小説版イバライガー/第15話:悪夢、再び(前半)

2018年3月19日

(←第14話後半へ)

OP(アバンオープニング)

 ビル全体が鳴動している。
 今までにない大きな戦いになっていることは、見なくてもわかった。

「今回はヤバい! カオリ、早くしろよ!」
 イモライガーが、あまり大事ではなさそうなオモチャの箱を抱えてアタフタしているが、カオリは手が離せなかった。

 みんなの会話は、ガールたちを通じて聞こえている。監視カメラのモニタにも、状況は映し出されている。
 TDFとジャークが山ほど押しかけてきていて、ミニライガーたちが狙われているっぽい。
 この真上には、今にも爆発しそうな黒くて大きいヘンなのが浮かんでいて、このままだと街ごと吹き飛んじゃう。

 モニタに、イバライガーRとイバガールが戦っている姿が映った。
 二人はバカ強いけど、たくさんのジャークの相手をするので手一杯で、黒い爆弾ゴーストに対処できない。

 対抗する方法は1つしかない。
 ミニたちが蓄えたエネルギーで、ジャークをぶっ飛ばす。
 初代イバライガーを時空の彼方から助けるために使うはずだったエネルギーを、あの黒いヤツにぶっつける。

 その上で、初代も助ける。
 二つを同時にやるのだ。もう、それしかない。

 十分なセッティング時間はない。
 初代イバライガーが消えたときの時空曲線。
 あのときと全く同じ時空の歪みを再現する。

 そのための計算が必要だった。
 10の10乗分の1のズレも許されない。

 それでも、やる。やるしかないからやる。
 何もあきらめない。やってみせる。

「手伝うわ」
「私もだ」
 エドサキ博士とゴゼンヤマ博士がサポートに入った。

「ダメです! ここはもうヤバイです! お二人は早く逃げてください!!」
「カオリはバカね」

 素早くキーボードを操作しながら、エドサキ博士が笑った。
 一本指でたどたどしく、はっきり言ってあまり役に立っていないゴゼンヤマ博士も笑っている。

「カオリくん、ここで逃げるくらいなら最初から手伝わない。私たちは、こういうことも覚悟の上でシンたちを……イバライガーを受け入れたんだよ」
「博士……」
「大人の覚悟を甘く見ないことね。それに……管理職だって、いざとなれば若い子には負けないわよ」

 エドサキ博士のタイピングが超高速モードに突入した。
 指の動きが見えない。凄まじい早さでデータが入力されていく。すっげ……いや、そんな場合じゃない。

 カオリも夢中になった。
 キーを叩き、データをチェックする。
 チェックの時だけオニギリをかじる。繰り返すごとに集中力が高まっていく。

 打つ。かじる。打つ。かじる。打つかじ、打つかじ……。
 打打打打打……かじかじかじかじかじ……。

 色んな意味で人間離れした二人の超高速についていけなくなったゴゼンヤマ博士とイモライガーは、ボーゼンと見つめている。
 数十ステップはあるチェックランプが、次々とONになっていく。

 

Aパート

 ワカナに追いついた。
 というよりワカナが立ち止まっている。

 隠れ家でもある基地の入口は、駐車場の地下3階にあるマンホールだ。
 その直前で、ワカナはじっと動かない。

 風を感じた。冷気が追ってきている。

「……いるんだな。アイツが」
「……うん。でもこの先には行かせない」
「そうだな、後が無い。ここで踏ん張るしかねぇか」

 正面は、RたちとTDFが食い止めている。
 ならばこっちは少数だろう。
 ルメージョは四天王だが、人間の部分を多く残している。
 戦闘力は高くないはずだ。

 シンは身構えた。
 ワカナはすでにパックパックの銃を抜いている。

 柱の陰に黒い瘴気が渦巻いた。
 その渦の中から、ゴーストが浮き出してくる。

 前にも見た、氷のオオカミ。
 群れをなし、唸りながら近付いてくる。
 ルメージョの姿は、まだ見えない。

 一匹が、吠えた。反響が響く。跳びかかってくる。

「うっさいわねぇ! 地下でデカイ声出すんじゃないっ!!」

 ワカナの銃からケーブルが伸びる。眉間に撃ち込んだ。エモーション・ポジティブが流れ込む。
 ゴーストは光の中に消滅した。

 漂うケーブルを切り離せば、すぐに次弾を撃てる。
 だがワカナは切り離さなかった。そのまま振り回す。
 しなるケーブルが、他のゴーストを絡み取る結界を作り出した。

「どう? ワカナさんが編み出したエモーション・ストリングス。MCBケーブルはこういう使い方もできるわけ。私だって色々考えてんだからナメないでよね!!」

 シンが群れの中に飛び込んだ。グローブが光る。
「おおおおっ!!」

 叩き込む。反対側から数匹が躍りかかってくる。手のひらにパワーを集めた。
 エモーション・フィールドを圧縮し、掌底で押し出す。ゴーストをまとめてはじき飛ばした。

「ふ、ワカナが操作系なら、こっちは放出系ってトコだな。技の名前は考えてないけどよ」
「いや考えろよ! ヒーローものなんだから!」
「う、うるせ~な! とにかくオレたちは以前とは違う! てめぇら、この先には一歩もいかせねぇぞ!!」

「うふふふ……」

 すぐ耳元で声がした。風。禍々しい風。
 シンはとっさに避けた。ワカナのケーブルが切断される。
 氷嵐。極小の氷の刃が、煌めきながら渦を巻いている。

 風の中から、ルメージョが現れた。

「出てきたわね、ルメージョ!!」
「やるわねぇ、ワカナ、シン。ずいぶん練習したのね。お上手よ。でも……多勢に無勢ってヤツじゃない? 何匹倒そうが私はちっとも痛くない。あなたたちがエネルギーを貯めていたように、私たちも蓄えてあるのよ。だから、いくらでもゴーストを生み出せる。あなたたちの力が尽きるまで、攻め続けるだけのことよ」

 ルメージョは、杖を振るった。冷気と風が、二人を包み込もうとしている。
 ワカナはエモーション・フィールドを展開した。周囲がキラキラと輝く。
 風がフィールドに当たって、対消滅しているのだ。

「いいわ、力が尽きるまでアンタに付きあってあげる。こっちだってアンタを足止めできればそれで十分よ。Rたちが外の敵を片づけて戻ってくるまで、何があろうと食い止めてやるわ!」
「無理よ、ワカナ。あなたじゃ、私を止められない」

 風に押し込まれた。ルメージョが近付くごとに、風が強くなる。
 シンが手を握ってきた。力を合わせる。二人の感情エネルギーで対抗する。
 下がるものか。フィールドの表面が、激しく煌めいた。

「すごいわ。人間のままで、これほどの力を出せるなんて。普段の私なら、本当に食い止められたかもしれないわ。でも……」

 風が氷獣に変化した。爪と牙が、フィールドを斬り裂こうとしている。
 氷獣の数はどんどん増えていく。

「くっ!」

「……今日の私は、いつもとは違うの。あの黒い自爆ゴーストは、爆発するだけじゃないの。前に言ったでしょ、ダマクラカスンが目覚めるって。それが今。アレはダマクラカスンの『繭』でもあるのよ。その波動が私に流れ込んでいる。ジャーク四天王二人分の力……いくら何でも止められるわけがないでしょ」

 フィールドが破られる。ワカナがそう感じたとき、シンが飛び出した。
 パワーを圧縮して氷獣を吹き飛ばす。あの名前のない技。だが数が多すぎる。一匹の牙が、シンの肩に食い込んだ。

「シンッ!? この……化け物ぉおお!!」
 ワカナの拳が氷獣を貫いた。シンが膝をつく。抱きかかえた。

 その途端、風が止んだ。
 氷獣も消えた。
 ルメージョは、うつむいて佇んでいる。

「……もうやめなさい、シン、ワカナ。ミニライガーが蓄えたエネルギーを渡しなさい。特異点は、私たちが開いてあげる。時空の狭間は私たちの故郷……そこに眠っている『力』を喚び出してあげるわ。そして世界が変わるのよ」

 やはり狙いはミニライガーだったか。
 そして特異点。ジャークも、同じことを狙っていたのか。ただし目的は初代イバライガーではなく、恐ろしい何か。

「それを聞いちゃ、なおさらあきらめるわけにはいかねぇな……」
 シンが、肩を押さえたまま立ち上がった。

 ルメージョがゆっくりと顔を上げた。
 ワカナは、その顔を見つめた。

 冷酷な顔。だけど、さっきの一瞬だけは違っていたはずだ。
 ほんの一瞬『ナツミ』がいた。風を止めてくれたのは、きっと彼女だ。

 あきらめるもんか。見えないけれど援軍はいる。
 ナツミのためにも、ルメージョを止める。

 二人は、もう一度、前に出ようとした。

 


「時空鉄拳! ブレイブ・インパクト……バーニングッ!!」

 着地しながら叩き付けた。
 ジャーク・ゴーストたちが吹き飛ぶ。

 だが、数が多い。溢れていると言ってもいい。
 普段ならミニライガーたちを展開させて、周囲を固める。だが今、ミニたちは眠っている。

「ガールッ!」
「わかってるわ、R!」

 イバガールが高く跳んだ。
「時空旋風! エターナル・ウインド・フレアァアアア!!」

 虚空の一点から、ガールの風が周囲を包む。結界を作り出す。
「この中から、一匹も出さないわよ!」

 TDF隊員たちも銃を撃ちまくっていた。シンたちが使っているのと、ほぼ同性能のMCB弾らしい。
 あれなら多少の効果はあるはずだ。
 だが、倒すにはエモーションのパワーが足りない。

 やはりシンとワカナは特別だ。
 特別な何かがある。

 イバライガーRとイバガールは、銃弾の嵐の中に突っ込んだ。
 弾丸を食らいながら、ジャークを倒していく。隊員たちが、一瞬引き金を緩めた。

「止めるな! 撃ち続けるんだ! 私たちのことは気にするな!!」

 叫んだ。もしもこの群れが市街地に向かったら、大惨事になる。
 ここならTDFがビルの周囲を封鎖している。ガールの風もある。この中で食い止めるしかない。

 ジャークの爪と牙が、降り注ぐ銃弾が、容赦なく叩き込まれる。
 それでも前に出る。ブレイドを振るう。拳を打ち込む。

 イバガールの回し蹴り。光の粒子が渦を巻く。
 輝きながら、数匹のゴーストが消滅した。それでも押し寄せてくる。
 ガールが膝をついた。

「ガール、大丈夫か!?」
「気にしないで、まだ行けるわ。シンたちも戦ってる!」

 Rも感じていた。

 ポジティブとネガティブ。
 両方のエモーションが充満していてノイズだらけでも、シンとワカナのエモーションは、はっきりとわかる。
 危険な状態なのもわかる。
 相手はルメージョなのか。シンは傷ついている?

 今すぐ駆けつけなければ。だが、ここを離れるわけにもいかない。せめてガールだけでも援軍に。
 いやダメだ。二人で支えなければ、ジャークが溢れ出す。

「R、迷わないで! ワカナたちは負けない。きっと生き延びる! 私たちはそれを信じるの。人間の力を信じて立ち上がる。それがイバライガーの使命よ!!」
 ガールが叫んだ。

 そうだった。
 生きる力。生き延びる力が、あの二人にはあるはずだ。それを信じたから任せた。今更迷ってどうする。
 このジャークたちを倒す。倒して駆けつける。

「ウジャウジャしつっこいヤツらねぇ! R、ちょっと荒っぽくいくわよっ!!」
 ガールが手を振った。その動きに従うように、風が渦を描き始めた。

「TDFの人っ! あの流れに一斉に弾丸を撃ち込んで! R! その後に……」
「わかった、ガール! 行くぞ!!」

 Rのクロノ・ブースターが咆哮し、銃弾を追って飛び込んでいく。
 風の力で砕け散った弾丸の破片が、蒼い粒子となってゴーストたちに吸い込まれていく。
 巨大な輝きとなったRが、それを一気に貫いていった。

 


 地下駐車場の一番奥に追いつめられた。
 ルメージョを倒すのは無理だ。基地に逃げ込むこともできない。

 シンは、必死に考えていた。

 あの黒い自爆ゴーストを倒すには、ミニライガーたちのエネルギーを使うしかない。
 莫大なエネルギーを集中させ、特異点の向こう側……別の時空に吹き飛ばす。それなら被害を最小限にできるはずだ。

 だがルメージョは、それを待っている。

 恐らく、唯一の対抗策こそが最悪の選択になるように仕組まれている。
 自爆ゴースト自体のエネルギーにミニライガーたちのエネルギーを上乗せして、決定的な何かをやる気だ。
 この攻撃の規模は、そうだ。一気に決着をつけるつもりなのだ。

 ダメだ。今の局面は詰んでいる。
 何をどうやったとしても、チェックメイトに追い込まれる。
 状況を打開するには、この場にない別の要素が必要だ。

 それは、ある。

 何をすればいいのかは、今は見えない。
 だが、可能性はある。すでに『奴』は動き出しているはずだ。この状況を黙って見過ごすとは考えられない。

 ならば「その時」が来るまで粘ることだ。時間を稼ぐことだ。
 チャンスはある。必ず。

 拳に、力を込めた。
 グローブが光る。まだ、いける。

「話しても無駄のようね。仕方ないわ。可哀想だけど、少しキツめにやらせてもらうわよ。殺しはしないけれど、死んだほうがマシと思うかもしれないわ」

 ルメージョが、腕を上げた。
 氷獣たちが、その腕に集まり、渦を作り出す。
 あれを撃ち込まれたら、エモーション・フィールドでは抑えきれない。
 動こうとした瞬間、ワカナが前に出た。

「あんた、自分の身体で何とかしようとか思ったでしょ。シンの考えることなんか、すぐにわかるのよ。怪我人は下がっていなさい!」
 ワカナが身構える。

 ちっ。一歩、出遅れた。
 だがワカナのストリングスで、あの攻撃を防げるとも思えない。どうする?

 振動。
 一瞬、天井を見上げた。ひび割れが走る。

 崩れ落ちてきた。とっさにワカナが、シンの手を引っ張る。痛い。そっちは噛み付かれたほうの。
 だがシンが立っていた場所は、瓦礫の下に埋もれた。間一髪。

 光が差し込んできた。
 地上から地下3階までが貫かれていた。

 立ちこめていたモヤが薄れる。
 何かいる。声が聞えた。

「ここにいたかジャーク。それにシンたちも」

 この声。ソウマなのか。駆動音。歩み出てくる。

 PIAS。TDFが造り上げた対ジャーク専用戦闘スーツ。
 偵察で遠くから見たことはあるが、間近では初めてだった。ワカナは見たことがなかったはずだ。

「あ、あんたねぇ……無茶苦茶しないでよ!」
「だから、お前たちは何もするなと言ったろう」
「バカヤロウ! そんなこと言ってる場合か! だいたいPIASは未完成じゃねぇのかよ!?」
「ふん、生身でやりあっているお前らよりはマシだろう? 下がれ。ジャークは、このオレが叩き潰す」

 氷獣が飛びかかってくる。牙が肩に食い込む。
 だがPIASは平然としていた。

「この程度か、ジャーク!」

 拳を握る。手の甲から刃が飛び出した。
 ルメージョを睨んだまま、それを氷獣の顎に突き立てた。悲鳴を残して氷獣が消滅した。

 両足のハンドガンを抜き、ルメージョの頭に照準する。
 ルメージョは無言だった。微笑んでいる。
 レーザーポインタの赤い光が、その顔を妖しく浮かび上がらせている。

「女だろうが容赦はしない。貴様らに殺された仲間の仇、討たせてもらうぞ」

(後半へつづく→)

 


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