自分のスタンスを把握しておこう
広告用の漫画を依頼されて描いたんだけど、アレコレ普通じゃないコトを言われて嫌になった、といった話を耳にすることがある。
まぁ、世の中には常識知らずな人もいるから、どれだけ注意していてもアブない人に出会ってしまうことはある。
ボクもそういう相手と出会うことは少なくない。
ただ、そのほとんどはトラブルになる前に何とかできている。
トラブルになるのは、大抵は、ホンの小さなナニカを見落としてしまったときだ。
その時点では気にするまでもないと思えるようなことが、後々に大きな炎になってしまう。
それは本人の「立ち位置」によって変わってくるように思う。
ようするに広告漫画を引き受けることに対する自分のスタンスを、どれだけハッキリさせているか、ってコトだ。
そしてソレを相手に伝えているか。
これ、結構重要なんで、ちょっと考えてみよう。
あなたの立ち位置はどっち?
広告漫画を引き受けるとき、あなたの立ち位置は次のどちらだろう?
A:そういう漫画をやってもいい、あるいはやりたいと思っている。
B:そんな気はないけど、どうしてもと頼まれたらやるかもしれない。
この2つのどちらの立場なのかによって、依頼者との関係はまるで違うものになると思う。
あなたが「B」ならば、漫画家のままで仕事できる。
あなたは広告用の漫画なんか描くつもりはなかったのだから、もしやるとすれば、それは広告の側があなたの世界に踏み込んできたということになるはずだ。
そうなら、気にくわない仕事は全部断ってしまえばいいだけだ。
相手が自分に合わせてくれるなら、やる。
そうじゃないならやらない。
それでいいだろう。
元々やる気なかったんだしね。
でも、もし「A」なら、それはあなたのほうが広告の世界に踏み込んでいるのだ。
自分は漫画家なんだけど、広告の仕事でも役立つと思うから使ってみない? と呼びかけているわけで、そうなら本職が野球選手だとしてもサッカーをしなくちゃならない。
野球の常識が通用しなくても文句は言えないのだ。
そもそも依頼者のほとんどは、あなたが「A」でも「B」でも、「A」だと思って依頼してくることが圧倒的に多い。
そう思っているから依頼してくるんだし、引き受けるからには「A」に決まってるよね、と考えているんだ。
仕事欲しいよね、欲しいんならコッチの要望飲むよね、というわけ。
そういうわけで広告・広報用の漫画を引き受けるなら、最初に自分のスタンスをはっきり示しておくことが大事なんだ。
特に「B」のヒトは、Aだと思い込んでいる相手に「悪いけどオレBだよ」とわからせておかないと、後でモメやすいと思う。
立場の認識のズレがトラブルの種に
先の質問で「A:広告漫画をやってみたい」を選んだ人は、そのままAだと思われていても問題はない。
でも、実はそのAにもグラデーションがあって「AだけどBに近いA」といった部分がある。
というよりも、ボクも含めて完全にAっていう漫画家はたぶんいないだろう。
漫画を描くという仕事は、ビジネスだ金儲けだと割り切ることができない部分が多い。
仕様書があって、その通りにやれればいいという類いの仕事とは決定的に違う。
漫画が漫画であるためには、自分だけの「創作」という部分が不可欠と言っていい。
それがあるから作家であり、作品を生み出すことができるのだから。
だから「A」の場合でも、自分がどの程度Aなのかをしっかりと把握しておくべきなんだ。
自分が何にどうこだわるのかを自分自身でわかっておくこと。
つまり自分のスタンスを決めておくんだ。
そしてソレを相手にも伝える。
ボクが見る限り「広告用の漫画依頼されて描いたんだけど、アレコレ普通じゃないコトを言われて嫌になった」といった話の多くは、最初に自分のスタンスを相手にわからせていないから生じているように思えるんだよね。
相手は100%のAだと思っている。
でも本当はA60%+B40%だったりする。
もしかしたら全然別のDが5%くらい混ざってることも。
その認識のズレが、仕事を進めるうちにだんだんと大きくなっていき、どこかで決定的なズレになる。
お互いに「自分の空想の相手」を見ているようなモンで、現実が空想とズレてくると、両方が「こんなはずじゃない」「話が違う」って思うようになっていくんだ。
ま、そういうトラブルを回避するために契約書ってモンがあるのだけど、あの契約書ってヤツはねぇ……いわゆる権利関係を整理するのには役立つんだけど、モノづくりそのものには、あまり役に立たんのよ。
特に漫画などでは。
ゴタゴタするのは、杓子定規な書類とは別な部分なんだよね。
なので、こじれすぎてどうにもならないときには契約書でケリをつけるしかないだろうけど、できるだけ書類に頼らない「相互理解」ってのを作っておかないと、気持ち良く仕事できなくなるんだよ。
自分のスタンスを依頼者に理解させる
なのでボクは、必ず最初に自分のスタンスを相手に示すようにしている。
ようするに打ち合わせのときに「はい、わかりました」ばかりじゃなくて、自分はこう思う、こう考える、こうしたいっていう意見をバンバン言うの。
そして、それに対する相手の反応を見て、自分が譲れないところに踏み込んで来ていると感じたら、ソコには釘を刺す。
ソコは譲れないトコだよって。
ソコをこっちに任せてくれないのなら仕事は引き受けられないよって。
まぁ、打ち合わせの現場でそういうトークをするには、一定の話術も必要なんだけどね。
普通に打ち合わせしてるだけだと業務上のやり取りだけになっちゃって、こっちのスタンスを語るシーンになんかならないから、ジョークを言ったり、ちょっと脱線トークしたり、わざと相手の言葉を極端に解釈してみたりして「そういう会話」に引きずり込むように工夫してるのよ。
最初はなかなか「自分がしたい話題」に持っていくのは難しいと思うんだけど、まぁ、そのへんは場数を踏むしかないかなぁ。
ボクの場合は「先方はボクが漫画家=漫画の専門家だと思っているはず→だから経験豊富なプロっぽい発言してみせる→こっちのトークに引き込む」といった感じでやってるよ。
「漫画家っぽい言葉」や「漫画家の気持ち」をチラホラと組み込んで、相手にボクがどういうヤツか気付かせるようにしているんだ。
そういうわけで、自分のスタンスを自分で把握して、相手にも伝えておくことは、とても大事なんだ。
そこがちゃんと伝わっていれば、大抵の問題は起こらないか、事前に気付くことができて回避できるケースが多い。
こちらの仕事を尊重してもらえる可能性も高くなる。
そして、そういう相手が末永く取引できる優良顧客になっていくんだ。
なお、人によっては「お前のスタンスなんか知るか。こっちは客だぞ。黙って言う事を聞け!」的なタイプもいる。ボクも時々出くわすことがある。
んで、そういうときの対処法はと言うと……
断る!!
これしかないと思ってる。
プロを雇うのに、プロの助言に耳を貸さないような相手では、どうしようもないもん。
医者の指示を無視する患者、ボディガードが止めても前に出ちゃうような奴じゃあ、助けようがないよ。
それに、そういうタイプって自分が一番賢いと思い込んでいて、他の人を軽く見る傾向があるんだよね。つまり、自分がどんなにいい仕事しても正当に評価してくれないのよ。何をやっても大したことないと思われちゃうのよ。
真っ当に評価してくれない人の仕事をいくら頑張っても、得るものは小さい。
だからボクは自分のスタンスを必ず語るし、そうすることで真っ当な客かどうかを判断しているんだ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。