カソクキッズ23話:ついに宇宙人登場!!

 カソクキッズは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のWEBサイト上で公開されている作品だ。
 描いているのはボクだけど、KEKの主要コンテンツの1つでもあり、同機構の要覧などにも記載されている。

 そしてKEKは、世界的な研究機関だ。
 ノーベル賞学者も輩出していて、その発言には世界が注目している。
 つまり、いくら漫画とはいえ、科学的に間違ったことやいい加減なことなどを描くわけにはいかないのだ。

 なのに。

 この1stシーズン23話では、宇宙人が登場してしまったのだ。

 いや、ボクが暴走したわけじゃないよ。

 カソクキッズ連載開始前にKEK側でまとめた「連載ネタになりそうなリスト」の中に、最初から宇宙人の話はあったんだ。
 宇宙人は、十分に科学的な話なのだ!!

ドレイク方程式が語る異星人との接触可能性

 本編でもネタに使った「ドレイク方程式」というのがある。
 これは「我々の銀河系にどれくらい地球生命が存在しているか」および「地球外知的生命と我々が接触する確率」を推定する方程式で、アメリカの天文学者フランク・ドレイクが1961年に発表したものだ。

 N=R×fp×Ne×fl×fi×fc×L

 [R]=銀河系で1年間に誕生する恒星の平均数
 [fp]=恒星が惑星を持つ確率
 [Ne]=生命が発生可能な惑星になる確率
 [fl]=実際に生命が発生する確率
 [fi]=発生した生命が知的生命体にまで発展する確率
 [fc]=その知性体が星間通信を行う確率
 [L ]=星間通信を行えるレベルの文明の存続期間

 まぁ、この方程式にどれほどの信憑性があるのかは、ボクはわからないんだけど、KEKの博士たちが笑い飛ばしはしなかった(実際、漫画に盛り込めた)から、それほど突拍子もないものではないんだろうと思ってる。

 で、このパラメータに科学的に妥当だと思われる数値を代入して計算すると「N≫1(Nは1より大きい)」ということになるらしい。

 つまりドレイク方程式に基づいて考えると、銀河系だけでも複数の知的生命体が存在するはず、ということになる。
 しかも宇宙には、無数の銀河がある。
 宇宙規模で考えると、ものすごい数の宇宙人がいると考えるほうが合理的なのだ。

 

 ただし、実際に出会えるかどうかとなると、甚だ難しい。

 例えば1万光年先の惑星に、人類と同等あるいはそれ以上の文明を持つ知的生命体が存在していて、地球からの電波をキャッチしたとする。
 けれど、光速を超えて情報を伝えることはできないから、その電波は1万年前に発信されたものだ。
 すぐに返信してくれたとしても往復2万年。「もしもし?」「はいはい、どちらさん?」だけで2万年かかっちゃうのだ。

 1万年前の人類といったら、まだ旧石器時代。マンモスが絶滅したかどうかくらいの頃だ。
 人類が電波を活用するようになってからは、まだ100年ちょっとしか経っていない。

 1万年なんて宇宙の大きさからみたら、くっつきすぎて寝息が聞こえるんじゃないかというくらいのご近所だけど、それでさえ、異星人も人類も、あと丸々2万年以上もの間、現在と同等以上の文明を保たないと最低限の挨拶さえできない。

 その上、そうした文明が偶然、同時期に勃興していなきゃならない。

 宇宙が誕生してから今は約138億年くらいだと言われている。
 知性を持つような生物が生まれるほどに安定してきたのが仮に50億年前だったとしても、あまりにも長い。どの時期に文明が発生したとしても、たまたま都合よく同時期に、互いに通信可能な距離で、コミュニケーションできる程度の文明レベルであってくれないと出会えない。
 ちょうどいい文明の時期が何億年も……いや、ホンの数千年ズレていてもダメなのだ。

 ……というわけで、宇宙人はいるはずなんだけど、実際に存在を確認できるかというと、不可能に近いレベルになってしまうのだ。

 

それでも宇宙人はいる!

 先のドレイク方程式以前にも、著名な科学者エンリコ・フェルミなどが同様の推論を行っていて、その論考は「フェルミのパラドックス」として知られている。

 エンリコ・フェルミらは、宇宙には数多くの知性体がいるはずだと考えた。
 そして、実際に出会っていてもいいはずだ、少なくとも存在の証拠は見つかってもいいはずだとも考えた。
 なのに、観測的には人類以外に知的生命体はいないように見える。
 これが「フェルミのパラドックス」だ。

 宇宙人が見つからない理由は、いくつも考えられている。
 政府が隠しているといった陰謀論から、生命の在り方があまりにも違うために出会っても生命だと認識できないとか、存在する次元が違うとか、それこそ山ほどの意見がある。もちろん、人類しかいない可能性もあるし、まだ他の文明が生まれていない可能性、痕跡さえ残らないほど以前に滅んでしまった可能性もある。

 どれもこれもが可能性。「そういうこともあるよね」という空想でしかない。

 それでも多くの科学者は、地球以外にも知的生命体がいると考えている。
 存在を証明できる可能性は極めて低いけれど、いない、ありえないとは言えない。

 それに「いる」と考える根拠はあるのだ。

 それは「我々人類が存在するから」。

 人類だって、素粒子あるいは元素(原子)といったレベルで見れば、無機質な物質の集まりにすぎない。
 陽子、中性子、電子がくっついて原子になり、原子同士がくっついて分子になる。
 さらに分子が集まり、様々な化学反応を起こすようになって、生命を形作っている。
 誰かが作ったのではなく、偶然そうなったのだ。

 それは、とてつもなくレアな奇跡だろうけど、宇宙はあまりにも広大だ。
 どれほどのレア事例だとしても、宇宙の歴史と大きさから見れば、同様の奇跡が幾度も起こっていないとオカシイ。

 奇跡的な偶然により地球という惑星が誕生し、生命を育み、進化してきた。
 同様のことが、宇宙的規模では何度も起こっていて不思議じゃない。地球と同じことは地球にしか起こらないと考えるほうが不自然なのだ。
 むしろボクには、人類しか知的生命体がいないと考えるほうが「自分たちだけを特別な存在だと思い込む傲慢な考え」に思えるんだ。

 

 

※生命があまりにも機能的にできているが故に「地球の生命は高度な知性体が生み出したものに違いない」といった説もあるが、そうなら、その高度な知性体はどうやって生まれたのか、という疑問が生じる。神様などの宗教的な考え方は別として、どこかの高度な知性体が偶然生まれ得るなら、地球の生命だって偶然生まれてもいいはずだ。
そんなわけで、今のところ、地球の生命は宇宙人が作った説はSFの域を出ていないのだ(もちろん否定もされていない。本当は宇宙人が作ったのだとしても検証しようがないことだし、宇宙人を持ち出さなくても説明がつくというだけで、本当のところは誰にもわからない)。

※人類や生命の起源を地球外に求める「宇宙考古学」というのもある。異星人じゃなくても、外宇宙から飛来した隕石などに付着していた物質が生命誕生の基になったといった仮説は、枚挙にいとまがない。
 ただ……生命だろうが地球そのものだろうが、それを形作っている元素に、地球産のものは1つもないんだよね。太陽の何十倍もあるような恒星の中とか、超新星爆発とか、ビッグバンとか、そういう規模でないと元素合成はできないんだから、その意味では地球に存在する全てが地球外由来には違いないんだよね……。

※「宇宙人が見つからない理由」の1例として触れた「生命の在り方があまりにも違う」には色々な可能性が考えられていて、そうした考察は「宇宙生物学」「代わりの生化学」などと呼ばれている。例えば、ケイ素系生命。見た目が岩にしか見えないといっただけではなく、ライフサイクル自体があまりにも長すぎるせいで人類のタイムスケールでは生命として認識できない、という可能性もあるのだ。
 ボクが本ブログ上で連載している『小説版イバライガー』にも、そういう生命体が出てくる予定だ。
 生命の内部はミクロコスモスなどと言われ、細胞、分子、原子とミクロな世界に行けば行くほど、宇宙のように見えてくる。
 ならば、我々が宇宙だと思っている空間も、人類とは桁違いに大きなスケールで生きている何かにとってはミクロコスモスなのかもしれない、と思ったんだ。意識を伝達するシナプスが何万光年も伸びていたら、我々が一瞬で思考することでさえ何万年もかかることになる。我々はその一瞬の断片しか認識できないから、それが思考体だと気づくことさえできない。KEKでカソクキッズを連載したときに、そういうことを想像したりしたので、それを自作に取り込もうと思ってるの(笑)。

 

オマケ

 この23話の宇宙人エピソードでカソクキッズ1stシーズン4章(宇宙編)は終わり、次の24話からは、これまでのまとめとなる最終章に入っていく。

 WEB公開されているバージョンでは宇宙人とお別れしたところで終わっちゃうのだけど、単行本では4ページのエピローグが描き足されている。

 このエピローグは完全にオマケそのものだし、KEKサイトで公開されるわけでもないので、自由にやらせてもらった。そのせいで……いや、そのおかげで、ここまでにバカなシーンをいっぱい描いたけれど、それらを上回る大バカシーンになっちゃった。なんせノーベル賞受賞者ご本人にアニパロやらせちゃったんだもんなぁ。我ながら無茶なことしたよなぁ(笑)。

※なぜこのエピローグで小林誠博士に登場してもらったのかといえば、4章には1度も登場シーンがなかったから。これまでの1〜3章には、それぞれ1話ずつ小林博士登場エピソードがあり、この後の5章でも予定されていたけど、4章だけは登場シーンを作れなかったんだ。
 それもあって、エピローグのギャグで登場していただいたんだ(笑)。

 

 


※カソクキッズ本編は「KEK:カソクキッズ特設サイト」でフツーにお読みいただけます!
でも電子書籍版の単行本は絵の修正もちょっとしてるし、たくさんのおまけマンガやイラスト、各章ごとの描き下ろしエピローグ、特別コラムなどを山盛りにした「完全版」になってるので、できればソッチをお読みいただけると幸いです……(笑)

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『カソクキッズ』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。KEKのサイトでも無料で読めますが、電子書籍版にはオマケ漫画、追加コラム、イラスト、さらに本編作画も一部バージョンアップさせた「完全版」になっているのでオススメですよ~~(笑)。

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