チームやコンビでやってもいいの?

 ウチはまさにチームでやってる。

 ボクは漫画家だけど、実は自分で描いていない。
 かつては描いていたけど、ボク、元々絵が下手くそな漫画家だったから、今は自分では描かないで作画スタッフに任せているんだ。

 でも、チームでやるほうが楽なわけじゃない。
 また、特定のチームがいつまでも続くと思い込むのも危ない。
 それぞれの事情でやれなくなっちゃうこともあるからね。

 なので、チームでやるときは、お互いに依存しない部分もしっかり押さえておくべきだと思う。
 ボクだって、いざとなったら自分でやる覚悟はしている。

 仲間を信じるのと寄りかかるのは違う。

 どちらかが寄りかかったりせずに、互いに自分の足で立つ関係でチームっていうのが、一番いいと思うんだよね。

OKだけど安易に組むのは……

 チームやコンビでやるのも、もちろんいいと思うよ。
『バクマン』じゃないけど、漫画家にもコンビやチームで描いている例はけっこうあるでしょ。
 実際、ウチもチームでやっているしね。

 それに多くの漫画家はアシスタントを雇っている。
 アレだってチームだと思うし、普通の会社や組織もチームだしね。

 ただ、誰かと一緒にやる、あるいは誰かを使うというのは、一人でやるより楽なわけじゃないよ。

 むしろ大変。
 人間関係とかお金のコトとか、色々あるから。

 特に、切実なのがお金のコト。

 開業当初からガッポリ儲かるなんてコトは、まずないから。
 かろうじて手に入ったわずかな収入を分け合わなきゃならない。

 もちろん、それは覚悟の上だろうし、最初は情熱に燃えているから大丈夫な場合が多いんだけど、少し時が経つとズレていく例もすごく多いんだよ。
 まぁ、どんなに仲良しでも、お互いの家庭環境とか個人的事情などは違うからね。

 いい関係がいつまでも続くっていうのは、けっこう難しいんだ。
 特に仕事やお金でまで関係しちゃうと。

 そういうわけで、コンビやチームもアリだけど、何となくノリで始めちゃうといったコトはオススメしない。
 なんせ「事業」なんだから。

 なので、まずはできるだけ一人でやって、後々誰かと組むにしても、なるべく依存しない関係でやっていくほうがいいんじゃないかなって思う。
 お互いにお互いの事業をやっていて、重なり合う部分だけ一緒に、という感じかな。

 そもそも広告漫画って、そんなに儲かる仕事じゃないんだよ。

 商売って、制作力よりも営業力なんだ。

 腕がいい奴よりも、営業が上手い奴のほうが必ず儲かる。
 素人目で見てもダメだというほど腕が悪かったらどうしようもないけど、そこそこOKに達していれば、あとは営業次第。
 アイツよりオレのほうがずっと上だって言っても、客にしてみれば、アイツのレベルでも十分ならそれでいいんだから。

 何度も書いてるけど、お客は漫画の良し悪しを判断できないんだ。
 一定レベルにさえ達していればいいわけで、その先は営業勝負なんだ。
 漫画って画力だけじゃないから、下手ウマでも何でもやりようはあるわけだし、すぐに営業勝負になるんだよ。
 画力のレベル上げなんか後回しでいいくらいなんだ。

 で、漫画家になるような人って、その営業が苦手でしょ。

 だから儲からない。
 普通の漫画みたいに、作品がヒットして単行本が出てアニメ化されてグッズもいっぱい出て、なんてことは広告漫画ではあり得ないからね。
 営業して受注して描いて……だけが収入。
 原稿料しかないんだ。

 その上、長期連載なんてのも、まずない。

 ボクは運良く長期連載の経験を持っているけど、コレは特例中の特例。
 そもそも長期連載になるなんて考えてもいなかった。

 広告でも連載企画そのものは、それほど珍しくないけど、普通はせいぜい10回程度。長くても半年か1年。そして9割は読切1回だけ。
 またいつか同じトコから仕事が入ってくるにしても、それは何年も先のコトだったりする。
 少なくとも、すぐには来ない。

 広告代理店も広告主も漫画だけやってるわけじゃないんだから。
 漫画はたくさんの仕事の中のホンの一部に過ぎないんだから。

 ようするに広告漫画では継続的な仕事は、滅多にないんだよ。

 だから新規の仕事を取ってくる営業がすっごく大事なんだけど、漫画家はそれが苦手。
 これで儲かるわけがないでしょ。
 コンビどころか一人分でもキツイんだ。

 というか、よほど営業が上手い人じゃない限り、一人でギリギリやっていける量の仕事しか確保できないんじゃないかなぁ?

スタッフを受け入れるのはスゴく怖かった

 スタッフ抱えてやってるウチだって、スタッフの分まで仕事が獲れるから増やしたわけじゃないからね。
 スタッフを入れたのは開業から二十数年経ってからだったし、それも偶然そうすることになっただけで、募集なんかしてなかったんだから。

 たまたま出会ってしまったというだけ。

 とにかく個人業ってのは不安定なんだよ。
 収入なんてあったりなかったりで、いつもデコボコ。

 それを長い時間をかけて「平均するとコレくらい」っていう状態に均していくんだけど、不安定なコトには変わりないから、いつ何がどうなるか、わかったもんじゃない。あるときはあるけど、ないときは本当にない。

 だから誰かを雇う(互角のパートナーだったとしても)なんてのは、ものすごく怖い。
 自分だけでも必死なのに、誰かの生活まで抱え込むなんて恐ろしすぎる。

 スタッフがいる今は、なおさら恐ろしい。
 自分がコケたときに巻き込む人数が増えちゃってるわけだから。

 ボケ~~っと、ヘラヘラ~~っと日々を生きてるけど、内心はコワくてコワくて、毎日がビクビク。
 風が吹いただけでドキっとするレベル。いやマジで。

 なので、スタッフのおかけで救われてるコトはたくさんあるけど、それでも「偶然のキッカケ」がなかったら、今でも一人でやっていたと思うな。
 スタッフが欲しいとずっと思ってはいたけど、よほどの大儲けでもして、お金の心配しなくても大丈夫と思えない限り、自分では踏み込めなかったと思う。

 ヤバくなったら辞めてもらえばいいじゃん、っていうふうには考えられないんだよ、ボクは。

 だってスタッフは仲間だもん。
 一緒に苦楽を共にする仲間。

 それを自分の都合で切り捨てるなんて、ボクには無理。

 いざとなったら心を鬼にしてやるしかないのかもしれないけれど、できれば鬼になりたくない。
 鬼になるくらいなら一人でやってるほうがマシ。

 ちなみに、今でもスタッフの扱いはウチの従業員じゃないんだ。
 一緒にやるようになって何年も経っているけど、それでもボクも彼らも、お互いに個人事業主。

 ボクが常に彼ら優先で仕事を頼んでいて、彼らもウチだけを取引相手にやってるというだけで、本当は部下でも何でもない。
 独自に営業して独自に仕事したって構わないし、ウチの仕事を拒否したって構わない。

 もちろん、こっちの仕事を拒否するようじゃ任せておけなくなるけど、ボクは彼らがそんなコトはしないと信頼しているし、彼らもボクが仕事を回さなくなることはないと信頼してくれているから続いている。それだけのこと。

 だから、ず~っと一緒にやれたらいいなぁ、ウチの仕事だけで、ボクも彼らもハッピーに生きられたらいいなって思っている。

 でも、それが依存しあう関係じゃダメだと思ってる。

 それぞれが自分の足で立つ。
 立った上で共に戦う。
 どちらかが倒れても、まだ戦える。

 そういう関係でありたいと思っているんだ。

 ていうか、そう考えないと、そういう形でないと、おっかなくてスタッフなんか受け入れようがなかったんだ。

 ボクは彼らの一生を守れるほど強くない。
 正直、自分と家族の一生だっておぼつかない。
 いつ、どうなるかは本当にわからない。

 だからこそ、ボクがダメになって終わっちゃうんじゃなくて、そうなったら自力でやっていくだけの力を付けて欲しいって願っている。

 アンタがいなくても平気なんだよ。
 早く、そう言われたいなぁ。

支え合わないパートナーの力

 なお、ボクには、ソレに近い関係のパートナーがもう一人いる。

 ボクは漫画だけでなく、広告デザインとか、WEB制作とか、色んな仕事をしていて、ソッチ系の営業をやってくれている、もう一人のパートナーがいるんだ。

 やってくれている、というのはボクの側から見たことで、彼はボクのために営業しているわけじゃない。
 彼は彼自身のために営業していて、受注した「自分の仕事」の制作を、ボクに依頼しているというだけだ。

 彼とボクの関係はちょっと面白く、また理想に極めて近い関係だと思っている。

 彼はかつてのライバル(商売敵)なんだよ。

 当時の彼はまだ駆け出しで、プレゼンなどでぶつかれば、ほぼボクが圧勝。
 いつも彼の前途を阻んでいたんだ。

 表立って企画制作担当者の名前は出ないから、ボクたちは、お互いの顔も名前も知らずに戦い続けていたようなもんだね。

 その後、ボクは別なフィールドに移り、そこで大失敗してドン底になった。
 前途を悲観して自殺を考えるほどの失敗をしちゃった。

 でも周囲の助言もあって何とか踏み止まり、ボクは再起するための準備を始めた。

 何もかも失ったような状態だったけど、自分の身体だけはある。
 身に付けたモノもある。
 それをアチコチに売り込んでみる。

 けど、ボクの価値(大したモンじゃないけどね)を理解できないレベルの人を相手にするのは嫌だから、それなりの見識がある誰かを見つけたい。

 そう思ってネットで信頼できそうなパートナーを探して、メールで連絡したんだ。
 色々な同業者の事業内容、ビジネスビジョン、スタンスなどをチェックして、その中で共感できる主張をしているところに、ボクはこんな経歴のヤツなんだけど、何かの仕事で使ってみませんか? と売り込んだわけ。

 すると翌日、連絡した会社の社長が駆けつけてきた。

 その社長が「彼」だったんだ。

 彼は、かつてボクと戦っていた時の会社を退職し、自分の会社を立ち上げて、バリバリとやり始めていた。
 ボクは知らずに、そこへ連絡していたんだ。
 そしてメールに書かれた経歴を見て、彼が気付いた。

 あのときのアイツだって。
 びっくりしたらしい。

 シャアがクワトロと名乗って現れたようなモンだったんだろうなぁ。
 こっちも同じくらい驚いたけど。

 そうやって再会して、以来、十数年。

 ボクらは一度も互いを裏切ることなく、信用しあってやってこれた。

 彼が売り、ボクが作る。

 漫画やアニメには、かつての敵が仲間になって登場するパターンは多いけど、実際に体験すると、そのスゴさがよくわかる。
 これほど頼りになるモノはないよ、マジで。

 手ごわい相手だったからこそ、お互いに「お前の力はこんなモンじゃない」って思う。
 だから、その力を引き出す方向に動く。
 そんな力持ってたかどうかアヤしいんだけど、そう感じてるから、そう動く。
 すると、それに引っ張られて、自分が思っている以上の力が生まれる。

 いやぁ、本当にやりがいがある!

 強敵と書いて友と読む。
 そういう仲間になるんだ。

 だからこそ、ボクは彼が漫画も売ってくれたら……と、いつも思う。
 彼が本気で漫画を扱ってくれたら無敵だろうに、と。

 けれど、彼の志はそこではないことも、よく知っているんだ。
 そしてボクが、どんなに漫画の魅力をアピールしたとしても、自分で選んだ道を捨てたりしないだろうことも。

 彼も同じに思っているのだろう。
 漫画なんかやめて、自分と同じ道だけに打ち込んでくれたら、と。

 ボクの中では漫画もデザイン物もWEBも、同じ創作物なんだけどね。

 コンテンツを創る。
 それがボクが選んだ志だから。

 だからボクらは、お互いにお互いの場所には踏み込まない。
 それぞれの志を、それぞれに歩み、重なり合う部分で力を合わせる。
 そういう関係なんだ。

 人という字は支え合って……というのがあるけど、支え合っていたら、どちらかが倒れたら両方倒れちゃうでしょ。

 信じて力を合わせる。背中も預ける。
 だけど、決して寄りかからない。

 ボクらは、そうだから何年経っても上手く行ったんだと思う。
 寄りかかり合うんじゃなく、互いに自分の足で立つ。その上で力を合わせる。
 そういう関係がいいんだ。

 かつての敵と、そういう関係で戦ってこられたことは、ボクの誇りだ。

 最近の彼は、また新しい道を見つけて、そっちに向かってガンガン進んでいっている。
 バイタリティがすごくて、決めたらすぐに行動に移すヤツだから、新しい分野でもメキメキと力をつけて大きくなっている。
 ボクも誘われている。

 でも残念ながら、それはボクの道とはかなり違うんだ。
 これからもボクと重なる部分では協力し続けるけど、いつかは重なり合う部分がなくなってしまうかもしれない。

 けど、ソレもアリなんだ。

 ボクは一度、ドン底を味わっている。
 そこから再起して今日までやってこれたのは、彼がいたからなんだ。
 彼だけじゃないけど、彼の存在は大きかった。

 コネもツテもカネもない。
 でも、ボクがスゴイと思ったアイツが、ボクのナニカを認めている。
 何もない奴をパートナーにするほどアイツは甘くないし、バカでもない。
 なら、ボクにはアイツに負けないナニカがあるはずだ。
 アイツは尋常じゃない。だからボクも尋常じゃない。
 自覚しようがしまいが、アイツに匹敵するナニカをボクも持っているはずだ。

 そういう思いが支えになって、やってこれたんだよ。

 だからアレが起きても、コレに出くわしても、続けてこれた。
 以前にドン底だと思った場所は、底でも何でもなかった。
 ただの通過点。
 そう思うことが出来たから、その後を踏ん張れた。

 ボクはそういう出会いを経験したから、他の仲間も同じように考えている。

 チームでもコンビでもいいけど、寄りかからないで、共に戦う。
 お互いに自分の戦いだと思って戦う。
 それでいて息が合っている。

 そういう関係はすごくレアだけど、ゼロじゃないことは身をもって知っているから、ボクはそういう形を目指し続けている。

 ボクを見習えとかは言わない。

 でも自分の経験から言えば、寄りかかり合うようなチームはあまりお奨めできないなぁ。
 チームでやるのなら、互いに自立できる関係を目指してやったほうがいい気はするよ。

 そういう力を持ちつつ、ずっと一緒にやれたら、それはそれで幸せなんだから。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

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