企画書や提案書ってどうやって作るの?

 それなりの仕事を引き受けるときには、企画書ってヤツが必要になることがある。

 いや、漫画を描いてくれってオーダーなんだから、漫画を描けばいいに決まってるだろ、企画はすでに終わってるだろ、漫画家が出すのならネームだろ、と思いたいところなんだけど、企画書ってそういうコトじゃないのよ。

 えっとね、近いイメージを考えると「我が社がなぜ漫画で広告しようと思ったのかを考察し、その妥当性や予想できる成果、またアナタがその制作者として適任であることを文書にまとめて提出しろ」みたいな感じかな。

 オレがなぜそう思ったのかをオマエが説明しろ?

 ちょっとナニ言ってんのかわかんないですって感じなんだけど、そういうモンなのよ。

 そこから考えていかないと企画書にならないのよ。

決定権を持つ「わからない人たち」を落とすために

 普通の漫画家だって、ネームを切ってみて、それを担当さんに見せて、OKもらったら描くってコトをやってるよね。
 時には試しに何ページか仕上げてみたりもして。

 アレが企画書だよ。

 ただ、相手が漫画出版社の編集さんだったらネーム見せるだけでもいいんだけど、一般企業の素人さんを相手にするとなると、ネームだけじゃ判断できない。
 アレコレ図解とかグラフとか文章とかで、理屈を説明してあげなきゃならないんだ。

 しかも、それだけやっても漫画そのものはわかってもらえないと思うべき。

 企画書を見る全員がそうだとは言わないけど、若い係長にはウケても、その上の課長になるとイマイチわかってない人が出てくるものなんだ。

 そして部長、専務、社長と上層部に上がっていけば、ますますわからない人が増えていくのだけど、そのわからない人たちが決定権を持ってるんだから、その人たちのハートを落とさなきゃ漫画の案件は動かせない。

 そこまで面倒見れないよ、内部向けの説得はわかってる係長がやってよ、と言いたいだろうけど、そんなコトを言ってるとプレゼンでは勝てない。
 チンプンカンプンで学ぶ気もゼロな人たちを落としてこそ広告業なんだから。
 素人さんのプレゼン力に期待してても、ラチがあかないしね(笑)。

 とにかく、素人さんを相手にせざるを得ない広告漫画の世界では、仕事を引き受けるには、ほぼ必ず企画書が必要ってことになるんだ。
 なんせ漫画はわからないんだから、企画書で判断するしかないもんね。

 そういうわけで、漫画をわかってない人でもピンと来て「おおおっ!」と感じてもらえるように企画書をまとめなきゃいけない。
 いつもの漫画関係者向けトークじゃ全然ダメ……というよりも、アピールすべきポイントがまるで違うんだ。

 そこで、ボクがどんなふうに企画書を作っているか、どんな構成でナニを書いているかを紹介してみる。

 あくまでもボクのやり方だから、これが正解っていうモノじゃないよ。
 でも参考にはなると思うんだ。

 あ、ちなみに、いつもバリバリの企画書が必要なわけじゃないよ。
 仕事の規模や相手に応じて、どのくらいの企画書が必要かは違うからね。

 実際ボクの場合も、普段の仕事の多くは、見積書の話のところでも触れたように、メールでやり取りするだけで、専用の企画書まで作ることは稀。
 本当に企画書を作って提出するのは、1年に1~2回くらいかなぁ。

 でも、メールのときも、ガチの企画書でやってることをダイジェストしてるだけなので「ちゃんとした企画書」がどういうモノかは、知っていたほうがいいと思うよ。

企画書の大きさ

 ボクはいつもA4サイズで作っている。

 広告代理店などが作ってくる企画書だと、A3ヨコくらいの大きさで作ることのほうが多いかもしれない。
 オジサンやオジイサンの偉い人に見てもらうので、小さい文字だと面倒がって見てくれなかったりするし、デカイほうが迫力もあるだろってコトで、大きく作るコトが多いんだよね。

 A3縦は少ないかも。
 まぁA3サイズで縦だと奥行きがありすぎて、ちょっと扱いづらいしね。

 でもボクの場合はA4サイズが多いので、用紙の向きは縦だったり横だったり、そのとき次第かな。

 だって、A3で作るのって大変なんだもん。
 プリンタのインクもたくさん使っちゃうしさ。

 そこまで配慮しないと勝てそうにないならやるけど、プレゼンのときだけA3に拡大したモノを別途持ち込んだりするだけでも済むし、今はPDF書類で扱うこともあるから、A4のほうが使い勝手はいいかなって思ってるの。

 文章はいつも横書きだな。
 表とか図を組み込むことが多いので、キャプションとかも含めて、横書きのほうが都合がいいから。

 もっとも、漫画の企画書なら、縦書きってのも面白いかも。
 広告業界では滅多にないだろうから、インパクトあるかもしれないよなぁ。

表紙・ご挨拶・目次

■表紙

 表紙には、提出先の社名、企画タイトル、作成者名、作成日などを記載する。

 タイトルは作品のタイトルじゃないよ。
 決まりがあるわけじゃないけど、どっちかといえば「仕事の件名」。

「○○漫画企画についてのご提案」といった感じ。
 ソレっぽいでしょ。

 提出先(お客様)の社名は「御中」をつけて書く。

 真ん中にタイトル。

 その下に作成日。

 右下に自分の名前とか屋号とか。
 住所や電話番号やURLなども。

 ようするに、ビジネス文書を書くときのルール通りってコトだね。

 表紙っぽくイラストなどを入れてもいいけど、企画と関係ないモノを入れると誤解されちゃうから気を付けて。
 イラストや写真が入ってると、それだけ気合い入ってるように見えるってだけなので、文字だけのシンプルな表紙でも問題ないよ。

 あ、そうそう、表裏両面印刷で作ることは滅多にないよ。
 ていうか、やったことないかも。

 後々バラバラにして特定のページだけを使ったりすることもあるし、裏面が透けて見えちゃったりするとマズイし、とにかく両面印刷だと厄介なのよ。
 まぁ、環境的にはいいんだろうけどさ……。

 企画書全体のページ数は、企画内容や請け負う案件の規模によって違う。

 ぶっちゃけ安い仕事だとページ数が少なくて、高い仕事になればなるほどページ数も増えるって感じかな(笑)。

 まぁ、高い仕事は額面だけでなく、質的にも高さを求められることが多いし、予算が多い=それだけ波及する範囲が広いってことでもあるから、考慮しなきゃいけないことが増えるってことでもあるからね。
 5万円の仕事ではそこまで考えない(あるいは、そこまで考えてやれる額面じゃない)コトでも、100万円の案件となったら考えざるを得ないってコトだね。

 額面が大きくなるほど、画力とかデザイン力とかよりも「考える力」がモノを言うんだ。

 偵察機同士の遭遇戦ならポプラン中佐に任せておけばオッケーだけど、大艦隊を率いての会戦となったらヤン提督でしょ。
 小規模な戦闘は豪傑の力で押し切れるけど、大きな合戦だと軍師の采配次第。そういうことなの。

 まぁ、もっと大きな額面になると、コネとかブランド力とかになっちゃうコトも少なくないんだけどね(苦笑)。


■ご挨拶

 目次の後は「ご挨拶文」だね。

 真っ当な手紙みたいに、拝啓~敬具でキチっと書くことが多い。
 時候の挨拶、企画コンペに参加させてもらったことに対する謝辞、自分自身の簡単な紹介とコンペに臨む心構えなどを書いておく。
 ま、ご挨拶だから当然そういう感じになるんだけど。

 この先の本文は、ごく普通の文面にするけれど、このご挨拶だけはクソ真面目な文面にすることが多い。
 「です」じゃなくて「ございます」的な。
 何かの式典で偉い人が読み上げるような文章ね。

 これは「そういうものだから」っていうのもあるんだけど、ボクの場合、漫画に限らず、提案内容は頭の固い人が見たら悪ふざけしてんじゃないかと誤解を受けかねないアイデアだったりするから「この先に書いてあることは、決してふざけてるわけじゃなくて、ものすごく真剣に考えた上でやってるよ。で、考えた本人もバカじゃないからね、ホラ、こんな真面目でしっかりした文章も書いてるでしょ」というパフォーマンスでもあるんだ。

 そういう挨拶文が書けたら、最後に文章の作成日と作成者の名前を書いておく。
 つまり自分の名前ね。

 他のトコでも何度も書いてるけど、最終的に買ってもらうのは企画じゃなくて自分自身なの。
 企画を通すことより、この人に任せたいと思われることが一番大事なんだ。

 そう思われれば企画は必ず通るから。
 逆に企画内容がよくても、制作者を信用できなかったら絶対に受からない。

 企画を売り込んでいるフリをして、自分自身を売り込む。
 だから自分の名前を、あちこちでチラチラと見せるの。
 さりげなく、だけど印象に残るように。

 そのためのアノ手コノ手なんだ。


■目次

 企画書のページ数にもよるけど、一応、目次のページを設けることが多いな。
 各ページごとのタイトルを並べておくことで、企画書の全体構成を俯瞰できるっていうメリットもあるしね。
 あと、枚数稼いで、ブ厚いモノに見せかけるとか(笑)。

企画の背景についての考察

 ここが冒頭で触れた「オレがなぜそう思ったのかをオマエが説明しろ」の部分だ。

 こういうページが必要なのは、元々がお客から「こういうのを作りたい」と言われているにせよ、それを自分自身で検討して「自分の企画」として捉え直しているよ、考えなしに乗っかってるわけじゃないよと主張しておくためだ。

 その企画が成り立つための背景を明確化しておく。
 あなた方の考えは間違ってない、あなた方がこういうモノを作ろうとしたことは戦略的に正しいと思える、と相手を肯定してあげるんだ。
 その道のプロが「アリだ」と言ってあげれば、相手も安心するしね。

 でも「ボクがアリだと感じたからアリなんだ」では、論拠が弱すぎる。

 だからアレコレ事例を挙げたりしつつ、アリと思った根拠を示す。
 基本的には、昨今の漫画ブームがどうたらこうたら、クールジャパンがどうしたこうしたとか、そういうモノの統計グラフとか、様々な参考データを付け足して、ソレっぽく仕上げる。シズル感ってヤツね(笑)。

 なお、そういうのだけじゃなくて自分の見解もちょこっと書いておこうね。
 データ並べてるだけじゃ、本人がその意味を理解してることが伝わらないから。

 自分の意見はちょこっとでいいのよ。
 リード文の1行に軽く盛り込むだけでもいい。

 企画書は基本的に「斜め読みできなきゃダメ」なんだ。

 見出し、リード文、図版などの目立つトコだけを眺めていけば、大方の内容が把握できるようにまとめなきゃいけない。

 その上で「割といいじゃん、しっかり読み直そう」と思って読み返してもらう。
 そのときにようやく本文も読んでもらえる。

 斜め読みでダメなら、その時点で落ちる。
 そういうもんなんだ。
 学術論文じゃないんだから、しっかり精査してもらえるなんて思っちゃダメ。

 だから、最初は読み飛ばされていいこと、最初にしっかり伝えておきたいこと、それぞれを検討して、各ページをまとめていかなきゃいけない。

 で、そういう書き方に慣れていくと、二度読みさせるコトをテクニックとして使いこなせるようになる。

 最初の斜め読み(というより、ざっと眺める程度)のときに「ふむふむ」という程度に感じさせて、最終選考に残る。次にしっかり読んでもらうと、さらに「おおっ!」と引き込む。そういう構成が自然とできるようになるのよ。

 斜めでも何でも、一度は目を通している。
 なおかつ、それなりに興味を持っているからこそ、二度読みしてくれる。
 そうであることを利用して、さらに「自分ワールド」に引きずり込む仕掛けになっているわけ。

 それを各記事単位、ページ単位、企画書全体のそれぞれで仕掛けるの。
 漫画家なら理解しやすいはずだよ。
 コマ単位、ページ単位、見開き単位、1話単位で構成考えるのと同じだから。

 あ、グラフなどのデータを入れるなら、出典などもちゃんと付記しようね。
 それもシズル感なんだから。

企画案の目的と要件

 前ページで企画が成り立つ背景を確認したら、今度は企画自体の要件を整理する。

 まぁ、ここまでは「おさらい」なんだ。
 先の「企画の背景」と同様に、先方の考えに賛同しつつ、ソレを理論武装してあげるって感じだね。

 そのために、誰に、何を、どう伝えて、どういう結果を導きたいのか、それに何の意味があるのか、などを整理して、そうするために、どんな条件をクリアしなければならないのかを提示するわけ。

 まぁ、このへんまでは決まり切ったコトをソレっぽく言い直してるだけなんだけど、とにかく「オレはわかってる男だぜ」と主張するために、いちいち全部を掘り返しているのよ(笑)。

 ただ「わかってる男」だと感じてもらうためにも、先の「背景」のページよりは、ちょっとだけ踏み込んだモノにしておく。
 つまり、先方が気付いていない可能性のあるコトにも触れるんだ。

 コレをやれば、こんな効果も期待できるよね。
 一方で、こんな問題もあるはずだよね。
 ○○な展開も想定できるから、その対策も必要だよね。

 そういうふうにして「こっちの世界」に引き込んでいくんだ。

 相手がわかっていることをおさらいしているフリをして、徐々に日常から非日常にシフトしていく。
 相手が気付かないうちに。
 そう、ホラー映画みたいに。

 そうして相手が「むむ、この仕事には自分たちが想定した以上のコトが潜んでいるようだぞ」って感じるように仕向けていくんだ。

 常識の中で暮らしている自分たちには、手に負えないのかもしれない。
 超常現象には超常現象のプロが必要なのかも。
 エクソシストを呼ぶべきかも。

 そして期待もさせる。
 プロなら思いもよらない場所に連れていってくれるのかも、と。
 そういうことを匂わせておくんだ。

 この段階ではまだ、エクソシストを呼ぶべきだとまでは思わせなくていい。
 ただ、匂わせておくの。

企画概要・企画詳細

■企画概要

 ここからが本番。

 ど~んと「こういうモノを作ります!」を宣言して「おおっ!」と思わせる。
 漫画なら見開きだったり「ゴゴゴ」の描き文字があったりしそうなシーンだね。

 企画書作ってる段階では、まだゲンブツは作ってないわけだけど、漫画案件だとイメージラフなどは描けるので、そういうのを入れて、いかにも漫画の案件っぽく見せるようにすることが多い。

 ここまで比較的静かな展開だったのが、ここから動に変わるわけ。
 この手前までが起承転結の起で、ここからが承みたいなモンだね。

 だから具体的なナニカを見せて、インパクトを与えて、引っ張り込むんだ。

 なお、絵とタイトルとキャッチコピーくらいのモンでお客が納得するわけがないので、当然ながら、なぜそういうモノなのかを説明しなきゃならないんだけど、企画紹介ページの最初は、理屈よりもインパクト重視で作ることが多いな。

 まず、モノを見せてブッ叩く。
 それから理由を述べていく。

 ボクは、そういう構成にすることのほうが多い。
 理屈を先に語ってジラすっていう手もあるかと思うけど、ジレて読む気を失っちゃったら、元も子もないから……。


■企画詳細

 さぁ、物語が走り出した以上は、どんどんエスカレートしなくちゃ。

 そこで、ど~んと見せたモノについて、詳しく解説していく。

 漫画案件だと、まず「あらすじ」を簡潔に紹介し、次にどうしてそういう物語にしようと思ったのかを説明し、その合間に検討用のラフスケッチなんかを織り交ぜて臨場感出したりする(笑)。

 そして主要登場人物の紹介、かな。
 名前などは仮だったり、単に主人公とかヒロインとしか書いてなかったり。

 場合によってはイントロだけネーム切ってみたモノなどを添付して「ホラ、こんなに具体的だよ!」ってアピールしたりするよ。

 さっき超常現象を例えに出したけど、漫画案件などの「専門性と創作性が高い仕事」ってのは、本当に超常現象みたいなモンなんだよ。
 フツーの人には理解不能な世界。

 だから、この企画自体を紹介する部分では、本当の理解なんか求めちゃいけない。

 ビジュアルで「うぉお」。
 あらすじで「ほほぉ」。
 解説で「ふぇえ」。

 姿を見せて、その世界を教えて、そこで戦うために必要な知識や技術を示すわけ。

 大事なのは、最初の「背景」と「目的」で示したコト、課題になっていたことを、この企画がどう解決しているかを感じさせることだ。

 内容なんてのは後で丸ごと変わっちゃっても構わない。
 今大事なのは、プレゼンに勝つことなんだから。

 素人では気付かない部分、見えない部分に、どんな工夫を施しているか、それでいて作品自体もそれなりにアリっぽい内容で、絵もちゃんと描けそうだと感じてもらえれば、それだけでいいの。

 そうやってコッチの世界にどっぷり浸らせて、こりゃ誰を選ぶにせよエクソシストは必須だわ、エクソシストの能力がないとアレとかコレに対処できんと気付かせるトコまでが、このステップの仕事なんだ。

制作体制の紹介

 ここからが起承転結の「転」だ。

 ぶっちゃけて言えば「オレ、スゲェ!」を主張する部分。

 エクソシストが必要なのはわかったよね。
 なら次は、ボクが優れたエクソシストだとわかってもらおうか、というわけ。

 実はね、ボクは、ココを一番重視して企画書作ってるの。

 企画案そのものは、この段階では単なる叩き台で、ソレらしくなってりゃいい、という感じなんだよ。
 出来もしないコトを吹いちゃアカンけど、それでも見せ札に過ぎなくて、せいぜいが青写真手前くらいのモン。
 本当にしっかり考えるのは受注が決まってからで十分。

 実際、企画そのものはボツだけど、プレゼンには勝ったという体験を何度かしてるしね。
 そもそも、お客が望んでいることとズレてるかもしれないし、どうなるかわからないコトなんだから、企画の紹介は「こうすべき」と言うよりも可能性の1つを示すってくらいでいいと思っているの。
 特に漫画ではね。

 大事なのは「オレ、スゲェ!」のほうなんだ。

 作者自身がどんだけデキる奴なのかを理解させることができれば、先の企画案がどうであれ「こんだけデキる奴なら、こっちの要望をしっかり伝えればイイモノを作るに違いない」って思ってくれるから。

 だからアノ手コノ手で、自分を選ぶメリットを主張する。
 もっとも、自画自賛しすぎるとカッコ悪いし胡散臭いので、ハートはアツく、文面は淡々と、という感じを心がけているけどね(笑)。

 主に記載するのは、漫画制作のちょっとしたウンチク、独自に工夫していること、自分やスタッフのプロフィール、これまでに手掛けたアレコレの紹介など。

 最もボリュームを割いているのは「これまでの事例紹介」。
 どんな仕事を手掛け、どんな成果を挙げたかを1つ1つ紹介していく。
 もちろん冊子の表紙や名場面などのカットも掲載する。

 結局、コレが一番効くからね。
 ボクの場合、名前は有名でなくてもキャリアは長いので、色んな制作事例を持っているし、その分だけ経験値もあるので、それを感じさせて、企画よりもボク自身を選ばせるようにまとめることが多いんだよ。

 なお、新人さんだと手掛けた数が少ないから、ボクと同じようなやり方は難しいだろうけど、実績が足りなくても攻めようはあると思うよ。

 ボクも実績が足りない頃は、自分が漫画についてどれだけ詳しいかをアピールしていた。
 自分の作品だけでなく、他の漫画家さんの作品やテクニックを分析してみせたり、今回の案件の参考になりそうな資料を列記してみたりして、こんなに勉強してるぞというパフォーマンスを盛り込んでいたんだ。

 いずれにせよ創作物のプレゼンは、結局のところ「人を買う」だから、企画自体よりも可能性……お客が気付いてないコトにも気付けて、色んなコトを思いつけて、ソレを実践できる技量もあるぞっていう部分をアピールしたほうがいいんだ。

 仕事を獲るっていうよりも、特定のプロジェクトが終わるまでの期間だけ就職するって感じに近いと思う。
 打ち合わせだ、コンペだって思うより、プレゼン形式の就活面接だと思うほうが上手くいくと思うよ。

 というわけで自分のエクソシスト力を十分に示せたら、もう勝ったも同然だ。
 この段階で相手は、すでにボクを買っている。買いたいと思っている。

 後は、買いたいという気持ちを後押しするだけでいいんだ。

仕様・進行スケジュール案

 この手前までで、アピールしたいコトのほとんどは終わっているので、最後は締めくくり。

 ここまでに紹介した企画は何ページの作品で、どんなスケジュールで進めていき、いつ頃に完成するのかなど、具体的なスペックを明記する。

 つまり絵空事やハッタリじゃないぞと示す。

 スケジュール表なども組み込むことが多いけど、あくまでも企画段階でのモノなので、本番ではズレちゃうことが多いな。
 でもキッチリ決まってるほうがリアルに感じられるので、例えダミーでも入れておくんだ。

参考見積例

 実際に作ったら、いくらになるのかを示す見積書を巻末に付ける。

 もちろん、その気になれば本当にその通りにやれる見積り。
 多くの場合、プレゼン以前のオリエンの段階で「いくら以内でやってほしい」と予算枠を提示していることが多いから「その額面で本当に問題ないものをやれることを、経験豊富なプロとして示してあげる」というのに近い。

 また「見積りってどうやって作ってるの?」の項で書いたように、見積りだけを見せるのではなくて、色々な注意書きを付記することが多い。
 企画自体の考え方などは、ここまでに書き尽くしているので、見積りに関する備考ね。

 Aの項目がいくらなのはコレコレだからである、などの注意書きを書いておくことで、細かいトコまでよく考えてるなと思ってもらえることも多いからね。

 スケジュール表、見積書などで「すでに準備は万端、遺漏なし」と示すことで、買いたい気持ちを確定事項に仕向けるわけだ。
 すでに半分着手してるようなモンだと感じさせて、そうならこのまま進めさせちゃえば一番安心と思わせるの。

お問合せ先・責任者

 ようするに自分の連絡先など。

 表紙にも書いてあるんだけど、最後の最後にちゃんとページを立てて、添付しておくことが多いよ。
 臨場感出すために自分の写真や似顔絵を載せたりすることも。

 自分の写真まで入れるのは、企画書ってのは「ものすごく詳しい履歴書&経歴書」だと思ってるから。

 だって買ってもらうのは自分なんだもん。

 誰を選んだって、どうせ、やってみなきゃ結果はわからないんだ。ギャンブルなんだ。
 だったら、他のライバルよりもキッチリ考えてるっぽくて、勝てそうな気がして、料金も妥当っぽいヤツに頼っちゃいたい。
 そう感じさせた者が勝つんだよ。

 いちいち「っぽい」なのは、お客には完全に理解して判断することはできないからだ。
 プレゼンでは誰かを選ばなきゃならないけど、その選ぶ目はないんだ。

 オリンピック・エンブレムの選定なんかだと「有識者」なる人が出てくるけど、普通はそんな奴はいないの。
 素人だけで選ぶのよ。

 だいたい「有識者」がいると、ソイツに都合のいい奴が選ばれやすくなったりするしねぇ。
 なんせギャンブルなんだから。
 どいつを選んでもアリかもしれないんだから。

 だから「っぽい」かどうかが重要なのよ。

 素人にもわかる論拠も示しつつ、最終的に「一番ソレっぽい」と思わせた者が勝ち。
 すげぇアバウトなの。

その他

 各ページでは、キャッチーな見出しなどで要点をわからせ、150文字くらいまでのリード文で概要を語り、その後、詳しい解説文や図版という、つまり新聞紙面と同じような構成にしたほうがいい。

 長文を書くこともあるけど、それでも相手が長文を読んでくれるなどと思うのは甘い。
 どんなにイイコトを書いても、長いというだけで読み飛ばされる可能性のほうが高いんだから。

 だからキャッチーな部分だけを斜め読みしてもいいように構成しておき、いよいよ本気でコイツを選ぼうかと思う段階になったら詳しいところも目を通すだろうと考えておくほうがいいんだ。
 最後のキメのために、しっかりした文章も書いておくって感じかな。

 それにプレゼンの現場では、企画書の内容を駆け足で自分自身で紹介しなきゃならないから、リードまでで済ませて「後ほど詳細をお読みいただけますと、より詳しくご理解いただけるかと存じます」的に扱えるようにしておかないと、モタついて墓穴掘っちゃうしね。

 とにかく、お客が強い関心を持ってくれているなどいう幻想は持っちゃダメ。

「どれどれ、聞いてやるか」くらいの気分で読み始め、徐々に「おっ」「おおっ」「おおおおっ!」と変わっていき、最後には「へぇ~~!」と感心し、期待を感じさせて終わる。できるだけ、そうなるように構成することを心がけたほうがいいんだ。

 つまり、どうやったら自分のファンになってくれるか、だよね。
 作品の、じゃなくて自分の、ね。

 

 最後に……

 企画書がどんなによく出来ていたとしても、それだけで勝負できるわけじゃない。
 なんせプレゼンってのがあるんだから。

 プレゼンが下手くそすぎたら、企画書のデキなんか霞んじゃうんだから。
 だからプレゼンの話術とか、パフォーマンス術とか、そういうのも学んでおいたほうがいいよ。

 え、面倒くせぇ?

 でもねぇ、その面倒くせぇコトをやらなきゃ生きていけないのがコッチの世界なのよ。
 面倒がっていらんないのよ。

 だから面倒でやりたくない人は、コッチに来ちゃいけないのよ。

 楽なだけで済む世界なんか、どこにもないんだ。
 どの世界にも、それなりの面倒くせぇコトや理不尽なコトや納得できないコトがある。

 ボクがコッチにいるのは、ボクにとってはコッチのほうが納得(妥協と言い換えてもいい)できたからだ。
 あくまでもボク個人にとってね。
 こういうのは、そういうことだから。

 ボクには納得できなくても、他の人には納得できる世界もあるわけで、少しでも自分が納得しやすい世界で生きるのが正解だと思うよ。
 んで、こういう面倒くせぇに納得できたならコッチに来ればいいの。
 この文章も「納得はできたけど、やり方がわからん」って人のために書いてるわけで、納得させたいわけじゃないからね。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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