広告漫画家物語08:復活

周囲は「やりたいボク」を信じてくれていた
ようやくボクは気付いた。
そして誰かを頼ったり利用したりしようとしていたコトを恥じた。
企画書なんかコピーで十分と言ったビデオ会社社長や、使い込みしてしまった印刷会社社長を恨んでも仕方ないのだ。
彼らには志がなかったと思う。技術も知識もなかった。
でも、ないのが普通なんだ。
ないからこそボクを起用した。
それがわかっていてボクは乗っかった。
いや、自分がやりたいことに彼らを乗せた。
彼ら自身の志じゃないことに巻き込んだ。
芯を通さないまま。
土台を固めてないまま。
だから途中で折れる。辛抱できなくなる。
そういうことだったんだと思う。
誰かと組むことが悪いわけじゃないけれど、誰かはボクじゃない。
相手には相手の思惑があり、こちらとは違う部分が必ずある。
それを責めてはいけない。
こっちと同じじゃないことを不満に思ってはいけないんだ。
それに、今にして思うと、ボクは結局は「自分のやりたいことしかできない人間」なんだと思う。
「やるべきこと」ができない奴。
だから「やりたいこと」と「やるべきこと」が重なっていて、しかもソレが誰かのためになるっていう、ものすごく狭いトコでしか働けないんだと思う。
ソコ以外では人並み以下。
実はみんなの期待を、正直重たく感じたりもしていたのだけど、アレは本当は、期待されてるというよりも、みんなボクがそういうヤツだとわかってたってコトなんだろう。自分が目を背けていることを見透かされたから、重たく感じたんだ。
ずっと前にプランナーに言われた言葉。
「オマエに会社員は勤まらね~よ。オマエ、やりてぇコトを最初から持ってただろ。捨てたつもりでも、実際には捨てられっこない。何度会社に入っても、そういうヤツは組織じゃハミ出しちゃうんだよ」
その通りなんだ。
ボクはやりたいことを捨てられない。
やりたいことしかできない。
そしてみんなは、能力や技術じゃなくて「やりたいボク」を信じてくれていたんだ。
コイツはホンマモンやと。色々ダメなトコはあるけど「やりたいこと」に関してはガチだと。
腕の良し悪しはわからない。素人だから良し悪しを判断すること自体ができない。
けど本当に好きでやりたい奴なら、代金相当どころか、納得するまでやるに違いない。
だからこそ、ソレをやらせておくなら信用できる。
そういうことだったんだろう。
自分のことは自分では見えにくい。
ボクより周りの人のほうが「本当のボク」を見ていたんだろう。
大人になったら色んなコトを我慢して、大人らしい振る舞いをしなきゃいけないんだと思ってた。
だから、そうしてきたつもりだった。
けど、本当は一度も我慢なんかしてないんだ。
我慢したフリをしてただけ。
ボクは大人じゃないんだ。
いつまで経ってもガキ。
そしてガキだからこそ、やれちゃうことがあるんだ。
自分はそういう奴だったんだ。
ガキ親父であることが、自分の売りだったんだ。
これからもボクは、やりたいことしか出来ないだろう。
ソレをゴマかさないようにしようと思った。
ゴマかすから、化けの皮が剥がれてモメゴトになるんだと思った。
「やりたいことしか出来ないダメなボクですが、やりたいことをやらせておけば使える奴だと思ってます。ボクがやりたいことがお役に立てそうなときは、呼んでください。そうじゃないときは呼ばなくていいです」
そう言えばよかったんだ。
本音を出そう。本音をぶちまけて、それでOKなら使ってもらえばいい。
誰もOKしてくれなかったなら、それはそれであきらめがつく。
「やりたいこと」でさえ買ってもらえないようなら、そもそもボクは、この仕事に向いてないってコトだもんな。
「やりたいことしかできない自分」を買ってもらう
その後ボクは、それまでのやり方を全部変えた。
「何なりとお客様のご要望にお応えします」的なアピールは、あまりしない。
むしろ「やりたいことしかできない自分」を売る。
そういう自分を買ってもらう。
全てをその考え方に沿ったモノにしていった。
それまでの自社ホームページでは、サービスや商品(制作物)がどんなにスゴイかといったアピールをしていたけど、それをボク自身を知ってもらうという主旨に変えていった。
商売の世界では「モノじゃなくて人を売れ」とよく言われるけど、本当に徹底的に自分自身のアピールに変えた。
何ができるか、何はしないか、何をどう考えているか、どんなコトが好きか。
自分がどんなスタンスで仕事するかをはっきりさせて、それに共感してくれる人が応じてくれればいいという感じにしたの。
他人に合わせるなんて、できやしない。
無理をすれば、これまでと同じになってしまう。
そもそも、自分がやっているのは「制作」というより「創作」だ。
創作者である以上、自分のイマジネーションで作るしかないに決まっている。
どんなに取材しようが、打ち合わせを重ねようが、どれほど親しくなろうが、他人の頭の中にあるモノとピッタリ同じになりはしない。
近付くことはできても、近ければ近いほど微秒なズレが気になるようになったりもする。
そのズレが完全に埋まることはない。
大きく浅くズレているか、小さく深くズレているかだけ。
ズレそのものの容積は変わってないんだよね。
それを合わせようとするから無理が生じる。
モメたりする。
だったら、ボクはボクの創作物を作るしかない。
そしてソレに共感してくれる人、つまりビジョンを託してくれる人にだけ買ってもらえばいいんだ。
万人にウケる創作物なんてあり得ない。
どんなヒット作だって、それを好きになれない人は必ずいる。
逆にマニアックすぎる作品でも、一部の濃いファンに支えられて、連綿と生き続ける例もある。
他の店のハンバーグが好きな人は他の店へどうぞ。
ウチはウチの味が好きな人のためにやってんでい。
嫌いな人にまで押し付ける気はねぇんだい。
※付記
ここでちょっとだけ触れておきたいんだけど「自分には自分の作品しか作れないんだから自分流でやっていく」というのは、お客の希望に合わせないってコトじゃないよ。最終的にはそう考えざるを得ないってだけで、ギリギリまで客の要望に応えるつもりでやるんだよ。
ウチの味はコレだから、それ以外は認めないとか言うんじゃなくて、甘めが好きなお客には甘めに作る、ネギが嫌いな客には入れない、塩やコショウをかけたい客にはかけてあげるといったコトには配慮しているよ。自分の味にはこだわりがあるけど、それを客に押し付けちゃダメなんだ。
だから常にお客を気にして、お客が満足する味を出すことに全力を注いでいる。
ただ、どんなに工夫したってベースになるのは自分の味だから、その根本のところで合わない客までは追いかけないっていうだけなの。
ボクを買ってくれる人は本当にいた!
とにかくボクは、自分自身を売る主旨に切り替えた。
自分を見せる、知ってもらう。そんなホームページにした。
すると、ポツポツとオーダーが入ってくるようになったんだ。
それも、ずっとやりたかった漫画の仕事が。
それまでの、大きく立派に見せようとしていたホームページでは全然反応がなかったのに。
以前にも書いたけど、WEB制作会社でも実際にWEBで仕事を受注している会社は稀だったんだよ。
少なくとも地方では、滅多にない。
広告会社も同じ。みんな足で営業して仕事を取っていた。
そうだからこそボクも、どこかと組みたがったわけ。
足で歩いて、1軒1軒回っていたらキリがない。
自分は制作者で営業のプロではないから、なおさらだ。
ピンポ~~ン、漫画いかがっすか? なんて言って回ったって売れるわけがない。
下手すりゃ頭のヘンな人か不審者だと思われて、救急車かパトカー呼ばれちゃうんじゃないの? と思っていた。
仮に売れたところで、そんなコトしてたら作る時間がなくなっちゃう。
どれだけ受注できたとしても、自分で作れないなら意味はない。
だって自分が作りたいから、この仕事をやってんだから。
それが出来ないなら誰がこんな厄介な世界にいるものか。営業だけやるなんてゴメンだ。
ボクは割と営業現場も嫌いではない……というより人と会うのが好きなほうなんだけど、それでもソレばっかりというのは嫌。本末転倒だもん。
そんなわけで、自分は作り手でいて、売って歩くのは誰かにやって欲しくて、それで色んな人と組んでいたわけ。
ホームページだけで営業できちゃってる例はなかったし、それなら組むしかないよな、って。
ところが売れた。問い合わせが来るようになった。
しかも、けっこう大手が多かった。
ちっぽけな個人営業のサイトなんか、大企業が見てくれるとは思ってなかったから、びっくりしたよ。
遠方から、わざわざウチまで訪ねてきてくれた大手さんは言っていた。
「これまでも漫画やイラストを広報に使うことは多かったが、いつも広告代理店やマネジメント会社などを間に挟んでいた。そしてソレでは満足のいくモノにならなかった。だから次にやるときは、何としても制作者本人と直接話し合って作りたかった。そうでないと、お互いの気持ちが伝わらない。そういう対応をしてもらえる制作者を探していたんだ」
同じようなコトを言う人はけっこう多かった。
ボクは経済や商売の専門家じゃないから、それが世の中のディフォルトなのかどうかはわからない。
ただ、ボクを買ってくれた人はそうだったということだ。
漫画じゃなくて、漫画家を買う。
モノじゃなくて人。
こうしてボクは立ち直った。
楽じゃないけど、もう絶望はしない
あの「元気玉」から、一気に何もかもが上手くいったわけじゃない。
考えを改めてホームページをまとめるまでに半年以上かかったし、それを公開して実際に注文が入り出したのは、さらに1年後くらいからだ。
その間には、前のようにお金が足りなくて困ることもあった。
でもボクを信じて、カミサンが支えてくれた。
慣れないパートに出て、毎日働いて、細々とした家計を助けてくれた。
また、ボクを信じて任せてくれたいくつかのお客のおかげで、年に数回程度、まとまった仕事も入った。
そういうモノで凌ぎながら、ボクがやれると言ってくれた人たちの言葉を信じて……いや実は半信半疑で、でも信じるしかないから打ち込んでみたら、その通りになっていった、ということなんだ。
今でも楽じゃない。
以前ほどのギリギリ生活ではないけど、来月大丈夫かなぁと不安になることも珍しくない。
けれど一度ドン底を見ちゃうと、それより浅いところは耐えられるもんなんだ。
そして幸いにして、前より深いところまでは行かずに済んでいる。
カミサンも今では、ボクと一緒に制作の仕事をしてくれている。
知りあいも、増えた。
前と同じようなピンチになっても慌てないかと言えば、慌てる。
慌てふためいてオロオロするだろう。
けれど絶望はしない。
ボクを助けてくれるだろう人たちがいると思っているから。
本気でやって、その本気がちゃんと伝わっていれば、そうなる。そういう援軍が現れる。
そしてボクも誰かを助けることがある。そういうモンだと思っている。
色んなコトが巡り巡って力になるんだ。
ボクは、そういうモノも見た。
ちょっと余談になるけど、そのへんのコトも書いておきたい。
ボクを助けてくれた「彼女」と「イベント仲間」の、その後だ。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。








うるの拓也












