小説イバライガー第7~8話/筆者コメンタリー
小説イバライガーの7~8話に関する筆者コメンタリー。
ここからジャーク側の重要キャラ「ルメージョ」が登場する。この7~8話の前後編は個人的には割と気に入ってるエピソードでもあるんだよね。
第7話コメンタリー
繭に包まれるダマクラカスン
前回、Rとガールによって大ダメージを受けたダマクラカスン。だけど、それで四天王が簡単にやられちゃうとも思えないわけで、こういう展開に。
ダマが繭に包まれるのは、ほら、ダマさんってちょっと虫っぽいでしょ。だからね、たぶん今の姿は幼虫なんじゃないかと。あの先があるんじゃないかと。
ボクはステージショーも含めて、イバライガーの様々な設定に深く関わっていて、ボクが設定したこともかなり公式に取り入れてもらっているのだけど、それでもボクは原作者じゃない。ボクはボクなりに納得できる解釈を提案しているだけで、それを採用するもしないも公式の自由なのだ。
なので、このダマクラカスンの件も含めて、小説版での設定の多くは、あくまでも「小説版での設定」であって、公式にフィードバックされることもあるよ、という程度だと思って欲しい。
OPの全裸の女
妖艶な女が、全裸。いやぁ、学生時代の頃に読みあさったカッパノベルズとかの伝奇アクションものを思い出すなぁ。菊池秀行さんの妖魔ものとかね。このノベルでは、あんな過激な性描写はしないけど、妖婦には淫靡な感じはつきものだとも思うのよ。
冒頭のシン、ワカナ、ナツミの思い出の部分
この部分は、ほとんど即興で書き加えた。ワカナとシンのなれそめは、特に描写する予定はなくて、そういうシーンが必要になったら、そのときに考えようと思っていたのだけど、意外に早く必要になってしまった。
スキー場を舞台にしたのは、ボク自身が若い頃スキーにハマっていてイメージしやすかったからなんだけど、それがルメージョにまつわるエピソードとして上手く収まるとも思ったからなの。「氷の女帝」だからね。
なお、女の子の心理描写は、ちゃんと出来ているか自分ではよく分からない部分がある。でも、こういう子もいるだろうと思って書いている。
シンはどっちかと言えばボンクラなのだが、それでもキメるべきときにキメられないほどのボンクラでもないと思う。女の子の気持ちを受け止められることだって、ヒーローだと思うんだよ。
友だち同士だった中の二人がカップルになってしまうと、当人たちも、周囲も、なんとなく気後れというか、モヤモヤというか、今までと違う部分を感じてしまうものだ。そういうものをお互いに感じながら、今まで通りに接していく。その奥には色んな感情があるのだけど、それには蓋をする。いつか、それが当たり前になるまで。
ボクにも、そんな甘酸っぱい思い出はあるのだ。
土浦駅東口へと続く高架道
今回もボクの地元を舞台に選んだ。いや、ローカル色を出したいわけじゃなくて、でも事件がつくばの研究所から始まっていて、そこから徐々に拡散していくのだから、今の段階では、比較的近郊だろうし、氷の女帝が出てくるんだから「氷」は必要だし、そんなら国内第2の規模の湖が目の前にあるんだから使わない手はないよな、と。地元だから描写しやすいし。
土浦のヨットハーバーだったエリアは、今は観光ホテルのほとんどがなくなって、閑散とした感じになってしまっている。でもラクスマリーナがあって、今でも遊覧船には乗れる。かつては駅前にも、遊覧船にも、いつも軍歌が流れていた。予科練があったところだからね。
ちなみにジャークがなぜ茨城にばかり出るのかについては「研究所の事故で生まれたジャークは、その際に飛散・拡散したジャーク粒子が一定濃度ある場所でしか力を発揮できない」という理屈を考えていて、この設定は公式のショーにも組み込んでもらっている。茨城のPRキャンペーンなどで他県でショーを行う際にね、そういう設定を披露して「……そういうわけで、この県にもジャーク粒子を広めてくれるわ!」的な展開にしてもらったりしてるのよ。小説で言及するのは21話。もっと早くに出してもいい設定だったんだけど、アレもコレも解説してるとクドくて物語も進まないので、21話まで来てようやく語れたって感じになってるの。
ルメージョ(ジャーク四天王)
氷の女帝の異名を持つジャーク四天王。唯一の女性タイプ……というよりも人間の姿を残しているジャークであり、もちろん、それには理由がある。
ルメージョのボディは、シン・ワカナの親友であるナツミのものだ。そしてナツミは感情エネルギーの研究者でもある。その知識を利用するには人間としての記憶を失わせない必要があるため、人間の部分を残してあるのだ。
人間体に近いために、ルメージョ自身の戦闘能力・耐久力は低く、肉体的には戦闘員とさほど変わらない。が、その体内に秘められたエモーション・ネガティブのエネルギーは膨大であり、その力とナツミのボディという「人質」によって、イバライガーたちを苦しめていくことになるのだ。
実は当初はルメージョの正体は不明で、後半になるまで気づかないということで構想していたんだけど……ルメ様って顔出しキャラだから、顔が見えてるのに気づかないってヘンだし、顔が違っちゃってるとするのもヘンだし、覆面してるとかにするとショーと設定が違っちゃってイヤだし……と、色々考えて、もう最初からバラしちゃおう、そんで親友と戦い続ける葛藤を軸にしようと、大幅に改定しちゃいました。
Rもガールも、ルメージョ=ナツミを知っている。知ってるけど思い出せない。あんなことや、こんなことがあったというのに。
いや、そうだからこそ記憶は封印されているのだ。
ナツミ
小説だけのオリジナルキャラだけど、主役にも匹敵する、とても重要なキャラクター。ただ、ず~っとルメージョに乗っ取られたままになってるので、かなり後半になるまで本人として活躍することができないんだけど。
ただ、最終回までずっと出演し続けるし、要所要所でものすごく重要な役を担うことになるし、個人的にはかなり思い入れの強いキャラなんだ。
ちなみに「ナツミ」という名前も、以前にイバライガーショーを手伝ってくれていた方のお名前をもじって使わせてもらっている。小説の構想を練っていた2012年頃までに交流のあった人たち……初期のイバライガーを支えてくれた人たちのお名前が多いんだよね。
イバライガー登場シーン
どこからともなく声。着地。地面が砕け、破片が舞い散る。路面がひび割れて、そのひびに沿ってエネルギーが奔る。その輝きと粉塵の中から立ち上がる。ボクのイバライガー登場シーンは、そんなイメージなんです。
ルメージョに操られる人々
イバライガーショーでは「ジャークが人間たちのマイナス感情を集めてパワーアップしてピンチ」という展開がよくある。それを、もうちょっとリアルに、エゲツなく描写してみたのが、今回のゾンビ的なシーン。ルメージョって冷酷だから、こんくらいのことはやるだろうなぁと。
ブラックの介入
ブラックを介入させるかどうか、ギリギリまで迷った。迷ってるうちに、勝手に介入してきてしまった。そんな感じ。やはりブラックは制御できない。
イバライガーブラックは、プレデター=肉食獣のようなモノだ。負ける戦いなんかしない。罠にはまるとしても、それさえも計算ずくのはずだ。
ボクはそういうふうにブラックを捉えている。無謀に見えても、決して無謀ではない。熱血一直線のRとは違うのだ。
「第8話:ジャーク・オブ・ザ・デッド」の言い訳
元々「薄い本」として出していた当時に、前号の予告で語ったことと実際の第8話の内容が大きく変わってしまったので、薄い本第4巻には「言い訳」が記載されていた。それをそのまま、ここに再録しておく。
「第8話:ジャーク・オブ・ザ・デッド」について
前回(3号)予告において、第8話には「黒いチビッコ」が登場すると記載しておりましたが、予定が変更となり「黒いチビッコ=ミニブラック」の登場は、先送りになってしまいました。
予告と内容が変わってしまったことについて、深くお詫び申し上げます。
実は「第7話:氷の微笑」は1話のみのエピソードの予定だったのですが、いざ本番の執筆を始めてみると、どうしてもルメージョのエピソードを、もう少し詳しく描写しておきたくなったのです。そこで、元々「第8話:ジャーク・オブ・ザ・デッド」も、ルメージョが主要な敵キャラクターとなるエピソードだったため、第7~8話の内容を全面的に再構成し直し、一つの前後編としてまとめることにしたわけです。
当初は、予告してしまったのだから、どうにかしてミニブラックも登場させられないものかと随分悩んだのですが、この前後編に無理やりミニブラックを絡ませてもよいものになるとは思えず、またミニブラックの扱いも中途半端なものになってしまうので、諦めることにしたのです。せっかくの初登場なのに、扱いが雑なんてのは許されることではありませんし。
(ただし、この後の9話には、必ず登場します。というのも、その次の10話は、ミニブラックをキーキャラクターとして考えたエピソードなので、9話で登場してもらわないと困っちゃうんですよ)
イバライガーの世界を深く考察していくと、後から「ああ、そう解釈すればいいのか」ということが次々と出てきます。入念に考えて始めたつもりでも、より納得できる解釈が思いついたりすることもあります。今回のルメージョ、そして次回となったミニブラックは、その典型例。書く直前までの解釈と本番では、まるで違うものになりました。特にミニブラックは、先送りしてよかった!と自分でも思うほどに解釈が変わりました(それは、今後のミニR、ミニガールの設定にも影響します)。
ステージに立つリアルのイバライガーと全く関係のない、キャラが同じというだけのオリジナルを描くのであれば、どうにでも扱えます。ステージの設定は全部無視して、解釈しにくいキャラや都合の悪いキャラは出さなければいい。
だけどボクはステージで披露してきたイバライガーワールドを、できるだけ壊したくない。あの世界観を可能なかぎり守りつつ、小説として再解釈するというのが、このシリーズの試みなのです。タイトルだけ借りて「映画ガッチャマン」を作るのではなく、ガンダムを「ガンダム・オリジン」にするようなもの。元々の世界観を尊重しつつ描きたいのです。
恐らく今後も、こうしたエピソードの拡張、予定変更はあるかと思いますが、どうぞご容赦くださいませ。
第8話コメンタリー
オレは、この痛みを覚えている。貴様を貫いた感触とともに
第8話OP部分の最後のセリフなんだけど、これ、自分でもちょっと驚いた。このセリフはブラックのアドリブなんだ。まったく予定していなかったのに、このシーンになったらいきなり出てきたのだ。作者としても「ええっ、そうなの?」と。
そして、この一言からブラックの過去(=未来)がさらにくっきりと見えてきた。そうだったのか、と。これだからイバライガーってオソロシイ。
全部見えている。そう思って、最終回までのあらすじも全部まとめてから書いているのに、いざ書いてみれば、こうやって意外なエピソードがキャラたちによって紡がれていく。それによって物語がさらに深まることもある。いや、作者なんて単なる語り部みたいなモンだな。
イバライガーブラックの思想
ブラックは人類の敵対者ではない。しかし単なる守護者でもない。生き残るには、生き残るだけの覚悟がいるということを分かっているのだ。だから厳しい。時に冷酷でもある。だが彼もまた、人の想いから生まれたヒューマロイドではあるのだ。ギリギリのところでは、人間を見捨てられない。
実はね、ブラックの人格的なモデルは『ガメラ3』のガメラなんだよ(笑)。あのラストの、傷付いた身体で立ち上がるガメラにボクは漢を見た。助けてくれとも手伝ってくれとも言わずに、たった一人で絶望的な戦いに向かっていく。冒頭での、渋谷の街を壊滅させてしまう厳しさを持ちながら、たった一人の少女を救おうとする優しさもある。そして孤立無援でも折れない心。あれこそイバライガーブラックだと思うんだ。
貴方が欲しいわ。その刃で私を貫いて
このへんのセリフ、お子様向けのステージショーを展開しているヒーローの物語として、ちょっと言い過ぎかな~と躊躇したりもしたんだけど、この小説版はお子様向けではないし、ルメージョというキャラには必要な部分でもあるので……。そのものズバリな表現は避けたけど、もし、お子さんに読んであげている方がいらっしゃったら、うまくゴマかしてあげてね。
氷のゴースト
『ホルスの冒険』に出てくる雪のオオカミみたいなヤツです。ていうか、あのまんまのイメージでやってます(笑)。
誰かを傷つけるのを恐れていては、誰も幸せになれない
こういうバカップル、ボクは好きだ。自分もそうありたいと思う。
使命で戦っているだけじゃダメな気がする。仕事だというだけじゃ、つまらない気がするんだ。自分自身がそうありたい、やりたい。そう思ったときに本当の力が出てくるんじゃないかと。
振られて傷つく人もいる。でもいつか、その人にも新しい出会いがあるとボクは思う。「いつか」がいつなのかは、誰にも分からないだろうけど、出会いはあると信じている。過去に囚われていなければ、だ。
過去を引きずってしまうのは仕方ないかもしれないけれど、囚われないように、一歩踏み出せば、そこに見えてくる何かはあると思うんだ。
ガールちゃん、いいこと思い付いちゃった
このガールちゃんも、いきなり出てきたアドリブだ。ガールって、こういうときに「私が!」って躊躇せずに行動に移しちゃうタイプだと思うんだ。そう思って書いていると、当人が勝手に喋り出す。ボクの場合はいつもそう。マンガでも、キャラたちが自分から動いてくれないと描けないんだよね。
どっちも男の子
ボクだと、最初の一発で倒れちゃうと思うんだけど、こういう男同士のくだらない意地の張りあいって、何となく好きだ。このくらいバカなら信用できる。
必殺技の応用
前にも触れたけど、エターナル・ウインド・フレアには、色々な応用がある。なんせ、ベースになってるエネルギーはみんなの感情エネルギーなんだから、本来は無害な力のはずだしね。
もちろん、エターナル・ウインド・フレア以外の技にも、色々な応用があり、この回ではRもショット・アローのアレンジ技を披露している。
ショット・アローは、ショルダー・ジェネレータ(両肩の矢印状の部分)から指先にエネルギーをチャージして放つ技だけど、この例の場合は、ジェネレータを解放して、そのエネルギーで全身を包み、一気に全方位に放出する。
スパロボ大戦のMAP兵器みたいなモンかな。
シンとワカナは必要な「力」だ。
クライマックスでのブラックのセリフ。実際シンとワカナは「力」そのものなんだ。主人公だからね。イバライガーたちに匹敵する試練と、それに向きあえるだけの「力」を秘めているんだ。ブラックだけは、それが何かを知っているんだ。
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