無料と読み放題の時代を考えてみる/02:無料や読み放題で稼ぐには?
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無料のメカニズム/広告収入型の様々なタイプ
映画もアニメも定額で見放題、便利なネットサービス(ツイッター、各種SNS、ブログ、ユーチューブ、グーグルのアレコレなど)も無料だし、スマホゲームも課金しなきゃ無料な時代。
無料とわずかな定額課金だけでも、そこそこ満足できてしまう時代。
そういう時代に、クリエイターはどう対応したらいいんだろう?
それを考えるために、そもそも無料のメカニズムから整理してみたい。
完全無料のネットサービスの場合、その収入源は合法だろうと違法だろうと、基本的に「広告」と考えていいだろう。
WEBページにスポンサー広告などを掲載し、広告収入で運営費と作者の収入を賄うわけだ。
これは無料放送のテレビ番組にCMが入るのと似ているのだけど、ネットの場合はちょっとだけ違う。
読者には見えない部分で、広告の種類が違うんだ。
どれもこれも同じようなバナー広告に見えるけれど、ネット広告は、主に「表示するだけで広告費が払われるもの」「クリックされたら払うもの」「商品が実際に売れたら払われるもの」の3つに分かれていて、それぞれページビュー型、クリックレート型、アフィリエイト型などと呼ばれる。
サイト運営側にとって一番ラクなのはページビュー型だ。
表示しておくだけでいいんだから、手間もほとんどかからない。自分のサイトに不適切な広告でない限りは、何が表示されていようが構わない。とにかくどこかに表示しておけば稼げるのだから、とても都合がいい。
でも、世の中はそんなに甘くはない。今ではページビュー型のネット広告は激減している。以前はけっこうあったけれど、表示するだけでほったらかしでは広告主にとって旨味が足りないんだよね。なので最近はあまり見かけなくなった。やっている場合も1回表示あたりの支払額がものすごく安く設定されていることが多くて、単行本1巻分読まれて、ようやく1~2円とか、そんなレベルになりがちなんだ。
で、次のクリックレート型。今一番使われてるのがこのタイプで、ボクのブログもこれ。
このクリックレート型では、表示しただけでは報酬は発生しない。広告がクリックされたときにお金になるのだ。クリックした先で買わなくてもクリックされていればOKではあるのだけど、表示するだけのページビュー型よりはルールが厳しい。
クリックされなきゃゼロなので厄介だけど、普通のブログだと1回のアクセスごとに0.2~0.5円くらいになると言われている。つまり、大抵はクリックされないんだけど稀にクリックされることもあって、それを1回のアクセスごとの平均に換算すると0.2~0.5円程度ということだ。
ただし、あくまでも平均の目安であって、誰もが同等ではない部分には注意が必要だ。
最後のアフィリエイト型は一番厳しくて、実際に商品が売れたらマージンを払ってくれるタイプ。
どんだけ表示しても売れなきゃゼロなので、事実上の営業代行だ。でも、その代わり実入りも一番大きい。いくらになるかは広告商品ごとに違うけど、美味しい場合は1回の購入で数万円になることもある。
ただ、そういう収益を上げるには広告を貼っておくだけじゃなく売り込みをしてあげなきゃならないことが多いから、宣伝タイアップの記事を積極的に書くとか、そういう営業努力してないとダメっぽい。
……というわけで、ネット広告にはこういう違いがあり、多くのブログやWEBサイトでは、これらを組み合わせたりして表示している。
コンテンツ系無料サイトに向いている広告タイプはドレ?
で、これらの中のどれが、コンテンツ系無料サイトに向いてるのか。
ページビュー型だと、漫画の単行本1冊分(一回の表示が1ページ分だとして)で、1円程度にしかならない可能性が高い。
年間1万人が読んでくれても1万円にしかならない、と思ったほうがいいわけだ。
ただ、1つの画面には複数の広告を表示できるケースも多いから、仮に4つ表示しているとすれば4倍になる。
ま、それでも年収1万円が4万円になるだけなんだけど。
それなら20個くらい表示しちゃえば……とか考えたいところだけど、そういうわけにもいかないんだ。
一定数以上だと広告主に嫌われちゃって、広告を回してもらえなくなる。それに、そんなに広告だらけにしちゃったら読みづらくてどうしようもない。
(騒ぎになった海賊サイトでは、閲覧者には見えない「裏側」で広告を読み込み、表示したとカウントされるようにして荒稼ぎしていたと報じられているが、閲覧者に見えないなら広告効果はゼロ。つまり広告主を騙していたわけで詐欺そのもの)
そんなわけでページビュー型でやっている場合は、単行本1冊分を読まれて3~4円というところだろう。
無料だからと読んでくれる読者が年間1万人いると仮定(根拠はない)すると、年収で3~4万円。
ただし、サイトの運営費もここから捻出するので、良心的なところでも上記の7割くらいが精一杯だと思う。年間4万円だとしても2万8千円ほどになってしまうと思っておくべきだろう。
なお、赤松健先生が運営している『マンガ図書館Z』では、広告収入の全額を漫画家に支払うという良心的すぎる対応をしてくださっている(2018年5月現在)。
でもこれは、赤松先生が漫画家支援を掲げていらっしゃるからで、例外的な事例と考えたほうがいい。その他の多くの場合は7割でも好条件のはずだ。
次に、クリックレート型。
こっちはクリックされなきゃダメなのだけど、先の目安で言えば、1ページ読まれるごとに0.2~0.5円くらいになる可能性がある。
ということは、仮に単行本1冊を200ページだとすると「200×0.2または0.5円=40円から100円」となる。
この数字だけ見れば、ページビュー型よりも稼げそうなのだけど、ボクはそうは思えない。
1ページ0.2~0.5円というのは、あくまでも普通のブログなどの場合だ。
漫画は、同じ数値にはならないと思うんだ。
だって漫画を1ページ読むごとに、いちいち広告に目を向けないでしょ。
しかも、クリックされなきゃいけないのだ。一息入れてお休みしなきゃならないのだ。
そんな読み方、するわけがない。
甘く考えて1話読むごとに一息入れてくれる前提で考えたとしても、それなら1話分でブログ記事1つと同じってことだ。
1話=20ページで1巻に10話収録だとすると、1巻全部でブログ10記事分と同程度。
つまり「10×0.2または0.5円=2円から5円」にしかならない。
ほとんどページビュー型と同じ。
実際には、1話ごとに広告眺めてお休みする人なんかそうそういないと思うので、クリックレート型の漫画無料公開では、あんまり稼げないのではないだろうか。
(もっとも、連続ものと1話完結タイプではかなり違うかもしれない。1話完結タイプの作品なら1話ごとにいったん終わるから、1話=1記事と同じに扱える可能性はあるかもしれない。ま、そうだったとしても制作コストと収益のバランスが悪すぎて成り立たないと思うけど……)
そして残ったアフィリエイト型は……これはもう最初から使えないと思うしかない。
だって、事実上の営業代行なんだから。
そのページの記事自体が、なんらかの形で広告をクリックしたくなるように仕向けるものでなきゃ、ほとんど効果ないのだ。
そんなこと、漫画家がやるわけがない。自分の作品を読んでもらいたくてやってるのに、作品を犠牲にして赤の他人の営業代行するなんてアホらしすぎる。
最初から広告漫画なら話は別だけど、そうならアフィリエイトなんかやってるより、そのまんま広告漫画を請け負って原稿料をもらうほうが何倍も効率がいい。
アフィリエイト型は「自分の作品や記事を公開したい人」には向かないのだ。
ネットを使った営業代行業そのもので、そういう職業だと思うべき。
作家には、全然向かないのだ。
……というわけで無料前提なら「ページビュー型の広告システム」で「単行本1巻規模、読者数が年間1万人レベル」で、ようやく年収3万円弱程度と考えていいと思う。
実際、赤松先生も「年間1万円分くらいしか売れない状態なら『マンガ図書館Z』で公開したほうがいい」といった発言をされていたように思う。
つまり、無料公開で単行本1巻あたり年収3万円弱というのは、かなり上手くいったときの数字だと思うべきだろう。
実際には、もうちょい厳しいことが多いんだろうなぁ。
となると……。
もしも無料公開だけで食べていこうと思ったら、読者数を増やすか、公開しているページ数を増やすしかないってことだ。
読者年間1万人のまま100巻分を公開するか、10巻を年間10万人に読んでもらうか。
これならどっちの場合でも年収300万円前後になる(あくまでも取らぬ狸の皮算用だけど)。
どっちもそれなりに厳しい道だけど、広告前提で無料公開しつつ収益を作っていくというのは、こういう理屈になるんじゃないかなぁって思ってるの。
電子書籍の読み放題で作品を公開する場合は……?
もう1つ、電子書籍の読み放題についても考えてみよう。
読み放題じゃない普通の電子書籍販売については今回のテーマとはちょっとズレるので、またいつか、ね。
また、読み放題系サービスもサイトごとに違うので、アマゾンがやっている「キンドル・アンリミテッド(Kindle Unlimited)」を例にしよう。
キンドル・アンリミなら、ちょっとだけは売る側になったことがあるから話しやすいし。
キンドル・アンリミテッドの場合、1ページ読まれるごとに0.5円前後になると言われている。
つまり、200ページの本を全部読んでもらえれば100円というわけだ。
ちなみに、同じ本を同じ人が何回読んでも1回としかカウントされない。
アンリミは買うんじゃなくて読み放題なだけだから図書館の貸し出しに近いのだけど、誰かが同じ本を何度も読んで、それがカウントされちゃったら、不正に売り上げを作ることが可能になっちゃうわけで、それじゃあアマゾンがどんだけ大企業でもたまったもんじゃない。
だから1人1回のみ。何回読んでもらっても1回。そういうもんだと思うべきだろう。
だけど「単行本1巻規模、読者数が年間1万人」だったら、年収100万円程度にはなる。
同程度に読んでもらえる本が常時5冊ほどあれば、それなりに生活していける収入になる可能性がある。
意外に悪くない数字なのだ。
ただし、誰でもキンドル・アンリミテッドに入れるわけじゃない。
以前に揉め事になったように、超人気作だと読まれすぎてアマゾン側がキツくなり、外されてしまったりする。
それに、出版社で出してもらっているのであれば、先の年収100万円も出版社側の売り上げ分を差し引かれるから、30~40万が上限だろう。
ボクが某大手出版社と契約を交わした時(今は解消している)は、電子書籍出版のときは作者の取り分は約40%ほどだったからね。
なので1作品あたりの作家に還元される収益は、普通の単行本印税と同等か、ちょっと少ないくらいってレベルだよね。
でもまぁ、出版社でやってもらっている場合は、そっち任せになっちゃうので、あんまり考えても仕方ないかもしれない。
ちゃんと出してくれさえすれば、後は出版社に任せるしかないもんね。
考えなきゃならないのは、ボクのように個人出版だったり、自分で作品を管理してたりする場合だ。
専売契約はメリットが大きい
個人で電子出版する場合、専売契約するかどうかが大きな分岐点。
つ~か、アマゾン一択にして他所では一切売らないという専売契約でないと、そもそもキンドル・アンリミテッドに入れてくれないのよ。
例外もあるのかもしれないけど、一応規約ではそうなってる。
なお、この専売というのは、本そのものではなく、内容のことだ。
例えば「ワイド版は専売にして、文庫版は他所で売ろう」というわけにはいかないのだ。
内容が一緒なら、文庫だろうがワイドだろうが、タイトルを変えようが、あっちはカラー版だよとか言おうがダメ。
絶対に他所で見せてはいけないのだ。
当然ながら、ブログなどで公開するのもNG。
仮にブログ公開したものを後にまとめて本にしたのなら、ブログのほうを消さないと専売とは見なされない。
試し読みなどの理由で一部を公開することは可能だけど、それも全体の10%まで。
それ以上を見せちゃうとルール違反として弾かれてしまうのだ。
(そんなわけで、ブログで作品を公開しているボクは専売契約はできない。ブログを始めるまでは専売にしてたんだけど、今は専売ではないのだ)
なので、色々と条件はあるのだけど、この専売かどうかは読み放題だけじゃなく、通常の電子書籍販売でも大きく違ってくる。
専売契約の場合は、販売価格の約70%が著者に支払われる。
売値500円の電子本なら、350円が自分の収入になるのだ。
でも専売でない場合は、35%。
半分になっちゃうのだ。
専売なら、アンリミテッドに入れて、販売価格の約70%がもらえる。
専売でないと、アンリミテッドには入れず、販売価格の約35%しかもらえない。
「アマゾン以外では読めません、買えません」にするかしないかでは、こんなに大きく差がつくのだ。
なので、アマゾンだけで売るのなら圧倒的に専売が有利なのは間違いない。
(なお、専売にしておいてアンリミテッドには加わらない、というのはできない。専売契約なら自動的にアンリミにも組み込まれるので、直売では専売がいいけどアンリミには入りたくないとかってのは出来ないんだよね……)
作家に「時代に応じたビジネス」なんかできるのかなぁ?
……というわけで、あくまでもアマゾンのキンドル版だけの例ではあるけれど、読み放題になったからと言って稼げなくなるというものでもなさそうだ。
むしろ、普通の販売では売れなかった作品でも多少なりとも稼げるようになる可能性があるわけで、そこは大変にありがたい。
ただし、油断もできない。
アマゾンは、個別販売よりも読み放題&見放題のほうに力を入れている。
今はまだ、アンリミテッド加入者はそれほど伸びていないようで、大ヒット漫画だと採算が合わなくなって外されるといったトラブルが起きているけれど、将来的には、本当に何でも読み放題にしても大丈夫な会員数を獲得することを目指しているだろう。
映画やアニメを配信しているAmazonプライムやNetflixでは実現しているのだから、目指さないわけがない。
だとしたら。
今のところは、読み放題だから読むという人がいるかもしれないけれど、将来「何でも全部」になったときはどうだろう?
超有名作品だけでも読みきれない量なのに、マイナー系作家の作品まで読んでもらえるのか?
公開作品数が少ない時代に「マイナーでも読み放題だから読んでもらえる量」が個別の購入に匹敵する状態だったとしても、将来的には、多すぎる有名作品の中に埋没しちゃうんじゃないのかなぁ。
作品を電子書籍化して、販売したりアンリミで読めるようにするところまでは誰でもやれると思うんだけど、それが売れる、読まれるということになるには、自分でプロモーションしていかなきゃならない。知名度低い個人出版規模の作家のためにアマゾンがキャンペーン張ってくれたりはしないからね。
結局は、作者自身のセルフプロモーション次第だと思うし、読者と作品の接点が作者のセルフプロモしかないのなら、いっそ直売したほうが効率が良くて読者の負担も小さいってことになるかもしれない。
まぁ代金の支払い・回収、作品の供給などの部分をキチンと行うには大変なシステムが必要になるから、大手に委託しなきゃ処理できないとは思うんだけど。
それに、懸念事項は他にもある。
例えば、ページ単価0.5円というのも「今のところは」に過ぎない。
今の段階ではアマゾンは、そのくらいのレートを維持しようとしている(資金が足りなくなるとドカっと何十億とか補填してレートを守っている)ようだけど、今後爆発的に冊数が増えていったときに、同じレートを維持できるとは限らないと思うんだ。
0.5円なら生活できても、0.2円になっちゃったら生きていけない。そういうことだってあり得る。
そもそも、アマゾンだろうがグーグルだろうが、別に公共事業というわけじゃない。
全ては自社の利益のためにやっていることであって、作家支援のための活動じゃないのだ。今の段階では作家支援にもなっていないと作品数が不足しちゃうからそうしているだけであって、利益を捨ててまで現状のルールを守るとは思えない。
ルール変更しました、嫌なら辞めてもらって結構です、ということがいつ起こっても不思議じゃない。
いや、それどころかサービス自体をやめちゃうことだって、あり得る。
実際、これまでも様々な同種サービスが立ち上がっては消えている。
思ったほど儲からないとか、儲かっていても他でもっと効率よく儲けているとか、単に面倒になったとか、理由は色々。
勝手に始めて、勝手にやめる。
しかも、こっちが「仕方ない、乗っかるしかないや」と受け入れて、ようやく、その体制に馴染んできた頃の、今そのハシゴ外されたらすごく困るというタイミングで、突然やめたりするんだよねぇ(苦笑)。
さらに言えば、アマゾン自体にしても消えるときは消える。
どんなに大企業だって、あっという間に消えたりするのが世の常だ。
現実の世界でも、2~3年も持たずに消えちゃうお店は少なくない。設備なり何なり、それなりのお金をかけたとしか思えないお店が、あっという間に消えていく。
たまに創業何十年とか書いてあるお店を見かけるけど、そういうことが書いてあるのは、それが宣伝になるからだ。何十年も継続して営業できるのがレアだからだ。
廃業、倒産、吸収合併。お店や企業は、何十年も持たないことのほうが多いのだ。
特にネット世界では、そういう栄枯盛衰のサイクルが加速している。
何が起こっても不思議じゃない。今の状態なんてのは、本当に今だけの話なのだ。
だから、どこのどんなサービスを利用していようが、それに依存しすぎるのは危ないと思う。
使えなくなったり自分にとって不利になったときに、別の何かに切り替えられる対策を最初から考えておかないと、大事なところで足元からひっくり返されることだってある。そのときに文句言っても手遅れなんだよね。
そういうふうに考えると、有利に思える専売も、必ずしも有利じゃないかもしれないのだ。
むしろ、特定のサービスに寄りかからずにリスク分散しておくほうが賢い気もする。
……そんなわけで、電子書籍も色々と難しい。
時代を読みながら、臨機応変にビジネスを続けていくってことだもんなぁ。
作家とかいう人たちが、一番苦手なことだもんなぁ。
めんどうくさいなぁ。
漫画家の佐藤秀峰先生の事務所「佐藤漫画製作所」が運営している漫画配信サービス『電書バト』では、様々なサイトに漫画の電子書籍を配信してくれるサービスを行っている。こちらでは「各サイトで定められたロイヤリティから事務手数料を差し引いた全額」が漫画家に支払われることになっていて、やはり良心的な漫画家支援になっている(ただしサイトごとの審査があるので、配信先となっている全てのサイトに必ず配信されるとは限らないようだ)。
(つづく……予定だけど、この先はまだ執筆中)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。