食っていけるクライアントとの関係とは

 ボクはお客とは仲よくなろうとする。
 もう友だちになっちゃえというつもりで、お客と接するようにしている。

 みんなと友だちになるわけじゃないし、上手くいくときだって100%何もかもを盲目的に好きになってもらえるわけでもない。

 でも、それでいいのよ。

 テメェがどうなろうが知ったことじゃねぇが……仕方ねぇ、ちったぁ情けをかけてやってもいいぜ。
 野垂れ死にされたんじゃ、こっちも寝覚めが悪いからな。
 だが、調子に乗るんじゃあねぇぜ。
 さっさと出ていってもらいてぇコトには違いねぇんだからな。

 とまぁ、この程度に仲良くなってりゃ十分なのよ。
 この程度の情けにすがれる関係なら大成功。
 ボクはそう思っている。

 すがる前提でやってるわけじゃないし、そうならないで済むほうがいいけど、いざってときに、ホンのちょっとの力なら借りられる人が何人もいれば、開き直って前だけ見て走れるもん。

自分のファンになってくれる客を持つ

 クリエイターは結局「自分の作品」しか作れない。
 そして創作は、当人のメンタルに大きく左右される。

 連載漫画だって担当さんと合わないってだけで、作品の質は大きく下がったりする。
 下手すりゃ連載を続行できなくなったりもする。

 それと同じで広告漫画だって、相手次第で出来上がる作品は大きく変わってくるわけで、どんな客と出会うかは、とても大事。
 お客が我々を選ぶように、こっちもお客を選ばなきゃならない。

 できるだけ自分と合う人。
 自分の考えを受け入れてくれる人。
 もっと言えば丸ごと任せてくれる人。

 ボクは自分のホームページに、たくさんのアレコレを掲載している。
 自分のセールスだけじゃなく、むしろ自分の考え方などをたくさん掲載している。
 このブログも、その1つだ。

 これはボクを分かってもらうためだけど、同時に対象を絞ってもいるんだ。
 オレはこういう奴ですよ、考えが合わない方は、どうぞ他所へ行ってくださいってね。

 合わない人とスッタモンダしたところで、お互いにいいことはない。

 こういうことは好みの問題であって、数学みたいに唯一の正解があるわけじゃないからだ。

 どんなに大ヒットした漫画だって、それが好きじゃない人は必ずいるし、マニアックな作品だってファンはいる。
 好きな人が買ってくれればいいわけで、押し売りはできない。

 正直ボクに言わせれば、創作の仕事に対して「ああして、こうして」ってウルサイ人ってのは、レストランAに行ってレストランBと味が違うって文句言ってるようなモンだと思っている。

 BがいいならBで食えよ。
 ウチはウチの味が好きな人のためにやってんだから。

 

人を好きになる能力を磨く

 ただ、そうは言っても、ある程度のことは我慢しないと生きていけない。
 都合のいい人だけを相手にして生きていく、生きていけるようになるってのは、そう簡単なことじゃないからねぇ。

 でも、我慢しながら嫌々やったのでは、実力が出しきれなくてイイモノは生み出せない。
 そして評判悪くなる。仕事が来なくなる。

 だから我慢はしたくない。
 我慢しないで気持ち良く仕事に打ち込める方法を見つけたいと思っている。

 ボクの場合は「完全に合わなくても、どこか合う部分を探す」ようにしている。

 全部が全部NGな人ってのは、そうそういない。
 そもそも仕事の相手なんだから、仕事以外の部分がどうズレていようが、そんなの知ったことじゃない。
 仕事の内容、量、利益などに対して、合っていればいい。

 絶対に譲れない部分がズレてるときは、相手が折れてくれない限りどうしようもないけど、それ以外なら、どうにかなる部分を見出すのは、それほど難しくないんだ。

 嫌な部分は見なかったことにする。
 受け入れられる部分だけを見る。

 そうやって「相手を好きになる技術」を磨いてきた。

 そもそも漫画家は妄想するのが得意だからね。

 この人ツンケンしてるけど、実はオレのことが好きとか、人の言うことを聞かないタイプっぽいけど、実は語り合える相手を求めるとか。
 隠しているけど実はガンヲタだとか。

 会話しながら自分が乗っかれるトコを探すの。
 そうやって「この人もアリじゃん」と思えるように自分をマインドコントロールする。

 最初は緊張していっぱいいっぱいになっちゃって、そんな余裕はないかもしれないけれど、それでも嫌な奴を嫌なままにしておかないで、何とかしてイイ人に置き換えていく「技術」は磨いたほうがいい。仕事以外でも役立つしね。

 とにかく漫画家なんてのは、いくら漫画が上手くても、セールスはダメダメな場合のほうが多い。
 ボクだってそうだ。

 それなりにこなしてはいるけれど、やっぱ面倒くさいし、かったるい。
 会うのが楽しみな人もいるけど、ほっといてくれよぉって思っちゃうことも少なくない。
 その上、ワガママで頑固。どんだけブ厚いATフィールドなんだよ!?って人のほうが多いくらい。

 だからこそレアな接点をモノにしていかないと、あっという間に追いつめられちゃうんだ。
 アレコレ工夫して乗り切るしかないんだ。

 で、そうやってジタバタしてるうちに「この人とは合う」っていう相手が徐々に増えてくる。
 一方で、最初は合わなかったけど、今はマブダチみたいな人もできてくる。
 そうやって周囲を自分色にしていくの。

 ワガママすぎるみたいに思うかもしれないけど、自分色じゃないと力を出せないのがクリエイターなんだから仕方ないの。

 それに、よほど運がよくない限り、本当に自分色に染まるまでにも相当な時間がかかる(短くても10年以上だろう)から、その間に自分の色そのものも世間と馴染みやすく変化したりもする。

 完全に世間色になっちゃったら個性も失っちゃうだろうけど、何かクッションになる色も持てるようになったりして、だんだん楽になっていくもんなんだよ。

 

100人のユルい友だちがいればいい

 あと、なかなか「合う人」に出会えないよ~っていう場合も、あんまり焦ることはないと思う。

 ボクもそういうときがあった。

 でも、この世には70億を超える人類がいて、日本だけでも1億以上。
 お仕事の相手になり得る大人だけに絞っても数千万人。

 そんだけいれば、ボクがどんなに変わり者だったとしても、自分と合う人は必ずいる。
 何百人も何千人もいるはずだ。

 時をかけて、そういう人との出会いを増やしていけばいいんだ。

 元々、漫画描いて買ってもらって食っていくというのは、そういうことだもんね。
 自分と家族が食っていけるくらいの数のモノズキはきっといると思うからやってるわけでさ。

 しかも、すごい高評価でなくてもいいんだ。
 月に1万円分くらいの期待値でも構わないの。

 一般人相手で毎月1万円分買わせるのは、よほどの濃いファンでなければありえないけれど、企業相手で言考えれば、月給1万しか払わないってのと同じだからね。
 かなり軽い評価……っていうより、ほとんどアテにされてないレベルと言ってもいいでしょ。

 でもその程度だって、100件集まれば毎月100万円の収入になっちゃうんだ。

 10万円分買ってくれるとしたら、それは10口だと思えばいいんだ。

 期待値が低い分だけ、結果に対する満足度も低くて済むから、気が楽だったりもする。
 収入の窓口が分散するから、特定の誰かに振り回される危険も少なくなる。

 デカい仕事もやりがいはあるけど、ビジネスとして考えれば「1つで100個分」よりも「バラバラの100個」のほうが、ずっと安心していられるんだ。

 1つや2つの仕事を失っても、100が99とか98になるだけで済む。
 1つで100とか50だと、1つ失うだけで大損害すぎるからね。

 月給1万円なら雇っておいたほうがマシ。
 その程度に思われていることは、サバイバル的にも大事なんだ。

 ボクはそんなふうに考えて、そのやり方で生きてきた。

 自己評価を低く考えてるわけじゃないよ。
 もしかしたら自分はスゴイ奴かもしれない。

 だけど、そんなモン考えなくていいと思ってるの。

 ビッグウェーブなんて来るときが来れば、勝手に来る。
 そのときに、その波に乗れる力を維持できていればいいというだけだ。
 だから日々を一所懸命やりさえすれば何とかなる。
 そう思っている。

 だって、特別に親しくなくても、年に1回ずつ3日だけ泊めてくれて飯も食わせてくれる程度の友だちを100人持てば、収入がなくても、それだけでも生きていけるでしょ。

 年に3日分だけ、情けをかけてもらえる程度の付きあい。
 それだけでも、すごく大きいんだよ。

 だから縁は何より大事なんだ。

 狭い世界としか上手くやれないなら、その世界でだけはしっかり縁をつないでおかないと、いざってときにエライことになるからね。

 そういう小さな縁を積み重ねていけば、いつかは「漫画だけで食べていける」になるとボクは思ってるよ。
 そういう付き合いで食ってるボクが言うんだから、間違いないって(笑)。


実際には月1万円ではなく、年間で12万円みたいな形になる。
2年おきに24万円とか、5年おきに60万円っていう例も少なくない。
とにかく平均すると月々が1万円なのと同じっていう相手を何人持つかが重要だと思っていて、そうなるように努力し続けているんだ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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