続編を頼まれたんだけど、当時と絵柄がちがう……

 あるあるあるある~~~~(笑)。

 普通の漫画の同じ連載でも、1巻と20巻では全然絵が違うってことは珍しくないもんねぇ。

 場合によっては絵だけじゃなくてストーリーや世界観まで、同じ作品とは思えないくらいに違ったりする。

『750ライダー』だって連載開始当初はポエムじゃなかったし『ドカベン』も始まったときは柔道漫画だった。
『こち亀』なんか作者ペンネームからして違う。

 まぁとにかく、人間日々ちょっとずつ変化しているんだし、ずっと同じじゃいられない。
 だから、絵柄が変わっちゃうのは当然のことだ。

 でも、その当然のことが描かない人にはわからない。
 漫画ファンなら描かない人でもわかっているだろうけど、広告漫画の依頼者たちは漫画ファンですらないから、全然わからないんだ。

タッチの保証は一切しないことにしている

 絵柄が変わらない人なんて滅多にいない。

 なので、ボクはタッチの保証は一切しない。
 できない。
 できないということを受注時に念押ししておくことも多い。

 今回の案件は今回だけ。
 今回の仕事が終わるまでは提案したタッチを保証する(途中で絵柄を変えるわけにはいかんからね)けれど、先々まで保証するわけじゃない。

 例え連載でも、タッチの保証はできない。
 同じタッチでやれたら、それは運がよかったねというだけのこと。

 そもそもボクは、タッチを維持できない前提でやってんのよ。

 自分のタッチが変わってしまうからじゃない。

 ボク、自分で描いてないから。

 元々漫画家だから自分でも描けるんだけど、ボク下手くそだから(笑)。
 なので、キャラを描く部分は誰かに依頼しちゃうことが多いんだ。

 キャラ以外は全部やってることが多いんだけどね。
 一番メインのキャラ作画だけ、自分では滅多にやらないの。

 この10年くらいは、ずっと一緒にやってるスタッフがいて、だからほとんどは同じ人に描いてもらっているのだけど、それだって永遠にそうとは限らない。
 ずっと一緒がいいけど、未来のことは誰にもわからないもんねぇ。

 だからボクは、そのときの作画担当ごとに、その人のタッチを生かすようなネームを考えるようにしてる。
 自分で描くときは自分の絵でやれるモノにする。自分以外に任せるときは、その人の味を生かすように考える。

 自分が描くわけじゃないから、自分の趣味も押し付けすぎない。
 どうしてもやりたいネタが出てきちゃうこともあるけどね。

 でも、過剰に「オレの作品はこうなんだ!」ってウルサく言わないようにはしてるな。
 ソコを言い出したら自分で描くしかないんだから。

 なんにしても、タッチなんか保証できないのは、いつだってそうだ。

 当人の絵柄が変わっちゃう場合もあるし、引退しちゃってるかもしれないし、病気や怪我で担当できない場合だってあるんだから。

 依頼者側だって、そんなことはわかってる。
 だから普通は、そんなアヤフヤなものを求めたりはしないよ。

(稀にフツーでない人が出てくることはあるだろうけど、それはタッチの問題どころじゃなく、その人がヤバい人である可能性が高いので無視しちゃっていいと思うよ。自分で「一生同一タッチを保証します」なんて無茶なことを言っていなければね)

今のタッチは今だけのもの

 クリエイターって、その人のクリエイティブで食ってるから、その人に何かがあると全部がダメになっちゃう。

 これは当たり前のことなんだけど、普通の漫画家や作家なら、そういうときにも、それまでに描いた作品が救ってくれる。
 新作が作れなくなっても、今までに描いた作品たちが支えてくれるってコトがある。

 でも広告の世界だとねぇ。
 基本的に単行本とか印税とかないから。

 クリエイティブができなくなったら、本当にそこでオシマイなんだ。

 自分だけだったらね、それはそれで覚悟の上だって割り切れるんだけど、家族や仲間を抱えていると、そういうわけにもいかない。
 動けなくても動くしかない。立てなくても立たなきゃならない。

 そういうことを考えてボクは「自分だけでやれる状態を確保した上で、あえて自分だけでやらない」ようにしてきた。

 分業で、そこそこにやっていく。
 わざと、そういうやり方をしてきたの。

 誰かがいないと何も出来ないようだと危なっかしいから、いざとなれば自分でもやれる力は維持する。
 そうしておいて分業する。

 自分を分業のパーツの1つにするんだ。
 まぁ、分業していても作者には違いないから最重要のパーツではあるけど、ボクが消えても全部が消えるわけじゃない。
 残った人たちで補っていける可能性は残る。

 だからウチには、コレがウチのタッチ、というのがない。

 今のタッチは今だけ。作画担当が代わればタッチも代わる。
 そういうやり方でやっている。

 タッチがコロコロ変わったりしてると連載や続編は難しいけど、そもそも広告漫画では長期間の連載とか、何年も経ってから続編なんてのは基本的にないのよ。

 続編は何度も経験しているけど、それは特定の作品の続編じゃなくて「漫画で広告する企画」の続編なんだ。
 少年ジャンプが当たったからビジネスジャンプもやりましょう、といったことであって、同じ作品をやるわけじゃない。

 だから、タッチにはあまりこだわらないでやっても問題にならないの。

 ウチの代表作『カソクキッズ』は足掛け8年もの長期連載になったけど、アレだって最初から長期のつもりでやってたわけじゃない。
 それどころか連載の途中で作画担当が変わる可能性もあったんだ。

 そうなった場合でも、キャラ表作って誰でも同じように描けるようにするなんてことは考えてなかった。

 だって自分で描くことになるかもしれないんだから。

 ボク、自分のタッチ以外描けないのよ。自分の絵以外は全然ダメなの。
 いや、自分の絵ですら下手くそなんだけどさ。

 だから、もしも連載途中で作画担当が抜けたときには、キャラごと全部入れ替えるつもりだった。
 つまり、そこまでの連載を終わりにして違う漫画をやっちゃう。

 普通の漫画連載ではそんなコト考えられないだろうけど、ボクらの場合は広報とか学習のための漫画だからね。
 目的さえ達せられれば、漫画そのものは変わってもオッケーなハズなのよ。

 なので、引き受ける最初のときにそういう可能性もあるってコトを話して、納得してもらってから連載したの。
 結果的に作画担当を変えることもなく、別な連載にすることもなく続けることができたけど、それは結果論。
 作画を担当してくれたスタッフが頑張ってくれたおかげ。

 ボクが頑張れ、辞めるなと言ったわけじゃない。
 本人が自主的に頑張ってくれたんだ。

 頑張りってのは押し付けるモンじゃないもん。
 仕事なんだから、仕事の分だけやればいい。
 リスクを他人に押し付けるのはブラック会社だもんね。

 だからボクは、作画担当スタッフが頑張ることを前提にはせず、もし辞めたくなっちゃったとしても、それはそれでいいと言える方法を考えて連載してきたんだ。

 ただ、タッチが維持できない可能性を考慮した上でやっていたとはいえ、本当に途中で変わっちゃっていたら「今のカソクキッズ」は生まれなかったのだから、辞めずに頑張ってくれた作画スタッフには本当に感謝している。

 なお、カソクキッズには最初の3年で描いたファーストシーズン30話と、その後に描いたセカンドシーズン35話、その他番外編がある(2016年現在)んだけど、タッチが変わって別な連載に変えざるを得なくなる可能性を考慮してやっていたのは、ファーストシーズンの中盤まで……最初の17話分だけだ。

 その先は、ウチの作画スタッフは絶対に辞めない、あきらめないっていう確信を持って描いている。
 それを確信できたから、もしものコトなんか忘れて打ち込めて、長く続いたんだ。

 だから、タッチが不安定じゃないほうが安心して仕事できるってのは確かなんだ。
 そのほうがクオリティが上がることも間違いないんだ。

 けど、それでも今もボクは、タッチが変わったら変わったで構わない前提でやっている。

 今の作画スタッフは心から信頼している。
 キツイときでも逃げたりせずに立ち向かってくれた。
 今後もそうだろうと思う。

 だけど、それでも寄りかかる前提ではやらない。
 自分にも寄りかからない。
 誰だって、やれなくなる可能性はあると考えている。

 そうなっても何とかなる方法を、いつも考えている。

 そうでないと「事業」ってのは安定しないもん。
 ボク自身も含めて、特定の誰かに頼ってやっていくのは不安定なんだ。
 不安定なモノを前提にはできないんだ。

 創作という仕事の性格上、どうやっても不安定な部分は残るけど、仲間や家族を継続的に養っていくには、リスクを引き下げる工夫もしていかなきゃならないのよ。
 タッチは、そういう不安定さの代表的な部分。

 だからこそ、特定のタッチに頼らないやり方を選んでいるの。
 漫画家としてはどうかと思うこともあるんだけど、ボクは継続的にやっていける状態にすることのほうを選んだの。
 自分の作品にこだわるよりも、広告漫画を引き受け続けられる事業であることのほうを選んだんだ。

 本項の「序文」に書いたように、ボクは元々プロデューサー気質だからね。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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