熱い思いを残して……(再掲載/2008.12執筆)

2018年1月12日

このコラムは、ボクの公式サイト(www.urutaku.com)上で以前に公開していた「イバライガー観察日記」という連載コラムに掲載していたものを抜粋・一部改定して再掲載したものです。

初めて見たステージショーとアニソンカラオケ

 2008年12月。福祉イベントが開催され、はじめて実際のイバライガーを見た。
 この数カ月、グラフィックをいじったり、マンガを考えたりはしていたけれど、実は本物のイバライガーを生で見たのは、この日がはじめてなのだ。

 激励に控え室にも行ってみたが、知らない顔ぶれが増えている。
 若者たちが多い。BOSSさんは、どこにもいない。

 聞いてみると、この若者たちがイバライガーを受け継いで継続していくことになったようだ。
 少し寂しい気もするが、ヒーローが蘇ったことには違いない。ボクも、今まで通りに、付き合っていくだけだ。

 あの不祥事以来、公式の場に出てくるのは、これがはじめてらしい。

 残念ながら、ステージショーはそれほど盛り上がってはいなかった。観客もまばら。
 まぁ、福祉の展示会の余興にすぎないわけだから、それもやむを得ないだろう。
 それに、あの出来事があったのだから、こうして表舞台に出てこれただけでも幸いと考えるべきだ。
 本当の復活はまだまだこれからなのだから。

 でも、やはり時間はかかりそうだ。
 数カ月、あるいは数年、雌伏の時間が必要になるかもしれない。
 それは覚悟の上だけど。

 なお、やや余談になるが、この頃までは、まだ「R」じゃない。
 主題歌もない。
 ブラックはすでに設定されていたけれど、実際には生まれていない。
 また、ジャークの設定や怪人たちも、今とはかなり違う。

 なにより一番違うのはイバライガーの声だろう。
 当時のイバライガーは、アンパンマン的な女性ボイスなのである。
「やぁ、ボク、イバライガーだよ」って感じで、今、当時のDVDを観ると、その違和感がけっこうすごいインパクト。

 さて、その翌日、主要メンバーを誘って、忘年会に慰労会も兼ねてカラオケに行った。
 やはりBOSSさんはいない。

 センセイさんは、今回の諸問題で一時は相当落ち込んだらしく、鬱と言ってもいいくらいだったらしいが、そのときは明るく振る舞ってくれて、カラオケで数々の名曲を熱唱してくれた。
 ザブングル!ザンボット!ダンバイン!エルガイム!と立て続けのサンライズ。
 しかもエルガイムは後期主題歌の「風のノーリプライ」。

 これを熱唱できる50代(あと数年で60代)って、かっこいい!(しかも巧いんだ)
 すげぇな、このオッサン。これじゃイバライガーやるわけだよ。

 ボクも負けるわけにはいなかいので、ガオガイガー、テッカマン、ガンバスター、マジンガー、真ゲッターにネオゲッターと、スパロボ系を歌いまくった。
 20代の若者も同席してるんだけど、もう昭和のオタクオヤジパワー炸裂!
 ナメんなよ、オレもまだまだ現役だ。

 でも、いいねぇ、こういうの。
 商店街のオヤジたちとの宴会じゃ、聴衆に合わせてアリスとか、せいぜい甲斐バンド(年末にはやはり「安奈」を歌いたい)とかをやるんだけど、本当はこっちがメインだからね〜〜。

「ボクのイバライガー」が生まれた夜

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、来年こそブレイクしようぜ!と声をかけあって分かれた。
 もう終電はないので、ウチのアシスタントスタッフをアパートまで送ってあげて、ボクは一旦事務所に戻った。

 こういうとき、ボクは事務所に戻る。
 戻って、少しだけでも仕事をする。

 なんかね、楽しいままで終わると、油断してるようで落ち着かないの。
 安心したいんだけど、安心することが怖いっていうか。
 この商売、いつ、どんなことで予定になかった問題になるか分かったもんじゃないし……いや、まぁ貧乏性ってことなんだけど(苦笑)。

 が、メールチェックしてみると、先ほどのセンセイさんからのメールが。
 帰ってすぐにメールしてくれたようだ。

> うるの拓也 先生
> 本日は、お疲れ様でした。
> 楽しい時間を過ごすことができました。
> イバの設定資料送ります。(極秘です)  
> ※大筋になりますが・・・

 おおっ、帰ってすぐにメールくれたんだ。
 なんと極秘文書が添付されているではないか!
(ま、ネット事業者としてはメール添付で極秘ってあり得ないんだけど……。メールって一番セキュリティがアマいからね……)

 とにかく、添付されていたワード書類を開く。

 そこには、キャラクターたちの設定と、現代編・過去編・未来編の全3部に構成されたイバライガーワールドの物語が書かれていた。
 ステージショーの背景になっている現代編、様々な歴史的事件に干渉しつつ、徐々に現代へ近付いてくるブラックを描く過去編、そして数十億年後の宇宙全体の運命にまで及ぶ未来編。
 そのおおまかなプロットが紹介されていた。

 公式シナリオとして公開されたものではなく、まだ彼だけのプロット。だから極秘ということらしい。
 極秘なんだから詳しい内容はこのまま伏せておくとしよう。
 ボクと彼だけの「アナザー・イバライガー」としてね。

 それにしても。まさに特撮オタクが考えそうな構成案そのものだ。
 10代の小僧が考えそうなネタと言ってもいい。
 しかし、これを書いた男は、まぎれもなくボクより年上なのだ。
 本当に尊敬する。

 ……が、尊敬はするが、ボクだって言い分はあるんだい。

 まだ公式じゃないってんなら、ボクにはボクのイバライガーがある。
 前に書いた「地域のためのマンガ」じゃなくて、本気で特撮熱血アクションとしてイメージしてたモノが。
 まだカタチになってないけれど、こういうヒーローを知れば、どうしたって考えてしまう。

 劇場版、あるいはコミック版のオリジナルバージョン。
 アニメやマンガや映画の世界では、昔から原作とは違うバージョンがあったものだしね。

 ステージショーが大勢の一般の方を想定したテレビシリーズ的なものなら、ボクが考えるのはコミックや小説ならではのハードなヤツ。
「ゲッターロボ(by石川賢)」とかさ、テレビとはまるで違う設定と展開のモノ。
 ボクはそういうのが描きたいし、見たい。
 広告マンガや教育マンガを描いていたって、ボクの本当のノリは「うぉおおおお!」とか吠えちゃうようなアツい物語にあるんだ。

 つまり「オレにはオレのアナザー・イバライガー」があるんだい。

 こうしちゃいられない。
 なんとなく考えていたことだったけれど、センセイ氏の極秘文書がボクに火を付けた。
 センセイ氏が考えた世界観やイメージを邪魔しないように、うまくイバライガー史の中に組み込めるようにしたオリジナル企画が作れるはずだ。
 ガンダムとかでも、そういうやり方で「ポケットの中の戦争」とか「08小隊」とか、生まれているじゃないか。
 ボクの思いを詰め込める余地があるうちに、これを伝えなきゃ。

 ボクは自分のオリジナル版に「イバライガーJS」というプロジェクト名を付け、そのまま、夜明けまで企画案(シナリオ)をいっきに書き始めて、明け方センセイ氏に送った。

 いやぁ、刺激を受けると出るわ出るわ。
 レポート用紙数十ページ分にも達するモノが、一晩で書き上がっていた。

 自分でも信じられないんだけど、当時のメールのログを見ると、間違いなくセンセイ氏からのメールを受けた翌朝にボクの企画案を送っているのだ。
 しかもセンセイ氏の極秘文書にしか書かれていなかった要素を取り入れた上で。

 普通は無理な事が出来てしまうことがある。

 イバライガーがボクに憑り付いていたのかもしれない。
 あるいはカラオケのハイテンションパワーのせいかも。

 今現在、書いている「小説版イバライガー」は、このときに考えたプロットが下敷きになっている。
 設定はまるで違うんだけど、作品を通じて伝えたいテーマとか、大きな部分でのストーリー、小説版だけに登場する人間のキャラクターたちなどは、このときに生まれたアイデアを煮詰めていったものなんだ。

 12月30日。
 センセイ氏からメールが届いた。

> うるの先生
> シナリオありがとうございました!

> 私くしは、ここ数日ワコムのペンタブレットと壮絶な戦いをしておりました。
> PCをVistマシーンに変更したのはいいのですがペンタブが動きません・・・
> いろいろと試して、結局のところはワコムさんは素人向けにいろいろな機能
> をつけたかったのでしょう・・・
> それがマイクロソフトさんと折り合いがつかなかったような感じです。
> Vistがはじめから持っているペンタブレットシステムを殺し!
> ワコムのドライバーもデジタイザーというのを殺して、
> シンプルですが、すらすらと動くようになりました。。。 めでたしめでたし!
> 教訓:機能は欲張ってはいけない。職人は使えればいい!
> ってところですぜ!!! おやかた!
> なにはともあれ、また遊びに行きたいと思っています。
> よろしくお願いします。
> ではでは。

 ほほぉ、相変わらず、がんばっているみたいだなぁ。
 ボクが設定をアレンジしたイバ・シナリオも(おそらくはボクなりの別バージョンとして)受け入れてくれたみたいだし、こりゃ、今後が楽しみだ。

 が、その後、ボクがセンセイ氏と会ったのは、たった一度。
 ほんの数分だけ。

 ボクに熱い思いを残して、彼はイバライガーワールドから消えてしまった。

 


※個人情報や固有名詞はできるだけ伏せていますが、やりとりしたメール文面などは原文のママです。

 


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