納期までに間に合わないときは、どうすればいい?

2018年2月26日

 えっと……間に合わなきゃダメです。

 すいません、コレはどうにもなりません。ごめんなさいじゃ済みません。
 よほどのコトがない限り、締切って伸びません。

 ビジネスだもん。
 厳しい世界なんだもん。

 だからね、スケジュール管理はしっかりやろうね。

 発注者だって、そのスケジュールに沿って予定を立てているんだから、ごめんなさいじゃ済まないのよ。

 受注額5万円の原稿オトしちゃったせいで、何千万もの大損害を与えてしまうコトだってあり得るんだから。

スケジュールを甘くみるのは絶対にダメ

 例えば、いついつ新装オープンと決めていて、その日に向けてあらゆる準備を進めているのに、ボクの漫画が間に合わなかったせいで告知のチラシが打てなかったら、それだけでクライアントは大ダメージだ。

 新装オープンの日は、通常以上に多くの来客が見込めるはずなのに、それがパァになりかねない。

 もし、そんなコトになったら裁判沙汰になってしまうかもしれない。
 少なくとも、原稿オトしてギャラがパァなんてモンじゃ済まないのは確実だ。

 仕事を請け負うってのは、腕とか能力とか以前の部分のほうが大事なんだ。

 約束を守れる。どんなコトがあっても守ってくれると信用できる。
 そういう部分のほうが、ずっと重視されるのよ。

 だから、安請け合いやドンブリ勘定は絶対に避けるべきだ。
 スケジュールに自信がないときは、長めに計算しておくことだね。

 ボクの場合は、企画やネームの段階は別にして、作画は1ページにつき1日。
 土日や祝日は含まない。
 そういう前提で考えることにしている。

 よほどの大作でない限り、ネーム提出までは着手後1週間くらいかな。

 この「着手後」ってトコが大事。

 他の仕事を抱えていて、すぐには着手できないこともあるから、いつから着手できるのかをチェックし、その日から起算した全体のスケジュールを考え、それをお客に伝えて了承を得るようにしている。

 実際にはネームに1週間もかからないことのほうが多い。
 作画だって1日3ページくらいやれちゃうことのほうが多い。

 でも念のために1日1枚ペースと伝えておく。
 そうしておけば、もし他の仕事が舞い込んできても、それも受注できるもん。
 仕事を取り逃さないで済む。

 お客の都合でスケジュールが狂って、それでも最終締切は動かせないといったときも「なら特急対応でやりますが、その分だけちょっとだけ追加料金を……」と交渉することもできる。

 とにかくスケジュール管理は、すごく重要だ。
 これを甘く考えるのは絶対にダメ。

 連載漫画などでは締切落としたといった話を耳にすることがあるし、同人誌でもイベントに間に合わなかったといった話は珍しくない。中には、そういうことを自慢げに話す人もいる。

 けれど広告ではご法度なのだ。
 一旦イエスと答えたら締切は絶対守らなきゃならない。

 ギャラが安かったからとか、最初からスケジュールに無理があったなどという言い訳は通らない。そうなら最初にそれを言って断ればよかったのだから。
 フリーランスが締切を守らなかったら、どんなに腕が良くても二度と仕事は回ってこなくなる。出来の良し悪し以前の問題なのだ。

 必ず責任を負えるスケジュールで受注しようね。

余談:締切を守ることは力になる

 父が亡くなったとき、ボクは仕事を抱えていた。
 だから葬式の当日にも仕事をしていた。

 もちろん葬式をすっぽかしたわけじゃないよ。
 全てにきちんと出席した上で仕事場に戻って、その日にやるべきことも全部やっていたんだ。

 実を言えば、その日くらい休んだってどうにかなる案件だった。
 事情を説明すれば、お客だって理解してくれたはずだ。

 でもボクは、常日頃から父に「親が死んでも締切は落とせない」と言っていたから、実際にそうなったときにそれがやれないようでは、父も安心できないだろうと思ったんだ。

 だから仕事をした。
 今こそ仕事しなきゃいけないと思ったんだ。

 他にも、娘とディズニー・シーに行く約束をしたときもそうだった。

 地域の子供会で年に1度の県民の日に、シーかランドに行くんだ。
 両親のどちらかが付き添うんだけど、ボクは「今年はお父さんが一緒に行ってあげるよ」と約束していたの。

 でも、それを全部忘れて仕事を入れちゃっていたんだ。
 前日の夜中になってから思い出したのよ。翌日は締切の日。まだ出来上がっていない。

 でも娘につきあった。
 忘れていたボクがマヌケなんだから、娘を裏切れない。

 当日は台風並みの大雨。
 パークは空いていて、ほとんど並ばずにアトラクションに乗れる。
 だから娘は大はしゃぎ。雨なんかなんのその。
 ボクはヒィヒィしながら付いていく。

 そうやって一日中ディズニー・シーで遊んで、夜に帰ってきた。

 カミサンが玄関で出迎える。娘を渡す。
 その瞬間にダッシュで仕事場に駆け戻った。そして徹夜覚悟で仕事を始めた。
 翌朝までに完成させて納品できれば間に合う。

 運悪く、真夜中に停電。1時間近く仕事が止まった。

 やっぱりディズニー・シーに行かなければよかったかなぁ。

 これで仕事落としてしまったら、大勢に迷惑をかけてしまう。
 ボクは嫌われて、この会社からは二度と仕事をもらえなくなるだろう。
 そんなコトになったら家族も困る。
 ここは大人の事情をわかってもらうべきだったのかも。

 いやいや、違う。

 大人は子供との約束を守るべきだ。
 そして、仕事の約束も破っちゃいけない。

 両方何とかして見せるんだ。
 無理とかキツイとか時間がないとか、停電したんだから仕方ないとか、言い訳はするな。

 ここでやってのけてこそ、男だ。

 ボクはそうやって妄想して、自分を奮い立たせた。

 そして夜が明け始めた頃に仕上がったデータを持って、首都高速を走って客先に届けた。
 当時はまだネットがなくてね(正しくはすでにインターネットはあったんだけど、まだ使っていなかった)。直接持っていくしかなかったんだ。

 お客は徹夜で待っていてくれたよ。

 ギリギリで届けたボクを労ってくれて、温かいコーヒーを入れてくれた。
 あの一杯はホッとしたなぁ。

 そのことで、何かが上手くいったとか、お客に高く評価されたとか、そういうことはなかった(そもそも父のときも娘のときも、お客には事情を伝えていない)けれど、そうやって頑張って切り抜けた経験は、その後の力になっていると思う。

 締切は守るんだ。
 意地と根性で守り抜いておけば、その後は簡単にあきらめないようになるし、最初から無理しないで済むスケジュールを考えるクセも付くしね。

 


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