無料と読み放題の時代を考えてみる/01:無料を求める人たちとは?
このシリーズでは、今後のクリエイターの生き残りについて考えてみる。
様々なネットサービス、映画、アニメなどが無料や見放題・使い放題で提供される時代になってきている。
そういう時代に、漫画や小説などのコンテンツって、どういうふうに対応していけばいいのか、ボクはずっと悩んできた。
ほっといてもバカ売れするような作家・作品なら、気にしないんだけどね。
ボク、マイナーどころじゃないから(苦笑)。
なので色々と考えちゃうのだけど、考えても答えが出ないことも多いから正直迷いっぱなしだ。
それでも様々な情報を集め、考え、色々と試し続けていくしかない。
難しい、できない、無理だ、などとは言ってられない。
考えながら動き続けて、トライ&エラーを繰り返してみるしかないんだよね。
そんなわけで、この記事シリーズでは、これだ!という答えがあるわけじゃない。
色々考えてみたこと、その上でボクが取り組んでいることなどを披露していくつもりだけど、それ自体が勘違いと間違いだらけで大失敗なのかもしれないから、そのつもりで読んでみてね。
海賊サイト問題は、もっと大きな動きの一端にすぎないのでは……
漫画村事件は、いろいろなことを考えさせてくれた。
あ、最初に言っておくけど、漫画村のような海賊サイトそのものは全否定だ。
あんなもの絶対に認められん。
「どうせ漫画にお金を払わない人が読んでるんだから海賊サイトがあってもなくても漫画家の売り上げには影響しない」という声もあるが、そんなことは関係ない。
いや、こっちの売り上げにならないのなら、なおさら許せん。
作家の魂である作品をピンハネしててめえらだけ荒稼ぎするなど、許せるもんか。
だから、海賊を潰していくことには大賛成だ。
サイトブロッキングは多くの識者が指摘しているように問題があると思うけど、潰すことには賛成だ。
ただし。
潰せば安泰、というものでもない。
先に書いたように、海賊がないからといって、海賊に集まっていた人たちが公式にお金を落とすようになるとは思えない。
今では、漫画もレンタルで読める。
某有名レンタル店では、一冊50円で一週間レンタルだ。そういうお店があちこちにあるから、何度も読み返す熱心なファンでもなければ、わざわざ買うまでもない。
そして所有して読み返したい人だって、まず最初に向かうのは大型古書店だ。こっちは新作・人気作でなければ100円で買えてしまう。
そういう「作家の利益になりにくい読まれ方」が一般的になっていて、さらに一部の大人気作品以外は発行部数も激減。印税率も下げられがちで、ものすごい二極化になっている。
ピラミッドの頂点にある1つの石が、全体の質量の8割とか9割という状態になってるのだ。
これは非常に危うい。
いつ崩れてもおかしくない。
海賊サイトがなくなったとしても、作家の多くが苦しい状態は変わらない。
だから、多くの良心的なファンの皆さんが、作品を買って支えようとしてくれている。
それはファンの一人としても、クリエイターのはしくれとしても、とても嬉しく、ありがたい。
その気持ちに応えようと、作家もきっと頑張ると思う。
でも、そうした良心的ファンの支援だけで支えるのは、実際には難しいとも思う。
漫画、イラスト、アニメ、特撮、映画、ゲーム、小説。
長い時をかけて発達してきたコンテンツ世界の質量は、とてもつもなく大きくなってる。
熱心なファンの力だけで、その全部を支えるのはキツすぎるとしか思えない。
ファンたちの「人の心の力」でアクシズを支えようとしても、その多くは吹き飛ばされていく気がする。
作品を愛してくれるファンの犠牲の上に成り立つような形では、ダメだ。
作家の多くだって、そんなことは決して望んでいないはずだ。
それに海賊問題は、もっと大きな動きの一端にすぎないのではないかと、ボクは感じる。
ボクが気にしているのは、世の中の動き。
ボクたちに必要なのは海賊対策じゃなくて、時代の動きそのものへの対策なんじゃないだろうか?
■余談1
この先に進む前にちょっと断っておくけど、ボクは作品にお金を使わない人たちを責めるつもりはない。
違法だと知りつつ海賊サイトを利用してしまう人も、叩きたくない。間違ってるとは思うから擁護する気はないんだけど、叩きたいとは思わない。作家の生活にまで気を配ってくれるファンは、非常にありがたく頼もしい人たちだけど、多くの人はそうじゃないのが普通だ。
また、漫画には投げ銭してもスーパーでは特売品しか買わない人だっているはずだ。
すべての人が正価を受け取れるほど、世の中の景気は良くない。
仕方ないことなんだ。古書店で漫画が大量販売されるのだって、仕方ない。
あるものが、一定数以上世の中に出回れば、その中古市場が形成されるのは自然な流れだからだ。
家具でも、自動車でも、古着でも、漫画でも。漫画は、中古やレンタルが十分に成り立つほどに成長してしまった。
そうである以上、その流れは止まらないはずだ。歴史の必然ってやつで、漫画関係者がどう抗ったとしても、最終的には押し流されるとしか思えない。実際、すでに流されちゃっていると思うし。ネットの海賊サイトは違法だけど、それだって潰しても潰しても、次の海賊が現れるだろう。
イタチゴッコで、いつまで経ってもゼロにはならず、利用する人も絶えないはずだ。
みんな、お金ないんだから。
少ない小遣いで、何とかして楽しみを得ようとしてるだけ。
悪いのは、そういう心理を利用して金儲けを企む海賊たちで、利用者じゃない。
(利用するのも悪いことではあるのだけど、ボクは麻薬に手を出す人よりも麻薬を売る奴を憎む)
■余談2
ヒットを当てたとしても、一発程度じゃどうにもならないらしい。
近年、ボクが人気漫画家だと思って仰ぎ見ていた人たちが、次々と苦難の歴史を公開している。
『ど根性ガエルの娘(大月悠祐子)』『連載終了!(巻来功士)』『そしてボクは外道マンになる(平松伸二)』など(偶然だと思うけど例に挙げたのジャンプ系ばっかりだな)を読むと、連載を勝ち取ったり大ヒットになったりしても、それだけでハッピーというものでもないようだ。実はボク自身も、実写ドラマ化、映画化などの作品を持つ幾人かの先生に相談や売り込みを受けたことがある。「それほどの方がボクのような無名漫画家に!?」と驚いたけど、そういうクラスの方でも危機感を持っていて、ボクがやってきた広告漫画、あるいは広告コラボに興味を持ったようだった。
彼らと話しながらボクは、プロとして生涯を生き抜くというのは本当に厳しいものなのだなぁと、改めて感じたものだ。
無料や格安が前提の時代がすでに来ているのでは……
海賊サイトそのものは許せぬ悪だけど、そういうものが広まるのは「無料で読みたい人たち」が大勢いるからだ。
なので、まず最初に「無料で読みたい人たち」「お金を払いたくない人たち」を理解しないと対策はできないと思うんだよね。
コンテンツは無料であるべきだと思う人は、なんでそう思うのか。
その1つとして「実際に無料の作品が世の中に溢れているから」というのがあるような気がする。
しかもそれは、昨日今日に始まったことでもないように思えるんだ。
だって、テレビ番組は基本的に無料だもん。
※テレビ放送だってNHKは課金だしケーブルテレビもそうだから必ずしも無料ではないのだけど、視聴できる作品数に対しての支払額はわずかだし、作品に対して支払っているわけではない(どっちかというとインフラコストだろう)ので、それらは無料と同等と考えさせてもらう。オンラインサービスの見放題も、それに準じるものだと思うし。
ボクらは、無料でめちゃくちゃアツくさせてくれるアニメや特撮を観て育ってきた。
やがて無料のモノだけでは足りなくなって、テレビマガジンとか冒険王などをお小遣いで買って読んでいたけど、それもまず、無料のテレビアニメがあってのことだ。
たまに劇場版があっても、実際に有料の劇場に行ける機会は稀で、無料のテレビ放送になるのを待つことのほうが多かった。縦にみょ~んと伸びたエンディング(わかる人にはわかる)の『マジンガーZ対デビルマン』を心待ちにしてたんだ。
そしてボクは大人になって、有料でコンテンツを買うことにも慣れていったけど、それはボクがお金を払ってでもそういうものを求めるタイプだからだ。クラスに数人いるオタクの一人だったからだ。
それ以外の大多数は、歳を重ねても「そういうもの」には、あまりお金を出さないままだった。
観ない、読まない、というわけじゃない。
無料なら、観る。読む。
無料で手に入る範囲じゃ満足できないボクと違って、世の中の多くの人は大人になるに従って、生活とか付き合いとか、彼氏・彼女とか、そういうことを優先するようになっていく。それらは、有料でないと1つも手に入らない(あるいは維持できない)からだ。
でも「作品」は、無料でもそこそこ手に入る。
無料で届くものだけでも、それなりにはやっていけるんだ。
そしてネットが生まれ、無料で楽しめる範囲は爆発的に拡大した。
これまでのテレビ放送に加えて、ユーチューブやニコニコ動画でも、それなりのモノが観れてしまう。違法ではない無料を謳うネットサイトもけっこうある。
さらに今では、AmazonプライムやNetflixだ。
無料ではないけど、わずかな定額課金だけで膨大な作品を楽しめる。
多くの人は、1つの作品は1~2回楽しめれば十分。
ボクのように、作品を常に手元に置いておいて繰り返し観るためにDVDを買う人のほうがずっと少ないんだ。
そういう傾向は、どんどん大きくなっている。
作品とは違うけど、ツイッターやフェイスブックだって無料で利用できるし、LINEやインスタグラムだって無料。
ゲームだって、課金しなくてもある程度までは遊べる。
Macなどのパソコンには、今はCDやDVDやブルーレイを読み込むためのドライブが標準装備されていない。
そんなもん全部ネットからのダウンロードで十分でしょ、というわけだ。
所有する必要はない。
ネットでいくらでも楽しいものが手に入る。
並みの「好き」を満足させる程度なら、買わなくても十分。
すでに、そういう時代なのだと思う。
そういう中で、漫画は基本的に有料だ。
「漫画・アニメ」というように同列で語られることが多いのに、アニメは無料で漫画は有料。
ファンや漫画関係者から見れば当たり前のことだけど、大多数の「無料で十分」な人たちから見れば、漫画だけが有料なのはミョーに思えるのかもしれない。
アニメだって「なぜコレがタダなんだ!?」としか思えないモノが次々と無料で公開されているのだから、漫画が常に有料というのは理不尽に感じているのかもしれない。
大作映画でもアニメでも無料(定額見放題含む)で公開できちゃう時代なのに、なんで漫画は有料なんだよ?
これが無料を求める人たちなんじゃないだろうか。
本当は、違うんだけどね。
大作が無料なのは、大作だからできていることでもあるんだけどね。
大量販売、大量消費。
それを狙えるだけの規模と、大量消費されるまで長期的に支えられる資金力などがあるからできることで、大半が零細個人業の漫画家が真似できることじゃない。
だけど普通の人たちにとっては、コッチの事情は関係ない。
タダなら読む。タダじゃないなら読まない。別な楽しいものを見つけるだけ。
そういうもんだと思うんだ。
そうじゃない人もいるけど、そういう人が少なくない。
広告漫画なんかやってると漫画界とは何の関係もない一般の人を相手にすることが多いから、ボクはそういうのを日々感じてるのよね。
無料、格安、定額使い放題のサービスが溢れすぎて、世の中の多くが、そうでないものに抵抗を感じるようになっている気がする。
そして、そういう「無料な人たち」を巻き込んでいけないと、コンテンツ産業というのは、業界として成り立たなくなってしまっているのかもしれない。
だいたい、無料なものを提供しているのが大企業だったりするんだもんなぁ。
ツイッターやフェイスブックやLINEやインスタだって無料だし、ブログやヤフーやグーグルだって無料。
無料ですごいサービスを提供して、みんな大企業になってるのを見ると、無料にできないのは努力してないからだ、と思われちゃってるのかもしれないんだ。
いや本当は、みんな心血注いで必死に努力していて、だからこそ有料で買っていただきたいんだけど、そういう事情を説明しても「事情なんかどうでもいい。こっちの都合に合うか合わないかだけだ」というのが世間というものだし……。
それに……実は、ボク自身もそうなんだ。
一般の人よりは作品にお金使ってるとは思うけど、それでも中古店も利用する。
毎日1本ペースで映画を観ているけれど、そのほとんどはレンタルか定額配信か中古DVDだ。
違法なモノには手出ししてないというだけで、定価で円盤を買ったり映画館に行ったりするのは、視聴全体の中の1割にも満たない。
ボク自身も、無料&格安時代の住人なんだ。
ボクが気にしているのは、こうした世の中の動きだ。
世の中がどんどん「コンテンツ無料&格安時代」になっていってる時代の流れそのものなんだ。
海賊問題は、その一端にすぎない気がするんだ。
それらは海賊じゃないけど、海賊よりずっと大きな脅威だと思っている。
だって敵は、時代そのものなんだもん。
抗っても勝てそうにない、巨大すぎる敵なんだよ。
いや、もしかしたら敵は、自分のほうかもしれない。
『地球最後の男』という映画がある。
リチャード・マシスンの小説『吸血鬼(原題は「I Am Legend」)』を映画化した作品で、全人類が吸血鬼化してしまった世界に一人残った主人公の悲劇を描いている。
主人公は、夜は十字架やニンニクで武装した家に籠城し、昼は眠っている吸血鬼たちを探し出して殺し続ける。
だけど、ある時に気づく。
全てが吸血鬼になってしまった世界では、人間のままの自分のほうが恐るべき「伝説の怪物=I Am Legend」なのだ。
無料が溢れる世界。
無料が正義とされる世界。
無料が成功への道になっている世界。
今の世の中は、そういうふうに変化して来ているのかもしれない。
それが全てに当てはまるとは言わないけれど、いつまでも漫画だけが有料でいられるものなのだろうか。
漫画も、コンテンツ無料時代を生き残るための工夫をする必要があるんじゃないだろうか。
本当のところは、わからない。
だけど、ボクは今も生きていて、これからも生きていく。
自分の残り時間がどれほどあるかはわからないけれど、少なくとも娘には、まだまだ長い時間を生きて欲しいと思う。
スタッフたちも、若い。
家族や彼らの人生を、自分やカミサンの残り時間を、ボクは少しでも長く支えたい。
そのためには、無料時代を生き延びるナニカが必要なように思えるんだ。
無料を求める人を肯定したいわけじゃないし、できれば有料で買っていただきたいのだけど、現実に無料と読み放題の時代が迫ってきちゃっている以上、それらに文句言ってるだけじゃ乗り切れないように思えるんだ。
大企業だろうと個人だろうと関係なく、無料から有料を得るという矛盾したことに挑むしかないような気がするんだ。
(「無料と読み放題の時代を考えてみる/02:無料や読み放題で稼ぐには?」につづく→)
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。