小説版イバライガー/第6話:未来の二つの顔(前半)

2018年1月5日

(←第5話:後半へ)

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OP(アバンオープニング)

「とどめだ、ジャーク!! 時空鉄拳! ブレイブ・インパクト……バーニングッ!!」
「時空旋風! エターナル・ウインド・フレアッ!!」

 イバライガーRのクロノ・スラスターが展開し、蒼い光を放った。
 集約されたエネルギーが超高温に変換され、拳が白熱する。
 イバガールのスラスターから吹き出た輝きが、エネルギーの奔流となって全身を包み込んでいく。

 炎の風を身にまとったイバガールが突撃する。エネルギーを叩き込む。ダマクラカスンが燃え上がった。
 炎に包まれ、断末魔の雄叫びをあげるダマクラカスンに、イバライガーRが突っ込んでいく。プラズマを放つ拳が、叩き込まれる。
 貫いた。半身を吹き飛ばされたダマクラカスンが崩れ落ちようとしている。
 まもなく奴は、光の粒子と化して消滅するはずだ。

 だが。

「死なん! オレは消えん!! この世界をエモーション・ネガティブのものとするまではぁああああっ……!!」
 昆虫のような口から、黒い霧を吹き出した。

「エモーション・フィールドッ! 霧を相殺するっ!!」
 シンとワカナの展開したフィールドが、闇を打ち消していく。

 霧が、消えていく。
 そこに、ダマクラカスンの姿はなかった。

Aパート

「倒したの?」
「いや、逃げられた。だが、あの傷だ。簡単には復活できないはずだ」
「だったら今のうちに追いかけて、今度こそやっつけちゃおうよ!」
「ガール、無茶を言うな。私たちは、今どこにいるかも分からないんだぞ?」
「でも、シンとワカナがいるんだから……あれ、シンとワカナって誰だっけ?」

 シンたちは、Rとガールの会話を聞いていたが、何のことだか、さっぱりわからない。
 というよりも、彼ら自身にも分かっていないらしい。

「イバライガーR、それにイバガール……だったよな。君たちも、イバライガーと同じ未来から来たのか?」

 話しかけてみたが、ガールはきょとんとしている。
 表情はわからないが、間違いなくガールはきょとんとしている。

「ええっ、それじゃココは別の時代なの? 私たち時空ジャンプしちゃったの!?」

 え、そこ驚くところなのか?
 意外な反応に、シンたちはますます混乱してきた。

「ガール、君も自分で『時空』天使って名乗ってただろ?」
「ああ、そう言えばそうなんだけど、でも何でそう名乗ったのか、自分でもわからないのよ」
「そうか、君も……」
「じゃ、Rも?」
「ああ、名前と使命。主要な戦闘コントロールシステム。それらは正常に機能しているが、それ以外のメモリーにアクセスできないんだ。何かのロックがかかっているらしい。私たちに何があったのか、どれくらい眠っていたのかも分からない」

 少しずつ状況が見えてきた。

 このイバライガーたちは、記憶喪失に陥っているらしい。
 タイムジャンプのせいか、それとも他の要因かはわからないが、未来の記憶を失っていて、しかも起動すると同時に、この世界にやってきた……ということのようだ。

「あなたたちは、未来のことを覚えてないのね?」
「そうなの。ワカナやシンがわかるのは、たぶん時空転移のときに『初代』のデータの一部を受け取っているからだと思うわ。彼の意思……記憶じゃなくて感情のようなもの。それが私たちに干渉して、この時代に呼び出された……」

 ガールは言葉を区切って、ワカナを見つめた。
「あなたたちのことを、よほど大切に思っていたのね。他の情報にはアクセスできないのに、その思いだけは、とても強く流れ込んできたもの」

 ガールの言葉が心に染みた。

 彼らが『初代』と呼ぶイバライガー。
 ついさっきまで、共に戦っていた仲間。

 シンは兄のように慕っていた。私も、好きだった。
 いつも気遣ってくれて、見守ってくれて。
 溢れそうになる感情を、ワカナはぐっとこらえた。

 


「それじゃ、ボクのことも『初代』から受け継いでるでしょ?」
 マーゴンがわくわくして訊ねた。
 しばらく、じっと見つめてガールは答えた。
「……え~と……あ、うんうん、メモリーにあるわ! 美少女フィギュアにラーメンぶっかけてエロエロにしちゃった人でしょ?」
「なんでソコだけ受け継いでんだよ!!」
「初代、よっぽどショックだったのね~~」
「どんなショックだよ!!」

 マーゴンとガールの会話に、シンは既視感を感じた。
 どこかで、こういうやり取りを聞いているような気がする。

 Rが、近付いてきた。
「シン……。ここは私たちにとって過去の世界なんだな?」

 口調は初代と同じだ。
 この時代に来たばかりの初代ではなく、今の初代と。
 これも受け継いだものか。

「ああ……。君たちが『初代』と呼んでいるイバライガー……。彼が君たちを呼び寄せたんだ。君たちの時代は、すでにジャークに滅ぼされてしまった世界だ。その不幸な歴史を変えるために、初代はこの時代に来た……。そして君たちも」

 過去へのタイムジャンプには、未来と過去が重なる特異点が必要だ。
 初代は、そのために研究所での実験の瞬間を利用した。
 Rたちは、初代自身が特異点となって、この世界に呼び出されたのだろう。

 時空を破った、あの一瞬。
 この時代と、彼が生まれた時代が重なった。
 虚空を通じて感情エネルギーが未来へ送られて、彼らは目覚めた……。

 いや、それだけでは説明がつかないことが多すぎる。

 人々の声があったにせよ、時空を突破して、この二人を現代に呼び寄せるほどの巨大なエネルギーだったとは思えない。
 研究所での素粒子実験の際に使われたエネルギーは、地方都市の電力を丸ごと賄えるほどのものだった。
 それを刹那の一瞬に集中させたのだ。
 あれに匹敵するほどの力が、感情エネルギーとして集まったとは考えられない。

 一度は時空の狭間に囚われたダマクラカスンが舞い戻ったこと。
 Rやガールが、この世界に現れたこと。
 すべてに、何か別の要因が働いているはず……うにゅ~~~~!?

 考え込んでいるシンのほっぺたを、ワカナが引っ張った。
「ほれほれ、今ソレ考えても、わかるわけないじゃん」
「オマエこそ、もうちょっと考えろよ! オレの専門はロボット工学で、こういうことはオマエの領分だろ?」
「だからぁ、今はそれどころじゃないって言ってんの! そ~ゆ~ことは基地に戻って、博士たちに相談してみればいいの!」
「そうそう、お腹減ったし、いつまでもココにいるわけにはいかないし、Rやガールは目立つし、そもそもボクたちお尋ね者だしね~~」
 マーゴンがシンの背中を押して歩き出した。
「わかった! 帰るから! 押すなって!」
 渋々、シンも歩き始めた。

「ねえねぇ、みんなお尋ね者なの? なんで?」
 ガールが訊いてきた。どこかワクワクしてる。お尋ね者が好きなのか?
「……ああ、でも詳しいことは基地に戻ってから説明するよ」
「基地にはミニちゃんも戻ってるはずよ。きっと仲良くなれるわよ」
「他にも、ヒューマロイドが?」

 そういえば、この二人にはバックアップ・システムはいないのだろうか?
 そのことも基地に戻ったら確認しておかなければ。

 初代と同じなら、一人につき3体。一気に大所帯になる。
 その上ヒューマロイドとは言え、やんちゃな子供だらけ。大騒ぎになるのは確実だ。

 研究対象が増えて、ゴゼンヤマ博士は大喜びだろう。
 メンテナンスや生活の面倒を見ているカオリは大忙しになるに違いない。
 先を歩むシンとRの背中を見ながら、ワカナは想像を巡らせた。
 後ろではマーゴンとガールが、何かボケあっている。

 初代が遺してくれた笑顔だ。
 ワカナは遠い空を見上げた。

 


 ふいに、気配を感じた。
 気配は、全方位からだ。囲まれている。

 ジャークの反応はない。ということは……。
 ガレキの中から、銃を構えた者たちが現れた。
 TDF。

「手を挙げるんだ……投降しろ」
 振り返った。
 さっきの隊員だった。よろめきながらも、銃を向けている。

「テメェ……」
「わかっている。オレをかついで避難させたのはお前だな。どうやら、お前らはテロリストじゃないらしい。だが、その異形の連中。普通の人間とも思えん。あの化け物同様、野放しにはできん」
「異形って誰? イモライガーのこと?」
「あのなぁあああ……」
「どうする?、シン? 彼らを倒して撤退することはたやすいが……彼らは人間だ。ジャークではない……」

 その通りだ。イバライガーたちは人間とは争わない。争わせたくもない。
 だが、彼らは訓練された特殊部隊だ。この目の前の男も、ダメージを受けているとはいえ、隙はない。スナイパーも配置されているだろう。
 敵味方ともに無傷で、この包囲を破るのは難しい。

「仕方ないわね。今はこの人たちに付きあうしかないよ」
 あきらめたようにワカナが手を上げた。

 Rたちも、それにならう。やはり戦う気はないようだ。
 シンはため息をついた。

「わかった……。けど、こっちもヘトヘトなんだ。手荒な真似はすんなよ?」
「助かる。拘束はさせてもらうが、悪いようにはしないつもりだ」
 隊員が、銃を降ろして近付いてきた。

 


 イバライガーRは、不思議な感覚を察知した。
 他の者は気づいていない。ガールも。

 だが、確実に感じる。

 自分が二人いる。
 この身体以外に自分を感じる。

『自分以外の自分』の気配は、この時空に現れたときから、わずかに感じていたものだった。
 タイムジャンプで機能の一部にエラーが生じているのかもしれない。

 だが、その感覚はどんどん濃厚になっていき、今や意思すら感じる。

 位置は左上方。ショッピングセンター屋上……貯水タンクの前。
 はっきりわかる。

 お前は誰だ。なぜ私を見ている。

 気配が跳躍した。直上。戦闘態勢?

 そう感じた瞬間、イバライガーRは隊員に突っ込んだ。
「何をする!?」
 咄嗟に銃を抜こうとする隊員を突き飛ばす。身を翻す。隊員のいた場所に、光弾が突き刺さる。さらに光弾の雨。

「エモーション・ブレイド!!」
 右腕のブレイドで光弾をはね返しつつ、左手で倒れていた隊員を引き起こした。
「みんなのほうへ行くんだ! 早く!!」

 隊員が走った。
 さすがに特殊部隊の一員らしく、一瞬の混乱だけで状況を察したようだ。

「来いっ!!」
 シンが、手を伸ばした。
 ためらいながらも隊員は、その手を掴んだ。引き寄せる。
 光弾が二人の上に降り注ぐ。イバガールが踊るように旋回し、その全てをはね返した。

「何が起こっている!? あの化け物共か?」
「たぶんな。残党がいたってことだろうさ」

 イバガールが前面に立って、光弾をたたき落とし続ける。
 だが、数が多い。ワカナはグローブに力を込めた。
「ガール! 私がエモーション・フィールドを張るわっ! 下がって!!」

「いいえ、無駄よ。この光弾はエモーション・ポジティブよ。同じポジティブのフィールドでは相殺できない」

 エモーション・ポジティブを操る敵?
 そんなバカな。ジャークならポジティブの力が使えるはずがない。
 ジャークが近くにいるときに感じる、あの悪寒も全く感じない。

 でも私たち以外にエモーションを扱える者なんか、いるはずがないのに。

 


 光弾の雨が止んだ。
 静寂。
 Rとガールは、構えを解かない。
 風に煽られて砂塵が舞い上がる。

 崩れ落ちた建物。
 その影の中から、闇そのものが歩み出たような気がした。

 近付いてくる。
 巨大に見えた。姿ではない。意思だ。

 凄まじいまでの強い意思。
 それが凝縮して、黒いボディを成しているかのようだ。

 息が詰まりそうになるほどのプレッシャーが、全員を圧倒した。
 声も出せない。目も、離せない。
 風が舞う。砂塵が流れる。姿がはっきりと見えた。

 それは、漆黒のイバライガーだった。

(後半へつづく→)

 


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