カソクキッズ24話:「ぽふ&ぶわ~~」な宇宙の歴史

キッズたちが解説役になる最終章
この24話からカソクキッズ1stシーズンは最終章。
連載当初の段階では1章5話ずつの4章構成で全20話の予定だったんだけど、そんなもんは第1章(1~5話)までで吹っ飛んじゃって、予定になかった5章まで来てしまった。
ただ、このへんまで来ると素粒子ネタも濃くなりすぎて、これ以上は「一見さんお断り」な内容になってしまう懸念があったので、この最終章はこれまでに披露したネタをベースにした「おさらい編」として構成している。
だから、この章では博士が解説するというよりもキッズたちが、これまでに学んだことを1人ずつ発表していくという基本設定になっているんだ。
いや、こういう学習漫画的な作品の場合、主役であるはずのキッズたちが聞き手になっちゃって能動的に動かしにくい、という問題があるのよね。
でも、主人公たちがずっと受け身じゃ漫画としてつまらないので、それでボケたりツッコんだり、時に暴走させたりして、何とかしてキッズたちにスポット当てるように苦心してきたんだ。そこを意識してシナリオ考えないと、ただ解説聞いてるだけになっちゃうのよ。
特に『カソクキッズ』の場合は題材が科学研究で、それも巨大な加速器とかが必要なレベルの研究だから「実際にやってみる」「体験してみる」が描写しにくいのよね(この前の4章・宇宙編は、それを何とかしたくて無茶したわけ)。
だから「子供の手には届かない世界を、どうやって子供の世界に引き込むか」が一番重要な部分で、それでアホなギャグをいっぱい盛り込んでいたところがあるんだ。チャカして遊んじゃうようにしないと、単なる難しい話になっちゃうから。
というわけで、キッズたちはキッズたちなりに素粒子や宇宙の謎に触れてきて、この最終章で自分たちの考えを語ることになったんだ。
最初の宇宙は「ぽふ」っと生まれた
この1stシーズン24話では、ぽにが「宇宙の歴史」を発表する。
宇宙は約138億年前(本編では137億年と書かれているけれど今は138億年のほうが近いと考えられているらしい)に「ぽふ」っと生まれて、それから「ぶあっ」と広がって、次に「ドカ~ン」ときて、後はず~っと時が経って「今はこのへん」らしい。
なんのことかチンプンカンプンだけど、これ、割と正しい宇宙の歴史ではあるのだ。
よく「宇宙はビッグバンで生まれた」と言われるけれど、厳密にはそうとは言えないらしいのだ。
最初は「真空の相転移」ってのがあって、そこが宇宙の誕生。
大きさとかないレベルの極小の宇宙が、トンネル効果という現象によって「ぽふっ」と出現する。
それが指数関数的膨張を始め、あっという間に今の宇宙くらいにまで膨張しちゃう。
このときに「自発的対称性の破れ」というのが起こり、真空が持っていたエネルギーが熱に変換されて、ビッグバンが起こる。
これはインフレーション理論というやつで、まだ正しいかどうか証明されてはいないのだけど、多くの研究者が正しいと考えている理論だ。
インフレーション理論によると、ビッグバンまでに、これだけのステップ(これでも、かなり端折っている)があったらしいのだ。
まぁ、いくつものステップがあったとはいえ、その時間は10-41秒(0.00000000000000000000000000000000000000001秒)でしかないらしいんだけど。でも、そのわずかすぎる時間に何が起こっていたかを探ることが、宇宙誕生のメカニズムを知るためには重要なんだよね。
んで、最初の素粒子が生まれるのは宇宙誕生から10-39秒後(0.000000000000000000000000000000000000009秒後)くらいらしい。
物質が質量を持つようになるのは、10-12秒後(0.000000000002秒後)くらいで、10-4秒後(0.0004秒後)頃にハドロンと呼ばれる素粒子たちが生まれた……らしい。
(ゼロの数をきっちり数えたりすんなよ!? 自分でも書いてて混乱してるんだから!!)
とにかく、大きさがないくらいに小さい宇宙が生まれてから1秒も経たないうちに、これだけ色々なことが起こって、ほとんど今の宇宙になっちゃうのだ(星とかはだいぶ後まで生まれないけど)。
なので、宇宙誕生の謎を解き明かすというのは、宇宙が生まれてからコンマ何十桁を細かく検証していくということになる。
これはカソクキッズ連載開始前に説明されたことで、10分の1を何度も繰り返していくようなものらしい。
ただ、どこまで10分の1をやったとしても決してゼロにはならないわけで……う~ん、大変な話すぎてピンと来ないよなぁ(苦笑)。
なお、この「インフレーション理論に基づく宇宙の歴史」は、この後のカソクキッズ・セカンドシーズンでも何度か扱っている。
でも、扱う度に謎が深まっちゃうんだよ。
知れば知るほど、謎が増える。疑問が増える。
どうやら、そういう疑問に気づけるようになるというのが「学ぶ」ってことらしい(笑)。
CP対称性の破れっぽい登場シーンとは?
このエピソードには久々、小林誠博士が登場する。
小林博士の本編登場は3章以来なので、できるだけインパクトのある登場シーンにしたくて、最初はものすごくアグレッシブな登場ネームを切っていた。
だけど、それをKEKで見せたら「もっとCP対称性の破れっぽい登場を考えて」と言われてしまったのだ。
……………………………………。
CP対称性の破れっぽい登場って、
一体なんだぁああああああああああ!!
……と、パニくりながら描き直したのが、実際の本編になった登場シーン。
鏡(窓ガラス)に、そこにいないはずの別人が映るというやつ。
キッズたち4人+博士2人で6人だから、ちょうどクォークの種類と同じだと気付いて、それで2章で描いた「CP対称性の破れ=CP変換の鏡には、ときどき間違えて違うものが映る」というのをおさらいしつつ「CP対称性の破れっぽい登場」をやってみたわけだ。
最初の大暴走する小林博士も、漫画的には面白かったと思うんだけど、科学漫画としては、より科学ネタな演出を考えるべきで、指摘してもらってよかったよ。いくらノリが良くても、それだけじゃあ『カソクキッズ』じゃないもんなぁ。

ぽに
このエピソードでは「ぽに」が頑張る。一番最初に名乗りを上げて発表する。
でもね。
ボクは今でも、ぽにが積極的に発表したとは思ってない。
ぽにって、意外に要領いいのよ。ちゃっかりしてるのよ。
厄介なネタしか残ってないといった状況になる前に、最初に大雑把に発表しちゃって逃げ切る。
そういう狙いだったと思うんだよな~~(笑)。
あ、でも、それは、ぽにがずる賢いというわけじゃないよ。
この後の、29話(事実上の最終回)で、大人になったキッズたちが登場するのだけど、4人の中でぽにだけが研究者以外の道(学校の先生)を選んでいるんだ。
ぽにはね、KEKで学んでいても、一度も研究者になろうとは思わなかったと思うんだ。
仲間たちと一緒にいるのが楽しい。仲間の一所懸命な姿を見るのが楽しい。
宇宙や素粒子の面白い話を聞いたり、珍しい施設を見学したりするのが楽しい。
ムキになったりせず、自分なりの距離感を持った上で、みんなと一緒に楽しむ。
ぽには、そういう子だ。
そして、ちゃんとみんなのことも見ている。
じんが本気になってることも、たまが元々こういうことが好きな子だったことも、めがも研究者の道に惹かれ始めていることも、ちゃんとわかってる。自分は違うけれど、みんなはガチなのを理解している。そういう道に出会えたみんなを喜ばしく思ってる。
だからこそ、邪魔しない。彼らのネタを邪魔しない。
自己犠牲なんかじゃないよ。
自分が最初に発表を済ませて、ついでに呼び水役も買って出て、それから、みんなの本気をじっくり楽しむつもりなんだと思うの。
空気を読むとかでもなく、意識せずに、そういう役どころを自然にわかってる子なのよ。
彼女は、この時点では明確な進路なんか見つけてはいなかったと思うのだけど、それでも「そのとき」が来たら、ちゃんとそれなりになっている子だと思う。学校の先生になった後も、かつてのキッズたちのように一所懸命な子供たちを見守りながら、やはり楽しく歩んでいくはずだ。
研究者にならなかったからって、それを気にしたりもしない。私は私、みんなはみんな。それでも、ずっと仲間。
その気持ちは、他のキッズたちも同じだ。
ボクは、キッズたちは、そういう関係に成長していったと思ってるから。
そしてボクは、そんなキッズたちを見守り続ける。
連載が止まろうが終わろうが、ボクにとってキッズたちは生きているからだ。
この記事を書いている現在(2018年)は、連載開始から10年目。
作中ではキッズたちは中学2年生と設定しているから、今は23~24歳になっているはずだ。
つまり、本当に1stシーズン最終回あたりの年齢になっているはずなんだ。
あの子たちらしく、スッタンバッタンしながら、今日までをガチで頑張ったに違いない。
そして今も、夢と野心を持ってスッタンバッタンし続けているはずだ。
まさに、親の気分。
ボクには、3次元世界で生きる娘がいるけれど、2次元に生きているキッズたちもまた、ボクの本当の子供なんだ。
感慨深いよなぁ、マジで。
※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。









うるの拓也












