広告漫画でNGなジャンルや表現ってある?

 これはクライアント次第、としか言えないなぁ。
 A社でNGな表現でもB社では気にしないってことは、けっこう多いからね。

 ただ、長年やってると「こういう表現には気をつけたほうがいい」ってのは見えてくる。

 一番気にされるのは性的描写、暴力描写、差別描写の3つかな。

 作者にそういう意図がなくても、気にする人は気にするし、広告だからヘンな地雷なんか踏みたくないってのもあるからね。

 うっかり気付かずに(あるいは気付かなかったフリして)描いちゃうこともあるんだけど、そういうのって結局直しが出やすいのよ。
 しかも土壇場ギリギリで気付かれちゃったりして、時間ないのに描き直しとかね。

 なので、避けたほうがいい表現を知っておいて、予め避けておくようにしたほうがいいとは思うよ。

 中には無茶すぎて避けようがないモノもあるけど。

気にしたほうがいい様々な描写:その1/エロ

 まず、これは言うまでもないと思うけど、普通の会社の仕事でエッチなシーンはダメ。

 未成年者も含めて不特定多数が見る普通のCMですげぇ濡れ場とか、あり得ないでしょ。

 ていうか、すごくないパンチラも基本的にダメ。
 お色気が全部ダメだと思ったほうがいいかもしれない。

 ただ、風俗サイトの体験漫画なんてのも広告漫画だから、ああいうのをやりたい人にとっては当然アリだけどね。

 あ、ウチは風俗体験漫画はやってないよ。
 エロを否定しているわけじゃないんだけど、ウチは公共機関のお仕事や学習・教育漫画などを数多くやっているので、エロい仕事を引き受けちゃうとマズイのよ。

 それに公共のお仕事じゃなくても、一般企業の広告漫画と同じタッチの絵でエロ漫画が広まったりすると、それこそ企業イメージを損なうってコトになっちゃって、ときには大問題に発展する可能性もあるから、やっぱり避けるしかないの。

 エロいの嫌いじゃないけど、自分がやるにはリスキーすぎるってトコかな。
 事前に、そういうのもやってるよと伝えておけば問題にはならないと思うけど、その場合は伝えた時点で「それなら結構です」って言われる可能性も高いだろうし……。

 ただ、ウチはそういう判断でエロNGにしてるけど、仕事に貴賎はないと思ってるし、ごく稀にだけどお色気シーンや濡れ場っぽいのを広告で描いたこともあるよ。まぁ、ED治療の漫画で、アレは医療だから引き受けたんだけど(「そういうシーン」も直接的な描写は避けてたし)。

 いずれにしてもエロに関しては広告主は慎重に考えるから、そっち系の漫画をやってる人が広告引き受けるときは注意したほうがいいかも。

 同人でやってる程度なら大丈夫だろうと思うけど、広告用の仕事ではタッチも作者名も全然違うモノにするとか、工夫はしたほうがいいとは思うよ(それで完全に安全とは言いきれないけど)。

気にしたほうがいい様々な描写:その2/暴力

 他に代表的なNGというと、暴力描写。

 どの程度のモノを暴力描写とするのかはクライアントごとに判断が異なるから、一概には言えない。

 例えばボクが高エネルギー加速器研究機構で連載している科学ギャグ漫画『カソクキッズ』では「グーで殴るのは禁止。固め技・関節技はアリ」というルールになっている。

 グーじゃなくてもビンタもダメ。
 とにかく打撃系はダメってことなので、ボケにツッコむときも過激なツッコミ方はできないんだ。

 でも爆発はアリなんだよな~。
 波動拳みたいな技も。

 スペシウム光線はいいけど、ライダーキックはダメってことかな(笑)。

 ただし『カソクキッズ』は、かなり自由にやらせてもらっている作品で、広告・広報漫画というより普通のオリジナル作品に限りなく近いから、特別な例だと思う。普通の広告漫画だと関節技でもダメじゃないかな。

 クライアントは暴力的な企業だと思われたくないから。暴力を否定的に描写したとしても、そういうシーンは入れて欲しくないというのが本音だろう。

 だから、例えばDV撲滅をPRするための漫画を描いたとしても、ビンタされるシーンを直接描かないで「手を振り上げるカット→効果音→頬が腫れている」といったようにボカすのが基本になると思う。

 血を描くのもNGになる可能性が高いから、とにかく直接的な描写は全て封印くらいのつもりで描いたほうがいい感じ。
 ま、実際には依頼者と話し合ってのことになるけどね。

気にしたほうがいい様々な描写:その3/身体

 あと、作画面で意外にウルサイのが手足の指。

 漫画だと、遠景などでは省略してドラえもんみたいに描くこともあるけど、障がい者への配慮ということで指はキチンと5本描かなきゃダメって言われることが多いんだ。『カソクキッズ』では、これもOKなんだけど。

 でも、大抵はダメなんだ。

 極端な例だと、そのアングルでは指5本は見えないはずなのに、それでも5本描けって言われたコトもあるよ。
 ソレやると指が6本に見えちゃうんじゃないの? と食い下がってもダメだった。

 他にも動物キャラなのに指は5本にしろ、とかね。
 ディズニーみたいな有名キャラはOKなのに。

 まぁ、そういうツッコミ(大抵の場合、実際に障がいのある方からのツッコミではなく、ツッコミを恐れた企業からのツッコミ)があるので、予めそのへんを気にして描くクセは付いたな。
 擬人化動物を出したいけど、指でツッコまれそうだからやめとこう、とか。

でもコレは、全然気にしないクライアントもあるので、正直、相手次第ってトコだね。

気にしたほうがいい様々な描写:その4/言葉遣い

 他に覚えてるのは「女の子言葉」かな。
「○○よね」とか「○○だわ」といったアレ。

 今ドキの子はそんな言い方しないでしょってツッコまれたことがある。
 いや、実際そうなんだけど。

 でも広告漫画って、ストーリーに加えて解説とか色々な要素を入れなきゃいけないから、ゴチャゴチャしやすいんだよ。

 ページ数が増やせればいいんだけど、ページ=コストだから、簡単に増やせない。
 冊子だと4ページ単位でないと増やせないし。

 なので「情報密度」がすごく高くなりがちなんだ。
 1つのコマでアレもコレも言わせなきゃならないってコトが多くて、どうしてもゴチャゴチャしちゃうの。

 そういうときに「女の子言葉」って便利なんだ。
 喋り方でドレが誰のセリフか直感的に見分けられるから。
 だから、ついつい使っちゃうんだよね。

 ボクも本当は今ドキの普通の喋り方させたいんで、気をつけてはいるんだけど。
(『カソクキッズ(主にセカンドシーズン以降)』では、博士には女言葉を使わせているけど、キッズたちはできるだけ普通に喋らせるようにしている)

気にしたほうがいい様々な描写:その5/その他

 あとは……う~ん、NGなモノか……え~っと……。

 あ、そういやパロディやオマージュは扱いにくいトコがあるな。

 クライアントにしてみれば版権に引っ掛かっちゃうようなトラブルは避けたいのがアタリマエだから、そういうのは、よほど理解のあるクライアントに恵まれない限り、やらないほうがいいかもしれない。
 (これも『カソクキッズ』ではやってる。それだけ理解ある素晴らしいクライアントなんだ。だからこそボクも仕事を忘れて打ち込めるんだ)

 あ、まだあった。

 恋愛などの感情描写。
 これも色々と厄介かも。

 普通の漫画ならね、作者が感じたことを描けばいいと思うんだけど。
 描写に共感しない人は別な漫画を読めばいいわけだから。

 でも広告漫画だと、そういうコトで消費者に反発されると困るんだよ。

 漫画に共感できないせいで商品売れない、なんてのじゃ広告にならない。
 描かないほうがマシってことになっちゃうでしょ。

 もちろん、ある程度の感情表現は避けて通れないんだけど、独自の恋愛観、政治観、宗教観みたいなモノが全面に出過ぎるとマズイだろうな~とは思う。

 ま、そんなトコまで踏み込めるほどの広告漫画自体、滅多にないと思うけどね。

 ……と、だいたい、そんなトコじゃないかな、と。

 ジャンル自体は、エロ以外なら大抵はやりよう次第でやれる気がする。
 ボクはSFも、ファンタジーも、ホラーも、民話も、人情モノも、時代劇も、広告漫画で描いてるもん。

NGじゃなくても表現や構成に気配りすることも

 そういや、クライアントからのNGではなくても、自分で描写の仕方を工夫したり、一定の制限を設けることもあるなぁ。

 以前に幕末の史実を題材に、ご当地漫画を描いたときがそうだった。

 メインに指定された人物が、色々な物語で敵役に設定されがちな人物だったんだよ。
 つまり悪役として知名度がある人物なんだ。
 けれど出身地ではヒーロー、偉人なの。

 時代劇ってのは、例え史実ベースでもフィクションだ。
 当時を実際に見た人がいるわけじゃないんだから、何が本当かはわからない部分が多い。

 だからボクはボクの解釈で描いて構わないんだけど……
 ……公共機関の広報用の作品となると、色々考えなきゃならなくなる。

 悪役だと思われている人物を善玉に描くとなると、当然、善玉だった側を悪者にせざるを得なくなる。
 けど、幕末には人気キャラが大勢いるから、そっちを悪役に描くと濃いファンが反発して、下手すりゃ炎上しかねない。

 広報でそういうコトになったらヤバイんだよ。
 炎上商法なんてのもあるけど、公共機関ではマズイ。

 コレ、茨城の偉人を描く仕事だったんだけど、同じ茨城でも北と南では全然主張が違うんだ。
 幕末の水戸藩は、桜田門外の変などもあって藩論が分裂していて、明治以降まで粛正の応酬が続いた歴史がある。
 それは今でも遺恨になっていて、企画担当者でさえも「ココより少し北だったら、この人物を持ち上げるだけでも問題になりかねない」と言っていたくらいなんだ。
 百五十年以上も昔のことだけど、それでも遺恨は残ってるんだ。
 それくらい微妙な題材だったんだよ。

 でも、当人を悪役として偉人伝を描くわけにもいかない。

 だからボクは、正式な史料として残っている史実から読み取れるコト以外には触れないように配慮した。

 オーダーとしてはボクなりの解釈で描いていい仕事だったんだけど、広報の仕事をする以上、広報のためにならないコトは避けてあげなきゃいけない。
 ボクはボクの描きたいものを描くけれど、それは「広報に役立つ」という条件の中でのことだからね。

 広報・広告漫画を請け負うというのは、広報を請け負うということなんだよ。
 漫画が良くても広報としてダメなら負け。
 だから、企画した当事者も気付いてないことがあったら、それを指摘してあげて代案も考えてあげる。

 それも仕事の一部だと思うんだ。
 いや、そこまでやるから仕事が取れるってことかな。

 とはいえ、ただ史実を並べるだけじゃ漫画にならない。
 結局はボクなりの解釈も入れなきゃ、何を言いたいのかもわからないシロモノになってしまう。

 そこで、自分の代弁者となる主人公を設定して配置した。

 現代人の女子高生。

 タイムスリップして幕末へ……じゃなくて、その子が史料を読み込んでいって、色々想像したり、その子なりに解釈したりする。
 つまり、その子が想像しているだけで史実じゃないよ、と読者にはっきりわかるようにしたの。

 そして実際の幕末のことは、全部史料から読み取れることだけにした。
 背景のほとんども、史料として現存している写真(幕末だから写真も少しはある)や実物を元に作画した。

 史料のないシーンは、直接的な描写をしない。
 そして幕末シーンには1つもセリフを入れない。
 絵とナレーションだけ。史実部分には一切脚色を入れない。
 脚色していいのは現代人の女子高生視点の部分だけ。

 そういう変則的な方法で幕末を描いたんだ。

 この作品には裏側で他にも厄介事があったんだけど、それはしまっておく。

 出来上がった作品自体は多くの人に喜んでもらい、周辺地域の図書館などにも寄贈されて、ボクは結果を出すことができたからね。
 色々あったから複雑な気持ちもあるんだけど、いい仕事になったはずだとは思っている。
 広報漫画とはいえ、かなりオリジナルに近い作品だし、ボク自身の主張や解釈も盛り込むことはできた。
 後々まで残る地域の財産にもなった。

 うん、いい仕事できたと思うよ。

NGリスクあっても、あえて描きたいときだってある

 とにかく、こういう具合に何がNGなのか、どんな描写に気をつけなきゃならないのかは、その時次第で違うんだ。

 アイディアとしては何でもできる。
 SF仕立てにしたっていいし、ギャグでもいい。

 だけど、広告として成り立っていること、クライアントを困らせないこと、問題になりそうなコトを避けることは心がけておくべきだと思う。

 もっとも、いつも避けて逃げ回ってるわけでもないよ。
 あえて避けずにぶつかりたいときだってある。

 そういうときはクライアントととことん話しあって、納得しあうようにする。

 あ、言っとくけど「担当者と」じゃないよ。
 担当さんがOKでも上層部がNGかもしれないんだから。
 担当者=責任者ならいいけど、そうじゃなかったら、その人と何を約束しようが、そんなモンは意味がないからね。

 話し合うのが担当さんでも、クライアント全体に認めさせなきゃダメなんだ。

 作家だから、あえて地雷を踏みに行きたいときもあると思うけど、そういうときは依頼者側の上層部まで、全てを説得しなきゃやれないと考えるべき。
 そうでないと土壇場でひっくり返ってエライ目にあったりするからね。

 ボクも地雷踏みに行ったことがあるんだけど、本当に大変だった。
 そこまでしても、どうしてもやりたいっていう情熱と、理解あるクライアントに恵まれたときにだけできること。
 そう思っておくべきだな。

 決して自分の勇み足でやっちゃダメだよ。
 広告や広報の漫画は、他人のお金で、他人の目的のために依頼されているんだから。

 漫画は作者の作品でも、作者のためだけの作品ではないんだということを、忘れちゃいけないんだ。

 


※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。

うるの拓也の電子書籍シリーズ各巻好評発売中!(詳しくはプロモサイトで!!)