広告漫画の制作(6)トーンワーク/種類が多ければいいってもんでもない
ボクの広告漫画では、トーン処理が多い。
なんせ、モノクロ作品でもスミベタ使わない前提でやってたりするから、アレもコレもトーンで処理するってコトになりがちなのよ。
ここでも気にするのは、仕事としての採算問題。
どこまで行っても、この問題が続く。
そこを考えないと仕事じゃなくなっちゃうから。
背景代わりにトーン
ボクの広告漫画では、背景をトーン処理でゴマかしてるコトがけっこう多い。
手抜きじゃない……と言いたいところだけど、やっぱ手抜きかも。
しっかり背景描くのって、それはそれでコストなのよ。
限られた人数で、真っ当な1日8時間労働とかの枠内だけでやろうとすると、どうしてもね、キチンと背景を描ききれない。
デジタルで何とかしていても、追いつかない部分もあるのよ。
つまり採算合わないの。
もらってる制作費ではアシが出ちゃうのよ。
でも、これまでの経験上、今以上に制作費がもらえるようになるケースはそうそうないだろうとも思うので、それなら現状のままで採算が合うやり方をするしかなくて、それで背景は必要最低限に抑えているトコがあるんだ。
もちろん、どうしても背景をしっかり見せなきゃならないときには、何枚だろうが描くけどね。
なので、自虐的に手抜きって書いたけど、本当は手抜きじゃないよ。
クライアントが用意できる予算で対応できるバランスを考えたら、そうせざるを得ないってだけのことなんだ。
広告じゃない作品なら、予算度外視してでも描いたほうがいいものは描くけど、広告作品で自腹ってのは筋が通らないもん。
それに採算上の理由だけじゃないのよ。
広告漫画って、少ないページ数にたくさんの情報を盛り込まざるを得ないんで、どうしても無理やり詰め込む感じになりやすいのね。
つまり、普通なら背景ワンカット入れておくべきシーンでも、それを入れる余地がないときがあるの。
手前も後ろもギュウギュウ詰め。個々のコマもキャラとセリフでギュウギュウ。
背景を入れておけるスペースが物理的に足りないんだ。
だから端折るしかなくて、でも、そうすると誰がどんな場所にいたかはボクの頭の中にしかないから、下手に背景を入れると、かえって状況が分かりにくくなるのよ。
だったら、いっそのこと背景にこだわらないほうがマシと判断したの。
どんな場所にいるのかは描かない。どこか、でいいやと。
広いのだか狭いのだかわからない謎の空間。
これが正しい選択かどうかは、わからない。
でも、そうするしかないケースがやたらと多いので、ウチではそうしている。
ヒーローもののステージショーなんかと同じだって解釈しているの。
ボクは『時空戦士イバライガー』という茨城のオリジナルヒーローにも深く関わっているんだけど、彼らはショッピングモールのセンターコートなどでステージショーをやるの。
セットなんかない。
いつも通りのセンターコート。
でもショーの間は、そこは別な空間なんだ。
見た目はセンターコートのままだけど、設定上は違う。
観客も心の目で、それぞれ別な情景をイメージして見ているんだ。
そういうのは、MCが口頭で、そこがどういうトコだとか説明したってダメなんだよね。
むしろ、ソレをやるほうが分かりにくくなる。
見ている各々が好きなようにイメージしてくれたほうがいいんだ。
だから、ボクも漫画で同じことをしているわけ。
中途半端に説明して混乱させるより、読者に自然とイメージしてもらうほうがいいと考えているの。
どうせ、混乱しないように見せるのは無理なんだから。
で、そうする以上、背景はトーンでテキトーに処理するしかないのよ。
基本的には、背景というより心理表現のフォローとしてトーンを使ってる感じが多いかな~~。
限られた慣れたトーンしか使ってない
トーンのパターンって、今何種類くらいあるんだろ。
何千種類、何万種類もあるんだよね。
でもボクは、50種類くらいしか持ってない。
しかも、よく使うのはその中の15種類くらいだ。
種類が多いほうが色々対応できて便利だと思うだろうけど、ボクは逆。
数が多いと選ぶだけで一苦労になっちゃう。
この手間はバカにならない。
恐らく、それだけで何時間も余計にかかっちゃうと思う。
そんなコトしてたら採算が合わないのよ。
時間=コストだから。
時間をどれだけ有効に使うかは、本当に死活問題なんだ。
広告漫画は、後で単行本にして稼ぐなんてことは基本的にできない。
そのときの原稿料が全て。
時間を無駄にしていると、すぐに事実上時給300円しか稼げてないといったコトになる。
そんなアホらしいこと、やってられないのよ。
なので、トーン選びに迷ったりしていられない。
パッパと決めて、どんどん作っていかなきゃ自分の稼ぎがドンドン目減りしちゃうんだ。
だから、ほとんどの場合は慣れているトーンだけを使っている。
そのまま使うだけじゃなく、画像加工して使うことが多い。
ちょっとした処理だけで、全然違うトーンに変えることもできるので、実際には何百種類ものパターンがあるのと同じになるんだ。
最初から都合よく加工されたパターンを探すんじゃなくて、パターンを選ぶ段階、それを加工する段階と、ステップ分けすることで判断を加速するの。
一度に100を考えるより、数段階に分けて考えるほうが早いんだよ。
利益効率も考えたトーンワーク
こういうトーンワークには、有名なスクリーントーン60番台のような10%アミ、20%アミといったトーンは含まれていない。
そもそも網点っていうのを捨てているから。
色の薄い部分を網点で処理するのは、印刷物では薄い色っていうのが基本的にないからだ(基本的に、なのは、製版段階では「洗う」といって、薬液に製版フィルムを浸けて、ちょっとだけ薄くするといったコトも可能だから。ただ、これは非常に変則的な手段で、今はほとんど行われていないんだけど)。
とにかく印刷物は点の集合であって、その1つ1つの点の濃度は常に100%。
点の密度の違いで濃淡を表現している。
だから、元々が濃淡で表現されている画像でも、点の集合に変換しないと印刷物にならない。
その変換工程が製版だ。新聞なら40~60線、通常の印刷物なら175線くらいの「スクリーン」を使って、濃淡を網点に変換する。
漫画の場合は、それを漫画家自身でやってるわけだ。
作者ではない職人にテキトーにやっといて、じゃなくて自分でやる。
他人任せだと、単に濃淡をドット化するだけで、トーンごとの味わい、質感みたいな部分は出て来ないしね(そういう部分も考えてやれる職人がいたとしても、それでは自分の作品ではなくなってしまう)。
なので、ボクも本当はソコにこだわりたいと思うんだけど……でも、やってない。
カラーでもモノクロでも、濃淡で描いている。
これも、コスト上の理由からだ。
そのほうが作業工程が早くて、コスト的にありがたいから。
そこまでコストばっかり考えるのかよってツッコまれそうだけど、悪いけど考えるよ。
だって商売だから。
自転車を買う値段で自動車は売れないよ。
お客が買いそうな値段、出せそうな値段を考えて、その金額に見合った描き方をする。
本当はもっとやれても、そこまではやらない。
採算を常に意識して、その範囲内でやれることをやる。
プラチナ会員向けのサービスができても、一般会員にまで同じことはやらない。
そういうふうに考えてないと、商売成り立たないのよ。
だから、採算や業務効率のバランスを考えて、濃淡だけでやっているんだ。
フツーの漫画だって、雑誌掲載時にはカラーや2色だったページはある。
そこは濃淡で描かれていて、単行本収録時にはモノクロ化されている。
そういうページは、最初からモノクロで描かれたページとは調子が違う。
本当はカラーや2色で見るために描かれたモノだから。
ボクはそれを、最初からモノクロで見せる前提でやってるだけ。
なので、トーン的なパターンを使うときも、わざとドットを殺して使う。
ボカしたりして、ドットがドットじゃなくなり、濃淡になるようにしてから使っている。
ドットのままで使うのは、キャラの上に淡いトーンを重ねるときとかの、特殊な場合だけだな。
濃淡のドット化じゃない味わいが必要な場合だけなのよ。
……とまぁ、そういう感じでトーン処理をやっている。
1ページのトーンワーク(キャラや背景は別工程なので除外する)に使う時間は、だいたい30分平均ってトコだ。
そのくらいのペースでサクサクやっつけていかないと、商売として一定数を処理していけないのよ。
漫画って、あんまり利益効率よくないからね。
ボクは普通の広告やWEBの仕事もやってるけど、そっちの仕事と比べると漫画はすごく儲からない。
WEBの1画面より漫画の1ページのほうがずっと労力かかるのに、稼げるギャラはWEBのほうが数倍多かったりするからね。
稼ぐことだけ考えたら、漫画なんかやってないでWEBに集中したほうがいいの。
それでも漫画をやりたいから、やっている。
そして、やっていくためには、やっていけるやり方ってのを考えなきゃならない。
理想はあるけど、理想だけじゃ食えないのよ。
理想は捨てないけど、現実とも折りあわなきゃならないのよ。
仕事って、そういうモンなのよ。
採算を常に考えて、仕事を継続していける工夫を続けていること。
そうであることをお客にも説明し、理解してもらうこと。
そうしているから理不尽な客に振り回されたりしないで済むの。無茶や無理を押し付けてこない良質なお客を集めていけるんだと思ってるの。
※このブログに掲載されているほとんどのことは電子書籍の拙著『広告まんが道の歩き方』シリーズにまとめてありますので、ご興味がありましたら是非お読みいただけたら嬉しいです。他にもヒーロー小説とか科学漫画とか色々ありますし(笑)。