを注文。そして胸ポケットからタバコ(スポンサーの銘柄)を取り出し、チラッと美女を見てから1本をそっと抜こうとする。すると、女がビクっとする。抜く、押し込む、抜く、押し込む。繰り返すごとに女は身悶えしていき、やがてグッタリとテーブルに突っ伏す。見届けた男はウイスキーを飲み干し、悠然と立ち去る。
 その光景を見ていた冴えない男客は、彼を真似して別の銘柄のタバコを出してシコシコしてみる。アエギ声が聞こえ、振り返るとバーテンが身悶えし始めて……。

 ……いやぁ、バカだ。
 ドイツもコイツも、不謹慎、やりすぎ、ノリすぎ。

 さらに、ボクが担当する以前につくったという、同じようなショートアニメ動画も見せられた。

 ベッドの中で不倫中の男女。そこに突然、夫が帰ってくる。慌てた男はクローゼットに逃げ込む。笑顔で登場する夫。裸でベットに横たわり、微笑みながら迎える妻。
 そこに携帯電話の音が。クローゼットの中の男が、取引先からの電話に応対していたのだ。用件を済ませ、電話を切った男が振り返ると、そこにスタンガンを持った夫の姿が。画面がブラックアウトし、ナレーションがカブる。「我が社は、いついかなるときでも使命を遂行します!」

 ……これもバカだよなぁ。

 本当にこんなのを世界中の取引先に送ってたのか! あの大企業が!?

 でも、こういうノリは好きだ。よくぞやったと言いたくなる。
 そして責任者には、こう言われた。

「これをよぉく見てくれ。こういうノリのやつを作って欲しいんだ」

 よっしゃ! やっていいのならやっちゃうぞ!!
 この続編を作ってやる!!

 そう思って担当したのが、3年目の「ダイハード編」だ。
 クリスマスといえばダイハードだからね(笑)。

 街を彩るイルミネーション。
 クリスマスの夜。高級ホテルで愛人と浮気中の夫。
 突然、そのホテルにいくつものサーチライトが当てられる。
 驚いた男がカーテンを開ける。
 周囲は完全武装した女房軍団(「ダメおやじのオニババ風)に包囲されていた。
 踏み込んでくる女房。
 裸足&パンツ一丁で逃げ出す男。
 階段での戦い、通気孔の中、ガラスの上など、カットインで挟まれる危機の数々。
 だが、ついに屋上に追い詰められてしまう。
 迫り来る女房。
 突きつけられる銃口。
 男は観念したように目を閉じ、画面は真っ暗に……。
 が、画面は一転、カッと目を開いた男の顔アップに集中線!
 男は弾丸を躱して走り、屋上から決死のダイブ!!
 それを追うように撃ち込まれるロケットランチャー。
 スローモーション。
 落下しつつ体制を変える男。パンツの中から44マグナムを引き抜く、
 向かってくるロケットに照準を合わせる。
 銃を構えつつ、ニヤリと硬い笑みを浮かべた男の顔がアップになる。
 その顔に、ナレーションとロゴ(クライアント名)がカブる。
「我が社は、どんなときでも諦めません!」

 ……とまぁ、シュミ丸出しの大バカアニメを作らせてもらったのだ。

 この後の、最後の仕事となった4年目は、大石内蔵助とサンタが討ち入りしてゾンビ化した吉良上野介と戦う話と、婚約指輪を手に恋人が待つ駅へと雪の中を走る若者が、突如現れたスーパーマン(クライアントの社員)に救われるというシンデレラエクスプレスのパロディの2本立てをつくった。どちらもやっぱり、何言ってるか自分でもわかんないシロモノだ(笑)。

 

結果を出すために本気でバカをやってる

 この手のバカ広告をやるときのボクは、本気で遊んで、本気で悪ノリして、時にはちょっと暴走したりもしてたと思う。

 ここまでのバカじゃないときでも、ボクは、ほとんどの仕事で何かのバカをやっている。
 遊びのない作品は、描いた覚えがない。いや、いくら何でも多少はあると思うけど、すぐに思い出せないほどに少ないのは間違いない。

 そして、先の「不倫アニメ」などのホンの一部の例外を除くと「バカなことをしてくれ」という依頼が来たことはない。
 クライアントからは普通の広告企画の依頼があっただけ。
 なのにボクが、バカな企画を提案しちゃって、それが通っちゃったということなのだ。

 バカなネタを考えちゃうのは、ボクが「そういう奴」だからだけど、身勝手にクライアントの予算使って遊んでるわけじゃない。
 そうだったら、とっくの昔にボクが失業してる。

 バカをやるのは、結果を出すためなんだ。
 ちゃんと代金をいただいて、クライアントの要望に応え、目的を達成するためにやってるのだ。
 作品はバカでしかなくても、広告の目的と結果に対しては真摯に向き合ってるのだ。
 必死にバカやってんのよ。

 お金をもらって取り組む以上、お客が期待する結果を出したいの。
 ウケて終わりじゃなくて、ちゃんと広報効果が上がって、お客に満足してもらいたいの。
 ボク自身にもウケたいって気持ちは当然あるけど、メインとしては「ミッションを成功させるにはウケなきゃならない」からなの。

 だから、ボクはボクなりの工夫をする。
 クソ真面目な企画で結果を出せる人なら、それはそれでいいんだけど、ボクはそうじゃないのよ。

 真面目にやるだけでクライアントが満足する結果を出せる自信はないのよ。
 魔導士が剣を握っても役に立たないのよ。
 だからボクは、自分がやるならこうだ、と思う方法でやってきたんだ。

 そして、自分も本気で楽しんでいないと、本当の本気って出せないんだよね。
 お仕事だと割り切ってると、届くはずのものに届かないのよ。
 少なくともボクはそうなのよ。

 そんなわけで、ボクはお仕事で山ほどバカをやっている。
 バカをやっちゃマズい案件の時にはやらないけれど、やらないだけで不謹慎なネタ(とてもココには書けない)を考えたりはしちゃう。

 そして稀に、バカであることが功を奏することもあるのだ。
 フツーの人なら考えないか、考えても実際にはやらないようなことをやっちゃう奴が生きる局面があるのだ。滅多にはないけど、たまにはあるのよ。

 だから、そういうときにだけ、ボクの出番があればいいのだ。

 ボクは、これからもバカでいいと思っている。
 普通に営業してたら滅多にない「バカの力が必要な時」に出くわしちゃったら、声をかけてくれればいい。
 滅多にないことでも世の中全体で見たら、けっこうあるものなのだ。
 だからボクみたいなバカが、30年以上も生き延びているんだ(笑)。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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